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ペンタックス K10D【最終回】
旧レンズと内蔵露出計の関係

Reported by 中村 文夫


 アクセサリーの値上げ、ファームウェアのバージョンアップと、緊急レポートが2回続いて予定していた順番に狂いが生じたが、最後のレポートとなる今回は、懸案になっていた旧レンズを組み合わせたときの「露出」をテーマにとり上げてみたい。

 これまでMFレンズを使った作例を何回か掲載しているが、これらの作例の中に、どう見ても露出補正が必要な条件とは思えないのに、撮影データを見ると露出補正を使ったものが数多く含まれていた。この理由を説明し出すと、かなり長くなってしまうので、敢えて解説を避けてきたが、この機会に掘り下げてみたいと思う。

 最近ペンタックスのホームページに、交換レンズとデジタルカメラの適合表が掲載された。この表は、「レンズ別露出モード適合表」と「マウント別機能対応表」に分かれ、ペンタックスがこれまで発売してきた交換レンズをデジタルカメラに組み合わせたときに使える機能が詳しく示されている。「レンズの種類を調べる」ページには、レンズの見分け方も載っているので、特にデジタルカメラからペンタックスを使い始めたユーザーにとって多いに参考になるはずだ。

  • 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。


 

●絞りリングにA位置のないレンズを使う
─Mモードでグリーンボタンを使い、適正露出を得る─


 K10DにKマウントレンズを組み合わせ、Mモードで絞りリングをA以外で撮影した場合、グリーンボタンを押せばシャッタースピードが変化し、適正露出を得ることができる。「レンズ別露出モード適合表」には、この場合、露出に誤差が生じることがある、と書かれているが、まずこの理由について説明することにしよう。

 K10Dの測光用受光素子はフォーカシングスクリーンの後方に置かれ、スクリーンを透過した光を測っている。実はこのスクリーンに露出誤差が生じる秘密が隠されているのだ。

 一般に一眼レフのスクリーンは明るい方が好まれる。特に最近のカメラはズームレンズを組み合わせて使うことが多く、ペンタックスに限らずどのカメラメーカーもスクリーンの拡散性を弱くして少しでもファインダーを明るくしようと努力している。だが拡散性を弱めるとスクリーンに写った像の明るさとスクリーンに入射する光量が正比例しなくなる。

 たとえば開放F値1.4の大口径レンズとF4のズームレンズは開放F値が3段違うので、スクリーンに届く光量は1/8になるはずだ。だが実際のファインダーは、それほど暗くならない。Kマウントレンズの絞りリングをA以外にセットしてグリーンボタンを押すと瞬間的に絞りを絞り込んで測光する。たとえば開放F値2.8のレンズをF11に絞れば、光量は開放時の1/16になるはずだが、やはり、スクリーンの明るさは、そのまま1/16になるわけではない。

 カメラの露出計は、この誤差を見越して露出を補正しているわけだが、この場合、開放から絞りを何段絞ったかという情報がボディ側に伝わらないので誤差が補正しきれず、露出にバラツキで出てしまう。同じレンズでも、選んだF値によって露出が変わるのはこのためだ。

 またねじ込み式タクマーレンズは絞り込み測光でAEが利用できるが、Kマウントレンズと同じ理由で、露出に誤差が生じることがある。


作例

 絞りリングでF値を8に設定。Mモードでグリーンボタンを押したらシャッタースピードは1/25秒になった。そのまま撮影したら明らかに露出オーバーになったので、シャッタースピードを速くして撮影したのが中央と右だ。右が適正であるならば、最初に撮った左の写真は、1.7EVオーバーだったことになる。


smc PENTAX 15mm F3.5 / 3,872×2,592 / 1/25秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 15mm
smc PENTAX 15mm F3.5 / 3,872×2,592 / 1/50秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 15mm
smc PENTAX 15mm F3.5 / 3,872×2,592 / 1/80秒 / F8 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 15mm

 ソフトフォーカスレンズを組み合わせたときにも、上記のような現象が発生した。このレンズはAFレンズだが、球面収差を利用してソフト効果を調節するタイプなので絞りにA位置を持たず、開放からF5.6までは手動絞りになっている。

 絞りを3.5まで絞り、Mモードでグリーンボタンを使って露出を決めたら露出オーバーになった(写真左)。シャッタースピードを2/3段速くして撮影したのが右の写真。この場合-0.7EVの補正が必要だったことになる。


PENTAX 28mm Soft / 3,872×2,592 / 1/15秒 / F3.5 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 28mm 3,872×2,592 / 1/25秒 / F3.5 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 28mm

 

●絞りリングにA位置のあるMFレンズで撮る
─開放測光でAEを利用─


 K10DにAレンズを組み合わせた場合、絞りリングをA位置にセットすれば開放測光が可能である。「レンズ別露出モード適合表」には、絞りリングをA位置にセットすれば、すべての撮影モードで「使用できます」と書かれている。だが、第4回のレポートで紹介したフォクトレンダー製レンズでは、露出がオーバーになってしまった。このときは「純正レンズではないので、負い目がある」と説明したが、純正品も含めていろいろなレンズで試してみた結果、製品によって、かなりバラツキがあることが判明した。そこで、この件についても原因を探ってみることにしたい。

 まずはじめに、TTL開放測光の原理について説明しよう。カメラ内の受光素子は、被写体の輝度変化を電気出力の変化としてとらえている。ここで問題になるのは、レンズごとに開放F値が異なっていることだ。ROMを内蔵していないA、Kレンズの場合、輝度値の絶対値ではなく相対値で露出をとらえることで、この問題を解決している。要するに、開放から何段F値が絞られているかという情報に基づいて露出を制御しているのだ。

