2005年春から登場した薄型筐体シリーズ「COOLPIX S」の最新モデル。S6は3型液晶モニター、無線LAN、スライドショー作成機能「ピクトモーション」などを盛り込んだ機種で、姉妹機として無線LAN非搭載の「COOLPIX S5」も発売中。ここでは無線LANを内蔵した上位機種「COOLPIX S6」を試用した。
基本スペックは、撮像素子に1/2.5型有効画素数600万画素のCCD、3倍ズームニッコールEDレンズを搭載。焦点距離5.8~17.4mmで、35mm判換算にすると35~105mm相当の撮影画角となる。明るさはF3~5.4。
通常の撮影範囲は30cm~無限遠だが、マクロモードにするとズーム中間で4cmまで接近できる。中間といってもズームが固定されてしまうわけではなく、焦点域が最接近できる範囲にくると、マクロを示すチューリップマークがグリーンに変わる。他社はマクロにするとそのまま最短撮影範囲が決まるのだが、ニコンは自分でズームして持っていく必要がある。
その代わり一定のズーム範囲で最短4cmのマクロ撮影が可能なので、「ワイド寄りでピントを合わせやすくする」、「テレ寄りのところで拡大率を稼ぐ」など使い分けも可能である。さらに、4cmから無限遠までピントが合うのは便利だ。しかし背景にピントが抜けてしまう可能性もあり、合焦範囲を限定してくれたほうが実用的に感じる。
S6はISO感度が400までしか増感できず、最近の高感度トレンドからすると物足りない。もっとも、シャッタースピードが最高1/500秒のため、あまり増感すると絞りきれないケースが出てくるのだろう。
3型の液晶モニターは広視野角TFT液晶で、約23万画素、輝度調節付き。格子線表示も可能だが、線が太すぎてうるさい印象だ。記録媒体は内蔵メモリ約20MBと、SDメモリーカード。相互にコピーもできる。
電源はリチウムイオン充電池「EN-EL8」で、付属のACアダプタからクレードル経由で充電を行なう。撮影枚数はCIPA基準で200コマ。ただ無線転送などを行なっていると結構バッテリーを消費する。本体重量は140g。筆者実測の撮影時重量は約160gである。
■ ユニークな仮想モードダイヤル操作
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右下のロータリーマルチセレクタが仮想モードダイヤルの操作に対応している
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撮影モードは、オート、アシスト機能付きシーンモード(ポートレート、風景、スポーツ、夜景ポートレート)、シーンモード(パーティー、海・雪、夕焼け、トワイライト、夜景、クローズアップ、ミュージアム、打ち上げ花火、モノクロコピー、逆光、パノラマアシスト)から選択できる。
シーンモードを使うには、MODEボタンで仮想のモードダイヤルを呼び出す。アシスト機能付きシーンモードはここに直接割り振られているのでそのまま選択すればよい。アシスト機能とは、たとえばポートレートを選択し、MENUボタンを押すと人物左・人物右・ウエストショット・ツーショット・縦位置といったサブメニューが出てきて、「その場合はこういう構図で撮りなさい」と教えてくれるもの。通常のシーンモードは、仮想のモードダイヤルからSCENEを選び、その後MENUボタンでシーンモードのメニューを呼び出して選択する。
なお今回もそうだが、ニコンのプログラムラインはいつも絞り込み気味だ。フイルムのコンパクトは被写界深度が狭かったため、絞る必要があった。しかし、デジカメでは開放でもピンボケのリスクは小さい。そろそろ考えを変える必要があるだろう。
操作系で気になったのは、ズームレバーが小さくて引っかかりが少ないこと。軽く触れるだけで操作できるが小さいので頼りない。指先では滑る感じで、決して堅くはないのだけれど、爪に引っかけて操作したくなる。ズームはシャッターの次に多く使う操作だから、もう少し配慮がほしいところだ。
コンパクトデジカメで撮影する上で、筆者がもっとも気にするのが露出補正の行ないやすさである。なぜなら、どの機種もデジタル一眼レフカメラに比べてラチチュードが狭く、フルオートでよい結果が得られる場面が限られているからだ。
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操作系の基本となる仮想モードダイヤル
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再生モードの仮想モードダイヤル
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シーンモード一覧
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露出補正メニュー
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その点、S6は面倒にできている。まずMENUボタンを押し、現れた撮影メニューのうち「露出補正」を選ぶ。これは前回選択した項目が自動的に選択されており、電源を切っても記憶されている。
露出補正にカーソルを合わせてOKボタンを押すと、補正モードに入る。バーが表示されるので、上下ボタンで1/3ステップの補正値を選ぶ。選んだら、必ずOKを押して決定する必要がある。決定すると撮影メニューに戻る。さらにMENUボタンを押して撮影状態に戻る。0.3EVの補正をかけるのに5回の操作を強いられることになる。そしてまた元に戻すのに5回分の操作が必要だ。また、メニュー表示から、あるいは再生表示からシャッター半押しで撮影状態に復帰しない。ここまで操作に手間がかかる機種は、ニコン以外で少ないのではないだろうか。
