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第8回 徳増憲太郎 / 森川智之(前編)
ネット上でのこれらの反応自体が「Web写真界隈」だっていう気がする


M_orochi

 数回にわたってさまざまな写真家に取材してきたが、今回でインタビュー記事はいったん終了である。

 他の写真家の話を聞くのはとても楽しかったが、心残りなのは10人にしかインタビューできなかったことだ。ネット上に写真サイトがいったいいくつあるのか想像もできないが、おそらく数千を下回るということはないだろう。それらの写真サイトすべてが、今日のアクチュアルな「Web写真界隈」をかたち作っているという思いがある。第1回目に述べたように、写真サイトの量的な増加そのものが興味深いという気持に変わりは無い。それらのうちのたった10人に話を聞いただけで「Web写真界隈」を語りうるとは思っていない。記事を書いたぼく自身の考えや嗜好を超えて存在しているのが「Web写真界隈」だと思っている。

 もちろん今もなお増えつづけているはずの写真サイトすべてに目を通し論じることは不可能である。ただ誰に対しても開かれているのがWebである。この連載記事がきっかけとなってあまたの写真サイトに関心をもってくれたなら、あとは自由にWebの世界をさまよい写真サイトにアクセスしていただければと思う。

 最終回は徳増憲太郎さんと森川智之さんとぼく(uzi)、それに黒子役の4人で放談を行なった。ぼくたちは年齢は離れているのだけど、ぼくにとって唯一、写真の話が合うのが彼らなのだ。みんなおそらく写真界ではほとんど無名だが、だからこそ話が合うのかもしれない。

 かつて毛沢東は革命家の条件として「若いこと、無名であること、貧しいこと」を挙げたが、彼らはその条件を満たしている。ぼくたちはサイゼリヤやマクドナルドでダラダラと雑談を繰り返しているのだが、そういう時にこそもっとも創作のアイデアが沸き起こる。学校やギャラリーのオープニングパーティなんかで創造的な刺激を受けた経験はまったくないのだが、サイゼリヤでのミーティングはぼくにとってとても有用である。

 今回の放談でその雰囲気の幾分かが伝わればと思う。最終回はネットらしさをかもし出すために本名の代わりにハンドルネームで語り合った。

徳増憲太郎(tmkr)
1982年生 鹿児島県出身
2004年度キヤノン写真新世紀 佳作
http://john.cage.to/


撮影:tmkr

森川智之(M_orochi)
1978年生 東京都在
ビジュアルアーツ専門学校大阪
[グループ展]
2006 「めんどくさいということはなんてめんどくさいんだろう」
第26回写真ひとつぼ展 RECRUIT ガーディアンガーデン
2005 「signal-to-noise ratio」 ギャラリー・アーキペラゴ
http://morikawatomoyuki.com/


撮影:谷尾瑞枝

※特記したもの以外、文中の写真はすべて徳増氏と森川氏の撮影による作品です。


Web写真界隈とは何だったのか?

uzi 今回でインタビュー篇は終わりなんだけど、それらを振り返りつつ「Web写真界隈」について放談をしてみようと思います。お題は「Web写真界隈とは何だったのか?」なんだけど。

M_orochi もう終わりなんですか?

tmkr 「Web写真界隈」は悲しき玩具だと思います!

M_orochi それはtaffy( http://toshifumitafuku.net/ )のセリフじゃないですか(笑)

uzi 「悲しき玩具」っていうフレーズも、ちょっと話題になったよね。

tmkr そうですね。ネット上でもけっこう反響があって、こことか……

(みんなでPCを開いて某掲示板のコメントをのぞいてみる)

uzi へー、ここは見たことなかったな……。うわ、ひどいこと書かれてるなあ。

tmkr ここは、どちらかというと写真よりカメラに関心を持つ人が集まるところで、どのスレッドもだいたいこんな調子で辛らつなことが書かれています。コメントの数からするとそれなりに注目を集めてたんじゃないですか。

uzi 煽(あお)りコメントもあるけど、すごく真摯な意見も書かれてるね。否定するにせよ肯定するにせよ、ここまで熱い反応があるとは思わなかった。どっちかというとぼくらのほうがさめてるかもしれない。

