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タムロンの最新ズームレンズをフォーサーズで試す
[2009/02/20]

【第7回】ジャンクカメラで作るレンズバリア内蔵キャップ
[2009/01/26]


2008年

【第5回】高倍率マクロ撮影のための最小システムを考える


マクロ撮影倍率のおさらい

 マクロ撮影時の倍率は「等倍」とか「2倍」などと表記されるが、本来は撮影画面(フィルムや撮像素子)に対して、被写体が写るスケールを表している。この表記は35mmフィルムカメラが主流の時代は、分かりやすく便利な基準だった。

 しかしデジタルカメラは撮像素子サイズは規格ごとに異なり、従って同じ「等倍」でも規格ごとに撮影範囲が異なってしまう。そこで、レンズの画角の表記と同様、撮影倍率の表記も「35mm判換算」が使われることが一般的である。

 ところで、「35mm判換算」は体感的にわかりやすい統一基準だと思う反面、「35mm判」という「数字+単位」の表記そのものは、どうもまどろっこしくて違和感がある。そこでぼくとしては、一部の人も提唱しているように、「ライカ判換算」の表記を採用したいと思う。「ライカ判」は「35mm判」の別名だが、規格が乱立するデジタル時代だからこそ「ライカ判」の名称がシンプルでわかりやすいと思う。



 さて、現代の一眼レフカメラ用マクロレンズは、一部の例外を除いてどれも等倍までの撮影が可能となっている。「ライカ判」フィルムカメラが主流の時代、「ライカ判等倍」以上の撮影倍率を得るには、中間リングやベローズ、テレコンなどのアダプターが必要で、敷居が高かった。

 ところが、等倍撮影可能なマクロレンズは、APS-Cサイズのデジタル一眼レフカメラに装着すると「ライカ判換算1.5倍相当」までのマクロ撮影が可能となり、フォーサーズのデジタル一眼レフに装着すると「ライカ判換算2倍相当」までの撮影が可能となる。つまり、撮像素子サイズの小さなデジタル一眼レフカメラのおかげで、ライカ判等倍を超えた1.5~2倍までのマクロ撮影が、レンズ単体で気軽に行なえるようになったのである。

 だから今の時代、感覚的には「ライカ判2倍相当」を超えた撮影が「高倍率マクロ撮影」の領域だと言える。そのような高倍率マクロレンズとして、キヤノンから「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」が発売されている。これはその名のとおり、レンズ単体で等倍~5倍(同社のAPS-Cサイズのデジタル一眼レフに装着時は、ライカ判換算の焦点距離1.6~8倍相当)の撮影ができる特殊レンズだ。非常に高画質だと言う評判だが、大きくて重い上に高価であり、しかもキヤノンEFマウントのカメラを持っていないぼくは、残念ながらまだ使ったことがない。

■注意■

  • この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、糸崎公朗および、メーカー、購入店もその責を負いません。
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気軽に高倍率マクロ撮影を楽しむシステムとは?

 しかし、高価な純正レンズを使わずに、似たような効果が得られる「抜け道」を探すのも、本連載のテーマであるブリコラージュ(切り貼り)の醍醐味のひとつである。そこで今回は、「ライカ判2倍相当」を超える超高倍率マクロ撮影を、より気軽に行えるシステムを模索してみた。

「より気軽に」ということで、まずは撮影システム自体をできるだけコンパクトにする方向で考えることにした。そこで今回はベースとなるカメラの候補からデジタル一眼レフカメラを外し、コンパクトデジタルカメラに絞って選ぶことにした。

 コンパクトデジタルカメラでマクロ撮影するには、レンズ先端にクローズアップレンズを装着する方法が一般的だ。クローズアップレンズは簡単に表現すると、虫眼鏡のような働きをする凸レンズで、これをレンズのフィルターネジに装着し、最短撮影距離をさらに短縮するものだ。これはさまざまな種類(倍率)の製品が、各メーカーから発売されている。

 その中でぼくが興味を持ったのは、吉田産業からレイノックスのブランドで発売されている、「スーパーマクロレンズ」のシリーズだ。これは倍率ごとに何種類かあるのだが、いずれもレンズ口径が小さく、標準ズームに装着しても画面がけられてしまう。しかし、望遠ズームに装着すると、画面がけられずに高倍率マクロ撮影ができるという、なかなか割り切った商品なのだ。今回はこの中から「MSN-202」というレンズをセレクトしてしてみた。

