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安原製作所のLED付き5倍マクロレンズ「NANOHA」(なのは)を試す

〜マイクロフォーサーズマウントで体験
Reported by 本誌:武石修

 あの「安原製作所」が帰ってきた――。だが今度は、カメラではなくユニークなレンズのメーカーとしてだ。

LUMIX DMC-GF2に装着した「NANOHA」(なのは)の試作品

 安原製作所といえば、12年ほど前に銀塩レンジファインダーカメラ「一式」を発売して一躍有名になったカメラメーカー。そんな安原製作所が数年ぶりに民生向けの新製品をリリースするという。撮影倍率5倍という超マクロレンズ「NANOHAx5」(なのはx5)だ。マイクロフォーサーズ用とEマウント用をラインナップし、価格は5万円以下を想定。現在開発の最終段階で、6月末から量産を開始する。

 一般的なマクロレンズは撮影倍率が等倍(1倍)程度までだが、NANOHAは4〜5倍と高いのが特徴。3倍以下での撮影や無限遠を出すことはできないので、超マクロ撮影専用レンズと言える。顕微鏡に近い撮影が可能なため、肉眼とは違った世界を収めることができる。今回、安原製作所より試作機をお借りして、撮影体験をしてみた。

 ざっとスペックを挙げると、サイズが64×84mm(最大径×全長、マイクロフォーサーズ)、重量約320g(照明ユニット含む)。さほど嵩張るよう大きさではない。レンズ構成は7群10枚。絞りはF11、F16、F22、F32から選択できる。

重量感はややあるが、手頃な大きさに感じた。製品版では鏡筒本体に外装が付き、ローレットの刻みもより細かくなる予定

 ピントが合うのは、レンズの前約11〜19mmの位置。ワーキングディスタンスが一般のマクロレンズよりも極めて短いため被写体の上に直接レンズを置いて撮影することもできる。開放F値はF11と暗いため、LEDの照明ユニットを内蔵した。これにより、ある程度感度を上げれば手持ち撮影もできなくはない。ワーキングディスタンスが短いだけに、3つのLEDでも十分明るくなる。立体物であっても影は出にくいようだ。LEDの電源はカメラからは取れず、別途ミニUSB端子のバッテリーを用意する必要がある。

ピントが合う位置に向かって、3つのLEDで照らす機構を備えた LEDライトの電源はミニUSB端子。市販のバッテリーなどで外部から供給する

 鏡筒は金属製で、先端に照明ユニットが被さる作りになっている。鏡筒には絞りリングとフォーカスリングを備える。フォーカスリングは距離ではなく倍率が表記してある。このレンズの場合、“倍率を先に選択して撮影する”というよりも“被写体までの距離によって倍率が決まってくる”といった印象。4倍であってもかなり大きく写る。

 また、ピント位置に被写体を固定するためのホルダーが付属するのもユニークな点だ。ここにテープなどを使用して被写体を設置するとブレずに撮影できる。ホルダーを使用ずに三脚を使って撮影する場合はマクロ撮影用の微動装置を併用すると撮影しやすいだろう。なお製品版では、レンズを垂直に支えるスタンドのようなものにも対応する予定だ。

 フォーカスはマニュアルで、電子接点はない。今回はNANOHAの試作品をパナソニックの「LUMIX DMC-GF2」で撮影してみたが、絞り優先モードで問題なく使用できた。照明がLEDなので動画も撮影できる。

被写体保持用のホルダーを装着したところ。中央の窪みに撮りたいものをセットする
ホルダーは、被写体の大きさに応じて切り欠いて使えるようガイドが入っている。テープや接着剤などで被写体を固定する。当初5個程度を同梱し、安価で別売もするという

 一眼レフカメラ用としては、キヤノンに「MP-E 65mm F2.8 1-5×マクロフォト」があるが(過去にはミノルタ「AF Macro Zoom 3x-1x F1.7-2.8」というのもあった)、ミラーレスカメラ用としては今のところこうした超マクロレンズはなかった。また、レンズの前後を逆に取り付けるリバース撮影は高倍率撮影の方法として比較的手軽だったが、近年登場したレンズシステムは電子制御のため絞りリングが無く、リバースすると絞りが動かせなくなるなど敷居は高くなっていた。

