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【新製品レビュー】エプソン「マルチフォトカラリオEP-901F」

~フルモデルチェンジというにふさわしい完成度
Reported by 本田雅一

マルチフォトカラリオEP-901F。発売は10月8日。価格はオープンプライス。大手量販店での実勢価格は4万4,000円前後
 インクジェット複合機はエプソン、キヤノン、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の3社が代表格で、これにレックスマークやブラザー、シャープなどがメーカーとして存在する。しかし、「写真プリント」という視点で捉えると、このところ大きく進歩はしていない。

 もちろん、多画素の画像をプリンター本体のみで印刷する際の操作レスポンスなどは改善が進んでいるが、プリンター単体の画質に関して新しいアプローチを見せるメーカーはなくなり、現状維持で機能をブラッシュアップしながら低コスト化する方向へと向かっている。

 日本HPなどは、ハイエンドのインクジェット複合機を作るよりも、手軽に購入できる高速なカラープリンターを提供し、加えて特に高い品位や特殊な印刷(ブックレットやマグカップ、Tシャツなど)をネットワークサービスのSnapfishで提供するという2面展開で、家庭におけるカラー印刷を提供すると明確な方針を打ち出した。

 その中でエプソンは今年、写真だけでなくあらゆる方向へとメカ、印刷ヘッドともに大きく進化させた新製品を投入した。そこで今年は大きく進化したエプソンの上位機種に絞って、レビュー記事をお届けしたい。


使いやすさと運用性に重点を置いた新ヘッド

 試用したのはファックス機能とタッチパネルを備えたEP-901Fだが、プリンター部分の性能はファックス機能を省略したEP-901A、タッチパネルをボタン操作に改めADF(自動原稿フィード装置)を省略したEP-801Aと共通だ。

 詳しくはPC Watchで掲載した西川和久氏のレビューをご覧頂きたいが、本機は従来機の一部改良製品ではなく、印刷ヘッド、給紙メカ、内蔵コントローラとソフトウェア、操作性など、あらゆる要素に手を加えた上で、新コンセプトのスタイリッシュな外観を持つ筐体に収めている。

 では、機能面は前述のPC Watchによるレビューにまかせ、ここでは主にプリンターヘッド部について見ていこう。

 インク滴サイズは最小1.5ピコリットルだが、最大11ピコリットルまで、5段階のインク滴を打ち分けることで階調性を引き出すAdvanced MSDT、電極プレートにインク滴を吐出し、自動的にノズルの詰まりを検出してクリーニングを施すシステムなどが搭載され、またインクタンク交換時のインク消費に配慮された新設計のものだ。

 複数インク滴を打ち分けるMSDTは、ノズル制御の自由度が高いマイクロピエゾ方式(マッハジェット方式)の特徴を活かしたもので、90年代後半のPM-770C以降で定番となっている機能だが、元々は高画質を実現するための機能ではない。高画質化のために微少インク滴とした際の印刷速度が低下(インク吐出数を増やさなければ濃度が出せなくなる)を防ぐために考案されたものだ。

 かつてのMSDTは、細かなディテール再現に問題があり、一時は高画質モードで使われなくなったこともあったが、現在のAdvanced MSDTはインクのサイズと濃淡を状況に応じて組み合わせ、また可変サイズのバリエーションも増えたことで、細部のディテール感も引き出され、優れた階調表現など画質向上にも寄与するようになっているようだ。

 増えたサイズの組み合わせによって速度と画質の最適化を図っているようで、もっともきれいなドット配置となる「きれい」モードでもAdvanced MSDTを利用しつつ、しかし精細感や色の深みも引き出せるようになった。

 一方、電極パネルによるノズルチェックが機能面ではフィーチャーされているが、それ以前に最新のヘッド設計となったことでインク室のエアが自然に排出されるよう工夫するなど、内部の改良の方が大きい。長期に運用した際のインク詰まりなどは、現時点では判断できないが、少なくともテストで利用した1カ月以上の間でインクとヘッド回りに関するトラブルは一切なかった。


インクカートリッジは6色独立タイプ。交換時に充填動作を行なわなくなったのはメリットだ
 しかし、何より扱いやすく感じたのは、インクカートリッジ交換時にインク充填動作を行わないこと。以前はインクカートリッジを交換すると、そのたびにインク充填が行なわれ、インクポンプを共有する他の(残りインクが少なくなっている)カートリッジが空になり、そのカートリッジを交換すると、またスグにインクがなくなるといった負の連鎖を何度も経験していたが、そうした運用面での扱いにくさはなくなった。

 インクカートリッジをインクヘッドとは別に本体右手前に取り付け、チューブから供給するオフキャリッジ構成なので、残りインクを本体が動作しなくなるギリギリまで使い切っても、印刷結果に影響を与えない(インクヘッドにインクを充填した時点で限界点以下にインクが減っているので、その時点で交換することができる)という点を含め、インクカートリッジの運用はとてもやりやすい。