 さて、スーパーマクロレンズMSN-202を装着するコンパクトデジタルカメラだが、そのセレクトにはいくつかの条件がある。まずは「200mm以上の望遠ズーム装備」で「フィルター装着可能」なことが必要だ。あとはできるだけコンパクトで操作がしやすく、絞り優先モードがあって、画質が良ければ言うことはないだろう。このうち「画質が良い」はクローズアップレンズとの相性もあるだろうから購入前の判断は難しいが、いろいろな条件を考えてパナソニックの「LUMIX DMC-FZ18」を購入してみた。


LUMIX DMC-FZ18
 DMC-FZ18は28~504mm相当の超望遠域を含む18倍ズームを装備している。そして、純正のレンズアダプター「DMW-LA3」を介してフィルター径55mmのレンズが装着可能だ。また、DMC-FZ18は望遠端でもレンズがあまり長く飛び出さず、クローズアップレンズを装着したときの使い勝手も良さそうだ。

 露出モードは絞り優先AEのほかマニュアル露出やプログラムAEも装備し、モードの切り替えなどの各種操作性も極めてやりやすい。特に、右手親指で操作するジョイスティックの操作性など、なかなか良く考えられている。

 大きさについてはレンズ部が飛び出してコンパクトといえないのが残念だが、仕様を考えれば仕方の無いことだろう。スナップなどで試写したところ、写りはなかなか良く、手ブレ補正も驚くほどよく効き、これ1台で何でもできるスーパーカメラ、といった感じだ。

 しかし今回、肝心なのはMSN-202を装着しての「高倍率マクロデジカメ」としての性能である。まずはクローズアップレンズの装着方法+撮影のためのちょっとした工夫をお見せしよう。





FZ18+スーパーマクロレンズMSN-202・工作編

左からレイノックスのスーパーマクロレンズMSN-202、DMC-FZ18用レンズアダプター DMW-LA3、ステップダウンリング。ステップダウンリングは「55mm→52mm」と「52mm→37mm」2枚重ねだが、きつく閉めすぎたようで外れなくなってしまった(笑)レイノックスのスーパーマクロレンズMSN-202には「フリーサイズアダプター」が付属しているが、今回は使用していない DMC-FZ18にアダプターを介してレイノックスのMSN-202を装着したところ。これで即撮影……と行きたいところだが、実はもうちょっと工夫が必要だ。高倍率マクロで手持ち撮影すると、DMC-FZ18の「手ブレ補正機構」が追いつけないほど、激しくブレしてしまう。だからストロボの一瞬の光でブレを抑えることが必要なのだ。しかしこの状態でマクロ撮影すると、内蔵フラッシュの光がけられてしまい、真っ暗にしか写らない

そこでまず、カメラのストロボカバーと、レンズアダプターの2カ所にマジックテープを貼る。マジックテープは裏面がノリになっているタイプで、金属やプラスティックにも強力接着でる。また、失敗したり使わなくなった場合にも、キレイにはがすこともできるから安心だ。もちろん、マジックテープ同士は何回でも付け外しが出来る。今回は100円ショップで購入したが、DIY店などでも扱っている そしてこれが、自作した内蔵ストロボ用のディフューザーだ。厚手のトレーシングペーパーを適当な大きさに切り、両端にマジックテープを貼る。このマジックテープが、カメラとの装着部分となるわけだ。トレーシングペーパーは画材店や文具店で購入できる

自作したディフューザーをDMC-FZ18に装着した状態。これで内蔵ストロボがけられること無く撮影ができる。ディフューザーはしっかり装着でき、また簡単に取り外しができる。さらにバッグの隙間などに収納できる




DMC-FZ18+スーパーマクロレンズMSN-202・テスト撮影編

 以上のようにしてできた撮影機材で、果たしてどれくらいの高倍率マクロ撮影が出来るのか? ズームの倍率を変えながら、金属製の定規を撮影して試してみた。

 なおDMC-FZ18はインナーフォーカスのため、ピント位置が無限遠から近接するに従い、焦点距離が短くなり広角になる性質がある。そこで、ピントはMFで無限遠に固定し、ズーム倍率のみ変更しながら撮影した。

