デジタルカメラの動画で一般的な圧縮形式といえば、まずMotion JPEGが思いつく。高速回線の普及、テレビ放送のHDへの移行など、時代に合わせて最新の圧縮形式は常に変化している。なのにデジタルカメラのほとんどは、今でもMotion JPEGだ。
現行機種で例外といえば、ソニーのサイバーショット主力機が採用するMPEG-1が思い浮かぶ。加えてMPEG-4勢力としては、ペンタックスのOpito A30とOptio S7がDivXを採用。カシオのEXILIM CARD EX-S770、コダックEasyShare V1003、同V705、同740、同C533がMPEG-4準拠となっている。改めて今回調べてみたところ、これら以外の現行機種はMotion JPEGだった。ここまでMotion JPEGが優勢なのは、デジタルカメラが本来JPEGの生成に主軸を置く製品だからで、エンコーダー周りの効率化を鑑みてのことだろう。
余談だが、現在デジタルカメラの動画におけるコンテナフォーマットは、AVIが大半を占めている。その次に多いのがMOV。例えばキヤノンはすべてAVIだ。ニコンはCOOLPIX S10と同L11のみMOV、ほかはAVI。オリンパスは基本的にAVIで、2機種のみMOVといった状況にある。MOVは一時期に比べるとずいぶん減った。上記したMPEG-4勢のコンテナ形式を見ると、カシオがAVI、コダックがMOV、ペンタックスがAVIとなっている。
さて、「EXILIM Hi-ZOOM EX-V7」(以下EX-V7)動画の圧縮技術は、いまをときめく「MPEG-4 AVC/H.264」(以下H.264)だ。いまやワンセグ放送、携帯電話、PSPなどで積極的に採用されている技術なのは周知の通り。最先端を行く圧縮技術がデジタルカメラに搭載されるとは、デジカメ側の業界にいる身として何となくうれしい。コンテナはMOVだ。
H.264の主な特徴をおさらいすると、MPEG-2の2倍以上といわれる圧縮効率や、HDTVに対応できる高ビットレートのサポートになる。デジタルカメラで採用した場合、記録時間の増加とともに高画質化が見込めるわけで、これらがEX-V7でどう活かされているか、試してみた。
先進の圧縮技術を採用するだけあって、EX-V7の動画機能は充実している。VGA(640×480ピクセル)/30fpsは当たり前だし、動画記録中のズームも可能。さらにこのクラスでは珍しく、ステレオ音声記録が行なえる。最高画質の場合、音声の形式はADPCM、サンプリング周波数は44.1kHzとなる。
また、「ムービーベストショット」の中には、撮影開始の前後数秒を記録する「ショートムービー」や、撮影開始の数秒前から記録を行なう「パストムービー」も搭載。パストムービーから静止画を取り出すことも本体内で可能。EXILIM CARD系のように専用ボタンがあるほど動画に傾注してるわけではないものの、力の入れ具合は相応に高いといえよう。
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動画モードへの切替はモードダイヤルから
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モードメモリの「ズーム位置」は、動画モードでも利用できる
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画質モードの一覧。LP以外はH.264だ
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メニュー反転後、しばらくすると解像度を確認できる
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動画用のベストショットも搭載。オリジナルも登録できる
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ベストショットのひとつ、パストムービー
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4GBのフォーマット済みSDHCメモリーカードをEX-V7に挿入した場合、残り記録時間の表示は次の通りとなった。※LPのみMotion JPEG
- UHQ(640×480ピクセル/30fps)=1時間28分31秒
- UHQワイド(848×480ピクセル/30fps)=1時間13分秒
- HQ(640×480ピクセル/30fps)=2時間58分21秒
- HQワイド(848×480ピクセル/30fps)=2時間28分15秒
- Normal(640×480ピクセル/30fps)=5時間56分14秒
- LP(320×240ピクセル/15fps)=3時間35分04秒
対して、Motion JPEGを採用する製品はどうか。同じ条件でニコンCOOLPIX S10の記録可能表示を確認すると、640×480ピクセル、30fpsの「TV再生640★」で57分21秒だった。
