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2008年

課題は多いが期待したい デジタル一眼の“動画対応”


 フォトキナ2008に関連し、さまざまな新製品のアナウンスが始まっている。中でもこのところの話題と言えば、ソニーのα900、パナソニックDMC-G1、それにまだ未発表のキヤノン製フルサイズ機(?)あたりだろうか。沈黙を守るペンタックスやD700/D90を発売したばかりのニコンの動きも気になるところだろう。

 本連載は“予報”と名乗っているように、近く発売されるだろう製品を取り上げる記事ではない。が、α900とDMC-G1について、ごく簡単に発売前の各製品を触れた印象を少しだけ書いておきたい。


新製品少しだけインプレッション

ソニーのα900。10月23日に発売
 α900は、なんといってもそのファインダーに驚かされた。設計面での工夫などを説明されても感動はしないが、実際にファインダーを覗けばその見やすさに誰もが驚くに違いない。明るく大きく、ピンの山が見やすいのだが、加えてファインダー像の収差が少なく、よいレンズを装着していれば、まるでフィールドスコープでも見ているかのようなクリアで歪み感の少ない視界が得られる。ファインダー像が大きいのに四隅のケラレが少ないのも見やすさをさらに高めている。

 ボディ単体の価格も機能やスペックからすれば安い。写真で見るよりコンパクトで軽量。しかしグリップは握りやすいといいことだらけに感じる。ただし、残念なことに質感は今ひとつ。筐体の合わせ面の処理や表面仕上げ、ボタン類の質感などにコストダウンを感じてしまう。

 中身のスペックは明らかにフラッグシップを感じさせ、そのうえ、33万円程度という想定価格なのだから、これで50万円以上の機種と同じ質感を出せというのは酷なのは判るが、中身に見合う外装も欲しいというと贅沢だろうか。

 画質の面は「まだβ機なので……」と触れる際に念を入れて釘を刺されているので、ここでは言及しないことにしたい。現時点ではα700に対して良くなっている面も、そうは思えない面もあるが、最終的なチューニングが終わらないとなんとも言えない。そのうち、否が応でも製品版サンプル画像、製品版の試用機が出てくるはずだ。画質の話題はその後にした方がいいだろう。


パナソニックのLUMIX DMC-G1。発売は10月31日
 DMC-G1に関しては、いくつかの面で期待を裏切られ、いくつかの面では期待通りの製品に仕上がっていた。裏切られたのはコンベンショナルな一眼レフスタイルを採用していること。クラシカルなスタイルを好んでいたパナソニックだけに、レンジファインダー風で来るのかと思いきや、コンパクトなDMC-L10といった雰囲気。

 一方、フリーアングル液晶モニターを採用してこの厚みなら、コンパクトさを優先したデザインを採用すれば、そうとうにコンパクトなレンズ交換式カメラが作れそう……という期待を感じさせてくれたこと。高速コントラストAF、シャッター速度効果のプレビューやおまかせiAなど、ライブビューならではの可能性を示している点もいい。

 今回は“小型の一眼レフカメラ”というスタイルに拘ることで、これまで興味はあったけれど手を出せなかったユーザー層に訴求しようということなのだろう。それは理解できる。しかし、ひとつだけなんとも残念でならないのは、動画撮影機能が組み込まれなかったことだ。

 めずらしく製品のインプレッションから書き始めた理由はそこにある。今回のテーマを、一眼レフカメラによる動画撮影機能にしようと思っていたからだ。


レンズ交換式スチルカメラで動画を撮ること

パナソニックが2009年春の発売を予告したAF対応HD動画対応モデル
 パナソニックによると来年春にはマイクロフォーサーズ規格に対応した、動画撮影可能なデジタルカメラを発売。14mmから140mmをカバーする10倍ズームレンズにて、動画時のAFに対応するのだとか。

 実はずっと以前から、スチルカメラとムービーカメラの切り分けを、どの位置に持ってくるのがよいのか? といった議論が、スチルカメラ、ムービーカメラ双方のメーカーの中にはある。両者は求められる機能が異なるので、両方を追ってしまうと中途半端になりがちだ。スチルカメラの動画撮影機能が、ムービーカメラの写真撮影機能が、それぞれ“おまけ”の域を出ないのはそのためだろう。

 中には「スチルカメラの本分は静止画をキャプチャすることなのだから、動画撮影はレンズ交換式であってもメモ用+αでいいのでは」という意見も耳にするが、その程度ならば別途コンパクトデジタルカメラを持っていればいい。わざわざレンズ交換式カメラで動画を撮影するのであれば、もっと別の視点が必要だろう。

 そもそも、レンズ交換式カメラを使う理由は、高い撮影の自由度、表現力の幅を獲得するためではないだろうか。ならば、そのカメラボディを使って動画を撮るなら、作品と言えるような映像を撮るものであってほしい。


初の動画対応デジタル一眼レフカメラとなった、ニコンのD90。9月19日に発売
 おそらくニコンも同じように考えたのだろう。D90には1,280×720ピクセル/毎秒24コマプログレッシブの動画キャプチャ機能が制限付き(最大解像度の場合、5分まで)ながら加えられた。