 また、撮影には三脚やマクロスライダーを使わず、手持ちで行なっている。従って、被写体の定規はCCDに対し多少曲がっている可能性があり、撮影範囲や倍率はあくまで目安と考えて欲しい。


まずは低倍率での撮影。DMC-FZ18の液晶モニターには大体のズーム倍率が表示されるがこれは×2。この状態では全画面が撮影できず、レンズの口径が小さいため大きくけられてしまっている 次はズームを望遠にし、およそケラレがなくなる位置で止めてみた。ズームの倍率表記は×7。撮影範囲は約6.5×4.9mmで、撮影倍率はライカ判換算5倍相当。この段階で、ライカ判フルサイズのデジタル一眼レフに、キヤノンのMP-E65mmを装着したときの最大撮影倍率に匹敵する

こちらはズーム倍率表記×10。撮影範囲は約5×3.8mmで、撮影倍率はライカ判換算6.7倍となる そしてこれがズーム倍率最大の×18。撮影範囲は約2.8×2.1mmで、撮影倍率はライカ判換算で約12倍にもなるから驚きだ




DMC-FZ18+スーパーマクロレンズMSN-202・実写作品編

 このように、ライカ判換算5~12倍相当までの高倍率マクロ撮影が可能なカメラ機材が、小型軽量でしかも安価でにできてしまった。このような特殊機材は何を撮影するかがポイントで、まさにアイデアが問われる。

 そこでいろいろと迷ったのだが、普段自分があまり撮らない「花」にチャレンジしてみた。しかし、花の部分アップだけだと何だかわからないので、同じ花の全体を、クローズアップレンズなしの望遠端(504mm相当)で撮影してみた。望遠マクロで背景をぼかす手法は花の撮影では定番だが、これも自分ではあまりやったことのない表現である。

 高倍率撮影では被写界深度が極端に浅くなるので、絞り優先AEでF8にして少しでも深度を稼いでいる。また、手ブレを抑えるためストロボを強制発光し、ピントは無限遠に固定し手持ち撮影している。花の全体写真は望遠端の最短撮影距離付近でAF撮影し、絞り開放、ストロボオフで手持ち撮影している。

 当連載コーナーの実写作品は「鑑賞しやすいサイズ」として、元データを横900ピクセルくらいに縮小したサイズを基準としているが、今回は「被写体の詳細なディテールを見せたい」というコンセプトのもと、いずれもピクセル等倍で掲載することにする。


まずは川の土手に生えていたネジバナで、雑草として扱われるが野生ランの一種。1つの穂にいくつかの小さな花が咲く
3,264×2,448ピクセル / 1/160秒 / F4.2 / 0EV / ISO100 / プログラムAE / WB:オート / 82.8mm(実焦点距離)
ネジバナの花の1つを拡大してみた。レンズの焦点距離はライカ判換算で210mm相当で、撮影倍率は約5倍相当となる
3,264×2,448ピクセル / 1/80秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 34.5mm(実焦点距離)

さらにズームを最大にした、ライカ判換算12倍相当の撮影。ガラス球のように連なった細胞の1つ1つが写っているから驚きだ
3,264×2,448ピクセル / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 82.8mm(実焦点距離)
次は、生垣に植わっていたマツバギク。名前と異なりキクの仲間ではなく、ハマミズナ科に属する、南アフリカ原産の多肉植物だ
3,264×2,448ピクセル / 1/400秒 / F4.2 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 82.8mm(実焦点距離)

マツバギクのおしべをライカ判12倍相当で撮影。袋状のおしべの中から花粉が出てくる構造がよくわかる
3,264×2,448ピクセル / 1/250秒 / F8 / -1EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 82.8mm(実焦点距離)
これは怪獣の皮膚のようだが、マツバギクの葉の先端を12倍相当で撮影したもの。葉の表面がレンズ状になっており、肉厚の葉の奥にまで効果的に太陽光線を当てる仕組みになっているようだ
3,264×2,448ピクセル / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 82.8mm(実焦点距離)

