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【新製品レビュー】アドビ Photoshop CS3 (その2:Camera RAW編)

~より使いやすくなった汎用RAW現像プラグイン
Reported by 野下義光

Photoshop CS3とともに新しくなったCamera RAW。JPEGやTIFFも処理できるようになった(モデル:川上セイラ)
 定番フォトレタッチソフトPhotoshopが「Photoshop CS3」へリニューアルされるに伴い、プラグインとして内蔵されているRAW現像ツールの「Camera RAW」もリニューアルされました。

 今回は筆者が慣れ親しんでいるキヤノン純正の現像ソフト「Digital Photo Professional」(DPP)との比較を交えながら、新しいCamera RAWの機能を紹介します。

 なお、試用した環境は、Ahtlon 64 X2 Dual Core Processor 5200+ 1.8GHz、DDR2-SDRAMメモリ4GB、SATA7,200rpmの3.5インチHDD、OSはWindows XP。Camera RAWのバージョンは4.0です。


起動は簡単

 Camera RAWの起動はいたって簡単です。方法はいくつかありますが、あらかじめPhotoshop CS3を開いておき、アプリケーションウィンドウに現像したいRAWのファイルをドラッグ&ドロップすれば、後は自動的にCamera RAWが起動してRAWデータが開きます。Mac OS Xの場合は、Photoshop CS3のアイコンにRAWファイルをドロップすることで、Camera RAWが画像を展開します。

 そのほか、RAWファイルを右クリックして「プログラムから開く」を選び、Photoshop CS3を選択すれば、Photoshop CS3の起動と同時にCamera RAWも開きます。また、Bridge CS3からのダブルクリックや、「Camera RAWで開く」を選択する方法もあります。

 調整項目は、ヒストグラム表示下のアイコンから呼び出します。アイコンは各Camera RAW 3.7までのタブに相当するもので、左から「基本補正」、「トーンカーブ」、「ディテール」、「HSL/グレースケール」、「明暗別色補正」、「収差補正」、「カメラキャリブレーション」、「プリセット」。ホワイトバランスや露出補正といった基本的な調整項目は、基本補正にまとめられています。

 Camera RAWで開いたことのないRAWファイルを開いてみました。このとき、撮影時に縦横情報を記録した写真なら、Camera RAWが縦横を自動で判別して表示します。もちろん、開いた後に手動で縦横を回転させることもできます。


まずは開いた画面。画像サイズは画面サイズ(ビューサイズ)に合った状態で表示された(モデル:松本あやか)
拡大率を50%に変更。ビューサイズ以外に6%から400%まで10段階の拡大縮小が可能

 ホワイトバランス(以下WB)は「撮影時の設定」になっていますが、キヤノンEOS-1D Mark IIの撮影時のWBが太陽光の場合、「色温度」と「色かぶり補正」はそれぞれ「5100」、「-2」となります。これはCamera RAW自身が、それぞれのカメラでの設定を自分なりに解釈した数値だと思われます。黒レベル、明るさ、コントラストも各値が0ではなく、どんなRAWファイルでも決まった初期値が適用されるようです。

 画面で赤く塗りつぶされている部分(背景の花など)は白トビ警告、青く塗りつぶされている部分(耳の上の髪の毛)は黒ツブレ警告で、ヒストグラムの上の△をクリックすることで、白トビ、黒ツブレ表示を別個にON・OFFできます。

 白トビはRGBの各値がひとつでも255に達した場合、つまり色飽和した場合から表示されます。黒ツブレは白トビとは異なり、RGBの各値全てが0になった状態のみ表示されます。この白トビと黒ツブレの表示の設定は非常に実用的だと思いました。写真を仕上げる際にハイライト側はギリギリまで階調を保ちつつ、シャドウ側はつぶすべき部分は完全につぶしてメリハリをつける。かつて銀塩プリントの暗室作業で目標としていた仕上がりをデジタルでもほぼそのまま追い求めていますが、Camera RAWの白トビと黒ツブレの表示は、筆者にとって具体的な目安になります。

