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Web写真界隈標準カメラ--LUMIX DMC-LX2



 パナソニックのLUMIX DMC-LX2というコンパクトデジタルカメラを借りた。このところ毎週のように違ったカメラを使っている。この連載のネタを見つけるためという理由もあるけれど、慣れないカメラで写真を撮るというスリルに味をしめたからでもある。ぼくは以前は使い慣れたカメラでないと安心して写真が撮れなかったし、ひとつのカメラに慣れるのにだいたい半年くらいはかかっていた。しかし「安心」して写真が撮れるということは言葉を換えると写真の仕上がりが予想がつくということで、それは時にマンネリに堕すおそれもある。

 使い慣れたカメラで撮ると往々にして決まった撮り方をしてしまいがちである。そうしたルーティーンをリセットしてくれるのが、はじめて触るカメラであるとも言える。もちろんカメラを替えたくらいでマンネリから脱することができるわけはないが、思うように扱えずどんな写真が撮れるのかシャッターを押すまで予想がつかないということはある種の緊張感をもたらしてくれる。



 以前、この連載で写真家の徳増憲太郎さんや森川智之さんたちと放談をした際「LUMIXのLX1はWEB写真界隈標準カメラみたいだ」というような発言があった。まあ半分冗談なんだけど、身の回りで意外とLX1が使われているという言葉を聞いてLX1を一度使ってみたいものだと思った。LX2はその後継機である。経験的に、多くの人が使っている製品は使いやすいものであることを知っている。LX1そしてLX2が多くの人(といっても知り合いの何人かということにすぎないが)が使っている理由をちょっと知りたい。

 LX2の外見はけっこう気に入っている。細かい梨地のようなマットブラックの塗装がコンパクトデジタルカメラには珍しいのでそれだけでもポイントが高い。大きめのレンズと16:9のワイドなアスペクト比の液晶ディスプレイもプロダクトデザイン的にはいいんじゃないかと思う。唯一ボディ前面のグリップのためのでっぱりが見た目に邪魔で、グリップにもさほど貢献していないように思う。リリースボタンを解除すると『シャコッ』と飛びでるストロボの仕組みや感触が個人的には好みだ。



 いっぽうズームボタンの感触やその動作はどうも好きになれない。電動ズームのスピードは遅いにもかかわらず微妙な操作がしづらいからフレーミングも難しい。いつも思うのだけどコンパクトデジタルカメラのレンズが電動ズームしかないというのは技術的な理由があるにしても「だったらいっそのこと単焦点でもいいのに」と思うくらい使いづらい。

 LX2は28mmから112mm(相当)の広角よりのズームレンズを持っているのもセールスポイントのひとつだ。しかしぼくは28mmというのは広すぎて好きではないので個人的には別に何のセールスポイントにもならない。でも、あればついつい使ってしまうのが広角だ。

 オートフォーカスは、コンパクトデジタルカメラとしては標準的な合焦スピードだし普通に使っている分には特に問題はないと思う。ただし街でスナップ写真を撮っていてだんだん気分が乗ってきてバシャバシャ撮りまくりはじめると、そのもたつきにイライラしてくる。ただしフォーカスそのものは正確だしちょっと待ってさえいれば確実に合焦するので、一眼レフのようにAFが迷っていつまでたっても合焦しないというようなことはない。

 後から知ったのだがマニュアルフォーカスの機能がついていた。カメラ背面のジョイスティックを動かすことで手動でフォーカスを合わせることができる。フォーカスエイドとして液晶ディスプレイに画面の一部が拡大表示される。



 LX2は16:9、3:2、4:3という三種類のアスペクト比(画面縦横比)を持ち、レンズ部分のスイッチで簡単に切り替えることができる。それぞれのアスペクト比の関係は以下のようになっている。

 16:9 4,224×2,376ピクセル 1,000万画素
  3:2 3,568×2,376ピクセル 850万画素
  4:3 3,168×2,376ピクセル 750万画素

 かつてのコンパクトデジタルカメラは、4:3のアスペクト比のものが多く、デジタル一眼レフカメラの多くは3:2のアスペクト比のものが多い。フィルムのカメラに目を向けると6×6、6×7、6×9、6×4.5……など画面の縦横比はさまざまである。言うまでもなく写真において構図は重要で、画面(フレーム)の縦横比は構図に大きく影響を与える。したがってアスペクト比というのは大切なんだというのがタテマエなのだけど、実はぼく自身は縦横比などあまり気にしていない。スナップ写真を撮る時はほとんど瞬間的に構図を決めてしまうので熟考している余裕などないし、フレーミングなど後からPhotoshopなどでいくらでも好きなだけトリミングできるからだ。



 それでも16:9というワイドな画面は新鮮であることは確かだ。16:9というのはHDTV(ハイビジョンTV)の画面の縦横比でもあり、PCのものも含めて今後ディスプレイの縦横比としては主流となっていくことが予想される。それを見越したアスペクト比なのだろうか。現状のプリンター(というか用紙)はAサイズやBサイズがほとんどだから、ずいぶんと余白が生じてしまう。フチ無し(裁ち落とし)で印刷しようとすればかなりトリミングしなければならない。しかし16:9で撮影した写真をAサイズの用紙に余白をふくめて印刷してみると、意外とおもしろい見え方になる。アスペクト比の違いは写真を撮る時のフレーミングに影響を与えるとともに、撮った後の鑑賞の仕方にも影響を与えるだろう。