プランターに植えられていたハクチョウソウ。可憐な感じが涼しげな花である
3,264×2,448ピクセル / 1/640秒 / F4.2 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 82.8mm(実焦点距離)
ハクチョウソウのおしべを12倍相当で撮影して驚いてしまった。なんと花粉が三角形の角を丸めたような、実に不思議な形をしているではないか。しかも先のマツバギクの花粉に比べ、ずいぶんと大きい。とはいえ、肉眼ではとても見ることのできない、小さな世界である
3,264×2,448ピクセル / 1/200秒 / F8 / -0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 82.8mm(実焦点距離)




もっとコンパクトなシステムを考えてみた

 ここまで見てきたように、なかなか素晴らしい高倍率マクロデジカメができた。しかし、ぼくとしてはいまひとつ不満があり、それは始めに書いたように、「カメラの大きさ」である。DMC-FZ18をベースとした超高倍率マクロデジタルカメラは、一眼レフカメラに比べると小型軽量だが、コンパクトデジタルカメラとしては大柄である。そこで、同じような機能をもっと小さい機材で実現する方法を考えてみた。

 今回使用したスーパーマクロレンズMSN-202は、大体200mm相当以上の望遠ズームを装備したデジカメで真価を発揮する。その条件を満たす最小サイズのカメラのひとつに、28mm~200mm相当のズームを装備した、リコーのRシリーズがある。そこでまず、自分が愛用しているリコーのCaplio R7をベースに、こんな機材を試作してみた。


 左の写真はCaplio R7のレンズ先端に、MSN-202を装着……ではなく乗せているだけである。Caplio R7にはフィルターアダプターが発売されていないから、撮影時はクローズアップレンズを左手で持ち、レンズ先端に押し当てる必要がある。内蔵ストロボのディフューザーは、乳白色のライカ判フィルムケースを適当なサイズに切断し、セロハンテープで貼り付けてある。

 まさに不完全な試作品なのだが、これで撮影してみると画質はなかなか良いのだ。何よりDMC-FZ18をベースとした機材より格段にコンパクトで、このサイズで高倍率デジカメが実現したらより面白いだろう。

 Caplio R7用にはフィルターアダプターが発売されていないが、自作すればいいだろう。しかし、そうは言っても自作アダプターの製作はなかなか面倒で、いろいろ悩んでいた。

 そうこうしているうちに、Caplio R7の後継機のR8が発売された。早速これを入手し、またいろいろ考えているうち、ひょんなことから簡単確実な方法を発見してしまった。これもまたブリコラージュ独特の「発想の連鎖」なのだが、その方法を紹介しよう。


RICOH R8+スーパーマクロレンズMSN-202・工作編

リコーのR8は、フラットなボディに28~200mm相当の高倍率ズームを装備したコンパクトデジカメだ。製品コンセプトのためか、フィルターアダプターは発売されていない。しかし気になるのは、レンズ外周の「リング」である。単なるデザイン処理のようだが、工夫次第でこの部分にアダプターが装着できそうな気がするのだ そこでまずは試しに、先に使用したFZ18用レンズアダプターのDMW-LA3をあてがってみた。するとどうした事か隙間無くピッタリとはまってしまったのだ! アダプターの内径と、R8のレンズ外周リングの外径が、全く同じサイズだったのだ。偶然とはまさにこのことで、なかなかの大発見と言っていいだろう(笑)

もちろんカメラを逆さにしても、アダプターが落ちる事はない。しかしR8のズームを望遠端にすると、アダプタからレンズ先端が飛び出してしまう
このままクローズアップレンズを装着すれば、レンズが干渉してカメラが壊れてしまうだろう
そこで、ジャンク品の55mm径フィルターのガラスをはずした枠を装着し、スペーサーとしてみた

そしてこのように、DMC-FZ18に装着したのと同じステップダウンリングを介して、スーパーマクロレンズMSN-202が装着できてしまった。しかしこのままでは取り付け方法としては不安で、なんとかきちんと固定したい。本来なら、アルミ板を加工したステイをレンズアダプターにネジ止めし、R8の三脚穴に固定する方法が確実だろう。しかし、それもちょっと面倒だ…… そこでしばし思案した結果、再びマジックテープが登場することになった。まずは、ボディとアダプターのそれぞれにマジックテープを貼り付ける(クローズアップレンズにもマジックテープが貼ってあるが、その解説はちょっと後で)

