切り貼りデジカメ実験室

驚異の“18倍マクロ撮影”に挑戦

PENTAX Q-S1に自作照明とリバースレンズを装着

極小サイズ撮像センサーを採用した「PENTAX Q-S1」の特性を活かして、最大で“ライカ判換算18倍”もの超高倍率マクロ撮影が可能なシステムを組んでみた

超高倍率マクロで未知の領域を探る

今回も、前回に続いて「PENTAX Q-S1」を採り上げよう。このカメラの特徴は、何と言っても1/1.7型の“極小サイズ撮像センサー”を搭載した点にあり、それはマクロ撮影にも非常に有利なのである。

さて、PENTAX Qシステムには「Kマウントレンズ用アダプターQ」というアクセサリーが用意されている。その名の通り、一眼レフ用のペンタックスKマウントのレンズを、Qマウントのデジカメに装着できるアダプターだ。

PENTAX Q-S1は極小の1/1.7型撮像センサー(撮影画面サイズ7.5×5.6mm)を採用しており、Kマウントレンズを装着するとライカ判換算4.7倍の望遠撮影ができる。

これはマクロ撮影時の倍率が高くなることも意味しており、例えば「等倍マクロ」が可能なレンズをPENTAX Q-S1に装着すると「ライカ判換算4.7倍」のマクロ撮影が可能となる。

これはかなりの高倍率マクロで、もはや特殊撮影の領域だ。こうした撮影が、メーカー純正品の組み合わせでできてしまうのだから驚いてしまう。しかしただ驚くだけでは、この連載「切り貼りデジカメ実験室」は済まされない(笑)。そこで、さらなる高倍率撮影にチャレンジしてみることにした。

もっとも目立つのが自作の「マクロ用ライトボックス」で、外付けストロボ「PENTAX AF540FGZ II」の光を内部で反射させ2灯に振り分け、至近距離の被写体に照射できるようになっている。レンズはKマウントの標準ズーム「smc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6AL WR」をリバース(逆付け)している

等倍を超える高倍率マクロ撮影をする場合、一眼レフ用の広角レンズをリバース(逆付け)する方法が、専門家の間では知られている。実際にペンタックスからは、そのための「リバースアダプターK」というアクセサリーが発売されている。

さて広角レンズだが、単焦点広角レンズをリバースすると、マクロ撮影倍率が固定されてしまう。そこで今回は、Kマウントの標準ズーム「smc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6AL WR」を使うことにした。標準ズームをリバースすれば、標準〜広角の範囲でマクロ倍率も変化するのである。

ところで広角レンズをリバースすると、実質的にレンズが非常に暗くなり、ストロボによる照明は必須となる。このような場合、メーカーからはマクロ用リングストロボが発売されているが、発光部が大きすぎてどうも私には使いづらい。

そこで今回は「マクロ撮影用ライトボックス」を自分なりに設計して自作し、これを外部ストロボ「PENTAX AF540FGZ II」に被せることにした。

―注意―
  • この記事を読んで行なった行為によって、生じた損害はデジカメWatch編集部、糸崎公朗および、メーカー、購入店もその責を負いません。
  • デジカメWatch編集部および糸崎公朗は、この記事についての個別のご質問・お問い合わせにお答えすることはできません。

