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[2009/02/12]


2008年

「フォトキナ2008」で見えた各社の動き


 今回はドイツで開催されたフォトキナ2008を”振り返る”という、いつもとは逆方向に情報を追いかけながら、現地で行なった各社へのインタビュー記事では盛り込めなかったブース、およびインタビューイの様子も含めてまとめることで、今後のトレンドを占ってみたい。


対照的な方向に打ち出した家電2社

 今年のフォトキナで最も印象的だったのは、ソニー、パナソニックという家電2社が、いよいよレンズ交換式カメラの世界で、独自性を打ち出すための基盤を整えてきたことだ。

 ソニーはこれまで、ペンタ部にイメージセンサーを置くことでライブビューを実現したα300/350という特徴的な製品は発売したものの、比較的、オーソドックスなカメラボディを発売してきた。最初にα100が発売された時には、どのように独自性を出すのか? と疑問に思うところもあったが、注目すべきはその後に発売されたレンズ群だろう。

 ミノルタが設計していたレンズを再設計したレンズや、サードパーティ設計と思しき一部のズームレンズもあるとはいえ、わずか2年で26本の自社レンズを揃え、さらにその数を増やそうとしている。かつてオリンパスの菊川剛社長は2003年のフォーサーズ規格発表時、「本気などという生やさしいものではなく、オリンパスは気が狂ったのかと思われるほどの決意を持って、プロの期待に応える」と話し、実際、全くの新規マウントにもかかわらず約5年で30本ものレンズを揃えた。


α900 ソニーデジタルイメージング事業本部 AMC事業部長の勝本徹氏

 レンズ1本を開発し、発売するまでには時間がかかる。単純な比較はできないとはいえ、ソニーはレンズラインナップ整備に、相当なコストと人員をかけたに違いない。コニカミノルタから事業を引き継いでいるだけでなく、それ以前から他光学機器メーカーでカメラやレンズを生み出してきた技術者を雇用してきた成果だろう。

 特にカールツァイス、Gレンズといった高級レンズには、我々が思っていた以上に力を入れてきたようだ。これまでフルサイズ対応レンズは、その実力のほどを完全に知ることができなかった。しかし、α900が登場したことで、その描写の良さを再認識することができたことでソニーに対する印象が変わった。Gレンズの中でもミノルタの設計をリファンしたモデルに関しては、単なる焼き直しではなく、細部にわたる仕様変更が加えられているという。

 現行の総レンズラインナップではニコンやキヤノンに引けを取るが、高品質なデジタル対応レンズの充実度という意味では、ソニーはライバルと比肩するところまで、やっとたどり着きつつあるように感じる。

 ソニーデジタルイメージング事業本部の勝本徹AMC事業部長は「ボディをフルラインナップ揃えたことで、やっと(一眼レフカメラ)町内会に入れた」と話したが、町内会という意味ではボディラインナップの充実よりも、“楽しめるレンズ”を着実に揃えて写真を趣味として楽しむユーザーの声に応じたことが、町内会に属せるようになった一番の要因ではないか。

 これだけのレンズラインナップがあれば、あとはその描写を楽しむために、順次、新しいアイディアを盛り込んだボディを市場に送り込むだけでいい。これまでの勝本氏へのインタビューを振り返ると、各ボディごとの収支はきちんと追求してきたのだろうが、αというプラットフォーム全体に関しては利益を度外視して、畑を耕すことに専念してきた感がある。

 しかし、交換レンズのラインナップや周辺アクセサリといったインフラが整ってきたことで、いよいよ”ボディ”の方で新しい挑戦をしていく。そんなこれからの事業へのワクワクとした気持ちがインタビュー中、同氏の表情を支配していたように感じた。


