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デジタルな旅支度について


久高島( http://www.kudakajima.jp/ )という沖縄本島からフェリーで20分ほどの島に行った。「神の島」とも呼ばれる久高島は琉球王朝時代にさかのぼる古い信仰形態を今に残しているらしい

 沖縄滞在中に、濡れた階段で足をすべらせてノートPCを壊してしまった。那覇が台風8号の暴風雨に見舞われた日のことである。ノートPCと携帯型ストレージを入れたバッグが階段の角に強く当たり、液晶パネルに亀裂が入ったのだ。ディスプレイの全面に放射状のヒビが走っているが、いちおう画面は表示されている。今もヒビの入ったディスプレイで原稿を書いたり写真のレタッチをしたりしているのだが、見づらくてしょうがない。そろそろノートPCを買い替えようと思っていたところなので、修理はせずに新しいマシンを注文した。

 旅先ではいろいろアクシデントが起きるものだが、それでもノートPCを始めとしたモバイル機器を持っていかないわけにはいかない。旅行に持っていくデジタル写真関連の装備について書いてみたい。


久高島は何も無い島だと思った。港周辺の集落以外は亜熱帯の海浜植物で覆われ、サンゴ礁で取り囲まれている。これは放置されていたアダンの実

 まずなによりもぼくが優先したいのは、荷物を減らすことである。思いたったら身軽にすぐ動けるようにするために、持ち物は軽いほうが良いに決まっている。理想的には、カメラ1台だけ、いやできればカメラも持ちたくないなんて言ったら本末転倒だが、手ぶらで行動する爽快さに勝るものはない。

 とは言うものの、実際のぼくの旅装は手ぶらからはほど遠い。荷物の総重量はだいたい10kg前後だろう。これ以上はどうしても減らせない。おもな内訳を重い順に記せば、バッグ(3kg)、ノートPC(1.2kg)、三脚(1kg)、携帯型ストレージ、ACアダプター類、ガイドブックや地図の類、衣類、その他こまごましたものを入れていくとなんだかんだで10kgくらいにはなってしまうのだ。

 ちなみにカメラは常に首から下げているので、勘定に入れていない。カメラには高倍率ズームレンズを1本つけて、交換レンズは持っていかない。喘息の薬やサプリメントなんかは軽いピルケースに移しかえたり、歯ブラシやタオルは現地調達し、ガイドブックの広告ページは破って捨てるなどして、軽量化に努めているのだが、いかんせんノートPCや携帯型ストレージなどのエレクトロニクス系のガジェットがずっしりと存在を主張する。

 ぼくはこれらの荷物を基本的に一個のショルダーバッグあるいはバックパックにまとめて、自分の手で持ち運ぶ。なるべく機内持込みにしたいのと、運搬の自由度が高いことからキャリーバッグは使わないのだが、荷物の総重量が10kgを越えるようになったら、カートやキャリーといった手段も考えるべきかもしれない。一般の兵士の装備というのは多分20kgじゃないかと想像するのだろうけど、それだけの重量のモノを抱えて長時間作戦行動するのだから、同じ人間としてぼくにもできないわけはないと自らを励ますこともある。


ほんとうに“撮るもの”が無くてとまどったが、いつもと違った写真を撮りたいと思った

 それはともかくとして、ぼくの荷物をさらに軽量化する余地はあるだろう。たとえばソニーのバイオ type Uのような500g程度のモバイルPCもあるわけだし、ノートPCの内蔵HDDが充分に大容量であれば、その他のストレージを排することもできる。

 さらに言うと、ノートPCを持たないという方法も考えらるだろう。ぼくの知り合いはバイトをしながら沖縄から北海道まで日本を転々としているのだが、彼はニコン D100と外付けHDDだけを持っており、撮った写真はマンガ喫茶のPCにD100と外付けHDDをつないで保存しているそうだ。

 撮った写真を保存するストレージの選択は、旅の期間や撮影する写真の量にもよるだろう。ぼくの場合は2週間の沖縄旅行で1日平均3GB、合計で40GBほどの写真を撮った。この程度なら今時のノートPCの内蔵HDDに収まる容量だろう。8GBのCFなら5枚分ということになる。

 いずれカメラ内蔵のリムーバブルメディア1枚でこれだけの容量を越えるようになるだろうが、そのころにはデジカメ自体が高画素化して、1枚のファイルサイズもさらに大きくなっていることだろう。考え方を変えて旅の身軽さを優先するなら、圧縮率の高いJPEGファイルで撮影して、1枚のリムーバブルメディアだけで済ますというのもアリだろう。


サンゴ礁で囲まれたビーチはすべてサンゴのかけらで覆われている。目を引く美しさではないが、初めて見るので新鮮だった。久高島のものは動植物はもちろん、小石1個でも持ち出すことは禁忌となっている

