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【試写レポート】コシナ カールツァイス T* ビオゴン 28mm F2.8

~R-D1を使いレンズ3本の描写を比較
Reported by 根本 泰人

ビオゴン28mm F2.8(99,750円)
 コシナ製カールツァイスレンズのエプソンR-D1による試写は、今回のビオゴン28mm F2.8で3回目である。

 今までのテスト結果についてコシナから、「R-D1での撮影結果は銀塩フィルムでの撮影結果とは必ずしも一致せず、大口径レンズの撮影結果が一般的に良くなるということを読者の皆さんに理解してもらいたい」というコメントをいただいている。たしかに前回の35mmレンズテストでもっとも成績が芳しくなかったカラースコパー35mm F2.5は、銀塩フィルムで使用した場合多くの愛用者の方からとても良いレンズだと称賛されている。

 さて、今回テストするビオゴン28mm F2.8は、今年1月発売予定のところを大幅に遅れ、4月29日よりシルバー仕上げのレンズのみ発売が開始されている。既発売のカールツァイスレンズはいずれも素晴らしい性能と品質を持っており、この28mmレンズへの期待も高まる一方だ。

 今回はカールツァイスの最終検査を受けたブラック仕上げの量産製品版での試写レポートをお届けする。このブラック仕上げのレンズの発売は5月中旬が予定されている。


コシナ製カールツァイスレンズについて

 毎回ご紹介しているので、改めて詳しく解説する必要はないだろう。製品の詳細については、コシナのホームページを参照して欲しい。

 ビオゴン28mm F2.8は、その名の通りビオゴンタイプの6群8枚構成である。今回発売されるカールツァイスレンズは、21mmから35mmまで4本ものビオゴン名のレンズがあるが、その中でこの28mmレンズはもっとも軽量コンパクトである点に魅力がある。

 宣伝文句の「ユニバーサル トラベラー」であるが、(今回のツァイスレンズの宣伝コピーは昨年のフォトキナで配布されたドイツ語版および英語版のパンフレットからの直訳であるため、日本語としてはどうにも意味不明なものが多くて困る)、ライカMマウント用広角レンズの中でもっとも使いやすい焦点距離である28mmレンズとして、世界中どこにでも常時携帯し、様々な撮影シーンに活用できるレンズという意味と解釈したい。「50mm標準レンズとのコンビネーションに適する優秀なる相棒」という訳にも苦笑するしかないが、たしかに標準50mmレンズを基準にするなら広角28mmレンズは定番のレンズラインナップではある。


フード(7,875円)装着時

「R-D1」に装着したところ

 レンズ性能については、コシナのホームページにMTFのデータ等が公開されており、これを見る限り、対称型のビオゴンらしく歪曲収差が少ないことがわかる。ただし前回テストしたビオゴン35mmレンズに比べると、やや大きいようだ。35mmレンズが優秀すぎるのかもしれないが。

 また、対称型レンズの特性として周辺光量の低下が生じるのはやむを得ないが、F2.8開放では35mm判の四隅では光量は中心部の30%を切る。これは2絞り分程度暗くなることを意味している。これは絞ることで改善され、F5.6で約50%つまり約1絞り分まで軽減している。このデータを見る限りでは、画面全体に均質なイメージが欲しい場合にはF8以上に絞ったほうが良いだろう。MTF曲線で判断すると、F2.8開放でもかなりコントラストが高く鮮明な描写が期待できるが、F5.6まで絞ると画面全体に高画質となる。

 レンズの外観や操作性の印象は、いままでプラナー50mm F2レンズやビオゴン35mm F2レンズのレポートで述べたものと同じであるので、そちらを参照して欲しい。このビオゴン28mmレンズは、既発売の2本のレンズと操作感は良く似たもので、混用したときも違和感がなくとても好ましい。レンズの全長は今までのレンズの中で、このビオゴン28mmが一番短い。

 レンズ先端の外爪バヨネットに装着する専用金属フードは、まだ発売されていないビオゴン25mm F2.8レンズと兼用のものでかなり薄い。ツァイスではフードではなくレンズシェードと呼んでいる。脱着はバヨネットだから簡単確実である。また同じく、25mmレンズと兼用できる専用外付けファインダー(35mm判用)が用意される。このファインダーの驚くほど鮮明な見え方は、ファインダーをのぞくだけでも幸せな気分にさせてくれる。