一眼“レフ”ではないカメラに活路を見いだすパナソニック

 一方のパナソニックも「やっと2年前に思い描いていた製品までたどり着いた」と商品企画・一眼事業担当総括の房忍氏が話したように、実に清々しい様子を感じた。思えば2年前、同じ房氏に話を伺った時は、いまひとつパナソニックの意図をはかりかねていた。デザインやテイストが異なるとはいえ、オリンパスとプラットフォームが同じボディ。ライカの名を冠したレンズは、いずれもその名に恥じぬよい描写だったが、その分、価格は高くサイズも大きめだった。

 1年前のDMC-L10はコンパクトデジタルカメラ向けに開発した技術をライブビューの中で活用し、そして今年、満を持して発売するマイクロフォーサーズ規格のDMC-G1で完成と相成った。


LUMIX DMC-G1 左からパナソニックコーポレートコミュニケーショングループグループマネージャー 立花隆良氏、商品企画・一眼事業担当 総括 房忍氏、企画グループ 開発企画チーム 参事 井上義之氏

 144万ドット相当のフィールドシーケンシャル液晶EVF(パナソニックではLVFと呼称)は、素早い動きの際にはカラーブレーキングが出て、被写体の輪郭に色付いてが尾引きするが、解像度はとても高い。光学ファインダーほどの見え味は期待できない反面、光学ファインダーでは得られない情報をファインダーから得ることができる。コントラストAFも驚くほど速い。

 おまかせiAにモードダイヤルを合わせておけば、被写体が近いと自動的にマクロモードになったり、顔を自動認識したり、あるいはAFターゲットを指定すれば自動追尾もしてくれる。独立したダイヤルが割り当てられたAFモードをマニュアルにすると、フォーカスリングを動かすのと同時にフォーカスポイント(規定値は中央)を拡大してMFをアシスト。最新のコンパクト機なら当たり前だが、動作が高速なこともあって、新しい操作感を引き出すことに成功している。

 まだ製品版に向けて画質、機能ともにソフトウェアのチューニングを勧めている最中とのことだったが、画素数が1,210万画素に増えているにもかかわらず、DMC-L10に比べて高感度時ノイズも改善されている。実に個人的な感想で恐縮だが、このコンパクトさと使い勝手なら、展示会やカンファレンスなどの取材には、一眼レフよりもDMC-G1の方が機動性も高く、標準ズームがかなり寄れる(30cm)こともあって使いやすいかもしれない。

 後日談だが、房氏に「これならば、”女流”といわず、もっと幅広い層にも訴求する方がよいのでは?」と投げかけると、カメラ好きの男性に向けたカタログも用意しているとのこと。「マニア層ではなく一般の写真愛好家には最適なパッケージと確信しています。それと、重くてカバンに入れて出かけるのが辛いという一眼卒業生にも」という。

 房氏が“一眼卒業生”と表現しているのは、流行の中でデジタル一眼レフカメラを購入し、写真の面白さには気付いたが、セット全体が重くて使わなくなりつつある人たちのことだ。EVF、ライブビューの機能、性能を充実させることでコンパクト機からのステップアップユーザーをサポートするだけでなく、一眼からフェードアウトしつつある人たちをサポートするというのは、これまでにないアプローチだと思う。

 メーカーの特色という意味でも、半導体技術とソフトウェア技術によって機能や性能が大きく改善されていくEVF/ライブビュー中心のカメラはパナソニックに向いている。(インテルに比べ出荷数がずっと少ないとはいえ)45ナノメートル世代の大規模ロジック回路を世界で最初に実用化した半導体部門の実力はもちろん、ソフトウェア技術者の数も実は総合家電メーカーの中で最も規模が大きいと言われているのがパナソニックだ。

 “まだ時期尚早”と懐疑的な意見も残るEVF/ライブビュー専用一眼のマイクロフォーサーズ規格だが、2年後、次のフォトキナの頃には足場をキッチリと固めているかもしれない。


動画撮影機能への「本気度」

 ニコンD90に加え、直前になってキヤノンEOS 5D Mark IIがサポートした動画撮影機能に関して、どちらかといえば両社ともに”おっかなビックリ”に、ソロッと市場に出してみたという印象を受けた。

