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【後編】撮影テクニック


 前編、後編の2回に渡ってお届けする「撮り鉄のすすめ」。後編では構図の決め方などの撮影テクニックを解説する。カメラの設定についての前編はこちら( http://dc.watch.impress.co.jp/cda/rail/2008/06/11/8624.html )。


鉄道写真の「標準構図」

 鉄道に限らず写真は構図にこだわる必要はないが、知っておくと撮影時の参考になる。

 最近のカメラは、一眼レフカメラでもコンパクトカメラでもAF化されているが、鉄道写真愛好家に限らず中央のAFフレームだけを使う人が多い。中央のAFフレームにこだわっていると左右のいずれかあるいは上下のいずれかに無駄な空間が増えてしまい、よい写真とすることが難しい。特に列車は、幅約3m、高さ約3.6m(パンタグラフなど除く)、奥行き約16m(短い車体長の1両)~600m(国内の長い貨物列車)と異常な形をしているので、画面を有効に使わないと主要被写体を大きく撮影することができない。

 したがって横位置写真ならば、中央のAFフレームではなく、左右のAFフレームを使って列車の先頭部にピントを合わせてそのままシャッターを切るとよい。

 写真【A】は、中央のAFフレームに先頭部を合わせて撮影したもの。列車がやや小さく、画面の右側が無駄になっている。写真【B】は、右側のAFフレームに先頭部を合わせて撮影したもので、鉄道撮影の標準構図。先頭部を比較的大きく入れると同時に列車全体を入れる撮り方で、車両そのものや列車のポートレート写真と思えばよい。

 人物写真であれば、背景をボカすために絞りを開けるなどの操作を行なうが、前述したように鉄道の車両や列車は異常に長いので、F5.6~8程度を常用絞り値とする。この絞り値を選択することによって適度な被写界深度が得られ、先頭部にピントが合い、列車の後部はピントが合っていないものの形を十分に残している。また、どこを走っているのかもわかる、記録的な意味合いが強い写真である。


※作例をクリックすると、等倍の画像を別ウィンドウで表示します。
※撮影データは、カメラ / レンズ / 画像解像度(ピクセル) / 露出モード / ISO感度 / 露出時間 / 絞り値 / 露出補正値(EV) / ホワイトバランス / 実焦点距離です。


【A】AFフレーム中央
小田急電鉄代々木八幡駅
D300 / タムロン AF 18-250mm F3.5-6.3 Di II(A18) / 4,288×2,848 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / AWB / 155mm
【B】AFフレーム右
小田急電鉄代々木八幡駅
D300 / タムロン AF 18-250mm F3.5-6.3 Di II(A18) / 4,288×2,848 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/400秒 / F8 / -0.3EV / AWB / 155mm

 しかしながら、大きく写し込もうとすると意外にも車体の一部をカットしてしまうことがある。意図的に車体の一部をカットするのはよいが、不用意にカットしてしまったものは、やはりよい写真とは言いにくい。特に手持ち撮影で望遠レンズを使っていると、ちょっとしたことでカットしてしまったり主要被写体の位置が悪くなったりする。

 解決方法は、注意深くフレーミングするしかない。写真【C】は、パンタグラフが画面の上に付いてしまいやや窮屈になっている。写真【D】は、スカート(前頭部の下ある大きな灰色の板)が画面の下面に付きそうで、こちらも窮屈。それらを解消したのが写真【E】。ほんのちょっとのことなのだが、写真で見るとよくわかる。


【C】上寄り
阪急電鉄十三駅、8000系
D300 / タムロン AF18-250mm F3.5-6.3 Di II(A18) / 4,288×2,848 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/400秒 / F8 / -0.5EV / AWB / 250mm
【D】下寄り
阪急電鉄十三駅、8000系
D300 / タムロン AF18-250mm F3.5-6.3 Di II(A18) / 4,288×2,848 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/640秒 / F8 / -0.5EV / AWB / 170mm

【E】中央
阪急電鉄十三駅、8000系
D300 / タムロン AF18-250mm F3.5-6.3 Di II(A18) / 4,288×2,848 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/400秒 / F8 / -0.5EV / AWB / 250mm

縦位置横位置

D300 / タムロン AF 18-250mm F3.5-6.3 Di II(A18) / 4,288×2,848 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/400秒 / F8 / -0.5EV / AWB / 230mm
 写真は、カメラの形やイメージから横位置で撮影することが多い。しかしながら、人物も含めて鉄道車両でも、正面から撮影する場合には、縦位置で撮影したほうが、画面を有効に使える。写真は横長と決めないで、縦長で撮ることも惜しまないほうがよい。

 列車の前面を比較的に大きく入れる場合には、縦位置撮影がお奨めだ。顔だけのアップも面白いが、上りあるいは下り勾配をうまく使うと列車全体をうまく画面内に配置することができる。