 画像のサイズ最初は画面サイズに合わせられた拡大率で表示されますが、他に6%から400%まで10段階の拡大縮小が可能です。


微細な色かぶりに対応する「ホワイトバランス」

 基本補正に含まれる調整項目は、「ホワイトバランス」、「露光量」、「白とび軽減」、「補助光」など。代表的な機能を順に説明します。

 ホワイトバランスは色温度と色かぶり補正の2つで構成されています。色温度は2,000Kから50,000Kまで非常に幅広い設定ができます(DPPは2,500~10,000K)。色かぶり補正は撮影時に用いるゼラチンフィルターのCCフィルター的な役割(色温度はLBフィルター的)で、色調をマゼンタ寄り、グリーン寄りに変更できます。DPPにも同等の機能がありますがCamera RAWの方がより広い設定範囲を持ち、微細な変更も可能です。

 色温度、色かぶり補正とも個別にスライダーを左右に動かして設定するほか、数値をダイレクトに入力することができます。他にプリセットで昼光、曇天など6種類と、さらに画像を解析した自動(オートホワイトバランス)があります。プリセットは色温度と同時に色かぶり補正を行なう設定もあり、単なる色温度変換だけではなく、色調も同時に整えている様子です。

 特にやり方は決まっていませんが、筆者の場合は、色かぶり補正は0のままで、色温度を変えて最も気に入る色調を探し、さらに色かぶり補正で微調整を行っています。


プリセットの昼光に設定。白トビ・黒ツブレ警告は、全ての設定変更の都度書き換わる

「露光量」は計8EV

 撮影時の露出を変更した場合と同等の変化が得られます。-4EV~+4EVまで0.01EV単位で設定ができます。ちなみにDPPは-2EV~+2EV。Camera RAWより少ないですが、実用上は十分でしょう。

 あくまでRAWの持つダイナミックレンジの範囲を超えることはできないので、補正し過ぎると白トビ、黒ツブレが現れます。また撮影時の露出がオーバーあるいはアンダーでRAWのダイナミックレンジを超えてしまった部分は、Camera RAWの露出補正を行なっても階調は再現されません。


-1.00EVに設定
+1.00EVに設定

全体のバランスを崩さない「白トビ軽減」

 新しく設けられた機能です。階調を必要とする部分(ポートレートだと肌など)は、RGBの各値が255に達しないことが必要ですが、ホワイトバランス、露光量、彩度などを調整し、好みの色調に仕上げようとすると、どうしてもRGBのどれかが(ポートレートでは特にRが)255に達してしまうことがあります。このような場合、従来では色調を妥協して飽和が起こらない範囲に留めるか、あるいはトーンカーブを駆使して飽和しないように調整するかでした。もちろん妥協はしたくありませんし、かといってトーンカーブでの調整は複雑で、時間も要します。

 今回設けられた白トビ軽減は、スライダーをスライドさせるだけで、白トビした部分を白トビしていない状態(RGBの各値が255未満で階調が再現されている)にするものです。またこの機能の素晴らしいところは、白トビ軽減を行っても画像全体のバランスを大きく崩さない点です。高度なトーンカーブ調整の技が誰にでも簡単に行なえる感じです。


露光量を+側に調整したため、肌が白トビ(色飽和)を起こしてしまった
白トビ軽減のスライダーをスライドさせると自動的に白トビ(色飽和)が消える。必要以上にスライドさせると画像が若干眠くなるので、階調を必要とする部分の白トビが消えるポイントで留めた

レフ板を使ったかのような「補助光」

 これも新機能です。読んで字のごとく補助光を当てたような効果が得られます。ライティングの基本がわかっている方なら容易に理解できると思いますが、オリジナルの画像がメインの照明と考え、画面全体にメインの照明と同質の補助光を当てたようになります。

 つまりシャドウは補助光が効いて明るくなり、もともと明るいハイライトは補助光の効果が薄く、シャドウほどの影響はありません。シャドウを中心に、レフ板で補ったようなライティングにすることができました。


