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【新製品レビュー】ニコン COOLPIX S4

~10倍ズームを搭載した10代目スイバル機
Reported by 河田 一規

 レンズ回転式構造をニコンでは「スイバル機構」と呼んでいるが、COOLPIX S4はそのスイバル機構を採用した最新機種。1/2.5型の600万画素CCD、10倍ズーム、2.5型液晶モニター、単三電池駆動というのが主なスペックだ。

 スイバル機構を採用したCOOLPIXとしては900、910、950、990、995、2500、3500、4500、SQに続く10番目のスイバルCOOLPIXということになる。筆者は過去に900と990を購入して仕事や遊びに多用していたこともあり、大のスイバル派。興味津々で今回のS4を試用してみた。

【お詫びと訂正】記事初出時、S4を「スイバル機として9番目」と記述しましたが、10番目の誤りでした。お詫びして訂正させていただきます。


光学10倍ズーム機としては薄く仕上げられたボディシェイプ

 ご覧の通り、すっかりコンパクトデジカメの定番となった感のある各社の薄型機に比べてしまうと明らかに大きく重いボディだが、薄型機の多くは光学3倍ズームなのに対し、S4は光学10倍ズームを搭載しており、それを考えると薄くまとめられていると言っていいだろう。





 スタイリングは同時期に発売された兄弟機種のCOOLPIX S3やS2とよく似たテイストでデザインされており、かつてのCOOLPIX950のようなプロがサブカメラとして使ってもおかしくない(事実、報道系では結構使われていた)ハードな外観とは一線を画すおしゃれ路線。

 デザインについては主観なのでそれぞれ好みもあると思うが、どうもニコンは昔からおしゃれ路線はあまり得意ではないように思う。機能性を最重視したプロ用機材のデザインはシビれるほどカッコいいのだが、スタイリッシュ系に走ろうとすると急に不慣れな印象を感じてしまう。

 このS4もパートごとのデザインは非常にそつなくクリーンにまとめられているものの、全体像を見回すとどこか没個性に感じてしまうのは筆者だけであろうか。決してカッコ悪いわけではないけれど、すごくCOOLというわけでもない、何となく中庸な印象なのだ。もしかすると、それを狙っていたのだろうか?


まずまずな操作性

 ニコン製カメラは、上級機から普及機まで基本的な操作性がある程度共通化されているのが特徴だが、コンパクトデジカメの一部ではボディレイアウトや絶対的なサイズの関係もあって、必ずしも統一された操作性を継承しないケースもある。このS4を含むCOOLPIX Sシリーズもまさしくそれで、通常のニコンカメラでは電源スイッチに割り当てられているシャッターボタン外周レバーがズームスイッチになっているなど、多くの部分で、独自の操作系が採用されている。

 例えば一眼レフと併用する場合などは操作性は共通の方がありがたいが、このカメラはそういった使い方はあまりされないだろうから、独自の操作系でもそれほど問題はないと思われる。

 実際の使い勝手はなかなか良好で、設置場所が適切なせいか、スイッチ類は小さくても押しやすい。ニコンにしては珍しく十字キーはジョイスティック風になっているが、これも倒す方向に明確なクリック感があり、一般的な4方向キーと比べてもむしろ使いやすいほど。そのままプッシュすると「OK」となるのも使いよい。


通常のニコンカメラではシャッターボタン外周レバーはパワースイッチだが、S4ではズームに割り当てられている。パワースイッチはシャッター横のプッシュボタン 2.5型の液晶モニターを搭載した関係で十字キーのスペースはミニマムだが、ジョイスティックタイプとすることで小さくても良好な操作性を確保している

 というわけで、スイッチ類の操作性に関しては高感度の高いS4だけど、ちょっと理解できなかったのが付属のレンズキャップ。下の写真の通りレンズ先端に取り付けたら、パカッと横に開けて使うタイプで、一見すると無くしたりする心配がなくて具合が良さそうに見えるけれど、使ってみると開閉ラッチが妙にデリケートだったりして、あまり使い心地が良くない。撮影の度にこれを開けるのも面倒だし、かといって開けっ放しにしておくと何かに当てて壊しそう。そもそも中途半端に開けておくと広角側で画面に写り込んだりする可能性もある。おまけにボディの質感とまったく合っておらず、妙に安っぽく見えるのも気になるところだ。壊れたり無くしたりした時用に、税込み525円で別売もされているけれど、これなら、潔く通常の着脱式キャップでいいと思う。


付属のレンズキャップはこのような開閉式。通常のキャップのように無くす心配はないが、デリケートすぎて長期間の使用に耐えそうもない 現に、試用期間内にヒンジ部のラッチが削れたのか、開けた状態で固定できず、パカパカになってしまった

