昨年にひきつづき、弊誌はじめ各カメラ誌でおなじみのプロカメラマン 山田久美夫氏に、2008年の動向を占っていただいた。業界全体の動向と、メーカー別の予想をお届けする。
※本記事は、1月8日に行なったインタビューを再構成したものです。
■ 依然として「過渡期」だった2007年
──まず、2007年を振り返りましょう。2007年はデジタルカメラにとってどんな年だったのでしょうか。
2007年だけでなくここ数年の傾向ですが、デジタルカメラまだ「過渡期」という感じがします。次の世代に行き切れていない。細かい技術はいろいろ発達しましたが、どれもすぐにあたりまえになってしまい、次の世代の技術たりえるものはまだないように見えます。しかし、次の兆しはいろいろ出ていると思いますよ。
──2007年に印象的だったことはありますか?
ふたつあります。ひとつは、TVとデジタルカメラのつながりが現実のものになってきたこと。「写真を見る」=「プリント」という暗黙の了解があるうちは、できないことがいっぱいあります。たとえば動画。静止画と動画を同時に扱うためには、TVで鑑賞できる環境が必要です。
もうひとつは、笑顔検出。おおげさにいうと、自分でシャッターを押す必要がない技術です。撮影者ではなく、被写体がシャッターチャンスを規定するのは写真が始まって以来の革命。もっと未完成な状態で出てくると思っていましたが、ソニーは最初から問題ないレベルで製品化してきましたね。
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笑顔検出に4GBの内蔵メモリなど、ソニーらしい新機軸満載のサイバーショットDSC-T2
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──デジタル一眼レフとコンパクトというくくりでは、2007年をどうご覧になりますか?
デジタル一眼レフではD3とEOS-1Ds Mark IIIですね。前者はフルサイズを超高感度に振ってきたのが新しかった。目で見える範囲は手持ち撮影できる。新しい写真の世界が広がる感じがします。
後者は、ようやくセンサーの性能がレンズの性能を超えた機種と言えます。既存のレンズの性能をほぼフルに発揮できるところまでセンサーが発達し、どのレンズと組み合わせてもそのレンズの性能を発揮できるようになりました。
コンパクトでは、ソニーががんばった1年だったという印象があります。サイバーショット DSC-G1のような実験作や、笑顔検出のように、デジタルらしさの追及ということではソニーの貢献度が大きかったといえます。
1996年に発売されたサイバーショット DSC-F1には「撮る、見る、飛ばす」というキャッチフレーズが付けられていましたが、デジタルカメラは「撮る」にばかり注力して、銀塩カメラを置き換えただけの製品として進化してきました。DSC-G1は「見る、飛ばす」というところを大事にして、新しい楽しさがあることを見せてくれました。
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D3
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EOS-1Ds Mark III
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■ デジタルカメラは第2世代へ
──では2008年は、どんな年になると見ておられますか?
2007年は2008年への「つなぎ」の年だったと言えます。これまでも、Photokinaがない年は、世代が交代するような製品ではなく、今までの延長上の製品しか出てきませんでした。
2008年はPhotokinaの開催年ですが、これに加えて北京オリンピックがある。カメラにとっては大当たりの年なんです。大きな動きがあるのではないでしょうか。
──「大きな動き」は、具体的にはどんなことですか?
僕は、現在のデジタルカメラを「第1世代」と捉えています。第1世代のデジタルカメラは、銀塩カメラのデジタル化、つまりフィルムをセンサーに置き換えたものです。
第1世代のデジタルカメラは、サイズ、画質、価格の点でほぼ銀塩カメラと同じレベルかそれ以上になり、すでに完成したと言えるでしょう。
2008年には、いよいよ第2世代のデジタルカメラが登場するのではないかと見ています。
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パナソニックが試作した無線LAN搭載デジタルカメラ
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──第2世代のデジタルカメラとはどのようになるのでしょうか?
