切り貼りデジカメ実験室

OM-Dでエクサクタマウントの自動絞りを動かす

長年の構想をやっと実現したのだが……

エクサクタマウントの「テッサー50mm F2.8」を、「OLYMPUS OM-D E-M1」に装着。実は今回、このクラシックなレンズが「自動絞り」で使えるアダプターを製作したのだ。レンズに装備されたシャッターボタンを押すと、絞りが設定値に絞り込まれ、さらに押し込むとカメラのシャッターが切れる。

その連動はマウントアダプターに仕込んだ電気シャッターと、カメラ本体に接続したUSBケーブルによって行われる。なお、もともとエクサクタは左利き仕様のカメラで、このアダプターシステムも左手操作になっている。ちなみにかつてExaktaは「エキザクタ」と表記されたが、最近は「エクサクタ」が元の発音に近くその方が正しいということになっているらしい。

黎明期の「外部連動絞り」を現代のデジカメに蘇らせる

「写真は見た通りのものを写し出す」というのが通説ではあるが、しかし実のところ「写真」と「人間の視覚」とは異なっている。もし、写真が「目で見たまま」を写すのであれば、そもそもカメラに「ファインダー」は要らないのである。

 写真が「目で見たまま」とは違って写るからこそ、より「写真」に近い視覚が得られる「ファインダー」というものを、覗きながら撮らなければならいのだ。そのようなわけで、カメラの歴史はファインダーの歴史でもある。

 光学ファインダーの最も進化した形式だと言えるのが「一眼レフ」であり、その思想はデジカメのいわゆる「ミラーレスカメラ」にも受け継がれている。

 現代のデジタル一眼レフもミラーレスカメラも、ファインダーを覗いたときはピント合わせがしやすいよう、レンズの絞りが常に「開放」に保たれている。そしてシャッターを切った瞬間、絞りが設定した値まで絞り込まれ、撮影が行われる。これが「自動絞り」といわれる機構で、自動絞りの発達が一眼レフの発達史でもあるのだ。

 さて、現代のデジタル一眼レフにつながる、35mmシステム一眼レフの元祖と言えるのが、1936年ドイツのイハゲー社(Ihagee Dresden)から発売された「キネ・エクサクタ」(Kine Exakta)である。しかしこのカメラは自動絞り機能を装備していなかった。

 戦後になって1959年の「エクサクタ・ヴァレックス」(Exakta Varex)をはじめとするいくつかの改良タイプが発売されたが、1969年発売の最終型「VX500」に至るまで基本構造はキネ・エクサクタと同一で、自動絞り機能が装備されることはなかった。

 その代わり、エクサクタは交換レンズ側に自動絞り機能を内蔵した「外部連動自動絞り」を採用する事になった。エクサクタマウントの「自動絞りタイプレンズ」は、レンズ側にもシャッターボタンを備えていて、これがボディーのシャッターボタンと重なる位置にセットされる。

 レンズのシャッターボタンを押すと、まず絞りが設定値まで絞られ、さらにボタンを押し込むとボディーのシャッターが切れる、という2段構えで「自動絞り」が機能するのだ。

 実はイハゲー社はカメラボディ専業メーカーで、レンズを自社製造する事はなかった。だからカールツァイス・イエナ、メイヤー、シュタンハイル、エンナ、シュナイダー、アンジェニュー、など様々な光学メーカーがエクサクタマウントのレンズを供給した。そして各メーカーが「自動絞りタイプレンズ」を独自に開発し、それがエクサクタマウントレンズの魅力にもなっている。

 また戦前のキネ・エクサクタにも「自動絞りタイプレンズ」を装着すれば、自動絞りが機能するという利点もある。ということは、現在のデジカメにも何らかの工夫を施せば、そのシャッターボタンをエクサクタマウントの「自動絞りタイプレンズ」と連動させることも可能なはずだ。

