デジカメ Watch
連載バックナンバー
PMAを終えて~2強に垣間みた今後への自信
[2009/03/13]

景気後退が促す原点回帰
[2009/02/12]


2008年

岐路にさしかかるデジタル一眼


 先月までデジタルカメラマガジンで2年と少しの間連載していた「業界トレンド予報」が、デジカメWatchに引っ越すことになった。この連載はデジタルカメラだけでなく、プリンタやスキャナ、AV機器、それにPCといった分野で取材活動をしている筆者が、業界内での話題やトレンドをモチーフに、数カ月から1年、場合によっては数年先といった、普段のデジカメWatchで取り上げる記事よりも少し先の動きをウォッチするというコラムである。

 今回は、一眼レフデジタルカメラ開発の法則が、少しずつ崩れてきているという話から始めていきたい。


岐路を迎えようとしている一眼レフデジタルカメラ

E-420の断面図。銀塩一眼レフのフィルムを撮像素子に置き換えたのが、現在のデジタル一眼レフ
 本誌ではフォトイメージングエキスポ2008前後から先週まで、「2008年の戦略を訊く」と題して数回に分けて各メーカーのインタビューをお届けした。本誌が創刊された頃のインタビューを見ると判るのだが、当時と比較するとメーカー側は、将来の計画を想起させる答えを、可能な限りしないよう気をつけるようになってきている。

 インタビューを受ける側も勝手知ったるもので、筆者も少し作戦を練り直す必要に迫られている。このため、直接製品について話を聞くとき以外は、なんとも回りくどい尋ね方になってしまった。とはいえ、それでもいつもならば、どこかでメーカーの本音が出てくるものだ。

 昨年から流行が始まった一眼レフカメラのライブビューは、すべてのメーカーが採用するに至ったが、完成形に至るまでは長い道のりがありそうだ、とは、ライブビュー機能を使ったことがあるユーザーの一致した意見ではないだろうか。

 現在の一眼レフデジタルカメラは、フィルム時代の一眼レフカメラを基礎に、フィルムをデジタル撮像素子に置き換えたものだ。このため、フィルム時代のアクセサリーやレンズなど、大半のシステムはそのまま引き継いで利用できるし、カメラそのものの振る舞いや扱い方、撮影ノウハウも共有できる。

 あまりラディカルな構造的変化を望みすぎると、長い時間をかけて完成されてきた一眼レフカメラのシステム、振る舞い、操作性などの完成度を崩してしまう恐れがある。とはいえ、各社にインタビューした時の応対者は、言葉にこそしなかったが「そろそろ、新しいことに挑戦する時期」であるとは感じているようだった。

 こうした時、質問されて答えようとする意志を見せながらも、結局、はぐらかす(あるいは意図的に質問からずらした答えをしたり、何も言わない)場合や、返答を躊躇する場合は、実際には何かに取り組んでいることがほとんどだ。荒唐無稽だったり、全く計画に無ければ、躊躇なくノーという答えが返るからである。

 一眼レフデジタルカメラは、早くなってきたとはいえ、商品企画から開発、テストまで含めると最低でも1年半、長い場合は2~3年というサイクルで開発されている(マイナーチェンジは除く)。これはほかのデジタル機器に比べると圧倒的に長い。

 メカ的な構造に比べると、センサーやプロセッサはずっと短いサイクルで大きな進歩を遂げるため、構造的なところから見直して新しいデジタル一眼の形を考えるといっても、なかなか簡単に見通せないという事情はあるだろう。

 しかし、言い換えれば、それだけ先読みをしながら商品企画が行なわれているということだ。各社とも伝統的な一眼レフカメラのスタイルは、今後もずっと続けていくだろう。しかし今後は、デジタルカメラしか知らない世代が一眼レフデジタルカメラの中心購買層へと近づいてくる。エントリー市場が活性化しているこの時期、プラスアルファで新しい市場を狙った製品が生まれるにはピッタリのタイミング。年末から来年にかけて、新しい提案が行なわれる可能性があるだろう。


機能の投入サイクルをずらしてまで全力投球したキヤノン

インタビュー時のキヤノンの打土井正憲事業部長
 新しいことに挑戦する可能性を押し広げているのが、日本でもワールドワイドでもニコンとトップシェアを争っているキヤノンの決断だ。

 キヤノンの一眼レフカメラは、高スペックで、スペックの割に買い得感を感じさせ、豊富なレンズシステムと、フィルム時代に培ったサービス網やブランド力で……と、これ以上に賞賛する必要はないだろうが、一言で言えば優等生。これを買っておけば安心という無難さがある。