 カールツァイスの誇るT*コーティングであるが、各面の反射の色は緑や紫、薄青といった複雑な様相を見せる。レンズをのぞきこむと非常に透明感を感じる。絞りは1/3段ずつクリックがあり、絞り羽根は10枚で、円形絞りではなく正10角形ではあるが、どの絞りでも形が正確に整っている。絞り開放でも絞り羽根がほんのわずかに残って見えるが、これが正常な状態のようだ。


 もうひとつ特筆すべき点は、このレンズは最短撮影距離が0.5mであるということだ。一般的な距離計連動式カメラ、たとえばコシナ・フォクトレンダーのベッサR3AやR2A、ライカM型、ヘキサーそしてエプソンR-D1は0.7mまでしか距離計に連動しないので、それより短い距離では目測あるいは被写体からの距離をメジャーで実測して撮影することになる。しかし距離計に連動しなくても、近接撮影能力が高いことは大きな利点である。

 今回のレンズのシリアル番号は「15540336」で、カールツァイスの検査を受けた合格品はこの8桁のシリアル番号が与えられる。コシナで製造したカールツァイスのレンズは1本ずつすべて検査を受けるため、出荷される製品の品質については万全であるとアナウンスされている。

 以上、この新しいコシナ製ビオゴン28mm F2.8レンズの仕上がりは、今までのコシナ製カールツァイスレンズ同様きちんとしたものである。


フォクトレンダーブランド28mmレンズ2本も同時比較

 今回の試写にあたっては、ビオゴン28mm F2.8に加えて、すでにコシナ・フォクトレンダーブランドで発売され好評を博している28mmレンズ、ウルトロン28mm F1.9アスフェリカル、カラースコパー 28mm F3.5を加えて、この3本を同一条件で比較することとした。フォクトレンダーブランドの2本のマウントはライカスクリューマウント(L39)で、R-D1に使用するにはMアダプターリングを使用する。


ウルトロン28mm F1.9アスフェリカル カラースコパー28mm F3.5

 ウルトロン28mm F1.9 アスフェリカルはその名の通り片面非球面レンズを1枚使用した7群9枚構成で、対称型のレンズ構成を採用し、収差をきわめて良好に補正したレンズであるという。2001年4月、コシナ初の28mmレンズとして登場したが、現在に至るまでライカマウント用レンズとしては世界一の明るさを誇る。レンズ性能はたしかに素晴らしく、開放からとてもシャープでボケもなめらかだ。このレンズもコシナ・フォクトレンダーレンズシリーズを代表する超高性能レンズと言え、実際このレンズの描写性能の良さは各方面から絶賛されている。そのやや大きなレンズ鏡胴さえ気にならなければ、28mmクラスの常用レンズとしてこれ以上のものはないかもしれない。私は光が弱い条件になる時には、迷わずこのレンズを選んでいる。

 カラースコパー28mm F3.5は、2002年5月に発売された。レンズ構成は5群7枚で、非球面レンズなど特殊なレンズは使用していないが、F値が暗いのに高品位な描写性能を追求したというぜいたくなレンズ設計が目をひく。徹底したコンパクト化を追求したというデザインは、ライカのレンズに似た姿となっていて、携帯性は抜群だし操作性も良い。このレンズは鏡胴が真ちゅう製でコンパクトな割にずしりと重いが、表面の梨地メッキの美しい仕上がりや絞りのクリック感の良さなど、真ちゅうならではのものだ。価格も比較的安いことからベストセラーレンズとなっていて愛用者は多い。


実写比較

 実写にあたっては、R-D1の設定を初期設定とし、その他の条件は一切変更していない。フィルムは標準設定、ISO200、ホワイトバランスはオート、画質はJPEGのFINE、露出はカメラまかせのAE(絞り優先)である。ピント合わせと構図の決定は、R-D1のファインダーによる。R-D1の撮像素子はAPS-CサイズのCCDであり、28mmレンズは35mm判換算で42mm相当と中途半端な焦点距離となる。撮影はすべて三脚に固定して撮影し、手ブレの影響が出ないよう注意した。

 撮影は特に注釈がない限り、ウルトロン28mm F1.9は開放F1.9とF2.8で、ビオゴン28mm F2.8は開放F2.8で、カラースコパー28mm F3.5は開放F3.5とF4で撮影し、その後はいずれも一段ずつ絞っていった。

