写真展

樽矢敏広写真展「水とあるく」

(Place M)

自然の中に人工物が違和感を持って存在する風景に魅力を感じます。とりわけちっぽけな人工物が自然の大きな力の前に、今にも押しつぶされそうになっている風景を目にすると、僕は妙に納得し安心できるのです。

人間も自然の産物である以上どんなに自然に抗ったとしても、最終的に人間が自然をコントロールすることはないという、僕の根本的な考え方を確認することができるからかもしれません。どんなに近代的な建物でも、片隅にはもう植物が繁殖しているし、どんなに最先端の科学技術でも、防ぎようのない確率で起こるほんの些細な一人の油断で、人の手には負えない重大な事故があちこちで起きています。人が物を作り、生活を便利にさせ、自然をすっかり管理しているという勘違いをし、生活環境を変化させ、そのわずかな変化にも耐えられず、自らの種の保存が脅かされている現状さえ、地球という偶然の惑星で引き起こされる自然現象の一部に過ぎないと考えています。

下北半島の付け根に汽水湖沼が点在する地形があります。周辺には過去の工業開発計画のために確保された土地が、開発されるときをずっと待ち続けています。高い鉄柵に囲まれた施設の奥では今でも、音もたてずに何かを準備しているようです。レイクタウンには新しい住居がまばらに建ち、森や丘の斜面には白い風車が回っています。僕が泊まるホテルはいつも、働く人たちで満室です。

汽水沼の水は潮の干満に合わせて海と陸を往復します。この水の往復はずっと遠い過去から、人々の小さな営みを飲み込んで、はるか未来まで続くことでしょう。僕やあなたがいなくなった未来まで。

(写真展情報より)

会場・スケジュールなど

  • ・会場:Place M
  • ・住所:東京都新宿区新宿1-2-11 近代ビル3F
  • ・会期:2015年9月28日月曜日~2015年10月4日日曜日
  • ・時間:12時~19時
  • ・休館:会期中無休
  • ・入場:無料

作者プロフィール

1971年 東京生まれ
2009年 Place Mにてワークショップ「夜の写真学校」に参加
2012年 現代写真研究所 本科 修了
2012年10月 『眠る斜面』Place M
2014年8月  『眠る斜面 II』Place M

(本誌:河野知佳)