 さて画質に関しては実写サンプルをご覧いただきたい。一般のレンズ同様絞りによって写りが違ってくる。開放のF11ではソフトな描写になり、1段絞ったF16ではぐっとシャープさが増す。さらにF22にすると、さらに若干くっきりする。F22が画質のピークとの印象を受けた。ボケも滑らかだ。

レンズは7群10枚

 顕微鏡でもカメラを付けて撮影できるタイプがあるが、安原氏によると“目で覗く”という使われ方のため、顕微鏡撮影では周辺がさほど綺麗に写らないのだという。その点NANOHAは写真用として設計したため、歪曲もほとんどなく周辺まで良く写るとのこと。

 今回、身の回りのものを撮影してみた。あまりに高い拡大率ゆえ、一見、何を撮ったのかわからないようなものもあったが、いろいろ撮影してみると新たな発見があって楽しい。NANOHAで新しい写真表現にチャレンジしてみるのもおもしろそうだ。作品撮り以外に業務用としての使い道もありそうだし、自由研究のツールとして活用するのも良いかも知れない。

実写サンプル

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし補正なしの撮影画像をダウンロード後、長辺800ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置の画像は、非破壊で回転させています。
  • 撮影に使用したレンズは試作品です。

・絞り別

 NANOHAでは、ちょうど新聞本文の1文字が画面一杯に写る。絞り開放ではソフトな描写だが、F16以降は比較的しっかり写る。新聞紙の繊維まで見えるのが凄い

DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/50秒 / F16 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/20秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/20秒 / F32 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート

・そのほか

【1/2.3型CCD】肉眼では見にくいセンサーからのワイヤーまで良く写る。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/2.5秒 / F22 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 被写体のCCD。小指の先ほどのものだ
【プリント基板】小さな表面実装部品のハンダのようすまでよくわかる。LSIの足は1mmに3本並んでいる小ささ。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/10秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 被写体の基板。撮影したのは、マッチ棒の先端の辺りだ
【革製ストラップ】縫ってある糸の繊維まで写っていた。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/15秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 被写体のストラップ
【1万円札】お札は拡大撮影するとおもしろい被写体の1つだろう。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/10秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 【1万円札】紙の繊維まで見える。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/20秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【1万円札】“10000”の文字はインクがかなり盛り上がっているのがわかる。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F22 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / WB:カスタム 【1万円札】“10000”の文字の下にある「NIPPON GINKO」の文字。偽造防止用で極めて小さな文字だが、この通り。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/15秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【1万円札】ホログラムを撮影したら、照明の効果で桜が浮き上がった。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/15秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【マッチ棒】火薬にたくさんの穴が空いているのがわかる。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/15秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 【コメ】なんと1個が画面に入りきらない程の大きさで写る。表面のテクスチャーまで鮮明だ。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/13秒 / F22 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【爪楊枝】実は先端は平ら。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/25秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 【爪楊枝】おなじみの造型も良く彫ってあるのがわかる。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/30秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【印刷物】写真の部分だが、網点になるレベル。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/8秒 / F22 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 【切手】切り取った際の繊維の広がりまで見える。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/20秒 / F22 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【ボールペン】ボールまではっきり写った。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/8秒 / F22 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 【シャープペン】芯の減り具合がおもしろい。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/6秒 / F22 / +0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【パセリ】一見、何の植物かと思うほどだ。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/100秒 / F22 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / WB:カスタム 【iPhone 4】高精細といわれるレチナディスプレイだが、ドットを鮮明に写し取った。レンズの歪曲も少ないのがわかる。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 2.5秒 / F22 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【面ファスナー】先端の引っかかり部分までよく見える。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/15秒 / F22 / +0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム 【グラニュー糖】氷砂糖か、と思うほどの拡大率だ。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/10秒 / F22 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム
【Tシャツ】細かい繊維が飛び出しているようすがわかった。DMC-GF2 / NANOHA / 4,000×3,000 / 1/25秒 / F22 / +1EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:カスタム