記録する動画の内容や、機器ごとの圧縮率によって変化するのではっきりしたことはいえない。しかし、COOLPIX S10の記録音声がモノラルなことを考えると、確かにMotion JPEGよりH.264の方が、記録時間に余裕が持てるようだ。
EX-V7の公式ビットレートはUHQが約6Mbps、UHQワイドが約7.2Mbps。VGA程度ならこれで充分なのだろう。これまで記録した71ファイルのビットレートを確かめてみたが、公式情報にほぼ前後する内容だった。ちなみに、COOLPIX S10の「TV再生640★」におけるビットレートは8.5~8.7Mbpsが多い。ここでも圧縮効率の良さが確認できる。
執筆にあたり、今週は東京都あきる野市にあるムツゴロウ動物王国に出かけてみた。東京サマーランドの敷地内にある施設で、犬と猫が半放し飼い状態になっている「石川百友坊」をはじめ、動物との触れ合いが楽しめる場所だ。
機材はEX-V7と三脚、2GBのSDメモリーカードのみ。念のため、予備のバッテリーも持参した。昼過ぎに園内をブラブラしていると、早速「スポーツドックショー」が行なわれるとのアナウンスが。「動画機能を試すには絶好の被写体」と、挑戦することにした。
EX-V7の動画モードへはモードダイヤルから入る。切り替わりも比較的速く、とっさのチャンスでも思ったよりストレスは感じない。ただし、動画記録を終了した後、操作を受け付けない時間が1~2秒ほどある。
デジタルカメラの動画機能において気になるのは、画質以前に「光学ズームが使えるか」という点だろう。この辺りは高倍率ズーム機らしく、抜かりなく対応している。マイクは本体前面のレンズ下。持ち方にもよるが、指で塞いでしまうことはまずない。総じて、操作性に関して大きく気になる点は見当たらなかった。
手ブレ補正は電子式。そのため、手ブレ補正をONにすると、撮影画角がわずかに狭まる。もともと35mm判換算で38mm相当と広い方ではないので、気にならないといえば気にならないし、より不満が募るといえば募る。とはいえ、客席から被写体までが遠い今回の撮影では、むしろ望遠端が伸びてラッキー。なお、EX-V7はCCDシフト式の手ブレ補正を搭載しているが、動画記録時には機能しない。
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UHQでの撮影画面例
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こちらはUHQワイド。上下に黒マスクが入る
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小型三脚にEX-V7をセットしている間、スポーツドッグショーがスタートした。最初は柵をジャンプするだけと微笑ましい内容で、撮る方も気が楽。やはり7倍ズームは強力で、こういうシーンでの使い勝手は、ビデオカメラに通じると感じた。ズームの動作速度もほどよく速く、被写体の距離に合わせて画角を調整するのも難しくない。ちなみに静止画と同様、動画記録中でもデジタルズームが可能だ。ただし再生画はやはり荒くなり、映像の品質はガタ落ちする。
ショーは進み、障害物を設けたコースを駆け抜けるアジリティーへと移行。これが速い速い。さらにフリスビーをキャッチするディスクドッグへ。この辺になると、次の動きの予測できない私では、被写体を追いかけることすら難易度が高い。というより、不可能だと思った。経験を積めばもっと上手く撮れそうな気がするが……。
動画で便利なのが、「モードメモリ」の「ズーム位置」だ。モードメモリは電源OFF時に特定機能の設定を保持/非保持について選択するもので、静止画では大変重宝している。モードメモリは動画でも設定可能で、イベントなど被写体の距離がある程度決まっている場合、ズーム位置を記憶させておくと手間がなくて便利。ズーム位置への復帰も、ほかの高倍率ズーム機に比べると速い。あと、記録中に露出補正が行なえるのも特徴。明らかに白トビしそうなときは、録画しながらマイナス補正する手が使える。操作は左右キーで行なう。「撮影設定」の「左右キー設定」の内容とは無関係で、動画モードにすると常に露出補正が可能だ。
バッテリーも意外に持つ。今回は平均31秒前後の動画を69回撮影。計35分24秒の記録を行なったところ、累計約30分の時点で電池残量が赤になった。液晶モニターの設定は、周囲の明るさに合わせ適度が変化する「オート2」。動画記録の合間に、静止画をフル解像度で12枚撮影。さらに、イベント終了後に録画したファイルを何度も再生しているので、動画記録に専念すれば、もっと記録時間が伸びた可能性は高い。液晶モニターも見やすく、直射日光下でもほとんど問題なかった。
画質的に気になったのは、動きのあるシーンで、上下にジラジラとした揺れが見られること。手ブレ補正の影響だろうか。また、解像感も本格的な動画カメラには敵わないが、ある程度は仕方がないだろう。天候が良くなかったせいもある。