連写機能は、通常連写が約2.2コマ/秒、1画面中に16コマ記録するマルチ連写、インターバル撮影機能がある。マルチ連写は顔写真などのシールを作るときに便利。またインターバル撮影はなかなか面白い。撮影間隔を30秒、1分、5分、10分、30分、60分から選択できる。
以前はいろいろなデジカメで当たり前のように装備されていたインターバル撮影機能だが、最近ではあまり見かけなくなった。使う可能性がある人は、チェックしておきたい。インターバルで夕日の沈むところや花の咲くシーンを撮り、ピクトモーションでスライドショーを作成するというのも良さそうだ。
■ 最初の設定が難しい無線LAN
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ワイヤレスプリントアダプタ「PD-10」
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COOLPIX S6の無線LAN機能は2005年発売の「COOLPIX P1」などと同じで、IEEE 802.11g/bに準拠したもの。機能的にも大きな変更はない。今回はオプションのワイヤレスプリンタアダプタ「PD-10」を使い、S6からのダイレクトプリントを試してみた。PD-10は実売6,000円程度。PD-10は単三電池2本で駆動、セッティングはUSBケーブルをプリンタのPictBridge端子(平型のUSB Aコネクタ)に接続するだけである。
さて、PD-10を購入して、まずとまどったのが、取扱説明書の対象がP1などのため、S6での設定がわからなかったこと。たとえば、接続するには「カメラのモードダイヤルをワイヤレス転送モードに合わせるように」などとある。しかしS6にはモードダイヤルがないため、まずは転送モードを探すのに手間取った。S6には仮想のモードダイヤルを呼び出すMODEボタンがあり、ここに転送モードが含まれている。当初は再生モードで転送設定を探していたため、予想以上に手間取ってしまった。
実際のところ、大部分のデジタルカメラ、特にコンパクト機は、取説を読まなくてもほとんど困らない。後から念のため要所のチェックはするが、その程度で十分なのだ。S6に関しても転送の設定が再生モードにあれば、取説で探す必要はなかっただろう。撮影し、再生した画像をプリンタに送るのだから、再生モードに転送設定がある方が自然だ。
しかし再生モードに転送設定があったとしても、結局のところ取説を読まないと使えなかっただろう。転送先のLAN接続を選択する画面でPD-10を選ぶには、MENUボタンを押す必要がある。取説には書いてあるものの、カメラだけ見ていると隠しコマンド状態になっているからだ。
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無線LAN接続は撮影モードから行なう
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接続先名表示とデフォルトのSSID
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また実際に転送して印刷する場合でも、撮影モードからしかLAN接続のメニューに入れない。よくあるケースとして、再生中に「これは良い」と思ってプリントしたくなるものだ。その場合、一度撮影モードに戻さないと接続できない仕様は不思議である。
さて今回の接続対象は、キヤノンのiP9910である。プリント開始のOKを押した時点から、L判プリント5枚が完了して出てくるまでに12分かかった。普段PCからプリントするよりもだいぶ遅い。プリントが終了すると、液晶画面にはPrinter1の選択など各項目が並ぶ。ここでMENU、OKのどちらを押してもPrinter1に接続を始めてしまう。元に戻って終了するにはMODEボタンを押さないとならないが、液晶モニターには説明がない。
無線LANやUSB接続には、メディアを抜かないで済むメリットがある。特に離れて使える無線LANなら、プリント中にカメラが使えればより便利だろう。残念ながらそれは不可能。ただし、プリントのキャンセルは可能だ。キャンセルをかけると直ちに中止されるので、プリントの遅さは画像転送によるものだろう。
次に転送可能距離をテストしようと試みた。IEEE 802.11b/gは見通しで100mの伝送が可能とされている。ならば相当離れても接続できるかと考えていたら、それ以前に問題があった。
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イメージリンクにも対応。コダックのプリンタードックシリーズ3に装着したところ
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PD-10はスタートボタンを押して起動しておかないとカメラと通信できないのだが、プリントが終了してしばらくすると電源がOFFになる。いったんOFFになるとカメラ側から電源ONにする手段がないため、結局プリンタの前にいてONにしないと通信ができないのだ。せっかくの無線LANなのだが、離れたところから、たとえば自宅近辺の撮影地からプリンタに画像を直接送ることは、実質的にできないと見てよいだろう。
なおプリント関連では、コダックの提唱するイメージリンクにも対応している。付属のドックインサート「PV-11」を使用すれば、イメージリンク対応プリンタに置くだけでプリントできる。
■ BSSやD-ライティングなど使える独自機能
ニコン独自の機能として「フェイスクリアー機能」を搭載している。「顔認識AF」、「アドバンスト赤目軽減ストロボ発光」、「D-ライティング」などを同時に行なう。ボディの左上の独立ボタンを撮影中に押すと働くもので、同じボタンを再生時に押すと、光量不足で暗くなった部分を補正するD-ライティングのみ適用される。