 とはいえ、この機能に関しては両社とも、ある側面では自信があったようだ。“豊富な交換レンズを駆使したレンズ描写を活かした動画の世界”は、ごく一部の機種を除くと一般コンシューマからは縁遠い存在だった。それが突然、目の前に現れれば、民生用カムコーダとの落差の大きさもあって、画質面では認めてもらえるという算段はあったのだろう。

 キヤノンイメージコミュニケーション事業本部長の真栄田雅也氏は、本格的な動画の絵作りを、どういう方向で進めていくのかを、インタビュー中、あるいはフォトキナ前日に行なわれたプレスレセプションでも常に気にしていた。一眼レフカメラで動画をやるならば、それは本格的なものでなければならない、という気持ちが強いからだろう。


EOS 5D Mark II キヤノンイメージコミュニケーション事業本部長の真栄田雅也氏

 フルHDのキャプチャが可能になったEOS 5D Mark IIの動画は、そのサンプル映像のすばらしい編集もあって驚きをもって迎えられた。フォトキナのブースでも、そのサンプル映像が常時流され、EOS 5D Mark IIで撮影されたと知って驚く来場者も少なくなかった。細かなことを言えば、高感度時のノイズの出方が動画の中にあってはやや汚く見えがちだったり、H.264圧縮での歪みがやや多く感じられるといった面はあるが、静止画カメラのプラスαとしては充分以上のデキだ。

 一方で両社が、やや“おっかなビックリ”に感じられた理由は、レンズの描写性能には自信があっても、動画向けには不適な側面があることを自覚した上での実装だったからだ。フォーカス時やズーミングした際にマイクに動作音が入ってしまうといった問題、コントラストAFの速度や振る舞いなどもあるが、絞り機構が連続可変で滑らかに動かないという問題が大きい。

 動画の中で、カクカクと不自然に露出が変化するのはさすがにみっともない。もちろん、あらかじめライティングを決めて、露出を固定してカメラを回すならば問題はないが、それでは少々撮影時のハードルが高くなってしまう。


パナソニックがフォトキナ2008で参考出品したHD動画対応マイクロフォーサーズ機

 これは他社も同じで、パナソニックがDMC-G1に動画撮影機能を入れなかった理由も、ペンタックスが動画撮影機能に二の足を踏んでいる理由も、やはりレンズ構造や露出、AF制御の違いが静止画と動画用のカメラで大きく異なるからだ。

 言い換えればパナソニックが来年春に発売するという動画対応のマイクロフォーサーズ機向けに開発している”HD”レンズは、滑らかなAFや絞りの動作、制御が可能になっているということだろう。そこまでやって、はじめて動画対応というのがパナソニックの考え方。まずは、既存のレンズが持つ描写力を活かした動画撮影を提案してみようというのがニコン、キヤノンの考え方。どちらも、それぞれの現在の立ち位置がよく現れている。

 いずれにせよ、いまだ動画撮影機能に関しては慎重なソニーを除けば、動画撮影機能には各社とも積極的であり、数年をかけて少しずつ拡がり、また開発が進んでいくことは間違いなさそうだ。


センサーサイズの多様化

 これまでも一眼レフカメラ向けのイメージセンサーは、フォーサーズ、APS-C、APS-H、35mmフルサイズ、中判デジタル(48×36mmなど複数)と、大きく分けると5つのサイズが存在した。とはいえ、実際にはセンサーの生産性や性能などのバランス面からフォーサーズ、あるいはAPS-Cサイズのセンサー中心で製品が開発されてきた。

 しかし二つの方向でイメージセンサーが進歩したことで、より多様なサイズのセンサーから目的によってサイズを選べる状況になってきている。。ひとつは開口率向上や集光用マイクロレンズの性能向上などによる実効感度向上に伴う、比較的小型のセンサーにおけるS/Nの向上。もうひとつは大型センサーの歩留まり向上だ。S/Nの向上に関しては、今後背面照射などの技術的なブレークスルーも期待される。