裏側はこんな感じで、カメラとアダプターのそれぞれ3カ所にマジックテープを貼り付ける さらに、マジックテープ同士を貼り合わせ……

こんなパーツを作る このように貼り付け、ボディとアダプタを接続し固定する

裏側はこんな感じで、接続部分は3カ所だ。もちろん、ねじ込み式のちゃんとしたアダプターほど丈夫なものではないが、結構しっかりして外れにくく、十分実用になりそうだ さらに内蔵ストロボのディフューザーと、暗がりでのピント合わせ用にLEDライトも装着してみた。これらもマジックテープで止めている。このストロボディフューザーには、実はもうひとつの機能があって……

「レンズキャップも兼ねる」という合理的設計になっているのだ! この「ディフューザー兼レンズキャップ」は過去に雑誌「デジタルカメラマガジン」でも公表した方式で、余剰パーツのない「完全変形ロボ」を参考に考案したものだ(笑) ディフューザーは、家に転がっていた乳白色のキャップを利用したが、恐らく「IX-ニッコール」のリアキャップだろうと思う。外側に貼ったマジックテープが、ディフューザーとしてアダプターに固定される部分。内側の2カ所に貼ったマジックテープは、レンズキャップとしてクローズアップレンズ外周に貼ったマジックテープとの固定部分となる

LEDライトの裏側にもマジックテープを貼る。これもレンズアダプターに貼ったマジックテープで固定される すべての外装パーツは簡単に着脱可能で、「普通のデジカメ」から「高倍率マクロデジカメ」へと数十秒で変身する。カメラやアダプターに貼り付けたマジックテープは剥がすこともできるから、今回は元に戻せる「可逆改造」である




RICOH R8+スーパーマクロレンズMSN-202・テスト撮影

 次は、倍率確認のためのテスト撮影である。R8もDMC-FZ18と同様に、ピント位置が無限遠から近接するに従い広角になる性質があるから、ピントは無限遠に固定している。撮影も同様に手持ちなので、撮影範囲や倍率は今回も目安程度である。

 また、ズーム操作は「ステップズーム」に設定して行なった。ステップズームはズーム位置を28mm、35mm、50mm、85mm、105mm、135mm、200mm相当のステップごとに停止できるモードで、R8のメニューで設定できる。このズームのステップごとに撮影倍率を割り出しておけば、撮影した写真の倍率が分かって便利だろう。


まずは広角端の28mm相当での撮影だが、DMC-FZ18よりレンズ口径が小さい為か、この画角でクローズアップレンズの径が画面いっぱいに写っている。またレンズの特性の違いなのか、DMC-FZ18に比べかなり大きな糸巻き収差が出ている 次に、画面がけられない85mm相当までズームして撮影。撮影範囲は約15×11mmで、倍率はライカ判換算約2.3倍相当。しかし相変わらずかなり大きな糸巻き収差があるので、実用上は不安だ

105mm相当での撮影範囲は約12.5×9.4mmで、撮影倍率は2.7倍相当となる。糸巻き収差は多少軽微になった 135mm相当での撮影範囲は約10.2×7.7mmで、撮影倍率は約3.3倍相当となる

望遠端200mm相当での撮影範囲は約7.6×5.7mmで、4.7倍相当となる。糸巻き収差はまだ少し残っている




RICOH R8+スーパーマクロレンズMSN-202・実写作品編

R8をベースとした高倍率マクロ撮影システムは、さらにサイズが小型軽量化となり、より理想形に近づいた。先に製作したDMC-FZ18ベースのシステムより、最大撮影倍率は落ちてしまったが、それでもライカ判換算4.7倍相当と言えばかなりの高倍率である。

 この倍率は大きさ数mmの昆虫や、大きな昆虫の部分アップに最適だろう。レンズの糸巻き収差も、昆虫のような自然物が被写体なら問題ないはずだ。と言うわけで、いろいろな昆虫を撮影してみた。撮影時の設定は、ピントは無限遠固定、最小絞り固定、フラッシュ強制発光、ステップズーム、などにしてある。これらの設定項目はマイセッティング「MY2」に登録してあり、ダイヤルで簡単に呼び出し可能だ


