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2007年

2006年

うつゆみこの日々のこまごま──うつ・ゆみこ



 うつ・ゆみこ(宇津裕美子)さんの作品をはじめてみたのは、2006年の「ひとつぼ展」(リクルートが主催する公募展)においてだった。うつさんの作品は会場に本棚を作りそこに100冊ほどの手製の写真集を並べるというものだった。さまざまな形の本を手にとってページを開くと、海外旅行などで撮られたスナップ的なストレート写真から、自分で作ったオブジェや布や小物を配置したり操作したものを撮影したコンストラクティッド・フォトまでさまざまな手法による数多くの写真を見ることができた。

 ユニークな展示方法と膨大な量の写真からは、どん欲で積極的な制作姿勢を感じ興味をひきつけられた。ただ、あまりにも写真の量が多すぎて、展示会場ですべての写真に目を通すことは困難だった。これとは違った展示方法もあるんじゃないか、と思わなくもなかった。

 1回の展示を見ただけではその作者について理解することは難しい。その後、うつさんのブログ「うつゆみこの日々のこまごま」というブログを読むようになり、うつさんの作品について多少は理解が深まったように思う。そのタイトルが示すように、仕事や制作を始めとした生活のこまごまとしたディテールを独特の文体で記したブログから読み取れるのは、自分がやりたいことを全力で行なうという、きわめてストレートで率直な制作態度だった。

「うつゆみこの日々のこまごま」
http://utsuyumiko.cocolog-nifty.com/
1978年生まれ
2001年早稲田大学第一文学部中退
2002年東京写真学園写真の学校修了
2006年第26回 写真「ひとつぼ展」グランプリ
2007年個展「なまなま」(ガーディアン・ガーデン)
 「SECRET PHANTOM展」(MAGICROOM?)


うつゆみこの日々のこまごま うつ・ゆみこ氏

──うつさんのブログを見ると、ひんぱんに作品を掲載していますが、どのようなペースで制作をしていますか?

 通常は、展覧会の予定が決まってからそれに向けて制作を始めます。そういう時は集中して1日に3点の作品を作ることもあります。が、それ以外のときは、制作はせずにけっこう悶々としていたりしますね。このところは調子が良くて、仕事がお休みの時は毎日制作をしています。撮影アシスタントの仕事を月に15日ほどやっているので、1日おきに制作している感じですね。ほんとうは集中して制作したいので連続して休みたいのですけど……。

──どのような機材を使っていますか?

 おもにペンタックス 645とマミヤ RZ67です。

──デジタルカメラは使わないのですか?

 EOS Kiss Digital Nを記録やポラ代わりのために使うことはありますが、展示する作品には使いません。触ると指紋がつきそうな印画紙の質感が好きです。デジタル写真は複製し続けられるところも好きではありません。オリジナルの、1点もののプリントを作りたいと思っています。

──プリントはご自分でやっているのですか?

 はい。プロセッサーを個人で所有して、自分でカラープリントをやっています。自分の思い通りの色を出したいのと、ラボに外注するとお金がかかるので。

──とにかく強烈な作品だと思うんですけど、グロテスクと言われることはありますか?

 言われることもあります。わたし自身はあまりグロテスクという意識はなくて、「グロ可愛い」系じゃないかと思ってますけど。



──人によっては、たとえば昆虫がきらいだとか、ドロドロしたものが苦手とかっていう風に、それぞれ嫌悪を感じる対象があると思うんですけど、うつさんにはそういうのはありますか?

 (少し考えて)あんまりないですね。蛍光色の組合わせとかは嫌いだけど、それは単に苦手っていうだけかも。昔は団子虫とかは苦手だったんだけど、作品を作りながら克服しました。気持ち悪いけど、色や形にひかれて作品にしたいと思ったので。

──食材を他の素材と組み合わせた作品が目立ちますが、食品を使うことになにか意味があるのでしょうか?

 食材というのは湿っていたり生(なま)な感じがあって、そういう質感や色や形に興味をひかれます。食品という意味をこめているわけではありません。

 GEISAI(村上隆がプロデュースするアートフェスティバルとコンペの複合イベント)に、肉でできた家の作品を出品したことがあります。針金で土台を作ってその上にモツやベーコンや手羽やバラ肉をテグスでくくりつけて家を作るのです。「お菓子の家」の肉版みたいな。前日に作って会場に搬入するとこれがものすごい匂いで、結局作品を完全に箱で覆って、その上に作品の写真を置いて小さなのぞき窓からのぞくような展示にしました。でも、誰ものぞいてくれなくてそれはそれでシュールで面白かったですけど……(笑)

──腐っていたり悪臭がする素材を使っているのは、そうしたものをいったん写真に撮ることでシャットアウトしてから観察する、というような意図はありますか?

 それはないですね。だって撮影している時は自分自身がそういう匂いに接するわけですから。たとえ写真に撮ったとしても、それを見るとむしろ撮影時の匂いとかを思い出して、うっとなることもあります。


──さまざまな素材を組み合わせて作られたオブジェ自体が作品と言えると思うのですが、それを写真に撮るだけではなくて、作品として展示したりもするのですか?

 はい。写真の横に並べて展示することもあります。

──連続写真シリーズがありますけど、それはどういう動機でやっているんですか?

 最近はあまり作ってないけど、一時期はよく作ってましたね。物の形がだんだん変わっていったりするのを全部見せたいなというのがあって。小さい時NHK教育テレビとかで見たコマ撮りアニメに影響を受けていると思います。

──動画やアニメーションといった映像作品を作るつもりはありますか?

