実に54年ぶりという関東平野部での11月の降雪。幸い気温はそこまで下がらなかったため路面に積雪はなかったものの、夏タイヤでの外出は控えたい状況だ

 11月24日、真冬並みの強い寒気が流れ込み、実に54年ぶりという記録的な初雪に見舞われた首都圏。週間天気予報が出た頃から連日、ニュースやワイドショーは警戒を呼びかけていたものの、まさか11月に都心に雪が降るとは想像できず、あの降雪には面食らった方も多いのでは。

 前回、記したように、筆者は通年クリスマス前後に冬タイヤに交換して雪に備える。そんな例年であれば、まさかの11月の雪に慌ててタイヤ交換をしていただろう。しかし今年はすでに年間を通じて使用可能なオールシーズンタイヤ「Vector 4Seasons Hybrid(ベクター フォーシーズンズ ハイブリッド)」へ交換済み。タイヤ交換に慌てることもなく、高みの見物のごとくニュースを見ながら、せっかくならばと急遽、雪景色撮影の旅を思い立った。ネットで積雪の具合を調べ、特に積雪の多い軽井沢を目指すことに。

冬を待たずして装着したオールシーズンタイヤ「ベクター 4シーズンズ ハイブリッド

日本の冬タイヤの証である「SNOW」マークもついていて日本のチェーン規制にも対応できる頼もしい存在だ

碓氷軽井沢ICを降りると銀世界

24日のVICS情報。中央道でチェーン規制が出ている

 東京から軽井沢は関越道、上信越道を経由して約170km。標高約1000mで、夏場は避暑や散策、冬もスキーや温泉などを中心に観光客が押し寄せる有名リゾート地だ。

 24日正午の時点で積雪量は23cmであるのを確認。宿を予約して午後から向かった。ナビの道路情報やラジオによれば、山間部に近いエリアに近づくにつれてチェーン規制が行われている様子。それでも夕方近くに雪のピークは過ぎた感じで、道中は時折、小雨が降る程度だ。高速走行も得意とするベクターは、至って快適。これまでの夏用タイヤで利用したコンフォートタイプのミニバン用タイヤと大差なく、安定したクルージングが楽しめる。

 ほどなく群馬・藤岡ジャンクションから関越道を外れ、上信越道に入る。外気温計は0℃前後。雪はないが、路面には凍結防止剤が撒かれ、やや慎重に進路を向ける。

高速道路の上には雪はない状態。ベクターは車重の重いミニバンでも腰砕け感はなく、安心してハンドルをにぎることができる

 上信越道に入っても道路に雪はなく、季節外れの降雪で早く解けてしまったかな、と思ったのもつかの間、松井田妙義IC(インターチェンジ)あたりで車窓が一変。路上は除雪されているが、路肩や周りの光景が一気に白くなり始めた。最寄りの碓氷軽井沢ICを降りると辺りは銀世界。

 経験上、スタッドレスタイヤなら行けると思う路面状況だが、ベクターでの雪上は初体験。ICから軽井沢中心部へ向かう、峠道の路面は真っ白。先行で軽井沢に到着したスタッフから、峠にスタックしたクルマがいるので重々注意せよ、と連絡が入り、頭も真っ白。ヨーロッパと日本で冬用タイヤと認められたベクターだが、雪上性能を知らずに、いきなり峠道は無謀と思い、手前にあった広場でやや強めのブレーキやアクセル操作など試す。するとググッとスタッドレスタイヤと変わらぬフィーリングで止まり、発進も至って自然で胸をなでおろす。

 タイヤパターンを見る限り、どちらかと言えば夏タイヤ風に見えるベクターはゴム質も一般的なスタッドレスタイヤよりも硬め。しかし特徴的なVパターンの中央付近の細かな溝が積雪路面に効くという。このテストで緊張感も拭え、何ごともなく峠を越えてホテルに到着することができた。