 なお、今回のテストも従来同様あくまでもエプソンR-D1との組み合わせにおける撮影結果であり、銀塩カメラで撮影した結果とは異なるものと考えていただきたい。


※作例のリンク先は、特に記載がない限り、撮影した画像そのものです(ファイル名のみ変更しています)。縦位置のものは、サムネールのみ回転していますが、拡大画像はあえて回転せずに掲載しています。クリックすると撮影した画像が別ウィンドウで表示されます。



●遠景1(無限遠)

 遠景としてはR-D1によるピント合わせでほぼ無限遠となる、江戸川の風景を撮影した。R-D1は最低感度がISO200であるが最高シャッター速度は1/2,000秒までのため、各レンズの開放近くの絞りでは完全に露出オーバーとなり撮影は無理である。したがって今回はF4からF8まで絞って撮影したが、F4でもやや露出オーバーである。

 ビオゴンは絞りF4では左右の周辺部でわずかに像が甘いが、中心部から中間部まではかなりよく解像している。周辺光量の低下ははっきり認められ四隅方向に暗くなっていくが、ウルトロンよりわずかに強い程度だ。F5.6、F8と絞るにしたがい、周辺部の画質も向上していく。歪曲収差はまったくわからない。発色は他の2本に比べて、やや赤味が強いようだ。

 ウルトロンは、F4では中心付近はシャープだが左右の周辺部から四隅にかけてビオゴンより像が甘い。空の隅の部分では周辺光量の低下もわずかにあるが、3本の中では一番少なく均質性が高い。F5.6、F8と絞っていくとほぼ全画面シャープになるが、画面のごく端のところにまだ像の甘い部分がある。歪曲収差はわからない。発色は自然な感じだが、わずかに黄色みがあるように感じる。

 カラースコパーはF4では、四隅の光量落ちが激しい。これはF5.6、F8と絞ってもあまり解消しないのは意外だった。絞ることで周辺部の解像度などの画質は向上している。歪曲収差はわからない。発色はやや赤みを感じる。

 以上3本のレンズを同一絞りで見てみると、遠景では周辺部までの画質の均質性でみて最良なのはビオゴンで、僅差でウルトロン、カラースコパーという順、周辺の光量落ちを気にする場合にはウルトロン、ビオゴンの順で、カラースコパーはこの条件では使用が難しいだろう。


【F4 / ビオゴン】 【F4 / ウルトロン】 【F4 / カラースコパー】

【F5.6 / ビオゴン】 【F5.6 / ウルトロン】 【F5.6 / カラースコパー】

【F8 / ビオゴン】 【F8 / ウルトロン】 【F8 / カラースコパー】

●遠~中景(30m付近)

 距離で30m前後となる浅草寺の本堂を撮影した。これも日中の撮影であるため、各レンズとも絞りF4以上の撮影である。距離計のピントは中央部の街路灯であわせた。

 ビオゴンは絞りF4では左右のごく周辺部でわずかに像が甘いが、中心部から周辺部まではかなりよく解像している。周辺光量の低下はあまり目立たない。F5.6に絞ると、画面全体に高画質となる。歪曲収差はまったくわからない。色鮮やかな感じの画像である。

 ウルトロンは、F4では画面全体に像がやや甘い。周辺光量の低下はほとんど目立たない。F5.6、F8と絞っていくとシャープになっていくが、画面の端のイチョウの葉の解像感などがもうひとつ物足りない。発色は自然な感じである。

 カラースコパーは、F4では中心部はウルトロンよりシャープだが四隅の光量落ちが激しい。また周辺部には像の流れもある。周辺光量の低下はF5.6、F8と絞っても解消しない。絞ることで周辺部の解像度などの画質は向上していて、ウルトロンよりも良い。しかし周辺部の光量落ちの影響で、画像が暗い雰囲気である。

 以上3本のレンズを比較すると、各絞り値で最良なのはビオゴンで、ウルトロンは四隅の光量低下がほとんどなくてよいが、シャープ感と解像感が絞ってもあまりよくならない。カラースコパーは、ウルトロンよりシャープだが、周辺の光量落ちがひどい。


