ズーム付きコンパクトカメラの購買層は少しでも望遠側の焦点距離が長い製品を好みがちだ。この傾向はフィルムカメラの時代からまったく変わっておらず、メーカー側も望遠側の焦点距離を伸ばすことにしのぎを削ってきた。
しかし望遠側を重視した結果、広角側を犠牲にしてきた事実は否定できない。したがって現行製品の中で、本当の意味で広角側の焦点域をカバーする製品は意外と少く、より広い画角を得るためにコンバージョンレンズを併用する製品がほとんどである。
メーカーがユーザーニーズに応えた結果といってしまえばそれまでだが、ある程度経験のある中級以上のユーザーにとって、これはゆゆしき問題である。望遠側の焦点距離が5mmや10mm長くなろうと望遠効果はほとんど変わらないが、広角側の視覚的な効果は、焦点距離に敏感に反応する。つまり広角側の焦点距離が1mmでも短くなれば、それだけ遠近感を強調した表現が可能になるのだ。
■ 広角撮影を重視した3倍ズームレンズ
今回レポートするリコー「Caplio GX8」(オープンプライス、実勢価格は55,000円前後)に搭載されたレンズの焦点距離は5.8~17.4mm。35mmフィルムカメラに画角を換算すると28~85mm相当になる。ズーム比は3倍と決して高くないが、ワイド側の焦点距離が短く本格的な広角表現ができる。
さらにコンバージョンレンズ「DW-4」(10,500円)を取り付ければ22mm相当の超広角撮影も可能。リコーはフィルムカメラでも28mmや21mmなど広角単焦点レンズ付きカメラ「GRシリーズ」で話題をさらってきたが、GX8もこの流れを汲むものと考えられる。ただ2004年のフォトキナで、リコーは「デジタル版GRを開発中」とのアナウンスを行なっているが、GX8がこれに当たるわけではないらしい。
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35mm判に画角を換算すると28~85mm相当になる。ズーム比は3倍と低めだが、開放F値は明るい
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ワイドコンバージョンレンズ「DW-4」を取り付けた状態。このときの画角は35mm判の22mmに相当する
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フィルムカメラのGR-1V(右)とGX8。GX8の方が厚みがあるが、グリップの形状やボディ外装の仕上げは良く似ている
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コンバージョンレンズを取り付けるには、筒状のアダプターを使用。このときカメラ本体のリングを取り外す必要があるが、外したリングはアダプターにねじ込めるので、紛失する心配はない
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アダプターにはラバーフードが付属。コンバージョンレンズを使用しないときに利用できる。ワイドコンバージョンレンズに対応していないのが残念
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■ ホールド感の高いボディと利用価値の高いアクセサリーシュー
GX8のボディは横長の箱形スタイル。右手でグリップする部分が大きくホールド感は高い。最近はコンパクトさを優先するあまり、どう構えたら良いのか迷うような製品が増えているが、この点には好感が持てる。さらにレンズ周辺部も筒型の部材で覆われているので左手の置き場に困ることもない。要するにカメラ本来の持ち方ができるデザインなので、きちんとカメラが構えられる。手ブレ補正機構は内蔵していないが、カメラを確実に保持できれば自ずと手ブレによる失敗は減るものだ。
また最近切り捨てられがちな光学ファインダーも完備。このほかダイヤル式のモード切替、OKボタンを囲むように配置された4つのボタンや背面のボタンに割り振れた機能も、よく整理され使いやすい。
特筆すべきはボディ上面にあるアクセサリーシューだ。中央にシンクロ接点があるホットシュータイプなので、クリップオンタイプのストロボを取り付けて光量アップが図れるほか、レンジファインダーカメラ用の外付け光学ファインダーも取り付けられる。
特にワイドコンバーターを使用し超広角撮影をする際に21mmレンズ用として市販されているビューファインダーを装着すると、あたかもレンジファインダー機を使うような感覚でスナップ撮影が楽しめる。
CCDは前モデルのCaplio GXの画素数が513万であったのに対し、GX8は824万と高画素化した。高性能レンズと独自の画像処理システム「Smooth Imaging Engine」により、高画質を実現している。広角撮影時に目立ちやすいディストーションや周辺光量不足も良好に補正。
ISOは64、100、200、400、800、1600の6段階で、ISO800を越えるとノイズが増える傾向がある。常用範囲は400までと考えた方が良いだろう。
GX8は充電式の専用電池だけでなく、単三電池2本でも使用できる。充電式電池の撮影可能枚数は400枚。これに対し単3アルカリ電池の場合は約80枚と撮影枚数はそれほど多くないが、非常用としては十分な数字だ。また本体に26MBのメモリを内蔵しているので、万が一SDメモリーカードがいっぱいになっても撮影が続行できる。この2点については、保険の意味も含めて親切な機能といえるだろう。
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背面の操作部は右側にまとめられている
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撮影モードなどの切替はダイヤル式
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右手でホールドする面積が大きいので持ちやすい。両サイドにストラップ用吊り金具を備えているので横吊りできる
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ホットシューに外付けストロボを取り付けた状態。自動調光には対応していないので、露出はマニュアルで調節する
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アクセサリーシューにレンジファインダー機用の21mmビューファインダーを装着
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ワイドコンバージョンレンズを取り付けたときに利用すると軽快なスナップができる
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■ 作例
※作例のリンク先は撮影データをコピーし、リネームしたものです。約1,6MBのファイルが別ウインドウで開きます。
※作例データの表記は記録解像度(ピクセル)/露出時間/レンズ絞り値(F)/露出補正値(EV)/焦点距離(mm)です。
●画角
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3,264×2,448 / 1/290(秒) / 4.6 / 0 / 200 /5.8
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3,264×2,448 / 1/270(秒) / 6.3 / 0 / 200 /11.3