なお、アドバンスト赤目軽減は、3回の予備発光で瞳孔を収縮させて赤目を防ぎ、本発光をする機能。そのため、シャッターを押してからのタイムラグが1秒程度ある。撮影前にあらかじめ動かないようにいっておくのが望ましい。
D-ライティングはRAW現像ソフト「Nikon Capture」にも同名の機能が搭載されているが、白飛びを防ぐためにアンダーに撮影しておき、後からシャドーを持ち上げることで全体を適切に見せるような使い方も可能だ。JPEG記録された画像に対してレタッチするので、画質は多少落ちるわけだが、ほとんど気にならないレベルだろう。少なくてもL判にプリントするなら画質のことは全く気にしなくてよい。
そのほか、独自機能としてBSS(ベストショットセレクタ)がある。何年も前からニコンの製品に搭載されているものだ。連写した中からもっともブレの少ない(空間周波数の高い)画像を自動的に選んで記録するもので、夜景などで利用すると効果が高い。最大10コマまで連写でき、その中から1枚だけが記録される。偶然ブレなかったカットを選ぼうというコンセプトだが、実用的にはなかなか便利。ただ連写速度は秒1コマ程度であり、元々動いている被写体には不向きな機能である。
またAE-BSSという機能もある。こちらは連写して得られた中から、白飛び最小・黒つぶれ最小・ヒストグラム最良の各項目に当てはまる1枚を記録するもの。つまり白飛び最小を選んでおくと、連写した中からもっとも白飛びの少ないコマを選んで記録してくれる機能だ。
■ エフェクト付きスライドショーを作成できる「ピクトモーション」
再生モードで面白いのは、なんといってもピクトモーション機能だろう。音楽付きのスライドショーをカメラ内で自動作成する機能で、やってみると案外面白い。初めから入っているBGMは、カノン、トルコ行進曲、大きな古時計、スカボロフェア、威風堂々の5曲。追加の音源は最大3分、3曲までを、付属ソフト「PictureProject」からSDメモリーカードに転送して使用できる。1枚のメディアにつき20までのピクトモーションを作成できる。
トランジション方式や画面切り替えスピードなども選択できるので、結構楽しい。ただピクトモーションを作成すると、使用した元画像にプロテクトがかかり、消去できなくなる。PictureProjectに転送するとき、カメラ内のピクトモーションをMPEG-1かWMVに変換できるが、そのとき利用するために消去を防いでいるのだろう。
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まずはピクトモーションに使う写真を選択
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BGMもカメラ内で選べる
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ピクトモーション作例 (WMV形式、19.2MB)
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※再生条件や品質はお使いのPC環境によって異なります。再生に関するお問い合わせには一切お答えできません |
■ まとめ
コンパクトとしては大変に機能豊富なこのカメラ、どのような人に向くかというと、写真に関しては初心者レベルで、フルオートでシャッターを押すだけ。しかしPCには詳しく、無線LANなども使いこなしてしゃぶりつくしたい。そのような人こそ好適であろう。どのようなカメラも、あるいは他の製品でも同じだが、自分のニーズに見合う製品なら使い心地がよい。
しかし自分のニーズとそぐわない製品を選んでしまうと、機能は優れていても使いにくいものである。露出補正をして、ホワイトバランスもこまめに変えて、カメラとして使いこなしたい。だがPCは苦手なので、無線LANで簡単にプリントしたい。そう考えている人には少々不向きかも知れない。写真はフルオートでシャッターを押すだけ。PC環境は得意で使いこなしている。そういう人にこそお薦めしたい製品である。
■ 作例
※作例のリンク先ファイルは、撮影画像をコピーおよびリネームしたJPEGファイルです。
※作例データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/35mm判換算の焦点距離を表します。
◆ISO感度
ISO50からISO400にかけて、次第にノイズが増えるのは当然のこと。400になると結構目立つが、暗い状況で増感し、マイナス補正をかけておけば使える範囲である。
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2,816×2,112 / 1/378秒 / F3 / -0.7EV / ISO50 / WB:晴天 / 35mm
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2,816×2,112 / 1/84秒 / F8.5 / -0.7EV / ISO100 / WB:晴天 / 35mm
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2,816×2,112 / 1/210秒 / F8.5 / -0.7EV / ISO200 / WB:晴天 / 35mm
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2,816×2,112 / 1/377秒 / F8.5 / -0.7EV / ISO400 / WB:晴天 / 35mm
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◆画角
