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KEEP20──山縣勉


山縣勉
「KEEP20」
http://www.geocities.jp/yamagata126/
「うらKEEP20」
http://d.hatena.ne.jp/KEEP20/
1969年生
慶應義塾大学卒業
エネルギー企業に勤めた後退社。以後写真に専念する
※記事中の写真はすべて山縣勉氏の作品です。


KEEP20
山縣勉氏

 山縣勉さんの写真サイトにはふたつの顔がある。インドやネパールをドキュメンタリー的に撮影した「KEEP20」( http://www.geocities.jp/yamagata126/ )と、主にデジタルカメラによるスナップ写真を載せた「うらKEEP20」( http://d.hatena.ne.jp/KEEP20/ )である。“おもて”のほうのクリアーで透明感のあるインドの人々のポートレートは、生き生きとした表情が捉えられていて悪くないと思うが、個人的には「うらKEEP20」のほうにはるかに惹きつけられる。

 “うら”では、多摩川をはじめとした生活圏内を特定のテーマにしばられることなく、興味がおもむくまま断片的に撮ったかのような写真が、毎日更新されている。「うらKEEP20」における、被写体や質感には、あきらかにティルマンス以降の今日的なデジタル写真のテイストを見てとることができる。

 山縣さんのユニークな点は、そういった写真に混じって中判ネガで撮られたインドやネパールの写真が説明抜きでアップロードされていることだろう。東京とインドという一見対極にあるかのような風景がブログ上で隣り合わせに提示されている。さまざまな主題に旺盛な興味を持って貪欲に切り取った写真がそこにはある。

──写真を始めたきっかけを教えてください。

 写真は中学生のころに始めました。見ることに没頭していた時期もありますが、4、5年前から本格的に撮りはじめました。撮影や現像、プリントなどはすべて独学です。

──どのような機材を使われていますか?

 長いあいだニコンF3と35mmレンズを使ってモノクロ写真を撮っていましたが、4、5年前からは中判や大判でカラーネガを使うようになりました。蛇腹フェチなのでマキナと4×5を使っています。中大判は標準レンズしか使いません。

 日々の撮影には、ニコンD70sとリコーGR DIGITALを使っています。

 テーマにもとづいて中長期にわたって撮影する場合はフィルムを使い、日常を撮ったり新たなテーマを模索したり写真の広がりを楽しんだりするのにデジタルを使っています。



──写真サイトを始めたきっかけは?

 これまでに撮った膨大なネガとプリントを整理し、セレクトし、ポートフォリオ化する練習の意味もありましたが、やはりネットという場所で多くの人に自分の写真を見てもらいたかったというのが大きな理由です。

 3年ほど前にKEEP20という写真サイトを始めました。タイトルの「KEEP20」というのは、現像液の規定温度20度を保つという意味で、注意をうながすために暗室のバットに貼っていた「KEEP20!」という貼り紙が由来です。

 そのころはドキュメンタリー写真に専念していたのですが、撮り続けることに苦しさを感じることもありました。そこで素にもどって写真の楽しさや広がりを取り戻すために、昨年の6月ごろにほぼ毎日写真を更新する「うらKEEP20」というブログを始めました。

──KEEP20とうらKEEP20を分けている理由は?

 ドキュメンタリーの意識を持ってインドやネパールを撮った写真のシリーズに関しては、ポートフォリオとしてまとめる必要があると思いました。写真の並び順番や再生速度にこだわったスライドショウとして見せるためにFLASHを使っています。FLASHは画像を簡単にコピーすることができないので、写真の盗用を防ぐという意味もありました。

 これらのポートフォリオについては、作った当時と今とでは考え方に変化が生じてきているので、作品の点数を少なくしたシンプルなものに作りかえることも検討しています。

 ぼくは広い意味ではドキュメンタリーを撮り続けたいと思っています。ただ、そのスタンスを崩さずに写真の広がりや変化を模索しています。日々、考えて撮ったり、時にはあえて考えないで撮ったりすることで、自分の写真に発見や発展をもたらしたいのです。それを発表する場が「うらKEEP20」と考えています。「うらKEEP20」は、Web上での修行や練習の場であると同時に「覚悟のある遊び場」でもあると思っています。



──Webサイトの更新頻度について。

 「KEEP20」には、テーマに沿ってまとめたポートフォリオを載せているので、新作の更新は半年に1度くらいです。「うらKEEP20」は、ほぼ毎日更新しています。

 写真を続けることは、重要だけど難しいことだと思います。誰でも、テンションが下がったり撮れなくなったりすることもあります。写真を続けるためには、自らテンションを盛り立てたり、楽しさを発見し続けていくことも必要です。Webサイトで公開することによって「今日もやらなきゃいけないな」とか「今日はもっとやりたい」と思うことが、結果的に自分を盛り立てることにつながっています。

──Webサイトの更新に要する時間はどのくらいですか?