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3,264×2,448 / 1/97(秒) / 8 / 0 / 200 /17.4
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●高感度撮影
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【ISO400】3,264×2,448 / 1/3(秒) / 4.3 / 0 / 400 / 17.4
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【ISO800】3,264×2,448 / 1/6(秒) / 4.3 / 0 / 800 / 17.4
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【ISO1600】3,264×2,448 / 1/10(秒) / 4.3 / 0 / 1600 / 17.4
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●広角表現
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広角側の5.8mmで撮影
3,264×2,448 / 1/52(秒) / 4.6 / 0 / 200 / 5.8
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さらにワイコンを取り付けて撮影
3,264×2,448 / 1/68(秒) / 4.6 / 0 / 200 / 5.8(ワイコン使用)
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広角側の画角は35mm判の28mmに相当するので、本格的な広角表現が楽しめる
3,264×2,448 / 1/84(秒) / 4.6 / 0 / 100 / 5.8
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3,264×2,448 / 1/470(秒) / 2.5 / 0 / 100 / 5.8
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広角側の5.8mmで撮影。下から見上げた形になったので、遠近感が強調された。ややタル型のディストーションが認められる
3,264×2,448 / 1/380(秒) / 2.5 / 0 / 100 / 5.8
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同じ被写体を望遠側の17.4mmで撮影。望遠効果はそれほど高くないが、中望遠レンズらしい自然な描写が得られた
3,264×2,448 / 1/310(秒) / 8 / 0 / 100 / 17.4
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ワイコンで撮影。遠近感が極端に誇張され、超広角レンズらしい写真が撮れた
3,264×2,448 / 1/9(秒) / 8 / 0 / 100 / 5.8(ワイコン使用)
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●マクロ
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【広角側】3,264×2,448 / 1/310(秒) / 2.5 / 0 / 100 / 5.8
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【望遠側】3,264×2,448 / 1/270(秒) / 4.3 / 0 / 100 / 17.4
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3,264×2,448 / 1/24(秒) / 2.5 / 0 / 100 / 5.8
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●GX8で京都をスナップ
京都へ行く機会を得たので、古い町並みをGX8でスナップすることにした。GX8の広角レンズは狭い空間を広々と描写するのにぴったり。シャッターのタイムラグも短く、気持ちよく撮影することができた。すべて絞り優先AE、分割測光で撮影している。
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逆光のためゴーストが発生したが、フレアによる画質低下はほとんどない
3,264×2,448 / 1/36(秒) / 8 / 0 / 64 / 5.8
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このカットも逆光だが、シャドー部もつぶれることなく自然に再現された
3,264×2,448 / 1/189(秒) / 3.1 / 0 / 64 / 10(ワイコン使用)
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ワイドレンズの特性を利用して遠近感を極端に強調
3,264×2,448 / 1/7(秒) / 8 / 0 / 64 / 5.8(ワイコン使用)
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マクロモードで撮影。花菖蒲の質感も良い
3,264×2,448 / 1/11(秒) / 8 / 0 / 64 /17.4
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画面に太陽が入っているが、ゴーストは発生していない
3,264×2,448 / 1/153(秒) / 4.6 / 0 / 64 / 5.8(ワイコン使用)
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路地裏で見つけた古い写真館。斜めに差し込んだ西陽がタイルの立体感を強調してくれた
3,264×2,448 / 1/310(秒) / 2.9 / 0 / 100 / 8.6
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撮影時間は午後5時40分。日没前の雰囲気が良く出ている
3,264×2,448 / 1/440(秒) / 2.5 / 0 / 100 / 5.8
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■ URL
リコー
http://www.ricoh.co.jp/
製品情報
http://www.ricoh.co.jp/dc/caplio/gx8/
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中村 文夫 (なかむら ふみお)
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。1998年よりカメラグランプリ選考委員。 |
2005/06/21 00:38
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