第36回伊奈信男賞受賞作品展 李尚一「光州 望月洞」(大阪ニコンサロン)



北アフリカのリビアを42年間にわたって統治してきたカダフィは、民主化を要求する市民に銃を向ける独裁者に転落した。2011年2月には、デモ隊に向けた無差別発砲によって200人余りの死者を出した。
1980年5月18日、韓国でもリビアのような民主主義の抵抗闘争があった。武力で掌握した全斗煥政権の退陣と民主政府を要求するデモが全国的に起きたのだ。その中でも激しい闘争となった韓国の地方都市光州では、デモ隊に向けて軍部隊が発砲する事態にまでなった。
当時作者は写真家としてではなく、命令を命として従順でなければならない軍人の立場にあって、市民に銃口を向けた。
全斗煥政権は、デモ隊に向けて野蛮な発砲命令を下し、190人余りが死亡、900人余りの負傷者を出す事態となった。その犠牲者をひとところに集めたのが望月洞墓地であり、ここを作者は、84年から現在まで写真を撮り続けている。
一方的な命令を命としなければならない軍人と、祖国の民主化をめざす青年というそれぞれの立場に立っていたという理不尽な理由によって、死者の肉体的な死と、作者の精神的な死がもたらされなければならなかった。
その辛く悲しい時を、その恨みを、作者は解きたかった。その混乱とともに変化の時間が流れて、自分自身の「望月洞」という息を殺した叫びは、死者と作者の暗鬱だった時代の容赦と和合の対象だった。
望月洞に罪心を持つ一人である作者は、自責を持って生きていく痛みを作品で訴えている。モノクロ作品(写真展情報より)

  • 名称:第36回伊奈信男賞受賞作品展 李尚一「光州 望月洞」
  • 会場:大阪ニコンサロン
  • 住所:大阪府大阪市北区梅田2-2-2ヒルトンプラザウエスト・オフィスタワー13階
  • 会期:2012年1月5日〜2012年1月11日
  • 時間:10時30分〜18時30分(最終日は15時まで)
  • 休館:会期中無休



(本誌:折本幸治)

2011/12/20 16:30