デジカメアイテム丼
カメラバッグ界の新星「THULE」とは?
社長に新シリーズ“Covert”のことを聞いてみた
Reported by 秋山薫(2014/6/27 08:00)
「北欧デザイン」、あるいは「スカンジナビアデザイン」という言葉をご存知の方は多いと思う。飽きのこないシンプルなデザインで、実用性や機能性を備えた北欧製品の意匠のことだ。
最近、スタイリッシュなカメラバッグを探しているユーザーの話題に上るカメラブランドのひとつが、スウェーデンのTHULE(スーリー)ブランド。独自のシンプルでスタイリッシュなデザインと機能性が注目されているようだ。
新シリーズ「Covert」の発売をきっかけに、スーリージャパン株式会社代表取締役社長、オリアン・ペッテション氏へのインタビューを行なった。
「安全に運ぶこと」がTHULEの使命
−−はじめにTHULEグループについてお話しいただけますか。
THULEはスウェーデン語で伝説上の極北の土地、もしくは島のことです。1942年にスウェーデンでエリック・トゥーリン(Erik Thulin)が創業しました。パイク釣り用のトラップをスカンジナビア半島の漁師に販売したのがきっかけです。
その後事業を順調に広げ、自動車用品(カーキャリア)では世界最大のシェアを誇るブランドに成長しました。
日本市場でも、参入してすでに46年ほどの歴史があります。1980年台のバブル時代には、ウインドサーフィンやスキーを自動車で運搬するためのキャリアがたいへんよく売れました。ルーフボックス(自動車の屋根上のレール、またはダイレクトに装着できるケース)でTHULEブランドをご存知の方も多いでしょう。
−−では、カメラバッグを製品ラインナップに加えた理由は。
まず、バッグ製品をラインナップに加えた経緯からお話ししましょう。
THULEは“Bring Your Life”(暮らしを運ぼう)をモットーとしています。日常生活や趣味、余暇で必要な道具を「安全かつスタイリッシュに運ぶ」製品であろうということです。そして、自動車用品はスポーツやアウトドアとも親和性が高い製品です。
またTHULEは、世界の有名なサーファーやスキーヤーなどプロスポーツ選手を「アンバサダー(大使)」として数多くサポート契約しています。そうしたアンバサダーからも、バッグの要望がありました。THULE社内にも、週末にはスポーツやアウトドアを楽しむ社員が数多くいます。
そうしたことから、まずはスポーツ関連の製品としてバッグ製品をラインナップに加えました。アメリカで1984年に創業したCaseLogic(ケースロジック)を2007年に買収し、PCバッグやカメラバッグを製造するノウハウを手に入れたのです。
CaseLogicのバッグは割とリーズナブルな価格で、カラーバリエーションの豊富なPCバッグが中心です。ここで得た経験をもとにTHULEブランドの第1弾「Crossover」(クロスオーバー)シリーズを発売しました。これはPC用です。高品質のナイロン素材を用いた製品で、CaseLogicより高級なラインになります。
繰り返しになりますが、「安全性が高い」「使いやすい」そして「スタイリッシュ」であることが、THULEのブランドイメージです。
−−さきほどから安全性をさかんに強調されますね。
安全性はTHULEがなによりも大切にしている特徴だからです。THULEはBMWやメルセデス・ベンツと同等のハイレベルな安全基準を用いています。
スウェーデンには安全性を検査するテストセンターがあり、近年、3,000万クローネ(5億5,000万円)の予算をかけて、テストセンターの規模も大きくしました。カメラバッグ製品も含めて、このテストセンターの認可が下りなければTHULEのロゴを使うことができません。
街に溶け込む防水バッグ「Covert」
−−Crossoverシリーズが成功して、カメラバッグの展開も始めたということですか。
はい。Crossoverシリーズはまた、バッグ作りのノウハウだけではなく、販売戦略についての経験も得ることができました。
例えば、高級で高品質というブランドイメージがあるアップルと組んで、アップルストアなどで販売したのです。これは商品説明をきちんとできる場所で販売し、競合製品に埋没しないようにするという戦略です。
MacBook Proを収納できるように作られており、おかげさまで日本でもMacユーザーを中心に好評を博しました。
−−そうして、満を持して昨年カメラバッグを発売されたというわけですね。
そうです。それが「Perspektiv」(パースペクティブ)シリーズですね。綴りが“c”ではなく“k”であり、語尾に“e”がないのはスウェーデン語だからです。
この製品は、アウトドアでの使用にふさわしいものを作るべきだということで用意しました。なるべく軽量で丈夫になるよう、防水性の高い素材を溶着するなどの最新技術を盛り込んでいます。シンプルで機能性のある北欧デザインを採用して、クリーンな印象を持つ製品に仕上がりました。
カメラバッグ業界への初めての挑戦でしたが、かなりの成功を収めることができました。
−−それでは、先般発売された「Covert」(コバルト)シリーズのことをお聞かせください。
Perspektivはアウトドアを意識した製品でしたが、Covertは"urban adventure"(都会の探検)とでもいいますか、どちらかというとシティユースを意識した製品です。
バックパック、メッセンジャー、サッチェル、スリングの4種類を用意しました。
