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今年の傾向 日本HP編

新エンジンで経済性向上


Photomart 3310
 昨年がグレーカートリッジという提案で、モノクロ写真を手軽に楽しめる印刷システムをアピールしていた日本ヒューレット・パッカード(HP)だが、今年は全面的な印刷システムの変更で速度と印刷コストを強くアピールしている。

 もちろん、用紙種判別センサーや無線LAN対応ネットワークプリンタ機能、フォトユーザー向け製品としては唯一FAX搭載モデルを用意している点など、従来から高評価を得ていた部分はそのまま。フィルムスキャン機能を持った製品も、今年からやっと投入された。

 まずは新印刷システムから見ていくことにしよう。


“インク使い切り”と“長期間の放置にも耐える”ことを目指した新型プリントエンジン

 HPは今年、印刷ヘッドのフルモデルチェンジを行なった。従来は扱いの簡単さを重視し、3色ごとにまとめたヘッド一体型カートリッジを用いていたHPだが、今年は全色独立インクタンクとなりヘッドとインクタンクを分離した構造を採用。さらにインクタンクをキャリッジ(移動ヘッド部)から切り離したオフキャリッジのレイアウトとした。


ヘッドとインクタンクを分離し、オフキャリッジとした新エンジン
実機でのレイアウト

 実はこの新システム、日本のユーザーからの強いニーズを反映したものだという。ひとつは“インクを最後まで使い切りたい”、もうひとつは“長期間プリンタを放置したままでも品質を維持できる”ことだ。特に後者のニーズは、年賀状時期に集中して印刷する日本のユーザーを強く意識したものだ。

 新ヘッド部には、小さなインク室があり、ここにチューブを介してポンプでインクが送り込まれる。このとき、ほぼ完全にインクタンクからインクを抜き取った状態となり、チューブ内やヘッド内のインク室にはインクが残留するものの、インクタンクのインクは完全に使い切ることができる。もちろん、インクタンクを交換すれば、チューブ内などの残留インクはそのまま利用可能だ。

 また、必要な分だけインクを充填して印刷を行なうため、インクの劣化が最小限で済むメリットもある。長期間印刷せずに放置した場合でも、インク詰まりは発生せず、インクの品質も保たれる。

 さらに長期間放置した場合、ヘッドの状態も悪くなる可能性がある。ヘッド内のインク室に気泡が混入したり、あるいはヘッドが汚れて印刷結果に悪影響を及ぼすこともあるだろう。このようなときは、当然クリーニング動作でヘッドの状態をヘルシーにしようとするが、クリーニング動作とはインクを捨てるプロセスであり、当然、インクコストは悪化する(インクを使い切るというコンセプトにも反することになる)。

 そこでHPは、インクを循環させながらクリーニングする仕組みを組み込んだ。遠慮がちにクリーニングするのではなく、思い切りインクを大量に吐出させても、全くインクが無駄にならない。

 インクジェットプリンタはヘッドを正しい状態に保つため、ある程度の枚数を印刷すると定期的に自動クリーニングが行なわれるため、なかなか正確なインクコストを測りにくいが、本機はその場合でもインクを捨てないため、実利用環境におけるインクコストの低減が期待できる。


従来はインクを捨ててヘッドをクリーニングしていたが
新エンジンではクリーニング後のインクを無駄にしない

 なお、この印刷システムは「スケーラブル・プリンティング・テクノロジ」と名付けられており、今回は複合機2モデル、単機能機1モデルに採用されているだけでエンジン部分の性能はすべて同じだが、今後は様々なグレードの製品に採用されていく見込みだ。ヘッド部、ポンプ部、インクカートリッジが各色独立しているため、必要なインク数に応じて色数を増減させたり、あるいはノズル数が少ない廉価版(もしくはその逆)を開発したりといった展開が行なわれるだろう。たとえば今回は発表されなかったA3ノビ対応のフォト印刷向けプリンタなども、同じ仕組みで提供できると思われる。