 そういうことも考えないではなかったが、やはり今回はノートPCを持っていくことにした。ひとつはこの連載のために写真をセレクトしたり、原稿を書いたりする必要があったからだ。旅行中に2回分の原稿を書かなければならなかった。もっとも最近では日本全国津々浦々にPCの利用できるマンガ喫茶やネットカフェがあるので、いざとなればアプリケーションソフトを入れたUSBメモリさえあれば、PCがなくても作業はできるだろうと思っていた。

 実際、滞在中にノートPCが壊れたこともあって那覇のネットカフェを利用したのだが、なかなか思い通りにはいかなかった。まず那覇のネットカフェは東京に較べて料金が高めである。タバコの分煙もされておらず、大声で「マイヤヒー」を歌い続ける子どもがいたりして、総じてネットカフェとしてのサービスは行き届いていない(ただしマンガ本は充実しており、マンガ喫茶としてはポイントが高いが、ついついマンガ本に読みふけってしまい原稿を書く妨げになってしまった)。盲点だったのはネットカフェのPCでRAW現像ソフト「RawShooter」がうまく動作しないことだった。USBメモリから起動はするのだけど、グラフィックカードとの相性や、プレビューキャッシュの書き込みがうまくいかないらしく、ほとんど使い物にならなかった。


干潮になると島の周囲のサンゴ礁が海面上に露出し、あちこちに潮だまりを作る。残念ながらさほど生き物の姿は目につかなかった。このイソギンチャクの群生(?)のような気持ち悪いインパクトのある磯の生き物の写真をもっと撮りたかったのだが……宮古島の有名な八重干瀬(やびし)に行ってみたい

 話は前後するが、ぼくは今回の旅行でゲストハウスに宿泊した。そこは無線LANが設置されているのだが、なぜかぼくのノートPCではネットに接続できなかった。無線LANを設置したのはゲストハウスの長期宿泊客であり、ちゃんとした管理はされていないようだった。

 ドミトリー(2段ベッドがならぶ大部屋)のベッドに横たわってMP3を聞きながらRawShooterでRAWファイルを現像していると、ノートPCや携帯型ストレージやACアダプターの熱がこもって息苦しくなってくる。かといってぼくのノートPCはバッテリーが劣化して1時間くらいしか駆動できないため、電源の無い場所では作業できないのだ。結局ノートPCと携帯型ストレージを持ってネットカフェに日参することになった。

 自分のPCで写真の現像とレタッチとセレクトとリサイズを行ないつつ、ネットカフェのPCでテキストを書き、アーカイブしてメールで編集者に送った。もちろんこのように手間取ったのはぼくの準備不足によるもので、ネット環境の備わったもう少しちゃんとした宿に泊まれば、時間と金が節約できたはずである。

 たとえ荷物が増えることになっても、ノートPCを旅行に持っていくのは必要だな、と今回あらためて思った。それは自分が撮った写真を見返すために必要なのだ。ぼくは写真を撮ることと同じくらい、撮った写真を見返すことが重要だと思っている。写真を撮る時はできるだけ何も考えずに、ある意味本能的に、ある意味では機械的に、シャッターを押しているのだが、それらの写真をあとからPCで見返してさまざまな観点から考えたりセレクトすることで、はじめて自分の作品として成立する。また今回のように初めて使うカメラの場合、撮った写真をPCで見返すことで、カメラの特性への理解が深まると思う。まあ、そういったことよりも、ぼくは撮った写真を見るのが単純に愉しみなのであって、ビールを飲みながらその日撮った写真をスライドショウで眺めるのは至福と言っていい。


植物は旺盛に生い茂ってはいるのだが、ただどこまでも広がっていて単調だ。だが、この単調さをそのまま切り取ればミニマルな写真になるのではないかと考えた

 今回は滞在先から自分のWebを更新することはできなかった。時間的にもネット環境的にも余裕がなかったせいだが、できればリアルタイムで毎日の写真をアップロードしたかった。なにも2週間の旅行中くらいWebを更新しなくてもいいようなものだが、これに関してはもう理屈ではなくて、ぼくにとって撮った写真はWebに掲載することで完結するという思いがあるのだ。旅先からWebを更新することができれば、もっと旅行が楽しめたんじゃないかという気もする。


久高島は沖縄本島から眺めた島全体が信仰の対象となっている。したがって島の中に宗教的な遺構などがあるわけではない。“何も無い”などというのは失礼な言い方で、島そのものはまぎれもなくそこにあるわけだ。もう一度行ってみたいと思う


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  バックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/webphoto_backnumber/



内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/08/24 00:00
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