 そうした中で、これまで以上にセンサーサイズは多様化しそうだ。サイズのバリエーションは従来と変わらないだろう。しかし、フルサイズや中判デジタルといったサイズのセンサーを用いる製品は、コスト低下によってビジネスをペイラインに載せやすくなってきている。

 ペンタックスがAPS-Cサイズでも、フルサイズ並の充分な高画質を引き出す技術革新があると話してDAレンズ対応一眼レフ機に注力する一方で、35mmフルサイズよりは中判デジタルの商品化に向けて積極的になるというのも、センサーの技術トレンドが大きく影響している。

 “中判カメラにおけるフォーサーズシステム”とも言えるライカのS2も、このクラスのセンサーを用いたカメラを商品化しやすくなってきていることを示すものだろう。

 もちろん、いずれも価格は民生用としてはかなり高価なものになるだろうが、それでもマミヤZDが発売された頃から比べると、状況は大きく変化しており、いよいよ中判デジタルカメラが、小さいながらも一定の市場を生み出す時期に来ているのかもしれない。

 逆の方向ではオリンパスイメージングSLR事業本部長の小川治男氏のフォーサーズ機への注力宣言も、フォーサーズ向けセンサーの性能向上に対する自信の表れと捉えることができるかもしれない。同じフォーサーズ陣営でもパナソニックとオリンパスではマイクロフォーサーズの位置付けが異なる。小川氏はマイクロフォーサーズ機を、コンパクト機とレンズ交換式カメラの間をつなぐブリッジカメラと位置付け、あくまでも”フォーサーズへの架け橋”と考えているようだ。i


オリンパスのマイクロフォーサーズ対応コンセプトモックアップ オリンパスイメージングSLR事業本部長の小川治男氏。左がフォーサーズ中級機のモックアップ

 “マイクロフォーサーズ用レンズはフォーサーズボディには取り付けられないじゃないか”という突っ込みもあるかもしれないが、小川氏の“フォーサーズ命”の姿勢を見ると、何らかの勝算があるように思えてならない。インタビュー中はマイクロフォーサーズについてばかり伺ってしまい申し訳ないことをしたが、小川氏本人はフォーサーズの新型中級機についてもっとも熱の入った話し方をしていた(もちろん、だからといってマイクロフォーサーズ機がおろそかというわけではないのだろうが)。

 ちなみに現地では新型中級機について”A1”という名前がチラホラと聞こえていた。フォーサーズのファンなら先刻承知だろうが、これはE-1後継候補とされたE-A1、E-P1のうちのE-A1のことだと思われる。これ以上書くとオリンパスに怒られそうだが、オリンパスはE-1後継機種を開発するにあたって、ハイアマチュア(A)向けに最適化したモデルとプロ(P)向けに最適化されたモデルの両方を検討していた。

 結果的に発売されたのはヘビーデューティーな使い方にも耐えられるE-P1(E-3)だったが、E-A1のプロジェクトも残り、より新しい技術をベースに新型中級機としてラインナップに加わる。オリンパスの話のニュアンスからすると、年内はギリギリ間に合わないが、来年のPMA09までには発売される模様だ。



URL
  「フォトキナ2008」記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/other/2008/09/23/9283.html
  本田雅一の業界トレンド予報(バックナンバー)
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/trend_backnumber/



本田雅一
PC、IT、AV、カメラ、プリンタに関連した取材記事、コラム、評論をWebニュースサイト、専門誌、新聞、ビジネス誌に執筆中。カメラとのファーストコンタクトは10歳の時に親からお下がりでもらったコニカEE Matic。デジタルカメラとはリコーDC-1を仕事に導入して以来の付き合い。

2008/10/06 14:25
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