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【新製品レビュー】キヤノン PowerShot A710 IS

~カメラらしい充実の撮影機能に光学式手ブレ補正をプラス
Reported by 小山 安博

 高倍率ズーム機の「PowerShot S」シリーズ以外で、キヤノンが初めてコンパクトデジカメに光学手ブレ補正(IS)を投入したのが「IXY DIGITAL 800 IS」だった。それ以降、それまでの沈黙がウソのようにコンパクトデジカメへのIS搭載を続けているキヤノン(ちょっと言い過ぎか)が、普及価格帯の「PowerShot A」シリーズにもISを積んできたのが今回紹介する「PowerShot A710 IS」。

 薄型でコンパクトなスタイリッシュデジカメとは一線を画すAシリーズに、ISの利便性が追加された注目のモデルだ。


小さいながらも大きなデザインの変更

 本体のほぼ中央にある大型のレンズ、小さいながらもグリップを用意し、オートでの撮影からマニュアル撮影まで対応する万能カメラがAシリーズだ。米国などではこうしたカメラらしいデジカメが人気といわれているが、その例に漏れず、Aシリーズは海外でよく売れているらしい。





 オールドタイプのカメラライクな筐体は、本体サイズが97.5×41.2×66.5mm(幅×奥行き×高さ)、約210gと決してコンパクトではないが、グリップもあることで持ちやすく、構えやすい。窮屈ではあるがレンズの下に右手を添えてしっかりと両手で構えることもできる。

 レンズのほぼ真上には光学ファインダーもあるので、銀塩コンパクトカメラからデジカメに乗り換えようというユーザーやカメラっぽい使い方をしたいユーザーにも適していそうだ。

 兄弟モデルのPowerShot A700に比べると、全体的なデザインは変わっていないが、両肩がなで肩になり、カラーリングが濃いグレーになってより精悍なイメージでいい感じ。

 背面のデザインも変更なし。ボタンレイアウトもまったく変更がないので、よほどA700は好評だったのだろうか。背面右肩にモードスイッチ、中央やや下の位置に中央ボタンと一体化した円形のボタン、その四方に露出補正やイージーダイレクトボタン、ディスプレイボタン、メニューボタンが配置される。中央のボタンはファンクション/セットボタンだ。

 背面の液晶モニターも、これまでと変わらず2.5型低温ポリシリコンTFT液晶を採用。画素数も変化なく約11.5万画素。

 本体上部にはズームレバー一体型のシャッターボタンとモードダイヤル、電源スイッチを配置。A700比でちょっとデザインは変わっているが、微調整のレベルだ。

 デザインに関してはマイナーバージョンアップだが、カメラの顔つきはよくなったと思う。この辺はうれしい変更だ。


強力なISとISO800で、手ブレと被写体ブレを防ぐ

 撮像素子は現在の主流である1/2.5型有効約710万画素CCDを搭載。A700は同サイズで有効約600万画素のCCDを積んでいたから1画素がさらに小さくなった計算。

 レンズは35mm判換算で35~210mmの光学6倍ズームで、F値はF2.8~4.8。非球面レンズ1枚を含む7群9枚構成、撮影距離が通常で55cm~∞、マクロが1~55cmと、レンズスペックはA700と変わっていない。

 大きな違いは新たにISを搭載したこと。レンズの一部が動くレンズシフト式の手ブレ補正で、効果はシャッタースピード換算で約3段分だという。常時動作する「入」、レリーズの瞬間だけ動作する「撮影時」、上下方向の手ブレのみ補正する「流し撮り」の3種類のモードが用意されている。とはいえ、モード変更はメニューから選ばなければいけないので、頻繁に変更するのはちょっとおっくうだ。


光学6倍と使い勝手がいいうえにISもついたのだから便利 手ブレ補正の設定はメニューのずいぶん下の方にある

 ISを常時動作にしておくと、液晶画面が「ぬめ~」という感じで動くのでISが動作しているのがよくわかる。シャッタースピード3段分の補正効果は十分。

 光学手式ブレ補正に加えてもう1つの最近の流行が高感度。キヤノンはもともと高感度の画質に定評があり、強力なISとセットで使えば手ブレと被写体ブレにはかなり効果的だ。