2011年度中に計3本のレンズをリリース予定

 安原製作所は、当時としては異例の個人操業によるカメラメーカーとして安原伸氏が1997年に立ち上げた会社。冒頭にも書いたとおり、1999年に第1弾の製品となる一式を発売。折からのクラシックカメラブームを受け、“新品で買えるクラカメ”として一般メディアも巻き込んで大きな話題となった。読者の多くもご存じのことと思う。一式向けとして、Lマウントレンズ「MC YASUHARA 50mm F2.8」もリリースした。

Lマウントを採用した一式。直販のみというスタイルで約4,000台を販売。価格は5万5,000円だった。装着レンズはMC YASUHARA 50mm F2.8

 さらにカメラの第2弾としてAE機能付のレンジファインダーカメラ「秋月」を企画。しかし工場のトラブルなどで発売が延び、やっとリリースしたのは2003年になってからだった。そのころ世の中はデジタルカメラに移行しつつあり、販売は僅かに留まった。銀塩カメラのビジネスが難しくなったため、安原製作所は2004年2月に業務を終了した。

 その後、2007年4月に再び安原製作所を復活させて金属部品の設計などを請け負っていた。今回、NANOHAで秋月以降途切れていたコンシューマー向け製品をローンチすることになった。

 「ミラーレスカメラが登場したので、(レンズのビジネスを)始めてみた。ミラーレスカメラが登場して時間が経つが、レンズの種類が少ないからだ。純正レンズとバッティングするとは考えていない。“純正品”を買う人と“よくわからないレンズ”を買う人は別。安原製作所は後者を狙っている。世の中から変なものが無くなってきている。レンズはまだまだ遊べる余地がある」(安原氏)。

 このレンズを構想し始めたのは2010年頭だったそうだが、CP+2010の日本カメラ博物館の展示を見て本格的に開発が動き出すことになる。安原氏は、「カメラメーカーの歴史を記した年表に安原製作所もあった。ところが、1997年〜2004年あたりが“点線”になっていた。それを“実線”にしてやろうと思った。次回からは実線になりますよ」と話す。

 安原製作所が、レンズの企画とメカ部の設計を担当。それを、本体の製造と光学設計を行なう中国の工場に伝え開発を進めた。NANOHAを製造するのは一式などを造っていたPhenix Optics(鳳凰光学)とは別の工場とのことだ。

安原伸氏。ちなみに安原製作所の人員は今のところ自身1人。「今後増やしていければ」(同氏)

 中国の工場のレベルはこの15年で大きく向上したのだという。「一式や秋月のころは、できないことも“できる”と言われてしまい開発が遅れたりした。だが今は、工場に任せれば本当に出来上がってくる。今回は楽だった。昔とは違うと感じた」(安原氏)。2010年の秋には、光学系の試作が完了するほどのスピードだった。

 その後照明ユニットなどを取り付けて現在の形になった。「時代が時代で白色LEDがあった。近接でも熱を持たないのがいい。LEDが無かったらこの企画は実現していなかった」(安原氏)。本来LEDは照射角が狭いが、NANOHAの場合、写る範囲が小さいので問題ないのだそうだ。

 なお、このレンズはAPS-Cサイズのイメージサークルをカバーしているが、ミラーレスカメラ用に設計してあるため、一眼レフカメラ用を発売する予定は無い。フランジバックの短いミラーレスカメラ用のほうが、設計は楽なのだという。

 ところでネーミングの由来だが、10億分の1を表す“ナノ”から採ったとのことだ。“なのは”といえば魔法少女のアニメキャラクターもいたが、そちらとの関係については聞きそびれてしまった……とまあ余談はさておくが、すでに1,000本分の部材を確保しているというのだから、自信が伺える。月産100本程度でスタートし、海外でも同時に発売するとしている。

 今後は当面、交換レンズに注力していくという。2011年度中に、あと2本のレンズをリリースする予定だ。「次回作は比較的当たり前のものになるが、3作目はえらいものになる。問題作を出します(笑)」と安原氏。これは今から目が離せない。




本誌:武石修

2011/5/27 00:00