雪の積もった広めのチェーン脱着所でとりあえず加速やブレーキを試してみるが、その手応えはスタッドレスタイヤと遜色ない

見た目としてはむしろ夏タイヤ寄りと思えるベクターだが、雪道でもしっかりグリップするから不思議だ

スタックするクルマも出る雪道を抜け、見えるは雪化粧した浅間山

 翌日の軽井沢は快晴。朝7時のクルマの外気温計は、マイナス7℃を示している。前日の雪は完全に凍り、歩けばザクザクと氷を踏みしめる音が響く。

マイナス7℃という気温で一度解けた雪が凍っているがこれぐらい気温が低いとまったく問題ない

標高の高い場所や日陰はまだまだ道路に雪が残るが、不安を感じることなく走れてしまう

きれいに雪化粧された旧軽井沢の街並み

一見黒いところも凍っていて驚くほど滑る。徒歩で歩いてみてそのことに気がつかされる

 軽井沢には近年、大型商業施設もできているが、昔ながらの趣を残す旧軽井沢周辺は老舗店や瀟洒な建築が立ち並ぶ別荘エリア。当時の名士や文豪などが過ごした町には洋風建築なども多く、雪化粧をまとった町並みは寒さを忘れて散策できる。

朝日を浴びた樹々が美しい。早朝は太陽の位置が低く、光が全体に当たらないため、コントラストのバランスを見ながら構成した。露出設定は好みの分かれるところなので、いくつか変えて後から選ぶのもいいだろう。

旧軽井沢商店街周辺には、歴史ある趣の町並みも見られる。写真は樹木の間からこぼれた光が、教会の屋根に当たったもの。建物全体では説明的になりすぎるので、主要部のみでカットしている。

とある教会の扉。この場所はいつの季節も花などが置かれて、来る人をなごませてくれる。画面の主役はあくまでも花だが、窓に映る雪と青空から、天気の良さが伝わるだろうか。

前日の雪の上に赤い葉が落ちた。逆光でキラキラ光る雪の結晶に葉の彩りを添えた。葉の前後はなるべくぼけるよう、絞りは開放。そのほうが、光った部分のキラキラが映える。

 朝の旧軽井沢周辺を散策の後、進路を北に向けて浅間山、鬼押し出し方面へと向かう。鬼押し出しへは鬼押ハイウェーを利用。標高約1300mに向けて坂道や山道独特のカーブなどが続くが、傾斜の強い坂に差し掛かると夏用タイヤにチェーンを巻き始めるクルマやスリップで立ち往生するクルマを多く見かけるようになってきた。なかには前日乗り捨てられたと思しきクルマや側溝に車体半分を落とす強者も。

 ここまで、上りの続く雪道を何事もなくスルスル登ってきたが、周りにスタック車が増え始めると、ベクターをスタッドレスタイヤでなく「オールシーズンタイヤ」と呼んでいるのが気がかりになってきた。特に上り坂では、スタッドレスでも停車すると再発進が難しいのを、過去に何度も経験している。しかしそんな心配をよそに、坂道の停車状態からアクセルに力を入れると一瞬、メーター内のトラクションコントロールランプが点滅したが、感覚的には遅れることなく発進、スピードを乗せて、難なくクリアー。もちろん坂道の度合いや路面状況にもよるので絶対に大丈夫とは言えないが、少なくとも今回の旅路においては実に頼もしい存在だった。

峠道の途中ではスタックしたり側溝に落ちてレッカーされるクルマもいる中、ベクターは全く問題なく走ることができた

登坂車線のあるような坂道でも普通に発進できる

鬼押ハイウェーから雪化粧した浅間山を仰ぎ見る。前日とは打って変わって青空が広がり、まさに撮影日よりの1日となった

 平穏な車中より、浅間山を見ながら、奇岩の並ぶ景勝地、鬼押出し園へ到着。鬼押出し園は、観音堂を中心に、奇岩や季節の花などを楽しめるスポット。この日は快晴とあって、澄んだ空気のなかにそびえる浅間山と奇岩の絶景に雪化粧が加わり、最高の風景が楽しめた。特に今年からは冬期期間中の営業も再開しているのだそうだ。

鬼押出し園へ向かう途中、浅間六里ヶ原休憩所から浅間山を眺める。冬の光は低く、11時頃でも立体感ある風景が楽しめた。迫力あるよう望遠で山の一部を切り取る。あとは雲のかたち次第だ。

鬼押出し園内から、噴火による溶岩越しに浅間山を望む。雪化粧も重なり、さらにフォトジェニックに。絞り設定は大きく絞り込んで、太陽の光芒を伸ばしている。

浅間六里ヶ原休憩所より、浅間山の稜線。かたちをシンプルに伝えるには、モノトーンが面白い。色の要素がなくなる代わりに、狙いが明確化される。拡大すれば、雪模様も楽しめる。

青空の下、松の雪吊りが行われていた。今年は予想外の降雪で、間に合わなかったようだ。広角レンズで近づき、遠近感を利用して、松の力強さや伸びやかさを強調している。露出もややアンダーに設定。