共通する特徴は、摩擦に強く防水性に優れたオックスフォード素材(斜子織り)を用いていること、撥水加工のされたYKKジッパーとDuraflexファスナーを採用していることです。
−−カメラバッグの典型的なデザインとは違うようです。
意図的にそうしています。というのは、治安があまりよくない街ではカメラはバッグにしまっておきたいですし、「いかにもカメラバッグ」に見えるものは避けたいとユーザーは思うのではないでしょうか。
私自身も写真が大好きで、出張で世界各国へ行くたびにカメラを持っていきます。日本では町歩きの際にカメラを出していても怖いことはありませんが、海外ではバッグに収納したいと思うこと場所もあります。
−−ではバックパックが側面開きであったり、サッチェルバッグはフラップを開けて内部にアクセスするのように見えて、線ファスナーからアクセスするという仕掛けは、防犯対策ということでしょうか。
そうですね。バッグ自体の堅牢性という意味だけではなく、防犯の意味でも「安全性」を意識しています。THULEの「安全かつスタイリッシュに道具を運ぶ」という思想はここにも発揮されているのです。
Covert DSLR Backpack(バックパック)
デジタル一眼レフボディ+レンズ3本+ストロボを収納できるロールトップ式バッグパック。
国際線で機内持ち込み可能な大きさ(45×54.1×20.1cm、重量2.26kg)。
標準ズームレンズつきデジタル一眼レフボディと、超広角レンズ、望遠ズームレンズ、ストロボのほか、15型MacBookまたはiPadを収納可能。カメラ機材およびノートPCはそれぞれ側面から収納可能。サイドに三脚を装着可能なベルトを備える。
Covert DSLR Messenger(メッセンジャー)
デジタル一眼レフボディ+レンズ2〜4本+ストロボを収納できるメッセンジャーバッグ。
幅広タイプの(54.6×27.9×21.1cm、重量1.85kg)メッセンジャーバッグ。機材へのアクセスはフラップを開閉して、またはフラップ根元部分の線ファスナーを開閉して行なう。
標準ズームレンズつきデジタル一眼レフボディと望遠ズーム、超広角ズームレンズほかレンズ4本程度まで収納可能。15型MacBook ProまたはiPadに対応する。三脚は下部もしくはフラップ部分に装着することができる。
Covert DSLR Satchel(サッチェル)
デジタル一眼レフボディ+レンズ1〜2本+ストロボを収納できる小型バッグ。
国産ブランドではあまり見かけないサッチェル型(スクールバッグ型)で、シリーズの中では小型軽量(33×31×16cm、0.98kg)。手軽に機材を持ち歩きたいユーザーには汎用性がありそうなカメラバッグだ。
超広角ズームレンズを装着したデジタル一眼レフボディを収納可能。エントリー機種やミラーレス機なら、ボディ1台とレンズ2本程度またはストロボを収めることができるだろう。背面部分にiPadなどを収納でき、フラップ部分にはトラベラータイプなどの三脚が装着できる。
バッグ正面から見るとフラップが目立つが、機材のアクセス自体はフラップ上面根元にある線ファスナーから行なうところがユニークだ。このあたりが防犯性を意識したものなのだろう。
なお、フラップ下部のバックルを開けると、アクセサリー類を収納できるポケットが2つある。
ミラーレス向け製品にも取り組みたい
−−今後はどのような展開を考えていますか。
日本市場でまずは認知度や知名度を上げたいと思います。そして、ユーザーからのフィードバックがほしい。
製品の種類が少ないのではないかと言われることもありますが、それはブランドイメージをコントロールしたいからです。安全性とデザイン、そして機能性はどの製品でも妥協したくありません。
そして、製品が埋没しないような、売り場をきちんと作ってくれる場所でのみまずは売っていきたいと考えています。きちんと戦える場所で成功してから広く展開するというこの販売戦略は、自動車用品でもTHULEが行なってきたものです。
もう少し具体的にお話しすると、Covertシリーズでミラーレスカメラ用の製品に取り組みたいと思っています。「プロ用ミラーレス機向けバッグ」とでもいいましょうか。
ミラーレス機は一眼レフよりも小柄な機材ですが、それゆえにたくさんのレンズを持つユーザーが増えているのではないでしょうか。私自身も、撮影に行く時はできるだけ多くのレンズを持っていきたいと考えますからね。
インタビューを終えて
オリアン社長はTHULEの「アジア地区」の販売責任者だそうだ。だが統括する地域には東アジアだけではなく、インド、ニュージーランドも含まれる。
そして日本語を流暢に話すだけではなく、各社のカメラバッグ製品の動向や流行、あるいは国や地域で好まれるカメラバッグ製品の違いなどにもくわしくところから、たいへん仕事熱心で凝り性な方であることがうかがわれた。
そして何より、文中にもあるようにご自身が相当の写真好きなのだ。インタビュー中にもフルサイズ一眼レフカメラを手元に置き、しばしば手に取る。
「オリアンさんは本当に、いつもカメラを持ち歩いていますよね」というスタッフの発言にその場が盛り上がった。
おそらく、実際に世界中にカメラを持って出かけるカメラ好きならではの視点も、実際の製品に盛り込まれているに違いない。
今後のTHULEブランドの展開も楽しみだ。
協力:スーリージャパン株式会社 THULEカメラバッグ代理店・株式会社アスク