【F4 / ビオゴン】 【F4 / ウルトロン】 【F4 / カラースコパー】

【F5.6 / ビオゴン】 【F5.6 / ウルトロン】 【F5.6 / カラースコパー】

【F8 / ビオゴン】 【F8 / ウルトロン】 【F8 / カラースコパー】

●中景1

 近所のお寺の門を撮影した。距離にして15~20mほどである。晴天下の撮影であり絞りF2以下では完全に露出オーバーとなるため、すべてのレンズをF2.8以上に絞って撮影した。F2.8ではこれも若干露出オーバーであるが、画質の検討は可能と判断した。ただし今回使用したR-D1は、露出アンダー気味になるようだ。瓦の模様の鮮明さ、周辺部の画質の変化などに注目して欲しい。

 ビオゴンは、F2.8ではピントのあった部分はシャープである。意外と被写界深度が浅い。周辺光量の低下は少し認められる。F4まで絞るとほぼ画面全体にシャープとなる。瓦の模様などの解像感も高い。F5.6になると被写界深度が深くなりピントの合う範囲が広く、画面全体がよい画質となる。F8も同様である。周辺の光量落ちはそれでもまだわずかに残存している。

 ウルトロンは、F2.8では画面中央部の門から左側はまあまあ鮮明だが、画面の右端の部分の像の崩れが大きく、片ぼけ気味なのが気になる。周辺部の光量低下はほとんどわからない。F4に絞るとかなり改善するが、まだ右側の周辺部があまい。F5.6まで絞ると急に周辺部の画質が改善しほぼ全画面シャープになり、F8では均質性がさらに良くなる。

 カラースコパーはF3.5開放では、周辺光量の低下が著しい。画面中心部はウルトロンより鮮明だが、周辺部は像はかなりあまい。F4では、半絞り絞っただけでも画質の良い範囲が広がるが、周辺部の光量低下は改善しない。F5.6、F8と絞っても最周辺部の画質は向上せず、周辺光量の低下も改善しない。

 以上3本のレンズを比較すると遠景2(30m付近)の結果と同じで、各絞り値で最良なのはビオゴン、ウルトロンは四隅の光量低下がほとんどないがシャープ感と解像感に劣る。カラースコパーは、ウルトロンよりシャープだが、周辺の光量落ちがひどい。


【F2.8 / ビオゴン】 【F2.8 / ウルトロン】

【F3.5 / カラースコパー】

【F4 / ビオゴン】 【F4 / ウルトロン】 【F4 / カラースコパー】

【F5.6 / ビオゴン】 【F5.6 / ウルトロン】 【F5.6 / カラースコパー】

【F8 / ビオゴン】 【F8 / ウルトロン】 【F8 / カラースコパー】


●中景2

 浅草寺境内の仏像を撮影した。距離は7~8mほどである。仏像のピントの違いや、背景のボケの変化がわかりやすいと思う。F2開放では半絞り程度露出オーバーだが、F2.8からは適正露出となった。ピントは仏像の顔に合わせた。

 ビオゴンは、F2.8開放でピントのあった部分は比較的シャープであるが、締まりが少し足りない。またわずかに前ピンに見える。周辺光量の低下は少し認められるが、写真の構図に助けられて気にならない。F4に絞ると画面中心部は急にコントラストが高くなり、画像が締まりシャープとなる。背景のイチョウの葉も、アウトフォーカスなのでややボケてはいるが細かな部分までかなりわかる。周辺光量の低下は気にならない。F5.6になると被写界深度が深くなりピントの合う範囲が広く、画面全体が相当良い画質となる。イチョウの黄緑色がとても鮮やかに見え、気持ちが良い。F8も同様に良い画質だが、どういうわけかR-D1の自動露出がアンダー気味となり、暗部がつぶれてしまっている。

 ウルトロンは、F1.9開放では画面中心部の仏像の顔に良くピントが合っているが、露出オーバーであるため、コントラストがやや悪い。周辺光量の低下は少しある。F2.8では露出も適正となり、ピントも広い範囲に合って十分実用になる画質である。周辺部の光量低下はほとんどわからない。F4に絞るとさらに像に締まりが出てきて良い画質となるが、シャープさはビオゴンには及ばないようだ。周辺部のイチョウの葉の像の乱れが、ビオゴンよりも大きい。F5.6まで絞るとコントラストがさらに高くなって、像に締まりが出て良い画質だが、周辺部の像の乱れが少し残る。F8になると、ビオゴンと同じくR-D1の自動露出がアンダー気味になるのが不思議だ。画面の均質性はF5.6より良くなる。