 ただ、今回も高感度対応はA700と同じISO800まで。ISO1600~3200までカバーするデジカメがある中、ちょっと物足りないところだが、映像エンジンの「DIGIC II」ではISO800が限界だということなのだろう。ただISO800の画質は結構良好なので、その点はうれしい。

 本体上部の電源ボタンを押すと2秒弱ほどで撮影可能になり、AFスピードや撮影間隔などのレスポンスはさすがに十分。

 撮影はオートとシーンモード、そしてプログラム、シャッター速度優先、絞り優先、マニュアル撮影にも対応。本体上部のモードダイヤルで設定する。

 シャッター速度優先(Tv)/絞り優先(Av)時は十字ボタンの左右でシャッタースピードや露出補正ができ、マニュアル時は左右でシャッタースピード、露出補正ボタンを押してから左右で露出補正となる。一眼レフカメラのような使いやすさというわけにはいかないが、操作性はわかりやすいので十分使う気になる。


露出補正用に単独でボタンが用意されているのはありがたい マニュアル撮影時のインターフェイスはわかりやすい

ファンクションボタンは伝統的なキヤノンのインターフェース。目新しさはないが、1度慣れればどのモデルを使っても同じように使える
 基本的な撮影設定はキヤノン製カメラでおなじみのファンクションボタンを使う。インターフェイスはいつも通りで、初めて使う人でもそれほど迷うことなく使えるだろう。

 ファンクションボタンを押して現れる撮影設定画面では、ISO感度に用意された「高感度オート」が便利な部分。最近のキヤノンのデジカメで使えるようになった機能で、通常のISO感度オートは極力感度を上げないようにしているのに対し、高感度オートでは状況に応じてISO800まで感度を上げてくれるので、いちいち感度を変えなくてもよくなる。


 基本的な撮影設定は、A700と同等。シーンモードに「水中モード」が追加されたところが新しい。

 これ以外の新機能だと、画面中央部を切り出して擬似的にズームする「セーフティズーム」と「デジタルテレコン」が搭載されている。通常のデジタルズームは、画面中央部を切り取って、そのとき設定している解像度まで拡大するので画質が劣化する。A710の場合有効画素数が710万画素なので、最大解像度でデジタルズームを使うといきなり画質が劣化する。ところがこの解像度を300万画素に落とすと、710万画素で撮影した画像の中央部が300万画素の大きさに収まる範囲のデジタルズームであれば画質は劣化しない。そのままさらにデジタルズームをすると中央部が300万画素以下のサイズになり、それを300万画素に拡大するので画質が劣化する。セーフティズームは、解像度を落とした状態でデジタルズームを使うと、その画質が劣化する段階でいったんズームがストップする機能。ここでズームをやめれば、画質の劣化しない擬似的な光学ズームが可能になる、というわけだ。

 デジタルテレコンは、テレコンバージョンレンズを装着したときのように倍率を上げる機能。デジタルズームはテレ端でしか使えないが、デジタルテレコンはワイド端でも利用でき、1.5倍と1.9倍の2種類が用意されている。デジタルズームと同様に画面中央部を切り出す擬似的な仕組みだが、ズームに伴うF値の変動なく倍率が上げられる、というわけだ。たとえばデジタルテレコン1.9倍を使うと、35~210mmでF2.8~4.8のレンズが67~400mmでF2.8~F4.8というレンズに早変わりする。

 ちょっとおもしろいのが、撮影中の液晶モニター上に3:2の比率の範囲を示す「3:2ガイド」。普通のL判は3:2の比率だが、デジカメは4:3の比率で撮影されるため、写真の一部が切り取られる形になる。それを防ぐために、このガイドを見ながら3:2の比率で構図を考えれば、印刷されなくても支障がない、というわけだ。


撮影後にマイカラーが適用可能に

 再生は背面右肩のモードスイッチを再生側に切り替える。通常のデジカメは、再生モードに切り替えると最新の画像を表示するが、A710では、前回最後に見た画像から表示する。もちろん、前回再生した後に撮影を行なった場合は、最新の画像が表示される。

 撮影中にボタン操作で撮影画像を見ることはできないので、再生する場合はスイッチで明示的にモードを変更しなければならないのはちょっと不便な気がする。

 再生画面は、サムネイルが9コマまでで特にカレンダー表示などもない。1画面表示時に十字ボタンの上を押すと「ジャンプ機能」になり、10/100枚単位の移動、日付ごとの移動、フォルダごとの移動といった動作が可能。