 レンズ交換式カメラでの動画撮影は今始まったばかりということを考えれば、近い将来にはフルHD、あるいはそれ以上の解像度で時間無制限の動画キャプチャが可能になるのは間違いない。問題は可能か、不可能かという話ではなく、どこまでこの機能を突き詰めていくかだ。

 フルHD化を果たしているとは言え、インターレス映像が中心で撮像素子も小さい家庭用カムコーダでは表現できない世界を取り込めること。それこそが、レンズ交換式スチルカメラで動画を撮る意味だ。もし、それが可能になるなら、世界は大きく変わるかもしれない。


映画的表現を家庭用のカメラで

 映画におけるフォトグラファーのことを、シネマトグラファーという。彼らは監督の意図する映像を生み出すために、さまざまなテクニックを駆使する。映画は1秒間に24枚の銀塩写真を撮影したものであり、その手法は写真のテクニックとも似ている。

 たとえば室内の撮影ならば、通常より少し長めのレンズを使ってライトアップされた俳優のバストショットを撮影し、その際に多めに絞り込んで被写界深度を確保すると、背景がボケつつ暗く沈む。こうすることで、背景の猥雑さを緩和させるのだそうだ。

 日中なら逆に背景に光をしっかり回し、背景をやや飛び気味に露出を合わせながら、俳優には逆光で演技をさせるのだとか。すると俳優が動き、表情を変えるたびに陰影がハッキリと浮かび上がり、背景もディテールを残しつつも、やはり目立たず意識の中に溶ける。

 また毎秒24コマのプログレッシブという特性を利用し、俳優が人混みを歩く中、俳優を中心に捉え続けるような撮り方を意図的にする。すると俳優が人混みの中で浮き立ち、被写体以外は動きボケで背景の中に溶ける。

 交換レンズを駆使し、大きな撮像素子を用いて高解像度の動画撮影ができるなら、映画的な表現手法をコンシューマ向け製品で簡単に行なえるようになる。

 実は映画業界でもデジタル撮影は一部で導入されている(日本では、むしろそれが主流になっている)が、フィルム並に大きな撮像素子で撮影できるカメラはほとんどない。あっても非常に高価だ。たとえばシネレンズが利用可能なパナビジョンの35ミリフルサイズ3CCDカメラ(フルサイズといってもフィルムが走る方向が異なるので、スチルカメラのそれよりは小さい)は、カメラ本体だけで3000万円くらいするそうだ。

 コンシューマ向けスチルカメラで同じようなことができるなら、きっと面白いことができるに違いない。


 もっとも、技術的な課題はたくさんある。

 品位が高く、コマ単位での編集が簡単で、編集時に画質が落ちにくいなどの条件を付けていくと、MPEG系の技術ではなくMotion JPEGなど静止画の連続で構成する動画コーデックが望ましいだろう。しかし、その場合は圧縮率が低くなるので、メモリーカードへの記録速度が不足するという問題がある。

 また本格的に動画を撮るならば、パワーズームへの対応は必須だろう。登録してある画角とフォーカス位置にスムースに遷移する機能が必要になるからだ。マイクロフォーサーズが発表された時、2つの追加ピンでパワーズームが実現できるのか?とも思ったが、どうやらそれはできないようだ。

 動画処理向けのLSIは、その多くがインターレスで設計されており、プログレッシブ処理を行なえないという問題もある。映画のノウハウがないならば、映画でよく使われる色再現のプロファイルなども、メーカー側に蓄積がないかもしれない。

 技術的な面以外にも、問題はたくさんあるだろう。たとえば、現在の家庭用ビデオカメラは画質や表現力の幅を優先した製品ではなく、家庭向きに簡単に使え、手っ取り早く運動会で撮影しやすい、なぜなら、売れる製品を企画しているうちに、自ずとメインストリーム(いわゆる子供を撮影するため)のカムコーダしか生き残らなかったからだ。そうした過去の経緯を考えると、“映像作品を作るための道具”という分野を発展させるには、並々ならぬ努力が必要になるだろう。

 しかし、いわゆるビデオカムコーダではなく、高品位な写真を撮る道具で”動く写真”が取れるようになれば、オマケなどではなく新しい分野となるような製品が生まれるかも知れない。マイクロフォーサーズには、そうしたスチルカメラ以外での応用も期待したいところだ。



URL
  製品情報(α900)
  http://www.sony.jp/products/Consumer/dslr/products/body/DSLR-A900
  製品情報(LUMIX DMC-G1)
  http://panasonic.jp/dc/g1/
  製品情報(D90)
  http://www.nikon-image.com/jpn/products/camera/slr/digital/d90/



本田雅一
PC、IT、AV、カメラ、プリンタに関連した取材記事、コラム、評論をWebニュースサイト、専門誌、新聞、ビジネス誌に執筆中。カメラとのファーストコンタクトは10歳の時に親からお下がりでもらったコニカEE Matic。デジタルカメラとはリコーDC-1を仕事に導入して以来の付き合い。

2008/09/16 12:36
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