 それはないです。映像を作るほど根気がないので。それに映像は見るのは好きだけど、作品自体が定まった時間を持っているので、自分のペースで見ることができないのが困ります。たとえばもっとゆっくりと見たいのに、と思ったりします。最近、連続写真のシリーズをあまり作らないのは、1枚の写真ですべてを見せられる作品が作りたいからという理由もありますね。

──細かなモノを精密に並べていったり構成的に配置されたオブジェが特徴的なんですけど、それはなぜですか?

 モノを並べていくのが元々好きなんです。母親が言うには、小さい時から「木の実集め」が好きだったそうです。仏壇に供えた南天の実を摘んではつぶし摘んではつぶすことを繰り返していたとか、折り紙が大好きで集めて箱にしまっていたんですけど、それを毎日取り出しては、枚数を数えてまた箱にしまうというようなことをやっていたそうです。そういう嗜好が今の作品づくりにまで続いているのかもしれません。



──箱庭のようでもあるし、そこに並べられたモノがひとつの映像のワンシーンのようにも見えるのですが、それらの作品の背後に物語があったりしますか?

 物語というほどのものは特にありません。ひとつのシチュエーションとして考えて作っていくことはありますけど。むしろ見る人が自分で想像して物語を作ってくれれば面白いと思います。

──とても多種多様な素材を集めて作品を作っていらっしゃいますが、素材集めは好きなんですか?

 好きというよりも文字通り「血眼(ちまなこ)」になって探しています(笑)。作品づくりの素材集めのためにはかなりお金も使います。どうやって素材を探すかというと、ペットショップや雑貨屋や成城石井のような食材店など、とにかくあらゆるお店を回って探します。あと東急ハンズも大好きで、バイトをしていたこともあります。そういうところで手に入れた素材の力に引っ張られるようにして作品を作ることも多いです。

 食材のような生ものの素材を使うときは、短時間で作って撮影しないといけないということもあって集中することができますね。



──制作時はどんなテンションなんでしょうか?

 いろいろな素材を使ってオブジェを作っているときは、「入れ」ますね(制作に没入できる)。自家プリントそのものはあくまで「作業」といった感じです。忠実な色を再現してストレートなプリントを得るようにこころがけています。展示のための額作りもオブジェ制作と同様に「入れ」ます。単純作業は好きだし、頭がからっぽになって気持ちがいいです。

──撮影しているオブジェは寸法的に小さなものもあるし、中判でマクロレンズを使った撮影はけっこう大変じゃないですか?

 そうですね。6×7だと被写界深度が浅いので、F32くらいに絞ることもあります。そうなると三脚は必須で、それを使って小さなものをフレーミングするのにも苦労します。背景の布などからの反射で色カブリをしたりとか……。団子虫を使った作品は、団子虫を糸で結んで、犬に首輪と引き綱をつけて散歩させるようなイメージにしたかったんですけど、小さな団子虫を糸で結ぶのがとても難しくて20分くらい試行錯誤しました。結局、最初に糸で輪っかを作っておいて、そこに団子虫が入ったときにきゅっと結ぶというやり方でようやく上手くいったんですけど……。

──それ以外に応用の利かないノウハウですね(笑)。それはともかくとして、そういう技術的に難しいセットを使った撮影は、Photoshopなどで合成することで作品を作るというようなやり方は考えますか?

 それはまったく無いですね。Photoshopを使って合成するというのは好きじゃないです。さまざまな素材を組み合わせてオブジェを作って、それを撮影する作品に関しては、手作業でやることが好きですし、意味があります。なんでも人の手作業が感じられるものが好きです。団子虫に糸を結ぶ姿を想像してもらうと面白いじゃないですか?

──作品について言葉で説明することをどう思いますか?

 作品の意味や意図を説明するのは好きじゃないし、いわゆる写真論とかもよくわからないです。ただ、作品にどういう素材を使っているかとか、どうやって作ったかとか、制作にまつわるエピソードについて話すのは好きですね。写真といっしょに「素材表」を一緒に展示したこともあります。

──うつさんの作品は展示方法にも特徴がありますね。ひとつぼ展の時は、本棚を作ってそこに自分の写真集を100冊ほど並べたわけですが、あれは本という形になにか思いいれがあったんですか?

 本という形に特別な意味があったのではなくて、ひとつぼ展というのは180×180×90cmの空間が与えられて、そこに展示をしなくてはいけないんですが、連続写真シリーズのような複数のカットによる大量の写真をすべて展示するには、本の形にするしかなかったというのが理由です。



──ひとつぼ展の個展では、ギャラリー内を1,000枚近い作品で埋めつくしたり、SECRET PHANTOM展ではレースのついた額や電飾で飾られていましたね。
 ホワイトキューブ(モダンアートを展示するのにふさわしいとされる、白い壁面だけで構成されたギャラリースペースの俗称)に、淡々と展示するというのは好きじゃないんです。せっかくお客さんが展示を見に来てくれても、ほんの少しの作品しか展示されてなかったらさびしいじゃないですか。足を運んでくれる人を楽しませるためにたくさん展示したいと思っています。

──人を楽しませたいと思っていますか?

 それはありますね。常にエンターテイメントを意識しています。展示は大好きです。人の反応を見るのも好きです。もともと他人とコミュニケーションするのが下手だという意識があるんですが、写真を撮って人に見せて面白がってもらいたい。それによって自分の中の普段出せない部分を出したいと思っています。

──今後のご予定は?

 グループ展SECRET PHANTOMの作品集が出版されます。また、展覧会ではないのですがコレクターや評論家を対象にしたビューイングの予定があります。作品を作り続けるためにもプリントを販売することは真剣に考えています。



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  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2007/11/29 00:01
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