 編集機能として、「レタッチマイカラー」が新しく搭載された。これは、撮影時に色味を変化させる「マイカラー」を撮影後に適用する機能。撮影時よりもじっくり色味を考えられるのでちょっと便利な機能だ。


まとめ

電源は単3形乾電池×2。出先でも簡単に電源を補充できるのはいい
 A710は、実売4万円以下ながら光学6倍ズームにISを搭載している点が最大の特徴。そうこうしているうちに、映像エンジンが「DIGIC III」に進化した「PowerShot G7」などが出てしまったが、画質やレスポンスなどの基本性能はまだまだ現役として問題のないレベル。

 低価格でもカメラらしい撮影ができ、しかもISもついて、値段の割にはぜいたくなモデルだと思う。サブカメラや最初の1台に、十分使い勝手のいいカメラだ。


ISO感度別作例


※作例のリンク先ファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。

※写真下の作例データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。なお、撮影モードは全て絞り優先AEです。

※一部の作例については、作例データの一部項目を別の行で強調表示しています。


【ISO80】
3,072×2,304 / 1/4秒 / F3.2 / 0EV / オート / 9.95mm
【ISO100】
3,072×2,304 / 1/5秒 / F3.2 / 0EV / オート / 9.95mm

【ISO200】
3,072×2,304 / 1/10秒 / F3.2 / 0EV / オート / 9.95mm
【ISO400】
3,072×2,304 / 1/20秒 / F3.2 / 0EV / オート / 9.95mm

【ISO800】
3,072×2,304 / 1/40秒 / F3.2 / 0EV / オート / 9.95mm

 ISO400までは常用、ISO800でも結構積極的に使ってもいいと感じる画質。もちろんノイズは多いが、解像感の低下が少なく、色味も正確だ。それはともかく、いつのころからかキヤノンは、ExifのISO感度をメーカー独自領域にしか記録しないようになっている。純正ソフトではもちろん閲覧できるが、一部の画像閲覧ソフトではISO感度が確認できないものもある。ISO感度オートの時にどのぐらいの感度になったかがわからないのもどうかと思う。


デジタルテレコン作例

【ワイド端】
3,072×2,304 / 1/160秒 / F4 / -0.67EV / ISO80 / 太陽光 / 5.8mm
【テレ端】
3,072×2,304 / 1/60秒 / F4.8 / -0.67EV / ISO80 / 太陽光 / 34.8mm

【デジタルテレコン1.5倍】
3,072×2,304 / 1/60秒 / F4.8 / -0.67EV / ISO80 / 太陽光 / 34.8mm
【デジタルテレコン1.9倍】
3,072×2,304 / 1/60秒 / F4.8 / -0.67EV / ISO80 / 太陽光 / 34.8mm

 今回はテレ端でのデジタルテレコンだが、どのズーム位置でもテレコンを使うように画角を変更できる。とはいえ、普通のデジタルズームではある。


一般作例

3,072×2,304 / 1/60秒 / F4.8 / -1EV / ISO80 / 太陽光 / 34.8mm 3,072×2,304 / 1/125秒 / F4.0 / 0EV / ISO80 / 太陽光 / 5.8mm

3,072×2,304 / 1/13秒 / F2.8 / -1EV / ISO80 / 太陽光 / 5.8mm 3,072×2,304 / 1/160秒 / F4.0 / 0EV / ISOオート / オート / 5.8mm

3,072×2,304 / 1/50秒 / F3.2 / 0EV / ISOオート / オート / 8.34mm 3,072×2,304 / 1/100秒 / F3.5 / 0EV / ISO80 / 太陽光 / 13.16mm

3,072×2,304 / 1/40秒 / F3.5 / 0EV / ISO80 / 太陽光 / 17.5mm 3,072×2,304 / 3.2秒 / F6.3 / 0EV / ISO80 / オート / 5.8mm


URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/camera/powershot/a710is/index.html

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小山 安博
某インターネット媒体の編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、音楽プレーヤー、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、音楽プレーヤー、PC……たいてい何か新しいものを欲しがっている。

2006/10/12 01:14
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