第1世代では、高感度対応や液晶の大型化、顔検出など、銀塩になくデジタルらしい進化も遂げました。しかし、これらはすべて「撮る」ための進化でした。先ほどの「撮る、見る、飛ばす」に従えば、「見る、飛ばす」の方向が進化していません。
第2世代のカメラにもいろいろな方向性があると思いますが、第2世代では「見る、飛ばす」が大きなポイントになるでしょう。先日の2008 International CESでも、ソニーが近接通信技術を発表していたり、パナソニックがGoogleと組んだりしていましたが、写真を「飛ばして」、「見る」のがひとつのトレンドになるでしょう。
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有効515万画素CMOSセンサーと28mmレンズを搭載する「EXILIMケータイ W53CA」
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──「見る、飛ばす」カメラというと、デジタルカメラ付き携帯電話がありますね。
ええ、その点では携帯電話のほうが進んでいる部分があります。携帯電話でも、「撮る」はある程度のレベルを達成していますし。
「飛ばす」という機能には、カメラから画像データを送るだけでなく、カメラがデータをもらうという方向もあります。昨年も言いましたが、撮影に役立つような情報がカメラに送られてきたら楽しい。携帯電話ではすでに一部やっていることですね。
「飛ばす」の実現には無線LANだけでなく、携帯電話のインフラを使うという手もあります。Googleが「Android」(アンドロイド)という携帯電話向けの汎用OSを発表しましたが、これとデジタルカメラを融合させるというようなことも考えられます。
■ デジタル一眼レフブームが揺り戻し、“第3のカメラ”が登場?
──2008年もデジタル一眼レフブームは続くのでしょうか。
今のデジタル一眼レフの問題は、大きすぎることです。デジタル一眼レフを買ってみたけど、思っていたよりも大きくて重くて使いにくいと感じる人は意外と多いですし、今のデジタル一眼レフがベストではないと考えるユーザーも増えているから、デジタル一眼レフブームの揺り戻しはあり得るでしょう。
こうしたユーザーをすくいあげるために、銀塩末期にあったCONTAX T2やニコン35Ti/28Tiのような高級コンパクトデジタルカメラも活性化するでしょう。GR DIGITALとPowerShot G9だけではさみしいですから。
その一方で、カメラは趣味性の高い商品ですから、多様なレンズを選べるレンズ交換システムは重要です。
デジタル一眼レフの大きさを規定しているのは、マウントとフランジバック、ミラーボックスです。現在は一眼レフという形式をベースにレンズ交換システムが考えられていますが、ライブビューを使えばミラーボックスのないレンズ交換式カメラが可能になります。ミラーボックスがなくなって、フランジバックが短くなり、マウントが小さくなれば、ボディもレンズも小さくなって、ポケットに入る小さなシステムを実現できます。
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ハイビジョン動画撮影が可能なデジタルカメラ「EXILIM PRO EX-F1」
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CESでは、ハイビジョンで60fpsの動画を撮影して、液晶モニターにスルー表示できるデジタルカメラも登場してきています。ハイビジョンで60fpsのライブビューが可能なら、光学ファインダーなしでもいい、というユーザーは確実にいるでしょう。このシステムなら動画も撮影できます。
ミラーボックスのないレンズ交換式デジタルカメラのアイデアは、これまでにもいろいろ語られてきましたが、2008年はこの「第3のカメラ」がキーワードになるような気がしています。
──現在のマウントは一眼レフを前提に作られているので、「第3のカメラ」のために新しいマウントを作る必要があるわけですね。そういうものを一から作るのは大変なのではないでしょうか。
ええ、ですが、完全電子マウントのキヤノンEFマウントやフォーサーズなら、すでに電子制御の仕組みができていて、マウントのサイズだけ小さくすればいいのですから、第3のカメラに大変近いところにいると思いますよ。ニコンFも、「不変のFマウント」と言いながら、実はいろいろ変わってきていて、いつのまにか完全電子マウントのようになっています。
昨年末に駆け込みのように「EOSシリーズ累計生産3,000万台達成」なんてリリースを出したキヤノンはとくに怪しいとにらんでます(笑)。このドッグイヤーの時代に、20年も同じマウントでがんばってきたんですよ。僕は、あのリリースは「EOSはそろそろ次のステップに行く」というメッセージだと受け取りました。2007年はデジタル一眼レフのトップシェアをニコンに奪われましたから、キヤノンの逆襲が始まるんじゃないでしょうか。
もっとも、光学ファインダーは実物を見てるリアルな感じが気持ちいいし、存在価値があるから、一眼レフも残るでしょう。となると、EFレンズもなくすわけにはいかない。新しいマウント用のレンズも、最初のうちは数が少ないでしょうから、僕なら、新しいマウントにはEFレンズとの互換性を持たせるようにしますね。
■ 日本のカメラメーカーの強みを生かして
──最後に、2008年のデジタルカメラの課題は何だと見られますか?
