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旅ライターが使ってみた ニコン「GP-1」

エチオピアでGPSユニットを試す
Reported by 西牟田靖

ニコンのデジタル一眼レフカメラ専用のGPSユニット「GP-1」。11月28日発売。価格は2万2,050円
 エチオピアという名前を聞くと、「マラソンの強い長距離王国」、「コーヒーの原産国」といった言葉を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。「東京五輪の金メダルのアベベ」、「飢餓」という言葉を連想する方も世代によってはいるかもしれない。この国の特徴はそうした言葉に限定されないところにむしろある。ほかのアフリカ諸国とはまるで違うユニークな文化をこの国は持っているのだ。

 ひとつに人々の暮らしの多様性がある。国の北へ行けば古代キリスト教の信仰が今も生きているし、南へ行けば石器時代さながらの裸族が住んでいる。それでいて日本とのゆかりも深い。戦前には日本の皇族とエチオピアの王族の婚姻話があったというし、高知県にはエチオピア饅頭というものがなぜだか売られている。しかもこの国は不思議と日本に似た文化を持っている。コーヒー発祥の国であるエチオピアには日本でいう茶道のようなもてなしの文化が残っている。また日本の演歌が流行っていて、特に北島三郎の人気が高かったりする。そもそも現地の民謡は日本の演歌や民謡にそっくりだという。

 多様な文化が混在する親日的なこの国を旅してみたい。ここ10年来ずっとそう思っていた。その願いが叶い、昨年の12月にエチオピアという国を旅することになった。


GPSは旅表現の可能性を変えるか

 僕はライターを生業としている。近年は「日本」に特化したルポを書くことが多い。サハリンや旧満州、台湾などの日本の旧植民地をまわってみたり、北方領土や竹島、沖ノ鳥島など日本の辺境を旅してみたりして、その様子を本や雑誌に書いている。

 もともと海外旅行は大好きで大学のころから毎年のように出かけている。訪れた国の数はいままでに50カ国以上にのぼるだろうか。旅の中で身につけた写真と文章という表現手段は、いまでは旅と分かちがたく結びついていて、旅に出るたびにたくさんの文章と写真を残してしまう。ただそうしたスタイルも写真だけに限ればここ5年ほどで劇的に変わってしまった。デジタル一眼レフカメラを2004年に購入して以来のことだ。じっくり撮るよりも撮りまくるようになったし、ほぼ2年おきに大幅な機材の買い換えを実行するようになったのだ。

 昨年の秋に機材の大部分を買い換えた。レンズに関しては以前から使っているAF-S DX VR Zoom Nikkor ED 18-200mm F3.5-5.6 G(以下、18-200mm)を残し、D80をD90に、D200をD700にした。またフルサイズのD700を手に入れたのをきっかけに、AF-S NIKKOR 24-70mm F2.8 G ED(以下、24-70mm )を買い足して、D700の常用レンズとすることにした。フィルムカメラ時代と違うのは、ホコリの付着が気になるため、レンズはあまり交換しなくなり、ズームを多用するようになったことだ。

 エチオピアに行くにあたってさらにGP-1を買い足した。旅では移動がつきものである。旅を表現する手段としてGPSがあればこれまでとは違ったことが記録できる。移動中に自分がどこにいるのか、以前から逐一知りたいと思っていた。とはいえ携帯電話ほどもあるGPS専用機を一眼レフカメラとともに持ち歩くには大きすぎるので購入意欲がいまいちわかなかった。一方、GP-1はコンパクトだし、位置データの写真への埋め込みもスムーズそうだ。これなら使えそうだと思い、発売後すぐに購入した。


出発前にトラブル発生

 出発の一週間くらい前から、GP-1をつけての撮影テストを行なった。当時はD90に18-200mmとGP-1を装着し、出かけるたびにその一式を持ち出していた。

 あるとき、GP-1をストロボのホットシューに載せ、コードをボディ脇のコネクタにつないでいることを忘れてリュックに入れっぱなしにしたところ、接続部分に大きな付加がかかったためだろうか、たちどころに壊れてしまった。接続部分が前後にぐらぐらする。GP-1の上側後方のスイッチランプが赤く点滅し、位置情報をキャッチするはずなのにまったく点灯しない。

 出発まであと数日しかなかったため、修理を諦め、D700に接続して使うこととした。D700の10ピンターミナルとコード、そしてGP-1をつないでみる。コードがネジ留めができるし、接続面が前にあるためにD90に接続していたときよりは引っかける可能性が少なくて安心だ。


D90は専用端子(アクセサリーターミナル)にケーブルを接続するが、出発前に壊してしまった D90とGP-1をつなぐアクセサリーターミナル用ケーブル

D700は10ピンターミナルを使用する 10ピンターミナル用ケーブルの端子部。ネジ留めできるので頑丈だ

今回持参した機材の一覧。バッテリーは余裕を見て4本を用意。D700とD90で共用できる

 そのほかの機材として持っていったものは次の通りだ。クリップオンストロボのSB-800、D90用にSDメモリーカード(4GB×2枚、2GB×1枚)、D700用のCF(4GB×1枚、2GB×2枚)、USBケーブル×2、充電器×2、EN-EL3e×4、ノートパソコン(HDD内はほぼ空)、変圧器、電源タップ、コンセント変換アダプター。