M_orochi そうかもしれませんね。

uzi ネット上でのこれらの反応自体が「Web写真界隈」だっていう気がする。もともと「Web写真界隈」っていう言葉は、誰かが会話の中でポロっと口にしたのから始まってるんですよ。言葉の響きが面白くて便利だったからなんとなく使われ始めただけで「Web写真界隈」っていう集団を作ろうとしたわけでもないし、こういう言葉を流行らそうとしたわけでもないんですよ。


tmkr

tmkr デジグラフィ(飯沢耕太郎氏の著作のタイトル)って言葉があったけど、業界ではあれは用語としては定着しなかったじゃないですか。でも、blogとか見てると専門家じゃない人がデジグラフィという言葉を使ってたりして、言葉がひとり歩きしている感じはありますよね。

uzi みなさんにインタビューしたぼくの感想は、みんな思ったよりWebを見てないってことでしたね(笑)。連載の意図からするとこれはちょっと困った。まあ、見てないってことはないんだろうけど、ぼくがあまりにもネット見すぎなんだろうな。

M_orochi ぼくが一番見てないかもしれないですよ。

tmkr ぼくは下手したら7時間くらい見ていることありますよ。ブックマークを一通り巡回してから、もしかしたら更新されてないかと思ってもう一巡りしたり……。

M_orochi ぼくも見ているページが更新されてないか、「はてなアンテナ」をチェックする回数は、恥ずかしいくらい多いかもしれないですよ(笑)

shin1ro みんないつ寝てるんですか?(笑)

tmkr ぼくは夜バイトしている時、休憩に行って真っ暗な公園のベンチで寝てたりします(笑)。


具体的な視覚体験としてのWeb

uzi ディスプレイの見え方みたいな具体的な話があんまり出なかったですね。画質比較とかそういうことじゃなくて、プリントとは違った媒体としての液晶ディスプレイとはどういうものか、みたいな話が。

tmkr ぼくはヤマダ電器のパソコン売場で自分のWebを見るのが好きなんですよ。自宅のパソコンで見るよりきれいなんで(笑)。あと、最近16:9のアスペクト比で撮れるLUMIXを買ったんでテレビにつないで映してみたりしてます。パソコンとはコントラストや色味が変わって面白いですよ。

uzi ぼくもマンガ喫茶とかで意味もなく自分のページを見て、レイアウトとかフォントとかディスプレイガンマが違ってたりして、自宅で見るのと違った見え方になるのもそれはそれで面白い。

M_orochi でかすぎて見えへんWebとかって、あるじゃないですか。たとえば横1,600ピクセルくらいの写真だとスクロールしないと全部見えない。あれはどういうことなんでしょうか?

uzi 横1,600ピクセルくらいの写真を載せている人は、単純にその人が使っているディスプレイが横1,600ピクセルまで表示できるからじゃないでしょうか?それより大きな写真やレイアウトの場合は、スクロールさせるという意図があってやってる気がします。

M_orochi 牧野智明さん( http://www.makinotomoaki.com/ )のMosquito( http://www.makinotomoaki.com/mosquito.htm )なんかが、そうですね。

tmkr Webとかディスプレイに慣れちゃうと、たまに展覧会とかを見に行くと、ガラスケースに入れられて額装された写真が、不思議な感じに見えることがあります。映り込みが妙に気になったり……。


Web写真界隈のカメラ

M_orochi インタビューではカメラの話をもう少し聞きたかったですね。抽象的な話よりもどういうカメラで撮ってるかとか、PC上での写真の管理の仕方のような具体的な作業について聞くほうが、その人の写真をより理解できる気がします。たとえば写真家の山内道雄さん( http://www.michio-yamauchi.com/ )に個展会場で何mmのレンズで撮っているかお聞きしたことがあるんですよ。広角レンズでものすごく寄って撮ってるらしいんですよ。どう見ても社交的とは思えない山内さんが、路上で見知らぬ人の顔のそばにカメラを近づけてシャッター切って、しかも2回シャッター押すこともあるらしいんですよ。「だって撮りたいんだから仕方がないじゃない」って、それ聞いて「この人は普通じゃないなあ」と思いました。

shin1ro Web写真界隈の人は、あまりコンパクトデジカメを使わないような印象があるんですけど。

tmkr ぼくは以前はD70だったんですけど、最近これ(LUMIX DMC-LX1)買ってみました。アスペクト比を簡単に変えられる点とか、持った感触がいいとかっていう理由もあるけど、それよりもなんか理屈抜きに気にいっちゃって。「あ、欲しいな」って思った初めてのコンパクトデジカメですね。