キャップを付けた姿はハッキリ言ってあまりカッコよくない…… インターフェースはUSBのみ。AV出力もここから出力される

操作に迷った時はヘルプ表示もある 通常再生 拡大再生は最大10倍まで。ピントの確認も十分行なえる

手ブレがひどいとカードへ記録する前に、このように表示される 撮影済み画像のアンダー部分を検出し、カメラ内で自動的に補整する「D-ライティング」。適正露出の画像で適用するとオーバー気味になるので注意。アンダー画像には有効だ

2.5型液晶モニター

解像感はそれなりだが、拡大再生時でも像がボヤけるということはない。スイバルの特性を活かして、カメラを腰だめに構えた時など、モニタが上を向いた時の視認性はもうちょっと確保して欲しい
 液晶モニターは大きい2.5型で11万画素のTFTタイプ。見え方は決して悪くはないのだけれど、スイバルという機構上、一般的なデジカメに比べると液晶モニターを上に向けて使用する機会がどうしても多く、その場合は太陽光がモロに画面に当たることになるため、屋外での視認性はちょっとツラい。

 もちろん、通常のデジカメのようにモニタを立てて使えば視認性はある程度確保できるけれど、それではスイバルの意味が薄れる。スイバルという機能を本当に活かすのであれば、これは何とか解決して欲しい問題だ。


電池とメディア関係

使う電池に合わせてタイプを設定する画面がメニューにある
 電池はリチウム充電池ではなく、単三電池を2本使用するタイプ。使用できる単三電池の種類は多種に渡り、アルカリの他、オキシライドやリチウム、ニッケル水素にも対応する。これらの電池はそれぞれ多少電圧差があるためか、使用する電池に合わせてメニューで電池設定を行なう必要がある。また、別売のACアダプターEH-62Bを使えば、AC駆動も可能だ。

 撮影可能枚数はCIPA基準で、アルカリが約160コマ、ニッケル水素(ニコン純正EN-MH1-B2)で約290コマ、リチウムでは約450コマとなっている。最新カメラとして、スタミナ的にはまずまずのレベルと言える。どこでも入手しやすい単三型なので、電池切れになっても気は楽だ。

 一方、記録メディアはSDメモリーカードで、ニコンのHPによるとサンディスク、東芝、松下電器、ニコン製の各SDカードが動作確認済みとして推奨されている。なお、SDメモリーカードとは別に、S4本体内にも13.5MBの内蔵メモリが搭載されており、SDメモリーカードと相互コピーも可能だ。

 最近では小容量のカードをカメラに付属させる代わりに、内蔵メモリを持つデジカメが増えてきたが、カード容量が一杯になった時の非常用としてはもちろん、人に見せたい写真を保存しておく場所としても便利。もうちょっと容量が大きければさらに使い道が出てくるが、少なくともあまり役に立たない小容量のメディアを付属させるよりは気が利いていると思う。


使用する電池は単三型を2本 使用可能メディアはSDメモリーカード。これとは別に13.5MBの内蔵メモリーも搭載する

10倍ズームの実用性は

 実際に使ってみてまず感じたのは、本当に10倍ズームにする必要があったのだろうか? ということ。

 一般的な高倍率ズーム搭載機の多くはEVFを搭載しているため、たとえ手ブレ補正機構がなくても顔し押しつけてしっかりとホールディングできるわけだが、このS4の場合、EVFが搭載されていないため、望遠撮影に適した構え方がとれない。加えて手ブレ補正機構もないために、どうしても望遠撮影だとブレやすくなるのだ。もちろん、ピーカン時なら多少構え方が不安定でもブレずに撮影できたが、ちょっと暗くなるとブレやすい……。やはりこの焦点域では手ブレ補正機構はぜひ欲しいところだ。

 というわけで、実用性にはやや疑問の残る10倍ズームだけど、高倍率化することで特に何かを失ったわけでもなさそうだ。開放F値も明るめだし、10倍としてはサイズも小さめである。あくまでも焦点距離的な余裕と考えれば、これはこれでアリなのかもしれない。


【広角端】 【望遠端】
同じ所から撮影しても10倍ズームだとこれだけ違う写真になる

極小ピッチを感じさせない画質

 1/2.5型という小さなCCDサイズの600万画素ということで、画素ピッチは極小であり、画質的には特にダイナミックレンジや高感度時のノイズ量が懸念されるわけだが、実際の所はどうだろうか。

 まずはダイナミックレンジだが、これは意外と悪くない。もちろん、決して広くはないのだけれど、狭ければ狭いなりの絵の見せ方をしているというか、コンパクトデジカメに求められる再現域は十分確保している印象なのだ。微妙な階調再現はさすがにやや弱く、彩度の上昇に伴って階調が消失する傾向はあるものの、これもコンパクトとしては許されるレベルではないだろうか。