 しかし、高い完成度と無難な作りは、一方で遊び心や冒険心をくすぐるプラスαの魅力を感じにくい原因でもある。本誌でも伊達淳一氏が、EOSの試用レポートで「技術の出し惜しみ」という言葉を使っていたが、筆者もキヤノンの関係者に何度も「出し惜しみ」や「道具として優秀だが、つまらない」と、少しだけ毒を含めつつ反応を見てきた。

 関係者によると、こうした声が多く、しかも直接、自分の耳に入ってくることに、昨年4月にデジタルイメージング事業本部・副本部長となり、一眼レフカメラの開発指揮を執り始めた打土井氏はショックを感じていたという。

 今年3月に発売されたEOS Kiss X2は、スペックだけでなく、実際の使い勝手、画質など様々な面で、中級機のEOS 40Dを超える仕上がりになっている。もちろん、価格なりに質感やモノとしての存在感などは40Dの方が上だが、従来のキヤノン的な製品の序列からすれば、異例と思えるエントリー機と言える。

 実は開発も追い込みの時期になって「“出し惜しみ”と言わせるな。入れられるものは、全部入れろ」と大号令がかかったという。もちろん、メカ設計が変更になるような仕様変更はできないが、別の製品から入れるハズだった要素技術も含め、詰め込めるだけの機能はすべて詰め込んだ。

 当然、一度盛り込んでしまえば、次からは全くの新機能ではなく、せいぜい改良型の機能としてしか評価されない。40DからKiss X2で使いやすさがグンと上がったライブビューも、本来ならKiss X2に搭載されるはずではなかった。“次からどうしよう”という本音も聞こえる。

 デバイスや技術の進歩を読み、キッチリと3つのユーザーカテゴリに対してラインナップを提示し、(EOS 5Dという例外を除いて)1年半というモデルチェンジサイクルも守ってきたキヤノンだが、ここではじめてそのパターンを崩してきたことにに意味がある。

 キヤノン自身が悩んでいるのと同じように、Kiss X2は他社にも悩みをもたらしている。新機能の投入に関して、比較的保守的だったキヤノンが動いたことで、新しいことに挑戦しなければ独自性を出しづらい、という空気が出てきたからだ。


お手本はコンパクトデジカメにあり?

顔検出などが可能なLUMIX DMC-L10のライブビュー
 もっとも、各社とも取り組むテーマは決めているようだ。インタビューシリーズの中、実際に記事にしている部分、していない部分を合わせ、ほとんどのメーカーが、コンパクトデジタルカメラにおける考え方を、一眼レフカメラにも持ち込みたいと話していた。

 ライブビューの搭載が第1歩。ライブビューの操作性やオートフォーカス問題の解決が第2歩とするなら、第3歩はライブビューでキャプチャしている映像を、どのように活用して撮影機能へと結びつけるかだ。

 ライブビューの使いやすさが向上することが大前提だが、コンパクトデジタルカメラの例でも判るとおり、顔認識や被写体追跡、シーン判別による露出、ホワイトバランス、ストロボなどの自動制御といった具合に、映像処理の能力が向上することで次々に新しい機能が実現可能になる。

 「道具として使いこなす趣味のためのカメラと一眼レフを考えると、あまりお節介な自動化機能は邪魔かもしれない」と、開発の方向性にはまだ迷いの声もあるが、進む方向は必ずしも自動化だけではない。

 たとえば、被写界深度の範囲を画面上で示したり、最近流行している動的なダイナミックレンジとトーンカーブの変化をグラフで表示した上で、効き具合や効かせ方を変化させるなど、ユーザーの使いこなしをアシストする情報を提示するというやり方もある。

 カメラに限った話ではないが、一度腹を決めて開発の方向さえ決めてしまえば、イメージセンサーや映像処理LSIなど、さまざまな要素技術に飛び火し、誰も想像しないほど一気に開発が進むものだ。きっかけが何にしろ、デジタル一眼レフカメラは伝統的な姿の殻を破れるかどうか、ひとつの岐路にさしかかっている。



URL
  インタビュー 2008年の戦略を訊く
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/other/2008/05/27/8560.html



本田 雅一
PC、IT、AV、カメラ、プリンタに関連した取材記事、コラム、評論をWebニュースサイト、専門誌、新聞、ビジネス誌に執筆中。カメラとのファーストコンタクトは10歳の時に親からお下がりでもらったKonica EE Matic。デジタルカメラとはリコーDC-1を仕事に導入して以来の付き合い。

2008/05/29 14:09
デジカメ Watch ホームページ
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。

Copyright (c) 2008 Impress Watch Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.