 鬼押し出し園を出て折り返すと、当然下り坂が待ち構える。上りと違い、発進時の不安はないものの、スピードが乗りやすく止まりにくいという、別の不安が生まれる。また午後になって若干気温も上がると同時に交通量も増え、路面の一部はシャーベット状の雪。凍った路面とタイヤの間に水が入れば、より滑りやすくなると言われているので、いっそう慎重にクルマを進める。

 なかでも注意したのはカーブ。以前スタッドレスタイヤで、ちょっと速いと思うスピードで進入すると、ハンドルを切っても曲がらず、肝を冷やした経験があったからだ。

 実は今回も法定速度内だが、同じような流れで、若干外側に膨らんでしまった。もちろん筆者の過失によるものだが、あとで伴走するスタッフから「滑りましたね」と声を掛けられた。続けて「(スタッドレスタイヤ装着の)スタッフ車も滑りましたから、あのカーブは要注意ですね」と。冬用タイヤと認められたベクターでも過信は禁物。下り坂はギアを落として、エンジンブレーキを使い、いつも以上に慎重に走るよう心がけたい。

お昼頃になると気温も上がってシャーベット状の箇所も。解けかけが一番滑るので慎重に走るが、特になんの問題なく走破することができた

ある程度交通量が多い日陰の磨かれた路面ですべることがあった。ここはスタッドレスでも滑ったとのことなので、どんなタイヤであれ雪道はすべるもの。あくまで過信は禁物だ

見慣れた風景も雪化粧で一変

 続けては本日の最終目的地である、軽井沢タリアセンへ。軽井沢タリアセンは湖や美術館、歴史的建造物などがあるレジャー施設。

 園内には湖畔に建つ「睡鳩荘(すいきゅうそう)」という、筆者が個人的に好きな場所があり、軽井沢に訪れた際には必ず立ち寄るスポットだ。11月はオフシーズンになるが、見方を変えれば繁忙期よりもゆったり楽しめるメリットも大きく、さらに今回は雪化粧した睡鳩荘を見られて大満足の一日だった。

園内の塩沢湖畔に建つ「睡鳩荘」。単に建物の全体像だけで構図を作るのでなく、湖面の反射など、周辺も取り入れるほうが、写真的な面白みが増す。ハイシーズンに緑との組み合わせも美しいが、冬の静けさもなかなか良い。

睡鳩荘は1931年に、W.Mヴォーリズの設計により建てられ、2008年にこの地に移築。ガラスなど細部を見ても、当時、贅を尽くして建てられたのがわかる。 細工がわかりやすいよう、モノトーンで表現した。

窓から射す光が、壁に影を描く。太陽の動きと共に影の位置も変わるので、時間帯を変えて見るのも面白い。内部も一般公開(公開日、要確認)されており、アンティーク調の家具もそのままに楽しめる。

睡鳩荘は「旧朝吹山荘」とも呼ばれ、元々は三越常務や帝国生命保険社長を歴任した朝吹常吉のもの。肖像画が階段に飾られている。こちらも外観同様に周りの様子も伝えられるような場所から撮っている。

 今だから言えるが、23cmもの雪が積もった軽井沢へオールシーズンタイヤで向かうというのは、いくらチェーン規制にも対応できるタイヤだと知っていたとは言え、内心、無鉄砲だと思っていた(実際、万が一のためにチェーンを携行し、スタッドレスを履いたスタッフ車が同行している)。

 しかし実際に走行してみれば、スタッドレスタイヤ然とした堂々の走りを見せてくれて、すべては杞憂に終わった。もちろん今回は、雪が降った翌日ということで、ベクターの得意な環境だったのかもしれないが、少なくとも筆者レベルのドライバーが一般的な走行をする限りでは、従来使ってきたスタッドレスタイヤとの歴然とした差を見つけることはできなかった、というのが本当のところだ。

正直なことを言えば、実際に雪道を走るまでは、内心心配だった……

もともと持っていたものだが、念のためチェーンも携行しておいた

 参考までに冬の軽井沢の降雪量を調べてみると、記録的な豪雪に見舞われた2014年を除けば、平均10~30cm程度で、今回の23cmでも多いほど。もちろん降雪地帯に住む方や、毎週末スキーに行くような人であればスタッドレスタイヤをオススメするが、ときどき雪景色の撮影に出かけるというような、今回程度の撮影旅行であれば、急な雪などで気をもむことはまずないだろう 。

第1回はこちら

(Reported by 桃井一至)