 次にノイズだが、これについては最低感度のISO50でもシャドー部ではそれなりに目に付くものの、そのノイズによって写真が台無しになるというほどではもちろんない。ISOを上げていくに従って増えるノイズ量も非常にリニアであり、ある感度から急にノイズが増えるという感じはない。

 今回は他のCCDと比べたわけではないので、物言いが抽象的になってしまい恐縮だが、1/2.5型600万画素CCDという条件から想像するよりも、階調やノイズは良好だったということだ。もっと再現性の低い画質を想像していただけに、思ったよりイイという印象である。

 ただ、ちょっと気になったのはエッジの描写がやや不自然で、解像感が高い割に細部のディティールが不明瞭に見えてしまうことだ。これは想像だけど、このディティールの不明瞭さは、画像生成段階でのノイズ除去が影響しているのではないだろうか。

 先に書いたとおり、ノイズは意外に少ないのだけど、それはソフト的なノイズ低減処理を強めに掛けた成果で、その影響がディティール描写に少なからず影響しているように感じるのだ。


※作例のリンク先は、撮影した画像データそのものです(ファイル名のみ変更してあります)。縦位置のものは、サムネールのみ回転していますが、拡大画像はあえて回転せずに掲載しています。クリックすると撮影した画像が別ウィンドウで表示されます。

※キャプション内の撮影データは、画像解像度(ピクセル) / 露出時間 / 絞り値(F) / 露出補正値(EV) / ISO感度 / 焦点距離(35mm判換算、mm)です。


最低感度のISO50で撮影。コンパクトにしてはそれほど彩度は高くなさそう
2,816×2,112 / 1/33秒 / F3.5 / 0EV / ISO50 / 38mm
コントラストのハッキリとした描写で、特にダイナミックレンジが低いという印象は受けない。コンパクトデジカメとしてはなかなかイイ線だと思う
2,816×2,112 / 1/676秒 / F5.6 / 0EV / ISO50 / 38mm

さすがに微妙な階調は出にくく、彩度が高い赤は飽和する傾向があった。でもこの条件では一眼レフでも飽和するかも
2,816×2,112 / 1/322秒 / F3.5 / 0EV / ISO50 / 380mm
彩度が低い条件では飽和しやすい赤色も階調を伴って再現される
2,816×2,112 / 1/109秒 / F3.5 / 0EV / ISO50 / 380mm

【ISO50】
2,816×2,112 / 1/8秒 / F3.5 / 0EV / ISO50 / 38mm
【ISO400】
ISO50とISO400でノイズ量を比べてみた。当然ながらISO400の方がノイズは多いけれど、ノイズまみれというほどではない
2,816×2,112 / 1/42秒 / F3.5 / 0EV / ISO400 / 38mm

逆光気味だったので内蔵ストロボを強制発光してみた。思った以上にストロボ光が届いている
2,816×2,112 / 1/474秒 / F5.6 / 0EV / ISO50 / 38mm
画素数相応の解像感はあるのだが、細部の描写がどうしても甘い感じになる。CCDの画素ピッチにレンズの解像度が追いつかないのか? と思ったが、この甘さはそういった光学的なものではなさそう
2,816×2,112 / 1/212秒 / F4 / 0EV / ISO50 / 58mm

新しいスイバルの可能性を目指して進んで欲しい

 筆者的にはスイバルというデジタルカメラの形態には大いに可能性を感じている。何といっても撮影の自由度が高いし、構造的にもレンズ光学系の光路長を有効に取れるというメリットがある。光路長についてはレンズを沈胴式にすれば、同じように長くすることが可能だが、沈胴式は精度と剛性面で固定鏡胴にはかなわない。

 というわけで、いろいろな面で理に適ったスイバルだけど、もちろん弱点もある。例えばローアングルやハイアングルのタテ位置撮影などは、スイバルでない普通のカメラより撮りにくかったりする。しかし、この辺の問題は、メーカーがその気になればいくらでも解決方法はあるのだ。

 COOLPIX S4はまとまりのある悪くないカメラだけど、根っからのスイバル信者からすると、スイバルとしての新しいアプローチがなく、ちょっと物足りないのも事実。デジタルじゃなければ実現不可能なカメラのひとつのカタチとして、もうちょっとスイバルの可能性を追求して欲しかったと思う。



URL
  ニコン
  http://www.nikon.co.jp/
  製品情報
  http://www.nikon-image.com/jpn/products/camera/digital/coolpix/s4/

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河田 一規
(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。最初に買ったデジカメはソニーのDSC-F1。

2005/10/26 00:25
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