ライカ判換算4.7倍相当で撮影した、クチナガチョッキリと言うゾウムシの仲間。小さいながらユニークなフォルムをしており、鎧のような硬い皮膚から毛が生えているのも、シュールな感じだ
3,648×2,736ピクセル / 1/153秒 / F8.1 / 0EV / ISO64 / 絞り優先AE / WB:オート / 27.4mm(実焦点距離)
こちらも4.7倍相当で撮影した、ヒメバチの一種。長い産卵管と、短い翅のバランスが面白い。夜の自販機に来ていたが、スタジオの白バックのように撮れた
3,648×2,736ピクセル / 1/133秒 / F7.7 / -0.7EV / ISO64 / 絞り優先AE / WB:オート / 24mm(実焦点距離)

ボウフラ(ヤブカの幼虫)も4.7倍相当で撮影してみたが、透明な体がメカニカルで興味深い。体内を貫く2本の管が、お尻の呼吸口につながっているのが分かる
3,648×2,736ピクセル / 1/189秒 / F9.4 / 0EV / ISO64 / 絞り優先AE / WB:オート / 35.4mm(実焦点距離)
交尾するヤマイモハムシは2.3倍相当での撮影。テスト撮影で見たように、相当な糸巻き収差が出ているはずだが、直線の入らないこのような被写体では全く気にならない
3,648×2,736ピクセル / 1/84秒 / F6.9 / 0EV / ISO64 / 絞り優先AE / WB:オート / 15.1mm(実焦点距離)

2.7倍相当で撮影した、ナミスジキヒメハマキというガ。拡大すると美く複雑な模様だが、肉眼では木屑か何かのゴミにしか見えない。これが鱗粉の「視覚マジック」なのだ
3,648×2,736ピクセル / 1/104秒 / F7.2 / 0EV / ISO64 / 絞り優先AE / WB:オート / 18.7mm(実焦点距離)
エサを食べるテントウムシ顔面を、4.7倍相当で拡大撮影。かわいいイメージの虫だが、こうして見るとかなり凶暴な生物に思えてしまう
3,648×2,736ピクセル / 1/189秒 / F9.4 / 0EV / ISO64 / 絞り優先AE / WB:オート / 35.4mm(実焦点距離)

オオミズアオというガの翅の一部分を、4.7倍相当で拡大撮影。まさに鱗粉によるアート作品といっていいだろう。鱗粉それ自体の形にもバリエーションがあるのも分かる
3,648×2,736ピクセル / 1/189秒 / F9.4 / 0EV / ISO64 / 絞り優先AE / WB:オート / 35.4mm(実焦点距離)
参考までに、オオミズアオの全体写真。自作マクロユニットを取り外した、R8単体の広角マクロで撮影。1台のコンパクトデジカメも、工夫次第で実に多彩な表現が可能にな
るのだ
3,648×2,736ピクセル / 1/16秒 / F3.6 / -1EV / ISO64 / プログラムAE / WB:オート / 5.7mm(実焦点距離)




コンパクトデジタルカメは、高倍率マクロ撮影にも適している

 今回は、コンパクトデジタルカメラをベースにした高倍率マクロデジカメの製作法を紹介したが、このような特殊機材は撮影の仕方にもちょっとしたコツがいる。これについてちょっとだけ説明したい。

 まず、マクロ撮影の場合はピントをMFで固定し、カメラを前後に動かすことでピント合わせするのが基本だ。さらに高倍率マクロ撮影の場合、三脚とマクロスライダー(微動装置)を使用することが常識となっている。このような装置を使えば、確実にきれいな高倍率マクロ写真が撮れるだろう。

 しかし、ぼくとしてはそのような大げさな機材を持ち歩くのは面倒くさいので、今回の撮影はすべて「手持ち」で行なった。こんな撮影ではもちろん失敗も多いが、デジカメなので何度でも撮り直しができる。そのうち、だんだんとコツが分かってきて、成功率がかなり高くなった。

 ポイントとしては、特別な器具を使わずに、被写体とカメラをいかに固定するかだろう。ぼくの場合は、被写体となる花や、虫が止まった木の葉などを左手でつまみ、同じ左手の上にレンズ先端を乗せ撮影している。しかし細かい撮影方法を文字で伝えるのは難しいし、状況によりカメラの構え方は違ってくるはずだ。だからぼくの説明をヒントに、各自で実際に試してみるのがいいだろう。