 F2.8通しの望遠レンズは持って行かないことにした。望遠レンズをカメラに装着した状態でGP-1を使っても遠く離れたところにある被写体の位置情報がわかるわけではない。アフリカの治安が心配だったというのもある。実際、先輩カメラマンがこの国で望遠レンズを盗まれている。


ジオタグ付きの写真を623枚撮影

 ここでエチオピアの基礎データを記しておこう。

 アフリカ大陸の中央東側に位置するこの国は北回帰線よりも南の北半球にあり、本来であれば熱帯に属するはずなのだが、国土の大部分が山岳地帯にあるため、気候は概して冷涼である。面積は112万平方キロで日本の約3倍の広さがある。人口はアフリカ大陸で3番目に多い約7,500万人、民族は80以上にのぼっていて、人種的には黒人が大多数を占めている。日本との時差は6時間、世界でも最貧国の部類に入る。

 12月17日の夕方、羽田を出発し、関西空港を経由して中東のドバイへと飛んだ。そしてドバイからエチオピアの首都アジスアベバ行きの飛行機に乗った。人口約300万人の首都アジスアベバには現地時間で18日の正午ごろに到着した。標高約2,400メートルの高地(首都では世界第三位)にあるため、到着初日は軽い高山病に罹ってしまう。頭がじわりと痛み心臓がどきどきし、息苦しかった。

 翌日の19日から約一週間、借り上げたトヨタの四輪駆動車でこの国の南部へと出かけた。郊外に出ると道が悪くなっていく。舗装がはげ、しまいには穴だらけの砂利道となった。首都ではスーツの男やワンピースを着た女といった身なりのいい人を見かけたが、首都を離れたとたん、汚れて黒ずんでいるTシャツとズボンを着た男や裸足の少年をみかけるようになった。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
  • 右のスクリーンショットはView NXの「GPSマップ」機能で表示した撮影位置の「地図+航空写真」レイヤー表示です。





 首都やいくつかの大都市以外の場所では人々は満足なインフラを得ることができない。国民の8割近くがそうした場所で農業や家畜の放牧などによる自給自足の暮らしを営んでいる。水道は来ていないので水汲みから一日は始まる。ガスのかわりに薪を燃料とする。牛や山羊を放牧したり、主食となる穀物の栽培をしているのだ。

 薪を得るために木をたくさん伐採してしまう。伐採されたところは保水力を失うために大雨が降ると土地が根こそぎ流されてしまう。そうしたことが原因でこの国では土壌の浸食があちこちで見られる。これは一種の環境破壊である。


GP-1を装着するとLEDが赤に光る。その後、衛星を補足すると緑に。手前のUSB端子はPC接続用
 四輪駆動車内での撮影もなんとかできた。時速30〜60kmほどの車内でも数分GPS衛星を探し続ければ、衛星を3つ以上補足し、位置情報の記録が可能になることが多い。GP-1のLEDは赤の点滅から緑の点滅へと変化する。

 だがそうした状態ではデータをキャッチするには不安定な状態なので、撮影をしても位置データが入っていないことが多い。また移動し続けていると一度、衛星を捕捉しても次に撮影しようと思っても最初からやり直しのことが多く、面倒くささを感じるようになった。捕捉の失敗が続いたため、そのうち移動中にGP-1を起動させて撮ることは少なくなってしまった。

 20日に途中のアルバミンチという街で一泊、翌朝、さらに南へと移動すると車窓に裸の人が目立ち始めた。たいていは、山羊を放牧している少年で、自動小銃やライフルを肩からかけ、腰巻きだけをまとっていた。そのような人を最初に見かけたときは驚いた。しかし次第に慣れていった。その日から数日間、ケニアの国境がほど近いこの地のあちこちで石器時代さながらの暮らしをしている人たちに会ったからだ。

 チョンマゲのような髪型をした筋骨隆々とした男と編んだ髪を赤い泥で髪を染めている女、下唇に皿をはめている女。彼らのほとんどが裸のまま暮らしていた。それでいて自動小銃を構えていたりする。




 そうした人たちは数十人単位でジャングルの中に住んでいたりする。街から山をふたつほど越えて彼らの村を訪ねてみたこともあるが、そうした文明から隔絶された村でもGP-1はしっかり作動した。捕捉には数分かかったが、一度捕捉すれば、移動をしていないので、何回でも位置情報が写真に記録された。文明に隔絶された人たちの集落で、GP-1を起動させながら撮影をしているのはなんだか不思議な気分だった。

 1週間の南部の旅を終えると、次は北部にあるラリベラという街へ、キリスト教の教会群を見に行った。キリスト教といっても独特で賛美歌はまるで日本の民謡のようだった。インドのサリーのような白くて長い布を体に巻き付けた黒人司祭が手に巨大な十字架を握り信者の額に押しつけたり、数百年前に現地の文字で書かれた革製の聖書を読んでいたりする。教会は3,000mを超す山の上や断崖にあったり、洞窟の中にあったり、丘を20mくりぬいた建物であったりと西洋のキリスト教会とは似てもにつかない。