 「うらKEEP20」は主にデジタルカメラで撮ったものをセレクトして載せています。毎日撮っていますが、特に日記という意味合いではないので、過去に撮影した写真をセレクトして載せることもあります。更新に費やす時間はセレクトと修正で毎日10分程度です。

──写真サイトにおける言葉について。

 写真をやっていると、自分の中に言葉が湧き上がることがあります。あるいは最初に言葉があってそれに触発されて写真を撮ったりセレクトすることもあります。そういう場合には「うらKEEP20」には言葉を書くようにしています。

 人は何かを見たときに、言葉というフィルターによってそれを解釈しようとしがちです。ただ、時には心を動かされているにもかかわらず言葉が見つからないという不安定な状態におちいることもあり、そういった状態にも興味を持っています。

 さらに付け加えるなら、ぼくは「語りすぎている写真」つまり説明的な写真はあまり好きではありません。イメージとしてはあくまで明確でありながらも、理解や解釈を経ないで了解される写真、どこか「語りきれていない」写真が好きです。



──撮影においてどのように機材を使い分けていますか?

 テーマによって機材や感材を使い分けています。テーマが見えてくると同時にフォーマットが決まります。ドキュメンタリー系の作品は6×7と大判しか使っていません。できるかぎりシャープに撮りたいので、本当はすべて大判で撮りたいとも思うのですが、たとえばインドなどの過酷な状況下では中判が限界です。

──Webサイトとプリントの違いについてどう考えていますか。

 他人のPCで自分のサイトを見て、まったく違う写真に見えて愕然とすることがあります。やはり写真はプリントであり、空間に存在するべきだと思います。

 Webのメリットも理解していて、いつでもどこでも見てもらえる、毎日見てもらえるという点、展示ほどは経費や労力や時間がかからないという点などは見逃せないですね。

 これまでは写真を発表する手段は、個展や出版などに限られており、個展の回数や出版物の発行が作家としての道(キャリア)という風潮がありました。Webで写真を発表することによって、写真作家の裾野が広がったり、作家としての道のスタイルも変化していくのではないでしょうか。今後はWebによる作品発表もひとつのスタイルとしてポピュラーなものとなっていくかもしれませんね。ただし、ネット上には写真作品が氾濫しているので、かなりの質の高さとオリジナリティが求められていくと思います。



──インドでの撮影について教えてください。

 インドには毎年行っています。ひとつの場所に長くとどまって、そこに溶け込んでから撮ろうとするのですが、それでも僕は「外人」ですから、都市部ではカメラを構えた途端に数十人が集まってきてしまい、俺も撮れ、俺も撮れの大合唱になってしまいます。しょうがないので、そういう場合は全員に並んでもらって集合写真を撮らざるを得ません。

 宿ではフィルムの管理にすごく気をつかいます。暑季は室内温度が40度を越え、ファンを回しても熱風が当たるだけ。そんな中で少しでも涼しい所を見つけて、風が通るようにフィルムを並べておきます。

 次回からはデジタルでも撮ろうかと考えています。フィルム管理の問題から開放されるというメリットも大きいと思います。田舎における電源の問題やストレージについて、これから考えようと思います。

 砂漠では砂嵐や暑さとの戦い、電車やバスでは泥棒との戦いや席取り戦争、買い物では値切り戦争、不衛生な環境下での肉体的な戦い……生活すべてが闘いですね。初めてインドに行ったとき、帰国後に原因不明の高熱で3週間寝込みましたし、その後も下痢などにたびたび悩まされましたが、回を重ねるたびに免疫がついてきたのか、今ではなんともなくなりました。

──Webに使用する写真データの取り扱いについて。

 見た目に忠実なイメージを求めて、やや軟調の処理をしています。GR DIGITALはJPEG、D70はRAWで撮影し、SILKYPIX 3.0を使って処理しています。特に大幅なレタッチはしていません。写真のリサイズは、はてなフォトライフへのアップロード時に、リサイズ機能で自動的に行なっています。JPEGの圧縮は最高画質とすることが多いのですが、画面で見る限りあまり差を感じていません。(内原註:個人的には山縣さんのWeb上の写真は、とても高画質であると感じる。圧縮率の低さもその一因だろう)。

 「KEEP20」にアップしているフィルムで撮った写真は、普及価格帯のフィルムスキャナーとPhotoshopを使ってデータ化しています。カラーはやや軟調のネガを使い、レタッチは最小に抑え、モノクロの場合も明るさとコントラスト修正程度です。

 Webでは、やはりデジタルの方が相性がよく、スキャニングや修正の手間などを考えるとフィルムよりも有利ではないかと思っています。



URL
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2007/04/12 00:33
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