最上位モデル「NEX-7」を除き、ソニーのNEXシリーズには、いわゆるホットシューがない。その代わり装備されているのが、「スマートアクセサリーターミナル」または「スマートアクセサリーターミナル2」だ。「NEX-5」「NEX-C3」「NEX-3」が前者を、「NEX-5N」が後者を搭載している。
ちなみに現在購入可能なアクセサリーのうち、EVFの「FDA-EV1S」のみ、スマートアクセサリーターミナル2が必須(つまりFDA-EV1SはNEX-5Nでのみ使用可能)。その他のアクセサリーについては、スマートアクセサリーターミナル、スマートアクセサリーターミナル2で共用可能となっている。
さて、NEX-7以外のNEXには、初代NEX-5の頃より、小型軽量の専用ストロボが同梱されている。これらの機種は内蔵ストロボがないので、ストロボを使いたいときはこの同梱ストロボに頼ることになる。
こうした外付けの専用ストロボのみという仕様には、「いざというとき手元にない」という不安がつきまとう。しかし、高感度画質がこれだけ実用になった現在、「使いたいときだけ装着する」という運用方法も説得力がある。
また、スマートアクセサリーターミナルは専用インターフェイスということで、カメラ本体からストロボへ電源を供給できるのもポイントだ。古来から存在する一般的なホットシューを採用すると、こうはいかない。
ただし同梱のストロボは、ガイドナンバー7(ISO100)という光量の少ないもので、近距離での照射、または日中シンクロ程度の使い道がメインとなる。そこで、より本格的なクリップオンストロボとしてソニーが用意しているのが「HVL-F20S」だ。
同梱ストロボ(電源OFF) | 同梱ストロボ(電源ON) |
HVL-F20S(電源OFF) | HVL-F20S(電源ON) |
HVL-F20Sの背面 |
HVL-F20Sは、同梱ストロボの大型版、あるいはAマウントα用のクリップオンストロボ「HVL-F20AM」のNEXバージョンともいえる製品。ストロボを引き起こすと電源ON、倒すと電源OFFになるところに共通のコンセプトを感じる。
ガイドナンバーは20(ISO100)。同梱ストロボよりも光量は豊富で、さらに同梱ストロボでは不可能なバウンス発光にも対応する。通常クリップオンストロボは、発光部を持つヘッドの角度を変えることでバウンス発光を可能としているが、この製品は発光部左手側のダイヤルを切り替えることで、発光部が上75度にセットされる。この状態で発光すると、天井バウンスになるわけだ。
TELE(直射) | TELE(バウンス)。左手側のダイヤルを回すと直射とバウンスを切り替え可能 |
WIDE。TELEとWIDEは右手側のダイヤルで切り替える | 同梱のディフューザーを装着 |
ただしヘッドが動かないため、縦位置での天井バウンスは無理。カメラを下に傾けての撮影(例えばマクロ撮影)でも、効率の良いバウンス発光は期待できない。横位置にしてまっすぐ構えた状態で、はじめて天井へのバウンス発光が可能になる。
こうした制限はあるものの、この大きさでバウンス発光が可能な点は評価したい。バウンス発光の威力は広く知られるところで、これができるとできないでは、使い勝手が大きく変わってくる。
スマートアクセサリーターミナルを介すため、前述した通り、電源をカメラのバッテリーから供給できる点もありがたい。つまり同梱ストロボと同様、電池がいらないのだ。おかげで比較的軽量であり、コンパクトなNEXシステムにも合う。また繰り返しになるが、別途ストロボ用の電池管理を必要としないのも気が楽だ。ちなみにAマウントα用のHVL-F20AMは、単4電池2本を電源として使用する。
照射角は24mm。発光部右手側のダイヤルをTELEポジションにすると50mmになる。また、付属のワイドパネルを取り付けることで、焦点距離18mm相当の画角に対応する。18mm相当のEマウントレンズはまだないのではと思ったら、これはE 16mm F2.8にウルトラワイドコンバータをつけたときの画角だそうだ。
HVL-F20S側の端子 | NEX-5のスマートアクセサリーターミナル |
実際にNEX-5と組み合わせて使ってみると、軽量コンパクトで扱いやすく、光量制御も悪くない。調光補正をソフトキーC(ロータリーダイヤルの中央に位置するボタン)に割り当てられるのも便利だ。
また、同梱ストロボより背が高いのもポイントになる。比較的大柄なレンズ、例えばタムロンの18-200mm F3.5-.6.3 Di III VCでもケラレない(手前に影が生じない)のは、発光部がレンズから離れているためだ。
タムロン18-200mm F3.5-.6.3 Di III VCとの組み合わせ例。全長が長いレンズでも、HVL-F20Sならケラレない |
バウンス発光時のチャージは、気になるほど遅くはない。もちろん、単3電池4本を使用する大型のクリップオンストロボには敵わないものの、個人的は実用の範囲内と感じた。
それより難点は、カメラ本体のバッテリー消費の激しさだろう。バウンス発光など大きな発光量での撮影を繰り返すと、どんどんバッテリーを消費する。厳密に計測したわけではないが、先日の2012 International CESでは、125枚の撮影で、満充電から81%まで消費した。感覚的には、ストロボなしでの撮影と比較して約10倍程度の消費量に感じる。取材時、予備電池は毎日携行した。
欲をいえば、ズーム連動型の照射角パネルを導入して欲しいし、付属のディフューザーの取り付け方法も一考して欲しいが、お手軽サイズのストロボと考えれば我慢できなくはない。脱着が煩雑なネジどめ式というのも気に入らないが、スマートアクセサリーターミナルがすべてのアクセサリーでネジどめを想定している構造である以上、これも仕方がないことかもしれない。
もうひとつ苦言を呈したいのは、上位モデルのNEX-7で使用できない点だ。NEX-7はAマウントαと同じ形状のホットシューを装備しており、スマートアクセサリーターミナルには非対応。これまで登場したスマートアクセサリーターミナル対応のアクセサリーは一切使えない。その代わりAマウント用のアクセサリーの多くが使えるわけで、現時点では、そこにNEX-7ならではのメリットを感じるユーザーの方が多いのだろうが……Eマウントしか持っていない筆者としては、若干釈然としないものを感じる。
と、いくつか不満はあるものの、同梱のストロボに不満を感じているなら、HVL-F20Sはおすすめだ。ある程度被写体が遠くても対応できるようになるし、やはりバウンス発光ができるのは強みだろう。NEXシリーズ(NEX-7を除く)ユーザーは、一度試してみてはいかがだろうか。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
2012/1/31 00:00