 そうした教会の中でGP-1を使って撮影をしようとした。外から差すわずかの日光だけしか教会内部には差さないことが多く恐ろしく暗い。しかも宗教施設の中なのでストロボは焚けない。そうした撮影環境ではD700の高感度特性は大いに役に立ったが、GP-1はほとんど役に立たなかった。建物の中に入るといつまでたっても衛星を捕捉することはなかった。

 そうして年末までの2週間、エチオピアに滞在した。近代文明の便利さが人に幸せをもたらすのか否かを考えながら、2台のデジタル一眼レフカメラとGP-1で撮影をしてまわるという、アンビバレントな旅となった。




 それはともかく撮影の結果は次の通りである。1日平均して400枚撮影し、トータルで5,230枚の写真が残った。うちGP-1のデータが入った写真は623枚である。

 ジオタグ付きの写真は正直なところあまり残せなかった。というのもカメラ2台のうち1台しかGP-1をつけていなかったこと、バラック以外の建物の中ではデータが残せなかったことが原因だ。移動中の撮影も前述通り難しかった。できるだけすべての写真にデータを残そうとしていたら、撮影のたびに数分ずつロスし、トータルの撮影枚数は減っただろうし、電池も途中で尽きていたかもしれない。

 滞在中、データはせっせとパソコンにコピーしていたので、SDメモリーカードとCFが足らなくなることはなかった。なお撮影はRAWではなく、JPEGのFINEモード、ピクセルは最大サイズだったので、写真1枚のデータは一枚あたり5〜6MBといったところだった。一方、D90の動画はSDメモリーカードを1日で4GB2枚分、2GB1枚分を使い果たしたこともあった。

 バッテリーに関しては4本持って行って正解だった。途中、2泊はキャンプをしたのでそのときは2本を使い切り、残りの2本も半分以上消費した状態まで電気を消費してしまったのだ。そのとき以外は特に電池が足らなくなりそうなことはなかった。撮影よりも、GP-1の衛星捕捉、D90の動画撮影に電池を使ったようだ。半押しタイマーを設定せず、ずっと衛星を捕捉したままでいたため、気がついたときには電池の残量が10%以上減っていたこともあった。


カメラボディへの内蔵に期待

View NXの「GPSマップ」でジオタグ付きの写真を開いたところ。Google Mapsで撮影位置がわかる
 帰国してからニコンの画像監理ソフト「View NX」で写真を見てみた。写真を選択して「GPSマップ」という機能を選ぶと、Google Mapsで撮影した位置を表示できる。地図、航空写真、地図+航空写真にレイヤーを切り替える機能や、拡大縮小のインターフェイスもGoogle Mapsと同じである。首都のアジスアベバだと建物の位置までほぼ確認でき、日本国内の都市で撮ったときとそう変わらない精度があった。

 しかし田舎へ行けば、地図こそは一応出てくるものの、真っ白である場合が多い。GP-1の精度が悪いというより、地図の不正確さに原因がありそうだ。描かれた道路が1キロ前後も間違っていることもあった。航空写真だとジャングルが広がったりして幾分ましなのだけど、単なる緑だったりして地図のときとそう変わらなかったりする。

 航空写真で見ると面白いのは人工物である。世界遺産となっているラリベラの岩窟教会は建物の特徴である十字の形がくっきりと表示されたし、土壌浸食はまるでゴルフコースのように広がっていることがわかったりした。

 GPSをつけて撮影することで、自分自身がどこにいたのかが時間の経過とともにわかり、これは助かる。ただし、ホットシューにつけるのは邪魔に感じた。同梱のストラップホルダーを使うことでストラップに留めることも可能だが、捕捉のスピードは遅くなる。今後、デジタル一眼レフカメラのボディにGPSを組み込んでもらえたらと思う。背面のディスプレイに地図が出るモードを備えてくれればなおさらよい。

 また、D90のビデオ撮影機能はとっさのときに撮れるのでとても重宝した。スチルカメラの形をしているので、ビデオ撮影していることが気付かれない。取材する立場としてはすばらしいことだ。ただし、記録時間に5分までの制限がある点や、オートフォーカスがきかないのは、今後の改善点だろう。

 GP-1による位置情報の記録とD90による動画撮影。いまのところはまだ不満点はあるものの、いずれは改善され、撮影者の表現手段をさらに広げてくれることであろう。今後どのようなカメラが発売されていくのか刮目したいところだ。



URL
  ニコン
  http://www.nikon.co.jp/
  製品情報(GP-1)
  http://www.nikon-image.com/jpn/products/camera/slr/accessory/others/
  西牟田靖
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  ブログ
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西牟田靖
西牟田靖(にしむたやすし)1970年大阪府生まれ。神戸学院大学法学部卒業後、フリーライターになる。近年は旅・現場・実感にこだわるノンフィクション作品を発表し続けている。著書に『僕の見た「大日本帝国」』(2005)、『誰も国境を知らない』(2008)など。NPS会員。

2009/03/03 00:21
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