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【新製品レビュー】HP「Elitebook 8730w Mobile Workstation」

~写真用途向けノートPCを試す(その2)
Reported by 本田雅一

Elitebook 8730w Mobile Workstation
 10bit入力対応のLEDアレイバックライト採用ディスプレイ「DreamColor LP2480zx」の記事でも紹介したように、日本ヒューレット・パッカード(HP)はコンピュータグラフィックスによる映画製作において協業関係にあるドリームワークス・アニメーション(現在はユニバーサル・ピクチャーズの一部)と共同開発してきたデジタルカラーソリューションを、DreamColorのブランド名で様々な製品に反映させている。

 たとえばLP2480zxにおいては、ターゲットとする色空間を指定してキャリブレートを行なうと、適切なカラーモードに変更した上で、RGB各ガンマカーブの微調整情報がディスプレイに送信され、ICCカラープロファイルが自動セットされるといった一連の動作が実にシンプルに実施できる。

 HP製のプロ向けのインクジェットプリンタにも採用されており、滑らかな階調、広い色再現域、高いリニアリティ、異なるデバイス間でのルック&フィールの統一、PANTONEカラーの正確なマッチングに加え、ICCプロファイルの扱いなどを自動化する機能も盛り込まれる。

 と、前振りが長くなったが、そうした映像プロフェッショナル向けの機能をノートPC(HPの分類ではより高性能なモバイルワークステーションという分野にカテゴライズされている)に盛り込んだのがHP Elitebook 8730w Mobile Workstationだ。直販サイト「HP Directplus」での販売価格は、21万8,400円~52万2,900円。


Quadコアに64bit OSを採用

 Elitebook 8730wはMobile Workstationという名称からも判るとおり、コンシューマ向けではなく、本来は企業向けのワークステーションとして開発している。このため、管理性の高いインテルのvProテクノロジプラットフォームを採用し、企業ユーザー向けのセキュリティ機能もフル対応している。

 全部で4つの標準モデルが用意されているが、すべての製品がDreamColorに対応しているわけではなく、最もハイエンドのモデルにのみの採用である。CTOによるカスタマイズの幅も狭く、基本的にはオプション品の注文以外では搭載メモリのカスタマイズ(標準4Gバイト、最大8Gバイト)しか行なえない。

 搭載プロセッサはCore 2 Quad Q9100(2.26GHz)が奢られ、64bit版Windows Vista Businessがプリインストールされる。実は下位モデルではWindows XPへのダウングレード権付きの32bit OSが標準になっているが、こちらは32bit版Windows Vista Businessのプリインストールで、プロセッサもCore 2 Duo。

 さらにGPUにはVAIO Type Aが採用しているNVIDIAのコンシューマ向けGPU、GeFORCE 9シリーズではなく、3Dワークステーション向けGPUのQuadro FX3700M(ビデオメモリ1,024MB)が搭載されていた。これはGeFORCE 9800M GTXと同じGPUコアではあるが、CADや3Dグラフィックス製作の用途向けにOpenGLへと内部ハードウェアの割り振りやドライバが最適化されたものだ。

 デスクトップPC向けにはデュアルコアのQuadro FX4700 x2という上位GPUもあるが、それを除けばOpenGLアプリケーション向けGPUとしては最高クラスの製品であり、もちろんノートPCのパッケージで考えるとトップエッジに位置する。


天面 キーボード

 このようにElitebook 8730wは、デジタル一眼レフカメラユーザーのための……というよりも、3Dグラフィックスで仕事をしている人のためのモバイルワークステーションという位置付けだ。クロックが多少低くともコア数が4個であることを選び、コストが上昇してもOpenGLアプリケーションに適したハイエンドGPUを採用するといった具合に、明確な意志を持って企画されたハイエンド機である。

 とはいえ、ディスプレイの質の高さやハイパフォーマンスは、デジタル一眼レフカメラユーザーにも邪魔にはならない。

 LightroomでニコンD300のRAWを現像するテストでは、50コマ分で1分53秒という成績が出た。CPUクロックではおよそVAIO type Aの試用機よりも700MHzほど遅い本機ではあったが、Quadコアの効果はRAW現像でも明確に現れ、約20秒の差となった。

 実際の使用感はさらに異なり、さらに多くの現像処理を行なう場合、あるいはRAWファイルをインポートし、バックグラウンドでサムネイルを展開している場合などに、ユーザー操作の邪魔になるような重さが発現しないという利点もあるだろう。

 価格の高さはネックになるだろうが、RGB LEDアレイをバックライトに採用した液晶パネルは、VAIO type Aと同じくTN型だが、こちらも正対する位置に座っている限り、視野角の問題は感じなかった。


3つの色空間に手早く切り替え

 先に紹介したVAIO type A Photo Editionは18.4型の16:9フルHD液晶パネルを採用していたが、Elitebook 8730wは17型の16:10という縦横比を採用している。解像度はWUXGA、すなわち1,920×1,200ピクセルなので、こちらの方がやや画素ピッチは狭くなる。

 多くのノートPC用パネルとは異なり8bitでドライブされるが、液晶ドライバレベルでは10bitでのガンマ補正が行われており、時分割駆動による疑似10bit表示にも対応する。