 カラースコパーは、F3.5開放では周辺光量の低下が著しい。画面中心部はウルトロンより鮮明でビオゴンと同等だが、周辺部は像の流れがある。F4では、半絞り絞っただけでも画質の良い範囲が広がるが、周辺部の光量低下は改善しない。F5.6、F8と絞っても最周辺部の画質は向上せず、周辺光量の低下も改善しない。中心部の画質は非常に良いのであるが。なおカラースコパーもF8ではやや露出アンダーになっており、R-D1の測光特性の癖なのではないだろうか。

 以上3本のレンズを比較すると、F2~F2.8はウルトロンが良いが、F4以上に絞ったときにはシャープさでビオゴンが優れる。四隅の光量低下は今回はF4以上ではほとんど気にならなかった。カラースコパーは、画面中心部の画質はウルトロンを上回ってビオゴンと同等だが、周辺の光量落ちがひどく、また像の流れも認められる。


【F1.9 / ウルトロン】

【F2.8 / ビオゴン】 【F2.8 / ウルトロン】

【F3.5 / カラースコパー】

【F4 / ビオゴン】 【F4 / ウルトロン】 【F4 / カラースコパー】

【F5.6 / ビオゴン】 【F5.6 / ウルトロン】 【F5.6 / カラースコパー】

【F8 / ビオゴン】 【F8 / ウルトロン】 【F8 / カラースコパー】


●近接撮影1

 たまたま停車していた消防車を、距離3mほどで撮影した。近距離の平面的な被写体の描写の違いがわかると思う。日光があっている時には、F2.8では露出オーバーでF4以下で適正露出となる。

 ビオゴンは、F2.8開放では露出オーバーであることもあり、中心でも像の締まりがやや足りない。四隅は光量低下とともに像がかなり甘くなっている。F4では画面の大部分がシャープで、細かいところまで良く解像している。しかし四隅の端の部分は、まだ像が甘いところがある。赤色の発色はやや濃く鮮やかである。F5.6になると、四隅まで完全に高画質となる。F8も同様である。露出については、絞るほどアンダー気味になるという傾向は、ここでも同様であった。他のレンズでも同様である。

 ウルトロンは、F2.8ではピントも広い範囲にあっているが、わずかに甘さを感じる。周辺部の光量低下はほとんどわからないし、像の流れはない。F4に絞ると像に締まりが出てきて画面全体に良い画質となる。F5.6とF8も同様である。赤色の発色は3本のレンズの中では、一番薄いようだ。

 カラースコパーは、いままで同様F3.5開放では周辺光量の低下が大きく、画面中心部は鮮明だが、周辺部は像の流れが認められる。F4では、F3.5とあまり変わらない。F5.6、F8と絞ると最周辺部の画質が向上するが、周辺光量の低下は改善しない。

 以上3本のレンズを比較すると、F2.8ではウルトロンが良く、F4以上に絞るとウルトロンとビオゴンは甲乙つけがたいが、赤色の発色の鮮やかさでビオゴンがきれいに見える。カラースコパーは、画面中心部の画質は他のレンズと同程度に良いが、周辺の光量落ちが目立ち、これは絞っても解消しない。


【F2.8 / ビオゴン】 【F2.8 / ウルトロン】

【F3.5 / カラースコパー】

【F4 / ビオゴン】 【F4 / ウルトロン】 【F4 / カラースコパー】

【F5.6 / ビオゴン】 【F5.6 / ウルトロン】 【F5.6 / カラースコパー】

【F8 / ビオゴン】 【F8 / ウルトロン】 【F8 / カラースコパー】


●近接撮影2

 R-D1で測距可能な最短距離0.7mで、花を近接撮影し背景のボケ方の違いを見た。すべてのレンズは絞り開放からF8で撮影した。

 ビオゴンはF2.8開放では、画面中央部にピントを合わせたのだが、実際のピントはきていない。右側のチューリップの茎が鮮明なので、前ピンになっているようだ。背景のボケは癖がなくて、きれいにボケている。F4では背景のボケが小さくなり、絞るほど被写界深度が深くなりボケも小さくなる。ピントがあったところは鮮明である。

 ウルトロンはF2では露出オーバーになっている。またこのレンズもピントがこなかった。F2のボケはさすがに3本のレンズの中でもっとも大きい。絞るとボケが小さく、またピントの合う範囲が広くなるのはビオゴンと同様だが、なぜかF5.6とF8のコマのホワイトバランスが狂ってしまって、画面全体が黄色くなってしまっている。原因は不明である。