 実は、このアイデアをぼくはだいぶ前から夢想していたのだが、それをやっと実現する気になったのだ。

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クラシックな外観と独自の機構に魅せられ、15年位前に中古カメラ市で買った「エクサクタ・ヴァレックスlla」で、1957年の製品だ。エクサクタは何故か左手側にシャッターボタンと巻き上げレバーがある「左利き仕様」のカメラで、実に使いづらいがそこが面白いとも言える。装着したレンズはカールツァイス・イエナ(Carl Zeiss Jena)から1961年に発売された自動絞りタイプの「テッサー(Tessar)50mm F2.8」である
エクサクタはカメラ本体に自動絞り機能を持たず、レンズ側にその機能を備えた「外部連動式自動絞り」を採用している。レンズのシャッターボタンを(赤矢印)押すと、まず絞りが設定値まで絞られ、更に押し込むとカメラのシャッター(黄矢印)が切れる仕組みだ。今回はこの機構を、現代のデジカメで蘇らせる改造を行う
まず用意するのは、市販のエクサクタ→マイクロフォーサーズマウントアダプターだ。ネット通販でずいぶん安かったのだが中国製で、箱のシールに「EXA-微4/3接●(環)」(●は、おうへんに不)と書かれているのが面白い。仕上げは国産品より劣るものの、いちおう実用にはなる
アダプターを介してテッサー50mm F2.8をE-M1に装着してみた。もちろんレンズとボディーのシャッターボタンは連動せず、「自動絞り」は作動しない。そこでマウントアダプターに、レンズと連動するシャッターボタンを設置することにする
次に用意したのは秋葉原の電子パーツショップで買った、ピンジャックとマイクロスイッチ。これでマウントアダプター側のシャッターボタンを製作し、ケーブルを使ってカメラのシャッターと連動させる、という寸法だ
シャッターボタンを組み込むための、スイッチボックスを製作する。ABS板をカットして接着し、ご覧のような各パーツを製作する
マウントアダプターの横に、スイッチボックスを取り付けるためのねじ穴を開ける。ボール盤と1.7mmドリルで下穴を開け、タッピングビスという道具でネジ山を切った
マウントアダプターにスイッチボックス本体パーツをネジ止めする
ピンジャック受け端子の上にマイクロスイッチを載せて接着し、半田付けする。ちなみに今回の工作はシンプルに市販のスイッチを使用し、そのため「シャッター半押し」機能はオミットした。
左記のパーツを、スイッチボックスの蓋となるパーツに取り付ける。
ユニット化した各パーツを並べてみたところ。シャッターボタンを組み込み、蓋をネジ止めすれば完成だ。今回はメンテナンスや改良工作がしやすいよう、できるだけシンプルな構造を考えてみた。
ピンジャックは、オリンパス純正のリモートケーブルRM-UC1のUSB端子に接続する。改造の要領は前々回の記事と同じである。
すべてのパーツを組み立て、ケーブルのピンジャックを差し込むと世界初? のデジカメ用「自動絞りマウントアダプター」が完成する
「自動絞りマウントアダプター」をオリンパスE-M1に装着したところ。コードの一端はカメラ本体のUSB端子に接続する
テッサー50mm F2.8を装着したところ。レンズの絞り込みボタンと、マウントアダプターのシャッターボタンとが重なり「外部連動自動絞り」が実現する。左手側にUSB端子があってちょっと邪魔だが、もともとエクサクタは使いにくいカメラなので、あまり気にならない(笑)
別のレンズも取り付けてみた。これはメイヤー(Meyer)のドミプラン(Domiplan)50mm F2.8。3群4枚構成のテッサーに対し、ドミプランは3枚構成のトリプレットタイプのレンズだ。絞り込みボタンの形状が異なるが、問題なくアダプターのシャッターレリーズと連動する

テスト撮影

 せっかくなので、似たスペックのテッサー50mm F2.8と、ドミプラン50mm F2.8の性能比較テストをしてみることにした。また参考までに、現代のレンズとして同じ焦点距離のオリンパス製レンズZUIKO DIGITAL 50mm F2.0 Macroとも比較してみた。

 E-M1を三脚に固定して、レンズを付け替えてテストした。どのレンズも絞り優先オートで、1段ずつ絞りながら撮影している。ピントは画面中心に合わせている。WBは本来の比較撮影では固定すべきだが、うっかりオートで撮ってしまった。

 まずテッサー50mm F2.8だが、驚くべきことに絞り値によってピント位置が異なっている。絞り開放のF2.8では画面中心にピントが合っているが、絞り込むごとにピントは徐々に後方にずれていき、F11辺りで無限遠にピントが合い、F22では無限遠を通り越しているようにも見える。