 右の作例は前節の作例と同じく、阪急電鉄十三駅で撮影した8000系。阪急の梅田~十三間は3複線区間で、京都線は中津方面から勾配を下りながら進入してくる。横位置だとその雰囲気を表現するのが難しいが、縦位置だとその線形をうまく見せることができる。前節の作例と同じ撮影位置でも、縦横を変えるだけで全く違う雰囲気の画像にできる。


上から下から

 人物撮影においては、上から撮影するとかわいく見えるとか、下から撮影すると偉そうに見えるなどと言われている。

 鉄道車両も同じで、上から撮影すると何となくおもちゃのように見え、下から撮影すると凛々しく見える。


【上から撮影】
東海道線蒲田駅付近、E217系
D60 / AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm F3.5-5.6 G / 3,872×2,592 / 絞り優先AE / ISO400 / 1/125秒 / F5.6 / -0.7EV / AWB / 28mm / RAWから現像
蒲田駅の少し南側に、東海道本線と京浜東北線を跨ぐ歩道橋がある。地上からおよそ5m強の高さになると思うが、その歩道橋上から撮影した。意外に列車との距離が短く、高速で通過する東海道本線のE217系が被写体ブレを起こしてしまった
【下から撮影】
東海道線蒲田駅付近、209系
D60 / AF-S DX VR Zoom-Nikkor ED 18-200mm F3.5-5.6 G / 3,872×2,592 / 絞り優先AE / ISO400 / 1/200秒 / F5.6 / -0.7EV / AWB / 28mm / RAWから現像
蒲田の車庫を出て行く209系。この209系は、「コスト半分寿命半分」の新しいコンセプトの電車として、1993年から量産された。通常、鉄道車両は20~40年程度使用されるが、この209系はおよそ15年程度で廃車されることになる。中央線に続いて昨年から京浜東北線にもE233系が投入され、来年の今頃にはこの209系は廃車されてしまう(ただし、500番台車は転用される)

広角レンズ

【パースペクティブ】
D40 / AF-S DX Zoom-Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6 G II / 3,008×2,000 / 絞り優先AE / ISO400 / 1/13秒 / F5.6 / -0.7EV / AWB / 18mm / RAWから現像
 鉄道写真というと望遠レンズが主流である。真偽は別として135mm前後が最適と言われていたこともあった。被写体が異常に長細いために、望遠レンズの圧縮効果を使って列車全部を画面に入れるためと思われる。

 広角レンズは、望遠レンズとは逆に遠近感を強調する効果(パースペクティブ効果)があり、空気の流れを考えたデザインの新幹線の車体を撮影するとちょっと面白い。

 右の作例は、上野駅地下ホームで撮影したE4系。誰しもが、車両に対して好き嫌いを生じてしまう。私の場合、一番カッコイイと思うのは500系新幹線。最初に実物を見たのは山手線の品川~大崎間で、併走する500系を見て「なんてカッコイイのだろう」と思った。ロングノーズと丸い車体断面が今までの車両には無いもので、いかにも速そうだった。

 それに対して、これからの東海道・山陽新幹線の主役N700系は高速性能と居住性の両立から、輸送力が求められる東北・上越新幹線のE4系は2階建てといった理由から、前面はちょっと変わった感じになった。特にE4系は「エイリアン」に見えてしまうのだが……。


流し撮り

D300 / タムロン AF18-250mm F3.5-6.3 Di II(A18) / 4,288×2,848 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/200秒 / F16 / -0.3EV / AWB / 30mm
 今、広く使われている「流し撮り」は、本来「追い写し」と言うらしい。「流し撮り」は、カメラを固定させて比較的遅いシャッター速度を使って撮影するもので、背景は静止していながら、主要被写体はブレているものを写し込むことによって動感を表現する。「追い写し」は、カメラを動かしながらシャッターを切って、動いている主要被写体を写し止めながら背景を流すことによって動感を表現する、ものだそうだ。

 「追い写し」の撮影方法は、AFモードをCAFに、シャッター速度を1/30秒~1/90秒程度に設定して、動いている被写体の前頭部にAFフレームを合わせながら半押しを続け、列車が真横になる少し前でシャッターを切る。注意点はカメラをしっかり構えて、体を軸にして体ごと水平回転する動きが、列車の動きと合っていることだ。

 右の作例は、山手線新大久保駅で撮影した、今となっては珍しいJR東日本113形。推測になるが、大宮工場での検査を終了し、試運転をかねて幕張区に回送しているところではないだろうか。山手線の最後部に乗っていて、山手貨物線を走ってくる113系を見つけ、あわてて新大久保で途中下車して撮影したので、絞り優先AEのままでシャッター速度が1/200秒と少し速くなってしまった。


夜間撮影

D300 / タムロンA13 11-18mm / 4,288×2,848 / 絞り優先AE / ISO1600 / 1/80秒 / F5.6 / -0.3EV / AWB / 15mm
 デジタルカメラというと長秒時ノイズや高感度ノイズを気にする人が多いが、ここ1~2年の製品ではグッと少なくなってきた。高感度撮影は、より速いシャッター速度で撮影できるので日の出日の入り辺りの時間帯ではもちろんのこと、駅の照明だけとなる夜間でも手持ち撮影が可能になるメリットがある。