ワイド側の画質は全く問題ないが、テレ側はやや甘いように思う。このタイプの屈折光学系を利用している機種としては平均的だろう。
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2,816×2,112 / 1/178秒 / F3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 35mm
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2,816×2,112 / 1/37秒 / F5.4 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 105mm
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◆マクロ
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2,816×2,112 / 1/50秒 / F3.7 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 53mm
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2,816×2,112 / 1/25秒 / F3.7 / -0.3EV / ISO50 / WB:オート / 53mm
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◆連写
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2,816×2,112 / 1/500秒 / F3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 35mm
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2,816×2,112 / 1/500秒 / F3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 35mm
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2,816×2,112 / 1/500秒 / F3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 35mm
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2,816×2,112 / 1/500秒 / F3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 35mm
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2,816×2,112 / 1/443秒 / F3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 35mm
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◆一般作例
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2,816×2,112 / 1/62秒 / F8.5 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 35mm
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2,816×2,112 / 1/147秒 / F5.4 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 105mm
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2,816×2,112 / 1/95秒 / F5.4 / -0.7EV / ISO50 / WB:オート / 105mm
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2,816×2,112 / 1/165秒 / F4 / -1EV / ISO50 / WB:オート / 61 mm
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■ URL
ニコン
http://www.nikon.co.jp/
製品情報
http://www.nikon-image.com/jpn/products/camera/digital/coolpix/s6/
■ 関連記事
・ ニコン、新デザイン採用の600万画素コンパクトデジカメ「COOLPIX S5/S6」(2006/02/21)
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安孫子 卓郎 (あびこたくお)
きわめて頻繁に「我孫子」と誤変換されるので、「我孫子ではなく安孫子です」がキャッチフレーズ(^^;。大学を卒業後、医薬品会社に就職。医薬品営業からパソコンシステムの営業を経て脱サラ。デジタルカメラオンリーのカメラマンを目指す。写真展「デジタルカメラの世界」など開催。現在パソコン誌、写真誌等で執筆中。 |
2006/03/29 16:48
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