「テッサーは絞り値によって焦点移動がある」という話は聞いたことがあったが、これほどまでとは思わなかった。この自動絞り仕様のテッサーは、スプリングのチャージによって瞬間的に絞り込む巧妙な機構を有しているが、これでは無用の長物である。

 いや、カールツァイスのテッサーはざまざまなカメラに採用され、高性能レンズの定番のように言われていたはずだが、みんな「絞りによる焦点移動」についてどう思っていたのか? ちなみにぼくはテッサー付き「ローライ35」を愛用していたが、この「絞りによる焦点移動」を意識することはなかった。ローライ35はピント合わせが目測で、多少のピンぼけも自分の見誤りだと思って気にしなかったのかも知れない。

 また、このテストでのテッサーは絞り込むごとに青みが増して写っている。基本的にシャープなレンズだが、これはかなり使いこなしが難しいレンズだと言うことが、あらためてわかった。

 ドミプラン50mm F2.8は、テッサーより安い価格帯のレンズで、鏡筒の作りもチープだ。実際、絞り開放の写りはテッサーに較べるとずいぶんソフトだ。しかし絞り値によるピント位置のズレはなく(この方が当たり前だが)、F8をピークに画面中心部は極めてシャープな描写となる。しかし画面周辺は画質が落ちていて、特に画面左端がぼけている。

 ZUIKO DIGITAL 50mm F2.0 Macroは現代のデジカメ専用レンズだけあって、F2の絞り開放から極めてシャープでコントラストが高い。また、画面周囲に渡って均質に尖鋭な描写をする。本来はフォーサーズレンズだが、マウントアダプターを介してE-M1に装着すれば、極めて高いAF性能を発揮することも確認できた。

 また、焦点距離50mmのレンズはマイクロフォーサーズのカメラに装着するとライカ判換算100mm相当の中望遠レンズになるが、なぜかテッサー50mm F2.8だけが少し画角が狭いのが確認できる。

テッサー50mm F2.8
ドミプラン50mm F2.8
ZUIKO DIGITAL 50mm F2.0 Macro
該当無し
該当無し
F2
F2.8
F2.8
F2.8
F4
F4
F4
F5.6
F5.6
F5.6
F8
F8
F8
F11
F11
F11
F16
F16
F16
F22
F22
F22

実写作品

テッサー50mm F2.8

 上記テストのように、テッサーは開放でピントを合わせても、絞り込むと「焦点移動」によってピントがずれてしまう。従って絞りを設定値に絞ってから、ピント合わせをしなければならない。

 このエクサクタマウントのテッサー50mm F2.8は、シャッターボタン周囲のダイヤルを回すと「手動絞り」に切り替わるが、結局そのモードで撮影することにした。つまりせっかく作った「自動絞りアダプター」は、テッサーには役立たずという皮肉な結果となった(笑)。

 ともかく今回は、E-M1をモノクロモードに設定して、近所の畑などの風景をスナップしてみた。きちんとピントを合わせてモノクロで撮れば、なかなかにシャープなその描写を楽しむことができる。なお、絞りはすべてF8に固定して撮影している。

ドミプラン50mm F2.8

 このレンズは、自作した「自動絞りアダプター」の威力が存分に楽しめる。E-M1の「ファンクション1」ボタンに「拡大モード」を登録すれば、絞り開放による精密なピント合わせを行うことができる。もちろんレンズのシャッターボタンを押せば「自動絞り」がきちんと作動して、まことに快適である。高精細で広い視野のE-M1のファインダーとあいまって、気持ちよく撮影ができる。

 デジカメの場合、モノクロモードに設定すればファインダーもモノクロになる。つまりファインダー象がそれだけ「写真」に近付くことになり、その意味で一眼レフの光学ファインダーよりも進化していると言える。

 また「写真」と「人間の視覚」が異なっているからこそ、モノクロ写真に特有の価値が生じるのだとも言える。こちらの写真は新宿と銀座で移動の合間に撮影してみたが、画面中心のシャープさには目を見張るものがある。絞りは同じくすべてF8にして撮っている。

糸崎公朗

1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/ Twitterは@itozaki