 今回はほとんどRAWでばかり撮ってしまいJPEGの画質は検証していないのだけど、RAWに関してはとても好みの画質である。SILKYPIXに読み込んでノイズリダクションとシャープネスを全部OFFにしてチェックしてみると、当然ノイズが視認できる。とはいってもLX1よりは断然ノイズが減っているし、ISO200まではまったく問題がない。ISO400までの感度は使いどころを考えた上でなら有用だろう。ISO800まで感度を上げると個人的にはノイジーすぎると感じる。フルオートの設定では場合によっては自動的に感度がISO800まで上げられることがあるが、緊急用としてブレたり写っていなかったりするよりはマシという判断だろう。



 想像でしかないけれど、LX2のノイズというのはこのサイズのセンサーが生成する画像に生じるノイズとしては標準的なものなのだと思う。技術的な競争にさらされるハイテク部品としてのCCDセンサーはどれも仕様としてのノイズ発生量に大差があるとは思えない。ノイズが少ないように思えるカメラは事後的にカメラ内でノイズリダクション処理をかけているにすぎない。もちろんノイズリダクションという処理はデジタル写真には欠かせないものではあるけれど、それによって画像本来のディテールが失われてしまうというデメリットもあるのだから、その処理は慎重に行なってほしいし、できればユーザーが自分で調整できるような選択肢を残してほしい。そういった意味ではLX2の画像は最良のもののひとつと言える。

 白トビしにくいというのも特徴のひとつである。全般的にやや軟調で暗部から明部まで階調をつぶさないようなトーンが得られる。センサー受光部のピッチが小さいはずのコンパクトデジタルカメラなのに不思議なくらいだが、これはもちろん歓迎すべきことである。



 若干、彩度が高めであるところがコンパクトデジタルカメラっぽい。ただし高彩度部分を強調しているわけではなくて、暗いところや彩度の低いところも一様に色が乗ったような絵柄なので、必要ならRAW現像時に彩度を下げることもできなくはないだろう。

 ちょっと気になるのは倍率色収差(高いコントラスト部分に目立つ色のズレ)である。LX1ほどではないけれど少々目立つ。SILKYPIXには倍率色収差を補正する機能が備わっていて、たいていの場合は完璧に収差を消してくれるのだけど、LX2のRAW現像時にスライダーをあれこれいじってみると、ある部分の色ズレを消すとそれとは異なった場所が色ズレを起こすといった感じで、なかなか簡単には解決しない。

 最近お気に入りの「しっとり光沢紙」という紙にプリントしてみた。A4サイズにプリントするのにPhotoshopで「目伸ばし」する必要のない1,000万画素の画像からは、不自然さのないプリントが得られた。同じ1,000万画素といってもD200のようなデジタル一眼レフカメラをプリントしたときのようなキレ味のよい解像感というのはないのだけど、ディテールも階調も豊かな情報量が感じられ、プリントをじっくりと見る楽しみが感じられる。ちょっと単純な比喩かもしれないが、最近のデジタルカメラ全般がポジフィルムのような比較的高コントラストで抜けのよい発色をするのにくらべると、LX2で撮った写真をプリントしてみるとネガカラーのようなコシのある色合いが得られる。もっとたくさんプリントしたいという気にさせられる。



 なんだか当然のようにRAWでばかり撮ってしまったのだけど、LX2はそれが充分可能なスペックをそなえている。もちろんRAWはファイルサイズが大きいのでメモリーカードへの書き込みに時間がかかりはするが……体感では書き込みに2.3秒待たされる。もちろん連写は不可能だ。ひと昔前のデジタル一眼レフカメラでバッファメモリがフルになったあとの撮影レスポンスよりはマシではあるが、それでもすばやいスナップ撮影にはRAWは向いていない。JPEGでのみ可能なフリー連写モードというのはだいたい秒間2コマでメモリの上限まで連写できるようなので、スナップにはこのモードを使えばいいだろう。

 RAWファイルのサイズは約20MBとかなり大きい。RAW撮影時はJPEGでも同時記録されるので、2GBのSDメモリーカードで80枚ほどしか撮影できない。同じ1,000万画素機であるD200のRAWは10MB以下である。D200のRAWは可逆圧縮(画像やデータが劣化しない圧縮)されているのに対してLX2のRAWは非圧縮だからだと思われる。ユーザーからすればRAWファイルは圧縮されていたほうがいい。メモリーカードに倍以上の枚数記録できるわけだし、メモリカードへの書き込みも早くなるだろうし、他のストレージへの転送も速くなり、ディスクスペースも食わない。カメラ撮影時にRAWファイルを圧縮して書き込むためにはより多くのプロセッサパワーが必要だろうからコンパクトデジタルカメラはバッテリーの持ち時間との兼ね合いもあって採用していないのだろうけど、できれば圧縮RAWで記録できるようになるといいと思う。

 LX2を2、3日使ってみてかなり気に入りはしたものの、これがはたして「WEB写真界隈標準カメラ」かどうかはまだわからない。もうちょっと使い込んでみたいと思っている。




URL
  パナソニック
  http://panasonic.jp/
  製品情報
  http://panasonic.jp/dc/lx2/
  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/09/28 00:42
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