 カラースコパーはF3.5開放ではわずかにピントが甘いが、F4ではだいぶピントが良くなる。この構図では周辺光量の低下が目立たないため、3本の中ではこのレンズが一番良く写ったようだ。

 このテストではR-D1のファインダーと各レンズのピント位置のずれの問題が生じたため、正確なテストとはいえないが、各レンズとも近接時の背景のボケはなめらかで好ましいと言える。


【F1.9 / ウルトロン】

【F2.8 / ビオゴン】 【F2.8 / ウルトロン】

【F3.5 / カラースコパー】

【F4 / ビオゴン】 【F4 / ウルトロン】 【F4 / カラースコパー】

【F5.6 / ビオゴン】 【F5.6 / ウルトロン】 【F5.6 / カラースコパー】

【F8 / ビオゴン】 【F8 / ウルトロン】 【F8 / カラースコパー】


●歪曲収差

 歪曲収差の程度を調べるため、ビルの壁面を撮影した。撮影距離は2mほど、各レンズとも絞りは開放である。ファインダーフレームで壁面の線に正確に構図を合わせたつもりだが、撮影された画像はやや曲がっているようだ。また壁面の線も使用されている素材の影響で、直線ではないことが後でわかった。

 それでも、いずれのレンズも歪曲は認められず、広角系単焦点レンズとしては非常に優秀であることがわかる。これは今回の3本のレンズがいずれも対称型の設計を採用している効果で、一眼レフ用のレトロフォーカスタイプのレンズに必ず認められる歪曲収差がないのは、とても気持ちが良いものだ。


【ビオゴン】 【ウルトロン】 【カラースコパー】


●夜景

 いままでは夜景撮影で強い光源のまわりの像の乱れ方をみたが、今回は点光源が画面にあまりないが、全体の描写を見て欲しい。R-D1はこうした状況でノイズの発生が少なく、画像がきれいである。

 ビオゴンは、F2.8開放ではコントラストは良好だが、中心部に比べて周辺部でわずかに像が甘い。中央の大提灯の下の遠くの蛍光灯のにじみには、特に色づきなどは認められない。F4になると画像が全体に締まり、周辺部も画質が良くなる。蛍光灯に光芒が10本現れるのは、10角形絞りの形状のためである。F5.6とF8も良好だが、F8は露出が多めにかかっている。日中の撮影では露出がアンダー気味になっていたから、反対の結果である。測光の癖なのだろうか。

 ウルトロンはF1.9開放では画面全体にやや像が甘い。コントラストは良い。中央の大提灯の下の遠くの蛍光灯のにじみには、紫色の色づきがはっきり認められる。フォクトレンダーブランドのレンズには、この紫色のにじみが共通して認められる。F2.8になると画像に締まりが出て、最周辺部以外は像が良くなる。蛍光灯のまわりの紫色のにじみもわずかになる。絞りの形状による光芒が現れるのはビオゴンと同じである。F4では周辺部の画質も良くなる。蛍光灯の紫色のにじみもなくなる。F5.6とF8も同様である。なおF8で1/3EVほど露出が多くかかるのはビオゴンの時と同様で、これはやはりレンズではなくR-D1側の問題のようだ。

 カラースコパーはF3.5開放では中心部の画質は良いが、周辺部で像が流れ気味である。構図の関係で、いままで目立っていた周辺光量の低下があまりわからない。中央の大提灯の下の遠くの蛍光灯には、おもしろい形のゴーストが現れている。このゴーストは絞るにつけて形がかわるが、F8まで絞っても解消しなかった。F4に絞っても画面全体の画質はほとんどかわらない。F5.6は逆に像が甘いが、カメラぶれだろう。撮影の時には気がつかなかった。

 今回撮影した夜景シーンでは、比較的どのレンズも絞り開放からそれなりにきれいに撮影できたが、F2.8ではウルトロンが、F4ではビオゴンとウルトロンが良い結果と言えるだろう。