M_orochi ぼくは以前はコンパクトデジカメも使ってたんですけど、一眼レフタイプにくらべると華奢で、扱いに気を使う必要があるところが使いづらかったです。

uzi ぼくはもともとスイバル式(レンズ部分が回転する方式)のカメラが好きだったので、今でもコンパクトデジカメに関心はあるけど、カメラにはこだわらないですね。サイバーショットでもD100でもEOS-1D Mark IIでも何で撮っても、強引にねじふせて自分の写真になっちゃうから、カメラはなんでもいいです。

tmkr ぼくはコンパクトデジカメ使ったのは初めてなんで、ファインダーじゃなくて液晶ディスプレイを見ながら撮ったり、そのディスプレイを再撮影したりするのが面白いんですよ。


tmkr

uzi まあ、そういった細かい差異を挙げていくと、数限りなく違いはありますね。コンパクトデジカメはシャッターの音が小さいというメリットもあると思うけど……。

tmkr でも、LX1は意外と音が大きいんですよ。ほら。(シャッターを切る)

一同 それはサンプリングされたシャッター音が鳴ってるんだよ(笑)

tmkr え、でも設定でOFFにしたはずなんだけどな……。あれ、あOFFになってなかった(笑)。(シャッターを切る)そうか、道理でさっき赤塚の商店街でスナップしている時やけにシャッター音がうるさく感じたわけだ……。

shin1ro リコーのGR DIGITALが人気で、そのユーザーたちによる一種のカルチャーのようなものがありますが、Web写真界隈的でよく使われているカメラってありますか?

uzi 実際のシェアに比べるとD70が多い印象はあるかも。ぼくはD100だけど、ここにいる3人をはじめ、界隈の人が顔合わすと多くの人がD70を首から下げて、しかも三脚に取り付けるためのクイックシューをつけっ放しのとこまで同じで、なんか笑っちゃいました。

M_orochi ぼくがD70買ったのは、単純に価格的な理由でした。

tmkr ぼくはバイト先をいきなりクビになってしまい、予告なしの解雇は不当だと訴えて支払ってもらった1カ月分のバイト代でD70を買いました。

uzi taffyはギター売ってD70買ったんだよね。やっぱり価格って重要な購入基準だから、おのずとD70がWeb写真界隈でシェアを得るっていうのは面白いと思いますね。これしか買えるカメラがなかったからこれにした、っていうので良いと思うんですよ。

tmkr 実はLX1を使っている人ってけっこう多いんですよ。たとえば増山美穂さん( http://www.ms8m.org )、北山勝寿さん( http://kp4.jp/ )、植本一子さん( http://d.hatena.ne.jp/ichikouemoto/ )、高橋明洋さん( http://www.interq.or.jp/yellow/takihi/index.html )たちは多分使ってるんじゃないでしょうか。

uzi へー、なんかぼくも欲しくなってきた。

shin1ro LX1がWeb写真界隈の標準カメラみたいになってますね(笑)


M_orochi

uzi 使ったことはないけどGR DIGITALは画質とか使い勝手なんかはきっと優秀なカメラだろうと思います。フィルムカメラのGR1は使ったこともあるんだけど、プロダクトデザインとしての造型や仕上げはセンス良いなと思う。ただ、ぼくはGR DIGITALにはあんまりそそられないんですよ。個人的な好みだけど、ぼくは安っぽいプラスチックボディで使い込まれてボロボロになった上にシールがベタベタ貼られたデジカメなんかにかっこよさを感じます。「持つ喜び」なんかとは無縁で使い捨てられていくデジカメのほうが好きですね。LEGOみたいな鮮やかな発色のプラスチックボディのコンパクトデジカメがあったら、欲しいんだけどな。


