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【プリンタ特集2007年冬】日本HP「Photosmart C8180」

~画質、使い勝手を含めたトータルな完成度の高さが魅力

直販価格:4万7,880円

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は今年、インクジェット複合機のラインナップを、各製品のユーザー層に合わせて異なる方向に進化させている。ひとつのコンセプトで価格差によって性能や画質が異なるのではなく、どの製品も画質レベルは同等。しかし、想定する使い方に応じて実装する機能を分け、結果的に異なる製品に仕上げるというスタイルだ。

 そうした中で、最上位機種という言葉が必ずしも正しいわけではないが、もっとも高機能で写真を中心にした使い方をすることを想定しているモデルがPhotosmart C8180である。まずは今年モデルで追加された機能面のハイライトから紹介することにしよう。


6色光源のスキャナなど、新機能を採用

 C8180はプリントエンジンこそ従来機と同じだが、インクジェット複合機のもうひとつの主要コンポーネント、スキャナ部に新機軸の技術を投入している。透過原稿にも対応でき、被写界深度も深いラインCCDを用いた9,600×9,600dpiのスキャナは、反射原稿を取り込む際に当てる光源を6色光源とすることで、従来よりも広い色再現域を獲得。フィルムや写真プリントが持つ本来の色を引き出すことができるだけでなく、階調性が改善されるのが大きな特徴だ。

 新機種となって新しく追加されたもうひとつの要素はLight Scribeと呼ばれるCD/DVDのラベルプリント機能を持つDVDドライブを搭載したことだ。Light Scribeは、感光特性を持つラベル面処理が施された光ディスクメディアに、レーザー光を当てることで像を印刷する技術。インクで直接印刷する場合に比べ、擦過性、耐水性などが高いという利点があるが、一方でカラー印刷ができないという制限もある。

 ただ、Light Scribeはワールドワイドで数千万台が対応していると言うものの、日本ではほとんど普及しておらず、また対応メディアの入手性も高くはないという問題がある(入手は可能だが、通常のメディアに比べると選択肢の幅が狭い)。これでカラーインクを用いたCD/DVDへのラベルダイレクトプリント機能もあれば、用途に応じて使い分けるということが可能なのだが、残念ながら本機には搭載されていない(別途レビューする別の機種には搭載されている)。

 このLight Scribe対応DVDドライブは、もちろんラベル印刷だけのためにあるのではなく、PCレスでメモリカード中の写真を保存したり、保存したデータの印刷を行なえる。PCを使わずに、デジタルカメラのデータを管理、必要なものをいつでもプリントというホームDPE的な機能を、ワンストップで実現しようというコンセプトだ。


Light Scribe対応のDVDドライブを搭載する。メモリカードはCF、Microdrive、メモリースティック、メモリースティックPRO、メモリースティックデュオ、メモリースティックPROデュオ、SDHC/SDメモリーカード、MMC、xDピクチャーカードに対応 Light Scribeでラベルを印刷したところ

細かな便利機能も

C8180の操作パネル。3.5型タッチパネル付き液晶モニターとボタンを組み合わせて操作する
 こうした多機能化の流れと同時に、操作性に関して大きなメスが入っている。3.5型の大型液晶モニターはタッチパネル操作が可能で、画面に表示されたボタンに触れるだけで操作できる。このため、操作パネルからは大胆にボタン数が削られ、迷わず操作を行なえる。

 その半面、頻繁に使う機能に関してはきちんとボタンも用意されており、スタート、キャンセルがボタンとして独立しているのはもちろん、メモリカードからの写真プリントに入るためのボタンや赤目除去といったボタンが配置されている。

 今年はユーザーから要望があったといういくつかの細かな機能も実装されている。そのひとつが罫線入りノートやグラフ用紙、五線紙などを印刷する学校向け用紙の印刷機能。グラフ用紙などは、もちろんグラフを書く以外にも様々な場面で便利に使える。実際に使ってみると、これがなかなか便利。


Smart Web Printing
 同じくユーザーからのヒアリングで完成させたというのが「Smart Web Printing」だ。Internet Explorer 6もしくは7に対応するプラグインで、Webページを印刷する際、横幅を用紙サイズに自動的に合わせてレイアウト印刷する機能がある。

 これだけならば、類似する機能をキヤノンが提供していたこともあり、またIE7には同様の機能が標準で実装された。しかし、HP Smart Web PrintingはWebページ上の一部を選択し、クリッピングしておく機能もある。必要部分を選択してクリップ。後から切り抜いたページの一部から印刷したいものを選択すると、必要な情報のみを簡単に印刷できるのである。

 HP Smart Web PrintingはHP製プリンタすべてで利用可能なよう、同社サイトから無償ダウンロードが可能なため、本機特有の機能というわけではないが、従来機まで含めて利便性の高いソフトウェアは無償提供するという姿勢を評価したい。