補助光0の状態
補助光20。ハイライトよりもシャドウの方がより明るくなっている

黒レベル、明るさ、コントラスト

 トーンカーブを駆使してやっと行なえる作業が、スライダーの操作のみで行えます。Photoshopでも似たような機能がありますが、RAW現像時に行なう方が画像の劣化を抑えられます。


黒レベルでシャドウを引き締め、明るさとコントラストを好みの状態に調整した

使いやすい「自然な彩度」

 彩度調整は、従来の「彩度」に「自然な彩度」が新設され2種類になり、それぞれ別個に調整できます。自然な彩度は元画像の彩度が高い部分は大きく、彩度が低い部分は控えめに調整される様子で、文字通り自然な彩度調整が行なえます。これは従来ではほとんど不可能だった調整内容です。誰でも簡単に、より理想に近い彩度調整が行なえるでしょう。

 また、「グレースケール」のチェックボックスをクリックすると、モノクロになります。このモノクロ画像と彩度を-100にしてモノクロにした画像をPhotoshop上に展開し、レイヤーで重ねて「差の絶対値」で検証しましたが、違いは発見できませんでした。つまり、基本補正のグレースケールは、単に彩度を落としただけのモノクロ化のようです。

 彩度を落として造ったモノクロ画像は眠い画像になりがちで、筆者はこの手法を使いません。一時的に雰囲気を見る程度の機能なのでしょう。後述する「HSL/グレースケール」を使えば、レッド、オレンジ、イエローなどの値を調整したモノクロ化を行なえます。


彩度の調整なし 「彩度」+70。肌の彩度が上がり過ぎた

「自然な彩度」+70。肌の彩度はあまり上がらず、背景の海の彩度が大きく上がった

基本補正における「自動」とは

 露光量、白トビ軽減、補助光、黒レベル、明るさ、コントラストを統合させた自動処理が行なえます。この機能はホワイトバランスの設定と連動しており、ホワイトバランスを変化させると自動で処理される設定も異なってきます。しかし、さまざまな画像を試したしたものの、個人的に気に入る状態になることがなかったのは残念です。

 なお、Photoshop CS2のCamera RAWでは、露光量・シャドウ(黒レベル)・明るさ・コントラストがそれぞれ別個に自動処理が選択できました。いずれにしても完全に気に入る処理にはなりませんが。

 なお、DPPにも画像を最適に補正する「トーンカーブアシスト」という機能がありますが、こちらは筆者が自力ではたどり着けないような、好みの仕上げになることが多々あるので時々活用しています。自動設定には各社の考え方が出る部分。今回のバージョンでは、筆者の主な撮影ジャンルであるポートレート以外の被写体に向いているのかもしれません。


初期設定のまま
「自動」を施す ホワイトバランスを変えると、ほかのパラメーターも変わる

高度な調整が簡単にできる「パラメトリックトーンカーブ」

 トーンカーブには従来の「ポイント」に加えて、「パラメトリック」が新設されました。用意されたスライダーを左右に動かすことでカーブを調整する仕組みで、従来扱い辛かったトーンカーブを、より簡単にかつ高度に調整することができます。今までトーンカーブは苦手という人や初心者でも扱えると思われます。またベテランでも時間がかかっていた調整を、より短時間で行なえるでしょう。

 調整項目は、「ハイライト」、「ライト」、「ダーク」、「シャドウ」の4種類。これらをスライドさせると、滑らかなトーンカーブを自動的に描いてくれます。さらにトーンカーブ図下の△をスライドさせると、各スライダーで調整される範囲を変えることができます。

 この機能は展開後のPhotoshop CS3上にはありません。今回からCamera RAWでJPEGやTIFFを扱えるようになったので、JPEGで撮った画像やほかの現像ソフトで現像したTIFF画像もCamera RAWで開き、積極的に使いたくなりました。