 改めて気付いたのだが、コンパクトデジカメの背面液晶モニターは、高倍率マクロ撮影にも非常に適している。高倍率マクロ撮影の場合、ピントはMFで固定し、カメラを微妙に前後させながらピント合わせをするのが基本だ。この動作を一眼レフの光学ファインダーを覗きながら行うと、カメラを自分の頭ごと微動させなければいけないので姿勢が苦しく大変だ。

 しかし同じ動作をコンパクトデジカメの背面液晶モニターを覗きながら行なうと、微動させるのは手先だけでよいので格段に姿勢が楽なのだ。液晶モニターではMFでのピント確認がしづらいようだが、高倍率マクロは被写界深度が極端に浅い反面、実はピントの山が確認しやすく、あまり問題はない。

 また、同じ撮影倍率で比較した場合、撮像素子の小さなコンパクトデジカメで撮影した方が、デジタル一眼レフで撮影するより被写界深度が深くなる。この点でもコンパクトデジカメは有利だ。もちろんシステム自体が小型軽量である事も、大きな利点だ。

 R8をベースとした超高倍率マクロデジカメはまさに小型軽量で、バックの中に入れていつでも持ち歩け、気軽に撮影できる。それ以前に製作したDMC-FZ18ベースの超高倍率マクロデジカメは、少しサイズがアップするものの、更なる超高倍率撮影が簡単に行なえる。


 画質については、両者ともなかなかのものだと思う。R8ベースの方が、DMC-FZ18ベースより若干ピントがシャープのように思える。しかしR8ベースはズーム全域で糸巻き収差が見られる。こうした現象は元のカメラの性能というより、クローズアップレンズとの相性の問題だろう。また、DMC-FZ18ベースの方が撮影倍率が高いので、回折現象が出てるのかもしれない。

 両者の画像をピクセル等倍でモニター鑑賞すると、コンパクトデジカメ独特のノイズ処理が見える。しかしこの程度のノイズ処理は、大判サイズにプリントして展示したり、雑誌などの印刷物に掲載した場合、意外と気にならないものだ。特に被写体に目を奪われるような写真の場合、人は画質のことなど気にしないのだ。

 そうは言っても、10万円以上するキヤノン製の「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」との描写の違いも気になるところで、いつか試してみたいと思う。しかしいくら高性能でもシステムがあまりに大きければ、持ち歩きが億劫で結局撮影しないことになってしまうだろう。だから画質はそこそこであっても、今回紹介したような小型軽量のシステムは非常に有効なのだ。

 当初はもっと小型の高倍率マクロデジカメを目指し、Caplio R7のレンズ先端を切断する改造をしたのだが、これは予想と全く違う結果をもたらし、【第3回】史上初!? 思い付きで生まれた「セミ魚眼付きコンパクトデジカメ」のネタになった(笑)。これもブリコラージュ的な「発想の連鎖」の一環となっている。

 実は今回の作例写真の一部では、ストロボにさらに工夫を加えて撮影している。しかしこれはまだ研究中で未完成のシステムなので、そのうち紹介したいと思う。さらに原稿執筆中にDMC-FZ18の後継機の「DMC-FZ28」が発売され、R8の後継機のR10も発表になった。これらの新型カメラを使ったリポートも、そのうちお届けできればと思う。


 最後に告知をひとつ。会期が8月31日までとあとわずかだが、「大山昆虫展II 路上ネイチャーの冒険 東京-米子-大山」という個展を、鳥取県立大山自然歴史館で開催している。作品のテーマは都会に生息する昆虫で、これがすなわち「路上ネイチャー」だ。撮影地は自分の身近な東京と、大山のふもとの街である鳥取県米子市だ。

 撮影には全てリコーのコンパクトデジタルカメラ(ほぼ無改造)を使用し、ポスターサイズに伸ばした作品もあるので「カメラの実力」も堪能できるだろう。また8月4日に同会場で開催した「デジカメ昆虫写真教室」の生徒作品も展示している。



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/labo_backnumber/
  鳥取県立大山自然歴史館
  http://daisenrekishikan.pref.tottori.jp/
  糸崎公朗写真展「大山昆虫展II 路上ネイチャーの冒険 東京-米子-大山」(8月31日まで開催)
  http://site5.z-tic.or.jp/p/daisenrekishikan/news/19/



糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートア ワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」 (共にアートン)など。 ホームページはhttp://www.itozaki.com/

2008/08/28 21:35
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