とにかく今回は、高倍率ズーム機と動画機能の親和性の高さに改めて感心した。将来的にはHDでの録画まで対応してほしいし、H.264をサポートするなら容易な気がする。編集ソフトや、iPodなど携帯機器での再生にもチャレンジするつもりだ。
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本体でムービーカットも可能。ただし、編集後に元ファイルが失われる
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カット編集中の画面。フレームの指定はおおまかにしかできない
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再生時に手ブレ補正を効かすことが可能。効きは強力で、PCでみるとがっかりすることも
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最後に、EX-V7で撮影した動画の再生環境について。カシオが推奨する再生ソフトは、Widows、Mac OS Xとも「QuickTime 7」。せっかくなので、H.264に対応してそうなプレーヤーをいくつか試してみた。
「VLC」は、Widows Vista、Mac OS Xのどちらにおいてもまともに再生できず。音声がブチブチと断続的に途切れる現象に見舞われた。いずれにしても現時点では再生要件がややこしく、メジャーな圧縮形式に比べると自由度は低いようだ。
例えば「Media Player Classic」だと、QuickTime非インストール時はQuickTime Alternativeが必要。「GOM Player」も筆者の環境では再生できなかった。Mac OS Xの「MPlayer」は○、Windows Media Player 9は×(いずれも執筆時での最新版、Windows VistaおよびMac OS X 10.4.9)。もちろん、再生環境はPCやソフトのバージョンに依存することが多い。参考程度に見ていただきたい。
■ 動画サンプル
- 作例のリンク先のファイルは、動画モードで記録したQuickTimeファイル(.MOV)をコピーおよびリネームしたものです。
- 作例下の撮影データは、ファイル容量/記録時間/記録解像度(ピクセル)/フレームレートを表します。
- 1列目のサンプル以外は、すべて手ブレ補正ONで撮影しています。
※編集部では再生についてのお問い合わせを受けかねます。あしからずご了承ください。
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手ブレ補正OFF 8.7MB/12秒/640×480/30fps |
手ブレ補正ON 6.7MB/9秒/640×480/30fps |
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7.6MB/11秒/640×480/30fps |
17.9MB/25秒/640×480/30fps |
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8.2MB/12秒/640×480/30fps |
27.1MB/38秒/640×480/30fps |
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5.6MB/8秒/640×480/30fps |
27.1MB/38秒/640×480/30fps |
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9MB/13秒/640×480/30fps |
9.7MB/14秒/640×480/30fps |
取材協力:ムツゴロウ動物王国
http://www.tokyo-mutsugoro-oukoku.co.jp/
■ URL
カシオ
http://www.casio.co.jp/
製品情報
http://dc.casio.jp/product/exilim/ex_v7/
気になるデジカメ長期リアルタイムレポートバックナンバー
http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm.htm
BBっとWORDSその98「H.264・MPEG-4 AVCの特徴」(BB)
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/bbword/15964.html
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( 本誌:折本 幸治 )
2007/05/28 00:01
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