三木淳賞奨励賞受賞作品展(大阪ニコンサロン)(ニコンサロンbis大阪)

藤原拓也「スポーツ絵巻物」・吉原かおり「よびみず」

藤原拓也「スポーツ絵巻物」



藤原氏は、アジア各地―インド、東南アジアの十数カ国―を巡って、スポーツに興ずる市民の現場を記録している。その表現の特異性は、タイトルにも示されているように巻物仕立てで、常識的な写真のフレーミングを逸脱する長大ワイド(タテ×ヨコ比 1:4〜10)で捉えていることだ。カメラを起点として、ほぼ360°の画角の視野。表現の中心は、スポーツを興ずる人々と見えながら、その競技を取り巻く見物のギャラリーの表情、周辺の施設や市街が同次元に捉えられている。
そのスポーツの身体的な動きやかたちの発見以上にその背景として、それを支えている市民社会が見えてくるおもしろさがある。副次的なイメージのようではあるが、このような周辺部が丁寧に写し撮られているのが、この作品の核となっている。
スタジアム、競技場という空間でなく、市井の広場や路上で繰り広げられる愉しみの為のスポーツ、その周辺の情景を捉えた視点が、現在のアジアの現在をよく現している。スポーツが制度化、商業化される以前の生活と隣り合わせた楽しみとしてある姿に、日本でもそんな時代を経てきた体験を思い起こさせられる。
技術的に横に繋ぎ足していく優れた撮影テクニック、パソコンでの上質なフォトレタッチ作業などが作品を上質に支えている。(受賞理由より)

  • 名称:三木淳賞奨励賞受賞作品展 藤原拓也「スポーツ絵巻物」
  • 会場:大阪ニコンサロン
  • 住所:大阪府大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • 会期:2012年1月12日〜2012年1月18日
  • 時間:10時30分〜18時30分(最終日は15時まで)
  • 休館:会期中無休

吉原かおり「よびみず」



吉原氏の「よびみず」は、日常にあって己の無意識の底に封じられた感情や記憶を「写真を写し撮る」という行為で活性化させ、浮上させようとする試みである。
内なる深層に向かうために、外へと向かう身体的写真行為が「よびみず」となって、内なる基層の意識構造をも引き出せないかというあがきにも似た行為。現れたものは、期待を裏切るものになったのではなかろうか。写真に現れるものは、あくまでも具体で断片、構造として現れることはないからである。
作者はそれに絶望することなく、それらの断片を繋ぎ、写真展という空間の中に解き放す。断片としての一枚のイメージを大サイズ(タテ200cm×ヨコ150cm)、ピンナップ形式という展示構成することで、イメージを相互に浸透させ構造化することに成功した。結果として、目的とした過去のイメージや記憶を具体として何かを見いだしたのだろうか。逆説的だが、見出せないことを見出したということかもしれない。
写真に繰り返し使われている暗いディテールの平面は、深層に向かおうとする意図を阻止されたという証か? それとは対照的に、空に広げるパラボナアンテナ、闇に赤く輝く電波塔等は、遠くの他者から未知なる信号を受納したいという意識を表徴としているように見える。阻止と願望の葛藤を空間をかりることでイメージとして結んでいるのがよい。
かつて作者には「カプセル アパート」(07年ニコンサロンJuna21)という社会学視点に立った作品がある。「よびみず」は、そこから大きく逆に揺れた作品。その振幅には、豊かな才能を確認することが出来る。(受賞理由より)

  • 名称:三木淳賞奨励賞受賞作品展 吉原かおり「よびみず」
  • 会場:大阪ニコンサロン
  • 住所:大阪府大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • 会期:2012年1月12日〜2012年1月18日
  • 時間:10時30分〜18時30分(最終日は15時まで)
  • 休館:会期中無休

(本誌:折本幸治)

2011/12/20 16:20