 右の作例は、新幹線新大阪駅で撮影した新幹線電車0系。1964年に登場し1986年までの23年間に3,216両が製造され、東海道・山陽新幹線で「ひかり」や「こだま」で活躍していたが、いよいよ2008年11月に完全引退となる。すでに東京~新大阪間での使用は終了しており、現在は新大阪~博多間の山陽区間での運用のみとなっている。この記事が掲載される頃には、最後の6両編成3本が登場時の白と青のツートンカラー塗装に戻されて、11月まで活躍する。

 新大阪では、6:12発博多行き「こだま629」、7:47着福山始発「こだま620」、7:59発博多行き「こだま639」、23:21着博多始発「こだま674」がある。今回撮影したのは、23:21に到着した「こだま674」で、ISO1600で撮影した。


添景

D3 / AF Zoom-Nikkor 70-300mm F4-5.6 G / 4,256×2,832 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/350秒 / F8 / 0EV / AWB / 70mm / RAWから現像
 今までは、列車を主要被写体として撮影してきたが、列車を「添景」として使う方法もある。人物あるいは花を主要被写体としてピント合わせ、列車を背景として使う。特段難しいことではないので、やってみよう。

 右の作例は、中央線東中野駅付近の201系。中央線では、2006年暮れから201系に代わってE233系が投入され、本年3月までに全688両が揃えられたが、武蔵小金井駅付近の高架工事の影響で折り返し線が使えず、一時的に車両を多く必要とするため、まだ201系が残されている。来年は見ることができないかもしれない201系を、中央線で最も桜がきれいな東中野~中野間で撮影した。


画像の編集加工

 デジタルカメラがフィルムカメラと比べて便利なことは、撮影直後に液晶モニターで画像を確認できることと、レタッチソフトを使って画像の編集加工を簡単に行なえることだ。昨今では、簡単に使える画像編集加工ソフトも増え、自分に合ったものを選択できるようになった。それを使ってイメージに合った作品が得られることはよいことだと思う。

 次の作例は、3月上旬に東京駅で夕暮れの空を入れながら撮影したN700系、700系、300系。見た目にはもっと空が青かったのだが、写真【A】は、得られた画像では白っぽい空になってしまった。RAWデータ形式で記録していたので、Capture NXで空を青くなるように編集したものが、写真【B】だ。

 Capture NXのコントロールポイントを、窓ガラスが青いビルと画面の上辺のほぼ中間に置き、サイズを約60%、明るさを-30%、彩度を+70%とした。Capture NXのコントロールポイントの特長は、画像に対して範囲指定を行なわずに色の調節ができること。この程度の編集・加工なら、ほんの数秒でできる。

※D40 / AF-S DX Zoom-Nikkor ED 18-55mm F3.5-5.6 G II / 3,008×2,000 / 絞り優先AE / ISO200 / 1/30秒 / F5.6 / -0.3EV / AWB / 19mmで撮影


【A】RAWから無調整で現像
【B】RAWから調整後現像

終わりに

 鉄道写真において最も注意しなければならないのは、事故である。相手は金属の固まりだから、生身の人間がぶつかったら結果は言うまでもない。そこまで危険な撮影はしなくても、列車を止めたりすれば遅れを生じさせて多くの人に迷惑をかけることになる。

 ホームで撮影する場合には、必ず白線(黄色い線も)の内側で撮影すること。また、列車だけでなく利用者の迷惑にも配慮する必要がある。混雑するホームで三脚撮影をしたり乗降位置に立ちつくしたりすることは御法度だ。

 駅は、基本的に列車に乗り降りする人のものであり、撮影する場所ではない。我々が撮影できるのは、鉄道会社だけでなく利用者の方々が大目に見てくれているからであり、指示があった場合には従う義務があることをお忘れなく。また、駅以外で撮影する場合でも鉄道用地に無断で入らないこと。

 カメラやレンズの性能が良くなり、デジタル化で簡単に写真が楽しめるようになってきた。SL写真がブームのころは、カメラやレンズだけでなくフィルム代やプリント代などのランニングコストも高かかったが、デジタルカメラの時代になってランニングコストは安くなったようだ。マナーと安全に気をつけ、ぜひたくさんの鉄道写真を撮影して、自分のライブラリーを作って公開してほしい。 


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小山 伸也
中央大学理工学部卒業後、オーディオメーカー、カメラメーカーを経て2002年春にフリーになる。カメラ雑誌で写真やカメラの解説、鉄道や航空雑誌で車両や航空機の解説など幅広く活躍している。カメラメーカー勤務時には日本カメラショーなどの講師を務めていた。1955年生まれ東京都出身。

2008/06/12 00:01
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