デジタルカメラは実用品として育ってきました。普通の発想でほしいと思うものは全部揃いましたが、一方で驚きや感動を失ってきました。デジタルカメラにとっての驚きや感動というのは、「ハードウェアに心がある」ということです。使っていて楽しい、人にやさしい楽しめるカメラです。
現在のデジタルカメラは、ハードウェアとしてはよくできていますが、楽しませるという部分が突き詰められていないところがあります。これからは実用品ではなく、人を楽しませる方向にいかないと、コンシューマー機はうまくいかないでしょう。
写真をどう楽しむか、使うべきかをいちばんよく知っていて、どうすれば気持ちよく写真を撮れるかわかっているのがカメラメーカーやフィルムメーカーなのですが、それが生かされていない、忘れられているように感じます。家電メーカーは人を楽しませる方法を知っていますから、すべてのカメラメーカーが家電メーカーに負けてしまうかもしれません。海外メーカーがいろいろな形で進出してくる可能性だってあります。
でも、そのときこそ、写真を知っている日本メーカーの強み、生活の中で映像を楽しむ文化を持っている日本のカメラメーカーの強みが生かされれば、凋落する可能性は少ないと考えています。
●山田久美夫の「各メーカーに一言」
オリンパス
フォーサーズ次の1手が難しいですね。E-3はいいカメラですが、あれで全力を尽くしちゃった感じがあります。本文でも語ったように、フォーサーズも「第3のカメラ」に近い位置にいます。第3のカメラなら、レンズを小さくできるからセンサーが小さいのは有利になってきます。ワイドレンズも大きくする必要がなくなりますね。フランジバックの問題さえ解決できれば、いいシステムになるでしょう。
カシオ
2008 CESで発表されたEX-F1は、QV10以来の新しい世界を見せてくれました。気がかりなのは、EX-F1以外の機種が、似たようなデザインの似たようなモデルばかりになっていること。次の切り口を出せるかどうかが楽しみなところです。
キヤノン
キヤノンはいよいよコンパクト機をCMOS化するんじゃないでしょうか。コンパクト機でHDムービーをサポートするならCMOSが有利ですし、社内でまともにCMOSを作れるのは、今のところキヤノンと家電メーカーくらいですから。
キヤノンの死角は、昨年も言ったとおり通信に弱いことですね。思い切った提携などしなければならないんじゃないでしょうか。
シグマ
まずはDP1ですね。Foveonセンサーにこだわるのもいいと思いますが、個人的にはこれ以外のセンサーでも何かできないかと思いますね。Foveonにこわだりすぎると、Foveonとともに存在価値がなくなってしまう可能性だってあります。ほかのセンサーを積んだSD14やDP1もあっていいのではないでしょうか。
ソニー
コンパクト機ではいろいろなチャンレジをしているのが好感をもてますが、そろそろサイバーショットの集大成のようなカメラがひとつほしいかもしれませんね。あと、サイバーショットはレンズが弱いのが難点です。αはひととおりラインナップは揃うとしても、ソニーらしさが希薄です。まだ、旧コニカミノルタの延長上の展開だけですものね。
ニコン
デジタル一眼レフは、まだまだいろいろなものをやりそうですよね。フルサイズ機はもっと高画素なのがほしいでしょうし。世界的に見ると売れているCOOLPIXも、いまひとつニコンらしさをうまく表現できていないように見えます。35Ti/28Tiのようなテイストがそろそろ必要でしょう。高級コンパクトはブランド品の世界なので、出せるメーカーが少ないんですよ。その中でもニコンは最有力候補ですね。
パナソニック
全力疾走していますが、息切れしないようにがんばってほしいものです。DMC-LX2の後継機あたりが楽しみですね。これはソニーにもいえることですが、TVとの連携をもっとスマートにしてほしいと思います。TVへの転送はワイヤレスでやりたいし、ストレージの仕方もいまひとつスマートじゃないですね。
富士フイルム
高感度が完成して、手ブレ補正や顔検出も備えた。その次の一手が見えないのがつらいところです。次のトレンドが動画とTVのような、プリントベースの富士フイルムに苦手な展開になってしまう可能性があります。そこでどうチャレンジするかが楽しみですね。
ペンタックス
ここはHOYAの判断しだいなのでなんともよくわからないのですが、当分、一眼レフはいけるんじゃないでしょうか。645は……個人的には意地でも出してほしいところです。やっぱり大判は絵が違いますから。デジタルバックのような特殊なものでなく、銀塩大判カメラのような、アマチュアでもがんばれば使えるという世界として、ひとつの分野として存続してほしいと思います。
リコー
いい意味でマニアックなところもあるし、カメラの楽しさを知っていて作っているメーカーですから、2008年も期待できます。いいポジションにいますね。ただ、画質などデジタルカメラの基本部分はまだまだ不満なので、この辺が改善されないと厳しいですね。
■ 関連記事
・ 【インタビュー】山田久美夫が占う2007年のデジタルカメラ(前編)(2007/01/29)
・ 【インタビュー】山田久美夫が占う2007年のデジタルカメラ(後編)(2007/01/30)
2008/01/17 00:00
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