 DreamColorの設定は、HP Mobile Display Assistantというツールで行なう。このツールは環境光センサーによるバックライト輝度の自動調整をオン/オフしたり、Windows解像度とパネル解像度が一致しているかなどを確認する機能があるが、主にはディスプレイの色空間を切り替えるために利用する。


HP Mobile Display Assistant

カラーキャリブレーションキットとの組み合わせ

 もっとも、これだけ広い色再現域をもっているのだから、ICCプロファイルぐらいは最初から用意しておいて欲しかったというのが本音だ。sRGBとAdobe RGBに関しては、それぞれWindowsに標準で含まれているのICCプロファイルを流用することもできるが、UserFULLに関してはそれもできない。

 また、上記のような運用の場合、sRGBやAdobe RGBの画像を扱う際にはいいのだが、ほかの色空間のデータを扱う必要が出てきた場合に、UserFULLの広い色再現域を活用できないという面もある。

 HP Mobile Display Assistantには、設定する色空間におけるRGBそれぞれの色度点が表示されるので、UserFULLのカラープロファイルを作成するツールがあれば自分でICCプロファイルを作ることもできる。しかし、カラープロファイルの添付は簡単なことなのだから、是非ともプリインストール、あるいはWebからの配布を求めたい。

 試しにLP2480zx用のキャリブレーションキットをインストールしてみたが、特に本機と組み合わせた場合の特別な機能(たとえばガンマ補正値を液晶ドライバに送るなど)はなかった。純正のキャリブレーションキットはx-riteのi1ディスプレイをカスタマイズしたものだが、独自機能への対応はないので、UserFULL時のカラープロファイルを作成するためだけならば、他製品を使っても構わない。

 また、VAIO type A Photo Editionに添付されているICCプロファイルのデータと、本機のディスプレイのRGB座標を比較してみたところ、よく似た傾向の色再現域を持つようだ。しかし、緑の純度に関してはVAIO type Aの方がかなり広い。本機は緑の色度点がVAIO type Aよりもやや内側に入っている影響で、若干ながらAdobe RGBのカバー率で100%を切る(ただし、実使用上、違いが分からない程度の差ではある)。


SD/メモリースティックデュオ/xD共用スロットを装備 PCカードスロットも備える

ポインティングデバイス E-SATA端子も搭載

VAIO type Aと大きく異なるコンセプト

 本機を使ってみて感じたのは、同じLEDアレイバックライトを用いた広色域ディスプレイ搭載機でありながら、VAIO type Aフォトエディションと大きく異なる味付けとなっていることだ。

 VAIO type Aフォトエディションが、広色域ディスプレイを活かしてPhotoshop ElementsやLightroomをはじめとするカラーマネジメント対応ソフトを使いこなしやすくしようとしているのに対して、本機はsRGBとAdobe RGBを用途に応じて使い分けることで、多様なアプリケーションでディスプレイの特色を活かそうというアプローチだ。

 どちらが良いというよりも、双方の手法からユーザーが選択できるのが良いのではないだろうか。ICCプロファイルによるカラーマッチングシステムに対応しつつ、ディスプレイの色再現域をオンデマンドで変更できるようになっていれば、もっと柔軟に多様なニーズに応じることができると思う。

 その上で両者の用途ごとに違いとしては、VAIO type Aは写真修整・現像向き、Elitebook 8730wは3Dアニメなど映像製作現場向きという印象である。色温度9300度のテレビで見たらどんな印象になるか? キセノンランプの劇場用プロジェクタでスクリーンに投影した時には、どんな色味になる? といったように、様々な環境における写真やグラフィックスの見え方の比較は本機の方がやりやすい。

 さらに贅沢を言うならば、写真が目的のユーザー向けに、DreamColor対応プリンタで出力した作品を、いくつかの光源を当てて展示した時にどのように見えるか?をシミュレーションする機能があればいいかもしれない。

 元々が企業向けなだけに、個人ユーザー向けにはDreamColorの活かし方などやや説明不足の感はある。手を取り、足を取るように使い方を提案した製品にしろとまでは言わないが、もう少し優しくユーザーに提案できるようコンセプトを煮詰め、さらにCore 2 Duoバージョンなど低価格版を用意できるなら、個人のフォト中心のユーザーにも勧められる製品になるだろう。

 純粋なPCとしての質感や機能性、ポインティングデバイスの使いやすさやキータッチなど、基本性能はとても優れているだけに、DreamColorであることの利点を訴求するプラスαが欲しいところだ。



URL
  HP
  http://welcome.hp.com/country/jp/ja/
  製品情報
  http://h50146.www5.hp.com/products/portables/8730w/

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本田雅一
PC、IT、AV、カメラ、プリンタに関連した取材記事、コラム、評論をWebニュースサイト、専門誌、新聞、ビジネス誌に執筆中。カメラとのファーストコンタクトは10歳の時に親からお下がりでもらったコニカEE Matic。デジタルカメラとはリコーDC-1を仕事に導入して以来の付き合い。

2009/01/15 00:20
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