Web写真界隈の女性

shin1ro 連載8回のうち、女性が登場したのは2人だけですよね。

uzi ほんとうはもう少し多くの女の子を取材したかったのだけど、日ごろ見ている女の子の写真サイトをあらためて検討してみると、今回の連載の趣旨から外れてしまうものが大半だったんですよ。

tmkr 連載の趣旨というのは?

uzi 簡単に言っちゃうとWebサイトに「言葉」があるかどうか。Webを単なる写真のポートフォリオとして使うだけではなく、blogなどで自分なりの言葉で何かを言っている、そういうサイトを紹介したかったのです。かならずしも言葉じゃなくてもいいんだけど、写真以外の要素が含まれたサイトに興味をひかれるから。

tmkr blogやってる女の子って多そうな気もしますけど。

uzi 写真の質が高くて、blogで面白いことを書いている人は見つけられなかったな。女の子は個人情報をネットにさらすのを嫌がるからかなあ。


tmkr

shin1ro Webに言葉が必要というのはなぜなんですか?

M_orochi ぼくの場合はWebを多くの人に見てもらいたいから、アクセスを呼び込むためのきっかけとして言葉は必要だと思っています。

uzi そもそも写真にとって言葉は異物だと思うんですよ。でも、異物としての言葉をWeb上で写真と混在させることで、小さく閉じてしまいがちな写真の殻を破るというか、活性化してくれるということがあると思います。

tmkr ぼく自身は言葉ってけっこう重要だと思ってるから、Webに何か書くときは何日も頭の中で文章をループさせて考えたりしてますね。といっても写真論みたいなことを書きたいわけじゃなくて、たとえばblogのコメントへのレスとかネタ的なことなんですけど。そういう言葉についてもデリケート(繊細)に扱いたいです。

M_orochi 佐内正史さん( http://blog.excite.co.jp/sanai/ )の「シャンプー・リンス」という本は、言葉のスナップみたいな感じで、blogチックなところもあると思うんです。文脈から外した言葉を並べたところが、文脈から外した写真と似たところもあって……。あと尾仲浩二さん( http://onaka.mods.jp/ )も「後書きのある写真集が好きだ」って言ってますよね。これってWebに言葉が欲しいというのと似てるんじゃないでしょうか。

tmkr 見る人にとって、言葉ひとつで写真が変わってしまうこともあると思うんです。それと言葉をWebに書くことによって、自分の考えを確認したりしたいと思っています。

M_orochi 山田大輔さん( http://www1.odn.ne.jp/~caa31720/ )のインタビューがアップされたら、山田さんご自身が自分のblogで記事についてコメントしてましたね。ちょっと反省めいたことを書かれていて驚いたんですけど。

tmkr 記事に対するそのようなリアクションがすぐ起きるのもWebっぽい気がします。

uzi 山田さんへのインタビューは、メッセンジャーとメールを使ってやったんですよ。ぼくにとっても最初のインタビューで未熟だったから、ちょっと硬くなったかもしれません。個人的に機会があったら、山田さんにはもう1度インタビューしたいです。

tmkr 山田大輔さんもそうだけど、川鍋はるなさんのサイト( http://homepage.mac.com/harunakawanabe/ )もあんまり知られてなかったんじゃないですか? どこにもリンクされていなかったから。

uzi そうかもしれないですね。川鍋さんのWebサイトを広く紹介したいという動機は確かにありましたね。知られていないのはもったいないから。


M_orochi

※来週木曜日(6月8日)掲載の後編に続きます。




内原 恭彦
(うちはら やすひこ)1965年生。東京造形大学デザイン科中退。絵画やCGの制作を経て、1999年から写真を撮り始める。
2002年エプソンカラーイメージングコンテストグランプリ受賞、2003年個展「BitPhoto1999-2002」開催、2003年写真新世紀展年間グランプリ受賞、2004年個展「うて、うて、考えるな」開催
http://uchihara.info/

2006/06/01 01:00
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