極小サイズ撮像センサーを採用したPENTAX Q-S1の特長を活かした、超高倍率マクロ撮影にチャレンジしてみる。用意したのはペンタックスKマウントの標準ズームsmc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6AL WR(右後)、QマウントカメラにKマウントレンズを装着するための「Kマウントレンズ用アダプターQ」(左前)、レンズをリバース(逆付け)するための「リバースアダプターK52mm」(右前)である
一般に、一眼レフ用の標準レンズをリバース(逆付け)すると等倍マクロ撮影が可能になり、広角レンズをリバースすると等倍を超える高倍率マクロ撮影が可能になる。そこで今回は、smc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6AL WR先端のフィルター取り付けネジに、リバースアダプターKを装着してみた。リバースアダプターKは片側がペンタックスKマウント、もう片側が52mm径フィルターネジになっている
レンズ後端の絞り連動レバーに、ストッパー(角材を削って自作)を挟み込む。絞り調節リングのないKマウントレンズは、カメラマウントから外すと絞りが最小値に固定されしまうのだ。それでは絞りすぎで撮影には適さないので、開放から1段絞られた位置に固定されるよう、ストッパーの幅を調整した
PENTAX Q-S1にsmc PENTAX-DA 18-55mm F3.5-5.6AL WRをリバースして装着したところ。標準ズームをリバースすると、実質的にレンズがかなり暗くなる。そこで外付けストロボPENTAX AF540FGZ IIを装着してみが、このままではマクロ撮影時の被写体に光が届かず、役に立たない
そこで今回は気合いを入れて、外付けストロボに装着する「マクロ撮影用ライトボックス」を制作することにした。まずは手描きのラフスケッチを元に、パソコンソフトのAdobe Illustratorで展開図を描き、普通紙にプリントアウトしたものを用意する。1灯式のストロボを、内部で反射させながら二又に分けて、2灯発光式にする設計だ
こちらは100円ショップで購入した、ポリプロピレン製のファイル。これをライトボックスの素材として使うことにした
ファイルをバラして、各パーツの型紙をスプレーのりを使って貼り付ける
型紙を元に、カッターナイフでパーツを切り出し、立体的に折り目を入れる。ポリプロピレンのシートに折り目を付けるには、カッターナイフで弱く切れ目を入れ、ゆっくりと折ると良い。これらのパーツを組み立てると、「マクロ撮影用ライトボックス」ができ上がる。しかしこのままでは内部が真っ黒で、ストロボ光が吸収されてしまう
そこで今度は100円ショップで売られていた、ご覧のアルミシートを用意した。アルミホイルよりも厚手で、裏が弱粘性の接着面になっている
アルミシートに、同じくIllustratorで描いた型紙を貼り付ける。とは言え、この型紙は先ほどのものと基本形は同じで、一回り小さくアレンジしてある
型紙に沿ってアルミシートのパーツを切り出し、折り目を入れて組み立てると、このような立体物ができ上がる。実はこれ、ディフューザー内部の反射率を高めるための、リフレクターなのである
リフレクターを内部に組み込みながら、ライトボックスのパーツを組み立ててゆく。パーツの接着には、両面テープを使用している
パーツの組み立てが終了すると、「マクロ撮影用ライトボックス」の基本形が完成する。しかしこのままではリフレクターが剥き出しで、マクロ用照明装置としては不十分だ
そこで、ストロボ発光部に装着するディフューザーを制作した。素材は100円ショップで買った透明ファイルで、これをカットし折り目を入れている。クリア素材を3枚重ねることで、光の拡散効果を高めることにした
ストロボ発光部にディフューザーを付けると、このようになる
さらに外部ストロボ発光部の基部と、マクロ撮影用ライトボックス開口部のそれぞれ3カ所に、マジックテープを貼り付ける
両方のマジックテープを貼り合わせて、ストロボにライトボックスを装着すると「超高倍率マクロシステムQ」が完成する。ちなみにこのライトボックスは、簡単にストロボから取り外すことができる
試しにストロボをピカッと光らせると、このようになる。2灯式の柔らかい光が、レンズ先端の被写体を照らし出すようになっている

テスト撮影

リバースした標準ズームの、焦点距離による倍率変化を確認するため、ノギスのメモリを被写体に簡単なテスト撮影を行った。なお、ピントリングの操作で倍率変化はあまりないので、無限遠に固定している。

結果を見ると、焦点距離55mmで画面長辺約7.3mm、焦点距離18mmで画面長辺約2mm、の範囲で撮影されている。

55mm / 倍率約5倍(ライカ判換算)
45mm / 倍率約4.5倍(ライカ判換算)
35mm / 倍率約7倍(ライカ判換算)
24mm / 倍率約12倍(ライカ判換算)
18mm / 倍率約18倍(ライカ判換算)

倍率を計算してみると、ペンタックスQ-S1の撮影画面サイズは7.5×5.6mm(1/1.7型)なので、焦点距離55mmで“約等倍”ということになる。

しかし写真の撮影倍率表示は、ライカ判フルサイズ(24×36mm)に置き換えた方がわかりやすい。するとこのレンズは約5倍〜18倍という、文字通りの超高倍率マクロ撮影が行えることが判明した。

キヤノンの高倍率マクロ専用レンズ「MP-E65mm F2.8 1-5×マクロフォト」の撮影倍率が1倍〜5倍なので、さらに上を行く5倍〜18倍というマクロ倍率がどれだけすごいかよくわかるだろう。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。

実写結果とカメラの使用感

完成した撮影システムを携えて、自宅近所の藤沢市内にて、超マクロ領域の探検に出掛けてみた。道ばたのありふれた草花や虫などを探してはレンズを向けてみるのだが、どれも肉眼とは全く違う世界が展開するので、いちいち驚いてしまう。

今回のマクロ撮影システムは、我ながらなかなか使い勝手が良かった。2灯式マクロストロボも、光がよく回って調子が良い。システム全体としては小型軽量で、基本的に三脚を使わない手持ち撮影で超高倍率マクロ撮影ができる。

とは言えマクロ撮影の場合は、当然のことながら倍率が高くなるほど撮影の難易度が高くなる。被写界深度が浅くピント合わせがシビアになり、画角が極端に狭くなることからファインダー内に被写体を捉えることさえ難しくなる。

特に最高倍率の“ライカ判換算18倍”というのは私にとっては未知の領域で、撮影にかなり神経を消耗してしまった。しかし苦労の甲斐があって撮れた写真はなかなか素晴らしく、まさに肉眼を超え、人間の想像力をも超えた世界を見せてくれる。

ともかくペンタックスQシステムは、コンパクトデジカメと同様の極小サイズ撮像センサーを採用した、レンズ交換式デジカメという唯一の存在で、その応用の可能性はまだまだ広がっていると、今回の“実験”を通じてあらためて感じた次第である。