操作パネルのメニュー
写真の編集も可能

パノラマ印刷やパスポート写真、定期券サイズ写真などのプリントも可能
動画のコマを印刷することもできる

経済的なプリントエンジン

プリントエンジンはSPTを継承
 さて、ここまで新機能を紹介したが、プリントエンジン部は他社と同様、昨年との違いはほとんどない。細かな追い込みによって印刷速度は向上しているが、Lサイズ1枚の印刷速度は通常の場合でたったの10秒。HPの場合、最大DPIの印刷では速度がかなり落ちるのだが、デフォルト設定でもPhotoRETという技術を用いることで階調性はほとんど変わらない。精細感は向上するものの、写真印刷として見た場合さほど大きな差ではなく、あえて設定を変更する必要はない。

 とはいえ、本機の採用しているスケーラブルプリンティングテクノロジ(SPT)を基礎に開発されたプリントエンジンは、現時点でも他社が対応していないいくつかの特徴があるので、ここで改めて紹介しておく。

 最大の特徴はインクを無駄にしないこと。インクジェットプリンタの「Lサイズ1枚あたり約○○円」という表示は、これまで何年も繰り返しテストしてきた経験から言うと、計測方法の違いによる多少の誤差はあるものの、ほぼ信用していい。これは印刷速度も同じで、以前は熱心に行なっていたインクコストや速度のマトリックステストは、ベンチマークテストとして確認の意味はあっても、実質的な製品選択のパラメータとしてはあまり重要ではなくなってきた。カタログを見れば十分だ。

 しかし、実際のインクコストは使用状況によって異なる。長期間印刷していないと自動的にヘッドクリーニングが行なわれたり、ある時間ごとにクリーニングが入ったり、あるいは印刷枚数が増えてくると印刷中にもクリーニングすることがある。

 その頻度はまちまちだが、クリーニング動作は大量のインクを連続で吐き出すことによって行なうため、そのたびに大量のインクを捨ててしまう。これはもったいない。ということで、SPTはクリーニングに利用するインクを自己回収し、印刷用インクとして再利用する仕組みを備えている。

 このため、ベンチマークテストでは差が出にくいものの、実際の利用シーンではかなりインク代が安くなる(というよりも、カタログ値に近いインクコストが実際の利用場面でも保証されるため、結果的にクリーニング時にインクを捨てる機種よりもコストが下がる)。


自動補正に頼らない、自然な画質

 バーコードが埋め込まれている純正用紙の場合、どんな設定で印刷しても、必ず用紙に合った印刷品質で印刷してくれるという嬉しい機能も従来機から引き継いでいる特徴だ。もちろん、有線LAN、無線LAN、Bluetoothをすべて標準搭載し、ネットワーク経由の印刷やスキャンが可能なこと。それにWebサーバ内蔵でブラウザからプリンタのステータスを確認したり、ネットワークスキャンを利用できるなど高い利便性、自動両面印刷機能も従来通りだ。

 ひとつ残念な点を挙げるとするなら、FAX機能が省略されてしまったことだろう。FAXを含む複合機はHP Officejetシリーズのラインナップ充実とともにコンシューマモデルからはなくなってしまった。

 さて、肝心の画質だが、インク滴サイズは4pl(ピコリットル)と、今となっては特に優れた数値ではないが、このサイズでも特に粒状性が気になるわけではない。階調性の面ではシビアな比較では若干の不利はあるものの、DPE的な使い方をする上で気になることはまずない。

 自動補正機能に関しては、明るさとコントラストを補正するが、さらにコントラストや彩度を強調する自動強調というオプションも指定できた。他社のような顔認識を中心にした、より積極的な絵作りはしない。半面、階調の作り方や発色はナチュラル。派手に魅せることはしないが、不自然さを感じさせないほどよい補正加減は、写真の自動補正機能全盛期にあって、かえって新鮮味がある。

 つまり本機は各種ワイヤレス機能やタッチパネルの操作性、6色インクシステムながら無駄なインク消費を抑え速度も高速なSPT、それに新たに追加されたDVD記録機能やWebプリントユーティリティなど、トータルの使い勝手や細かな仕様のツメ、用途範囲の広さといった完成度の高さを評価して選ぶ機種だと言える。

 何が何でも写真印刷一直線という読者には向かないが、トータルでの利便性の高さは相変わらず高い。いまだにかつての高濃度な顔料黒インクを懐かしむ声が聞かれるが、実際にはSPTになってからの染料黒インクは非常に濃度が高く、普通紙上でのにじみも少ないため、実際の文字品質に大差がないことも付け加えておきたい。



URL
  日本HP
  http://www.hp.com/jp/
  製品情報
  http://h50146.www5.hp.com/products/printers/inkjet/aio/ps_c8180/

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日本HP、6chスキャナ搭載の複合機「C8180」など5機種(2007/10/18)


URL
  プリンタ特集2007年冬
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special2/2007/12/21/7635.html



本田 雅一

2007/12/21 00:13
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