トーンカーブ調整前の画像 「ハイライト」を調整。ハイライトを強調するトーンカーブがスライド量に応じて作られる

「ライト」を調整。ハイライトよりも広い範囲の明暗が調整される 「ダーク」をスライド。ライトに比べてシャドウ寄りの広い範囲が調整される

「シャドウ」をスライド。シャドウを強調したトーンカーブになる トーンカーブ下の△をスライドさせると、横軸の調整幅を指定できる。結果として得られるトーンカーブも変化する

4種類のスライダーと3つの△の全てを自由に設定。その結果、ひとつの滑らかなトーンカーブが生み出される

細かい調整が可能になった「HSL/グレースケール」

 色相、彩度、輝度を調整する機能。従来の「色調補正」タブに相当します。色相については、レッド・グリーン・ブルーの3種類にオレンジ・イエロー・アクア・パープル・マゼンタが加わり、計8種類になりました。また輝度が加わることで調整内容が3種類となり、従来よりも大幅に調整できる内容が増えました。

 色相・彩度・輝度はそれぞれ独立して調整ができ、またそれぞれの効果も重複します。今回の作例では海を極端に変化させましたが、それぞれを最適に調整すれば自分好みの色調を作りだせることでしょう。


初期設定の状態。従来より調整できる色が大幅に増えている 色相タブで「アクア」を-100に。海の色が大きく変化した

彩度タブで「アクア」を+100に。海の彩度が上がる 輝度タブで「アクア」を+100。海が明るくなる

「アクア」をそれぞれ色相-100、彩度+100、輝度+100にした状態。海の雰囲気が大きく変わった

ゴミとり機能を新搭載

 今回のCamera RAWからは、「コピースタンプツール」で撮像素子のゴミを消すこともできます。RAWの状態でゴミを消しておけば、Photoshopに展開後に作業する必要もありません。また現像設定を変えてあらためて仕上げる場合も、RAWでゴミを消しておけば二度手間にならないでしょう。

 コピースタンプはコピーすべき場所を自動的に判断してくれます。もしその場所が適切ではなかったら簡単に手動で場所を変えることもできますが、自動で示されるポイントが高確率で的確なので、あまりその必要も感じませんでした。これはPhotoshop上のコピースタンプには無い機能なので、デジタル一眼レフカメラで撮影したJPEGやTIFFもCamera RAWに展開して、この機能を使う方が便利だと思います。


ゴミとりは、ゴミが目立つような設定にしてから行なうとわかりやすい。ゴミを取った後に現像設定を変えても取ったゴミが現れることはない

旧Camera RAWとの画質比較

 最後に、Photoshop CS2までのCamera RAW 3.7と、Photoshop CS3からのCamera RAW 4.0で、現像された画像に違いはあるのかを検証してみました。同一のRAWで現像設定も共通としています。

 結果は、肉眼では大きな差を見出すことはできませんでした。しかしレイヤーで2つの画像を重ね、差の絶対値で見てみるとわずかながらに差があります。JPEGでもPSDでも結果は同じでした。完璧に一致はしないが実用上はほとんど同一と言えるだろう、と筆者は結論付けます。


Photoshop CS3(Camera RAW 4.0)で現像した画像 Photoshop CS2(Camera RAW 3.7)で現像した画像 2つの画像をレイヤーで重ね、差の絶対値で統合した画像

 次回はPhotoshop CS3本体のうち、筆者が注目する新機能を紹介します。

写真協力:チャーム(http://www.charmkids.net/)



URL
  アドビ
  http://www.adobe.com/jp/
  製品情報
  http://www.adobe.com/jp/products/photoshop/pscs3/

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野下義光
(のしたよしみつ)熊本県生まれ、千葉県育ち。国立木更津工業高等専門学校機械工学科卒業後、エンジニアとして大手コンピューター会社に5年勤務。その後、夢を捨てきれず写真界へ身を投じる。現在ジュニアアイドルを中心にWeb、DVDジャケ写などで活躍中。フルデジタルの写真集も多数手がけている。趣味はネットオークション(笑)

2007/07/03 00:00
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