 ◇           ◇

イキナリなんだかわからないモノが撮れてしまったのだが、オシロイバナの雄しべである。焦点距離55mmの最低倍率だが、それでも並のマクロレンズよりも倍率が高く、花の一部を切り取るようにしか撮影できなかったのだ

同じくオシロイバナの雄しべを、18mmの最高倍率にて撮影してみたが、丸い花粉がまるで色石のように美しい。実はこれほどの倍率マクロ撮影になると、画角が極端に狭くなり、ファインダーで被写体を捉えるのも苦労する。そこでズームをテレ(低倍率)からワイド(高倍率)に徐々に変化させながら、被写体に狙いを定めピント合わせをした。

次は焦点距離55mmで撮影したハキダメギクの花。こちらは5mm程度の小さな花なので、画面内に納めることができた。

同じハキダメギクの花を、18mmの最高倍率で捉えた。この花は、さらに小さな花の集合体になっている。花弁は丸い細胞の粒が連なってできていて、まるで砂糖菓子のようだ。

直径10cm程のフヨウの花を、55mmの最低倍率で撮ってみた。もちろん花の全体は撮れないので、その中心部の雌しべを切り取ってみた。雌しべには雄しべから分泌された花粉が沢山付着しているのがわかる。

フヨウの雌しべを18mmで撮ってみた。ここまで拡大すると、花粉には細かいトゲが生えており、それを雌しべに生えた微毛でキャッチする仕組みになっていることが理解できる。

ワルナスビの花を55mmで撮影。ナスによく似た花を咲かせるが、大きさは直径1cm程度でずっと小さい。

ワルナスビの花の中心部を、18mmで拡大してみた。雄しべに囲まれた中心部から、雌しべが突き出しているのがわかる。

同じく18mmにて、ワルナスビの花弁を撮影してみた。肉眼では白く見える花弁は、実際には透明色の細胞が集合しており、繊細なガラス細工のようだ。

体長3mm程度の小さなアリだが、ちょっと種類はわからない。コンクリートブロックの上を何匹もせわしなく走り回っていたが、この個体だけはなぜか動かずじっとしていた。55mmでの撮影だが、これくらいの高倍率マクロでは動き回る虫を追いかけながら撮るのは不可能で、動かない個体を見つけて撮影するのがコツである。

慎重にズームリングを回しながら同じ個体のアリに接近し、18mmの最高倍率で頭部を撮影。アリの顎が180度にも開いているのがわかる。もしかすると、コンクリートにしみた水分を舐めているのかも知れない。

先ほど花を撮影したワルナスビに止まっていた、ホオズキカメムシ。集団でいることが多く、動きが鈍く大人しい虫なので、じっくりと高倍率マクロ撮影するには向いている。焦点距離55mmにて撮影。

18mmで撮影した、ホオズキカメムシの頭部。こうして見ると毛むくじゃらでまるで怪獣のようである。複眼と、額にある単眼が、共にルビーのような赤なのも印象的だ。

塀に止まっていたクモの一種を55mmにて撮影。巣を張らずに塀に直接止まっていた。

同じクモの頭部を18mmにて撮影。網を張るクモは風で揺れてしまうが、このクモは壁にしっかり固定されているので、この手の撮影対象として適している。

さらに、同じクモの足先も18mmで撮ってみたが、実は壁に糸を張って、そこに爪を引っかけて止まっていることが判明した。

キンモクセイの花を撮ろうとしたら、アザミウマという昆虫が隠れていたのを発見した。この虫は実に体長1mm程度しかなく、この写真も最高倍率の18mmで撮影している。

ヤブ蚊が手に止まって血を吸い始めたので、せっかくのチャンスだと思って、18mmの最高倍率で撮影してみた。しかし倍率が高すぎて、頭部しか撮れなかった。

そこで焦点距離はそのままに、レンズの角度を慎重に動かし、ヤブ蚊が自分の皮膚に口吻を差し込むまさにその部分を撮ってみた。極細の針が「鞘」で保護されている構造が確認できる。

ちょっと視点を変えて、畑の隅に生えていたゼニゴケを55mmで撮ってみた。ゼニゴケはいわゆる普通の植物と構造が全く異なり、こうして見るとSF映画に出てくる異世界生物のようだ。

「杯状体」と言われる器官を18mmで捉えてみた。中には種子のようなものが見えるが、実は「無性芽」と呼ばれるものだ。雨が降るとこれが外部に流れ出て、そこからまた新たなゼニゴケが無性生殖的に生える。

石の上に地衣類(ウメノキゴケ?)が生えていたのでこれも撮ってみた。ふだんはあまり撮影しようとは思わない生き物だが、高倍率マクロ撮影システムを手にすると、細部がどうなっているのか確認してみたくなる。まずは55mmにて撮影。生え際に白い根のようなものが見える。

生え際の部分を18mmでアップにしてみた。根のようなこの器官によって、石に付着しているのだろう。地衣類は、実は菌類と藻類の共生体という、摩訶不思議なハイブリッド生物で、実際に拡大撮影してみると、全く異質な存在に思えてしまう。

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/ Twitterは@itozaki