数年前が嘘のような低インクコスト化

 このほかにも、地味ながら新しい取り組みが製品に盛り込まれている。ひとつは他社と同様の特性を持つ一般的な写真用紙「アドバンスフォト用紙」がラインナップされた。従来の純正写真用紙「プレミアムプラスフォト用紙」は膨潤型と呼ばれるタイプで、高濃度の色再現性と階調性に優れるなど画質面でのメリットはあるものの、乾きが遅く印刷が遅くなるデメリットがあった。また表面コートが水溶性のため、耐水性がほぼゼロという問題もある。

 アドバンスフォト用紙は、膨潤型の高濃度部の画質にはある程度目をつむり、その代わりに日本で使われている一般的な写真用紙と同等の耐水性や光沢性、そして速乾性がある。印刷速度も高速化され、新印刷システムとの組み合わせでL判1枚が最速で実測11~12秒という高速印刷を可能にしている。プレミアムプラスフォト用紙に比べると、独特の暗部表現が失われてしまうが、パッと見は大きな違いはない。ベース紙が薄く重量感のない用紙である事がやや気になるが、その分価格も安い。

 L判200枚の用紙と6色分のインクカートリッジをセットにしたパックが3,885円でリリースされており、1枚あたり用紙込みで19円程度というのは魅力だ。しかも多くの場合、L判200枚印刷後もインクはカートリッジ内に残る。残った分を考慮すれば、さらにランニングコストが下がる事になる。しかも前述したように、スケーラブル・プリンティング・テクノロジはクリーニングやインクカートリッジ交換でインクを捨てない。

 HPのプリンタは、昨年からパック販売で1枚あたりコストを下げる手法を採用していたが、今回はそれをさらに推し進めた形だ。一昨年までの写真印刷時のコスト高が嘘のような低コスト化だ。

 なお、アドバンスフォト用紙には薄くバーコードが裏面に印刷されているのもミソ。プリンタがこのバーコードを読み取ると、用紙サイズや裏表、最適な画質設定などを判断し、自動的に選択してくれる。従来から光学センサーで用紙表面を読み取り、用紙に最適な設定をしてくれる機能があったが、それをさらに一歩進めたものと言える。

 給紙面でも昨年は背面に配置されていた4×6以下(L判含む)の小型用紙専用トレイは、前面へと移動し、印刷設定で選ばれた用紙サイズに応じて自動的に適切なトレイから給紙する仕組みも盛り込まれている。

 従来のHP製品が採用していた顔料系黒インクがなくなった事に気付いた読者もいるだろうが、実は今回の新印刷システム対応機種に採用されている染料系黒インクは、染料系としてはかなり濃度が高く滲みも少ない。実際に印刷すると、決して文字品質が落ちているとは言えず、しかも乾燥速度の問題をクリアした。


グッと買いやすくなったラインナップ

Photosmart 8230
 さて、この新しい印刷システムを採用するのはPhotosmart 3310、Photosmart 3210、Photosmart 8230の3機種。8230のみダイレクト印刷対応の単機能機で、残り2機種は複合機だ。8230の2万円を切る価格設定も、前述のお得なパックを考えれば実に買いやすいが、注目はやはり複合機の3210だ。

 従来の同等機種Photosmart 2610よりも安価に設定され、2万円台半ばで入手できる。その上、4,800dpiのフィルムスキャン対応CCDスキャナ、有線LANのプリンタサーバを内蔵しているという充実ぶりだ。無線LAN対応で採用カラー液晶パネルが3.6型になる3310が4万円前後という事や写真印刷コストが安い事を考えると、この中級モデルはかなりお買い得と言える。

 複合機の上位2機種ともがネットワーク対応というのも、他社にはない特徴。PCとは離れた場所に置いて使う、家族みんなの複合プリンタとして使いたいユーザーには便利だ。

 大幅な改善を受けたHPのラインナップだが、全モデルともCDラベルプリントはできない点は心に留めておきたい。



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( 本田 雅一 )
2005/12/01 01:03
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