【F1.9 / ウルトロン】

【F2.8 / ビオゴン】 【F2.8 / ウルトロン】

【F3.5 / カラースコパー】

【F4 / ビオゴン】 【F4 / ウルトロン】 【F4 / カラースコパー】

【F5.6 / ビオゴン】 【F5.6 / ウルトロン】 【F5.6 / カラースコパー】

【F8 / ビオゴン】 【F8 / ウルトロン】 【F8 / カラースコパー】

●逆光

 逆光時のゴーストやフレアを見てみた。R-D1はこうした条件では極端に露出不足となるため、+1EVで撮影したがこれでもかなりの露出不足である。

 画面上端に太陽がある条件だが、今回撮影した3本のレンズともゴーストなどは生じていない。


【ビオゴン】 【ウルトロン】 【カラースコパー】

総評

 今回テストした3本のレンズは、銀塩カメラで撮影するといずれもとても優秀なレンズである。しかしR-D1で使用すると、かなり性能に違いがある。

 私の評価では、もっとも優れているのはビオゴン28mm F2.8で、F4以上に絞ると画面の隅まで高画質となり、コントラストが高く発色も鮮やかでとても魅力的な画像を安定して得ることができる。

 続いてウルトロン28mm F1.9で、世界一の明るさということもあり、光線条件が厳しいところではその明るさが有利に働く。ただ絞った時にもう少しシャープさが欲しい。これは撮影後アンシャープマスク処理でシャープネスを改善すれば、ビオゴンと同等の画像となるだろう。

 カラースコパーについては、かなり絞っても周辺部の光量低下が残り、画面全体に均質な描写が必要な場合には、このレンズの使用は厳しいと言わざるを得ない。ただし、RAWデータで撮影して、エプソンのフォトリエ(Photolie)でRAW現像する際に「特殊設定」の「周辺光量補正」(ビネッティング補正)をかけてJPEG変換すれば、この周辺光量低下は驚くほどきれいになくすことが可能である。そうした方法がR-D1に用意されていることは知っていて欲しい。

 また、このような周辺の光量が落ちた画像のほうが、広角らしい感じがして好きだという人も少なくない。写真表現というのは多様なものであり、要はレンズの描写の個性をいかに写真に生かすかという点で、ユーザーの力量が発揮されるのである。

【参考:RAWデータによるビネッティング補正の効果について】

 いずれもカラースコパー28mm F3.5でRAWモードで撮影。絞りF8。ビネッテイング補正を行なったものは、四隅まで均一の明るさとなる。


【そのままRAW現像】 【ビネッティング補正を28mm、100%でRAW現像】

【そのままRAW現像】 【ビネッティング補正を28mm、100%でRAW現像】

ビオゴン28mmの作例

 最後に、ビオゴン28mm F2.8で撮影した作例を何点か掲載する。R-D1の設定はテストと同じである。


【F8】駅前
ライカ判で42mm相当では、28mmレンズの広角感はでないが、落ち着いた空間描写である
【F8 / +1EV】街頭
露出補正なしでは画面が真っ暗になったが、1絞りのオーバーにセットしたら期待した仕上がりとなった。街灯の描写が気に入っている

【F8】小公園1
このR-D1はF8に絞るとアンダーになってしまう
【F8】小公園2
生垣のアカメモチの描写がきれい

【F8】小公園3
発色が鮮やかだ
【F8】小公園4
白い花とラベンダーの対比が目をひいた

【F8】マンション
建物は歪曲収差による歪みがでないので、すっきりと描写される
【F5.6】赤い花1
このレンズは赤色の彩度が高いように思う

【F5.6】赤い花2
オオムラサキと赤いツツジの混植。はっとするような色の鮮やかさが特徴
【F8】キヅタ
細かな部分まで良く描写されている。妙に立体感がある

【F8】カタバミ
暗めのところの雰囲気の描写にも優れているようだ
【F8】フジ
見事な藤棚が美しい


URL
  コシナ
  http://www.cosina.co.jp/
  製品情報
  http://www.cosina.co.jp/z.html

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根本 泰人
(ねもと やすひと)クラシックカメラの収集が高じて有限会社ハヤタ・カメララボを設立。天体写真の冷却CCD撮影とデジタル画像処理は約10年前から、デジカメはニコンE2/E900から。趣味は写真撮影、天体観測、ラン栽培、オーディオ(アンプ作り)等。著書「メシエ天体アルバム」アストロアーツ刊ほか。カメラ雑誌、オーディオ雑誌等に寄稿中。 http://www.otomen.net
http://www.hayatacamera.co.jp

2005/05/19 16:11
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