 だがK10Dに搭載されている分割測光を利用するためには、輝度の絶対値が必要になる。AFレンズはレンズ内にROMを内蔵しているので、ここからF値の情報を得ることができる。またAレンズの場合はマウント面の電気接点から情報を得ることが可能だが、ROMに比べると情報量が少ないので、露出を決定する際には専用のアルゴリズムを利用している。この結果、中央重点平均測光より、高い確率で適正露出が得られるという。

 さらに分割測光の場合、周辺エリアの測光精度は中央エリアに比べて悪くなる傾向がある。AFレンズならレンズ内のROM情報で補正できるが、Aレンズの場合、得られるのは開放F値の情報だけ。そこで開放F値の情報を元に測光値を平均的に補正。露出の精度を高めている。なおA位置のないレンズをK10Dに装着した場合、分割測光が利用できないのは、開放F値情報が得られず周辺エリアの測光値が補正できないからだ。


作例

 絞りリングをA位置にセットし、HyPモードで出た目通りに撮影したら、明らかに露出オーバーになってしまった。中央は-0.7EV、右は-1EV補正したカット。このレンズはK10Dの露出計との相性はあまり良くないようだ。


Apo-Lanthar 90mm F3.5 / 3,872×2,592 / 1/20秒 / F5.6 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 85mm
Apo-Lanthar 90mm F3.5 / 3,872×2,592 / 1/30秒 / F5.6 / -0.7EV / ISO400 / WB:オート / 85mm
Apo-Lanthar 90mm F3.5 / 3,872×2,592 / 1/50秒 / F5.6 / -1EV / ISO400 / WB:オート / 85mm

 上の3カットのヒストグラムをモニターで表示させた状態。ヒストグラムを見ながら露出を決めるのが、いちばん確実な方法だ。また念のために段階露光を行なっておくと安心である。



 絞りリングをA位置にセットしHyPモードで撮影。出た目では露出がオーバーになり-1EVくらいが適正露出になった。条件が違うので一概に判断はできないが、上に掲載したApo-Lanthar(アポランター)より露出は合いやすいようだ。


smc PENTAX A Macro 50mm F4 / 3,872×2,592 / 1/6秒 / F4 / 0EV / ISO100 / WB:マニュアル / 50mm
smc PENTAX A Macro 50mm F4 / 3,872×2,592 / 1/8秒 / F4 / -0.3EV / ISO100 / WB:マニュアル / 50mm
smc PENTAX A Macro 50mm F4 / 3,872×2,592 / 1/10秒 / F4 / -1EV / ISO100 / WB:マニュアル / 50mm

その他の要因について

 このほかにROMを内蔵していないレンズで露出が不安定になる原因として、レンズの「射出ひとみ」位置の問題が上げられる。射出ひとみを簡単に説明すると、レンズを後ろから覗いたときに見える絞りの像のこと。レンズ前側から入った光は、ここから後方へ出てゆきCCD面に像を結ぶ。ひとみの位置は、レンズごとに微妙に異なり、ひとみ位置が後方にあると画面周辺に向かう光の角度がきつくなる。このため分割測光の受光部の中央部と周辺部では輝度差が大きくなってしまう。レンズ内のROMに輝度差情報が入っていれば、これを利用して誤差の補正ができる。だがROMを内蔵していないレンズはこれができない。結局K10Dの場合は平均値を取ることで、極端な露出誤差を抑えるようにしているが、やはりROM入りレンズに敵わないという。

 露出に誤差が生じる原因は「射出ひとみ」以外にもいろいろあるが、とにかくレンズ内のROMに情報が入っていれば補正が可能。言い換えれば、レンズ内にROMを内蔵していないレンズの場合、ROM入りレンズと同等の露出精度を得ることは不可能なのだ。

 以上のように、旧レンズを組み合わせた場合に生じる露出の誤差はペンタックスだけの問題ではなく、他社でも同様のことが起こる。たとえばキヤノンEOS Digitalにマウントアダプターを介して他社製のレンズを取り付けると、絞り込み測光で絞り優先AEが利用できるが、100%適正露出が得られるわけではない。またニコンは、この問題を回避する手段として、CPU内蔵レンズ以外では露出計を作動させない道を選んでいる。さらにパナソニックのLUMIX DMC-L1の場合も、最初はニコンと同じ方法を採っていた。

 いずれにしても他社の場合、専用以外のレンズを組み合わせて撮影する方法は「保証外」なので、露出が多少不安定でも責任を取る必要はない。これに対しK10Dの場合は、カメラの機能の一部としてこれを認めているので、掲示板などでやり玉に挙がってしまったというわけだ。

 少しでも問題になりそうな要素は最初から排除するか。多少の問題はあってもユーザーのメリットを優先するか。危険回避という意味では前者の方が得策かも知れない。だがカメラは実用品であると同時に趣味の道具でもある。完璧に作動しなくても「使って楽しい」機能は、ぜひ残しておくべきだと思う。特にK10Dのような上級者向けの製品には、「遊びごころ」が大切である。



URL
  ペンタックス
  http://www.pentax.co.jp/
  製品情報
  http://www.digital.pentax.co.jp/ja/35mm/k10d/
  交換レンズ/レンズ適合表
  http://www.digital.pentax.co.jp/ja/lens/suit_lens.html
  レンズ交換式デジタルカメラ機種別記事リンク集(K10D)
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/link/dslr.htm#k10d
  気になるデジカメ長期リアルタイムレポートバックナンバー
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm.htm


( 中村 文夫 )
2007/02/02 18:53
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