 ちなみにインクの減り方は各色ごと、あまり大きな差はない。以前のエプソン機は極端に薄いインクばかりが減る傾向があったが、ここ数年のモデルはもっとバランス良く減ってくれるように感じる。テスト機のインクカートリッジはすでに5セット目だが、多様なカラー写真ばかりを印刷している中では消費量のバラツキは少なく、6色分のカートリッジのセットパッケージを購入しておくのが良さそうだ。


滑らかな階調と色相のリニアリティ

 本記事では主に写真印刷にフォーカスを当てているが、それでもWebページや何らかの文書印刷に使うケースは少なくないだろう。そこで、まずは普通紙での印刷結果を評価してみたが、インクジェット用普通紙やコート紙では良好な画像が、しかも高速に得られる(これらの用紙では比較的大きなドットが用いられるため)が、安価なコピー用紙(PPC用紙)では、黒濃度にやや不満が残った。

 エプソンの染料系黒インクは、染料系の中でも高濃度と言われてきたが、どうも以前より濃度が低く感じられる。エプソンに問い合わせてみたところ、インクそのものの濃度は変更していないということだが、印刷結果の評価では若干ながら濃度が落ちているという。

 本題ではないが、印刷速度や用紙ハンドリング、複合機としての機能など、さまざまな面で万能プリンターとして設計されている本機だけに、PPC用紙など条件の悪い中での実用画質についても、ひと工夫欲しいところだ。

 黒インクの濃度に関しては写真画質にも影響するため変更は難しいかもしれないが、たとえば普通紙印刷時は薄いインクを一切使わないなどのオプションを設ければ、普段は4色機相当のインクコスト、写真印刷時だけ6色をフルに駆使するといった使い分けもできるだろう。

 とはいえ、写真画質はコンシューマ向けプリンターとして、非常に素晴らしいものだった。染料系インクならではの透明感ある発色は、顔料系インクを用いるPXシリーズでは得られないものだ。しかも、画質モードを「標準」から「きれい」に切り替えると、印刷時間と引き替えに、深みのある発色も得られる。特に高濃度・高彩度の色から黒に落ちていくグラデーションに粘りが出てくる。色の濃度感はK3インクとヴィヴィッドマゼンタを採用するPX-5600よりも高く、高彩度の演色が得意という印象だ。

 これならば、顔料系ではなく、あえて染料系インク機で作品出力を行なうという選択肢も考えられるのではないだろうか。その代わりに完全乾燥するまで色が安定しなかったり、少し古くなった用紙に印刷すると色ムラができたり(用紙が吸湿してしまうから)、サードパーティ製用紙などでの発色傾向に強いクセが出るといった、染料インクならではの不利な面はある。

 しかしコンディションが保たれた純正紙に印刷する限りにおいては、とても安定した発色やトーンカーブが得られる。明暗のトーンはもちろん、異なる色相間の色変化がリニアで、グラデーションの中で色相が不安定な変化を引き起こす傾向が、染料インク機としては非常に少ない。絵作りのために色再現が捻れているような部分も見受けられず、素直な特性だ(なお、印刷直後、乾燥前の状態では「標準」より「きれい」の方がリニアリティが低く、低画質に見えるが、乾燥後に「きれい」の方が高画質となる。店頭で画質確認する際などには気をつけたい)。


今季からColorioのロゴが新しくなった
 エプソン自身はEPSON Colorによる、より積極的な絵作りを訴求したいようだ。もちろん、そうしたお手軽にキレイな写真が得られる技術も本機のひとつの売りだろうが、付属のICCプロファイルを活用してカラーマッチングをかけて印刷といった使い方でも、顔料系の写真画質プリンター並に“使える”という印象だ。また、手動設定で色再現を「Adobe RGB」に設定した際の特性はICCプロファイルでAdobe RGBを適用し、Photoshopなどから印刷した場合よりも結果が良くなる。Adobe RGBで画像をレタッチしている人は、積極的にこの機能を活用するといいだろう。

 たとえば本格的な作品出力用にPX-5600のようなプリンターを持っているという人が、クリスピアの光沢感を活かせる染料系の高画質なプリンターも欲しいといった場合に、PX-5600と同様の使い方をしてみても(乾燥までの待ち時間を別にすれば)、十分に満足できる結果を引き出せるだろう。モノクロ系印刷は、さすがにK3インクシステムのPX-5600よりも明らかに落ちるが、カラー印刷はよい面、悪い面ともにわずかずつ存在し、よい補完関係となる。なお、印刷結果の細かな評価は最後にまとめて紹介したい。


従来のカラリオ複合機・上位モデルとの違い

 さて、写真関連の機能で残念なのは、フィルムスキャナが削られたことだろうか。すでにフィルムカメラを一度も使ったことがないという世代がプリンターを使うようになってきていることを考えると、これも致し方ないところだろうか。

 フィルムスキャン機能は積極的に削ったというよりも、ロープロファイルのデザインを実現するために削らざるを得なかった(フィルムスキャンに適したラインCCDを用いたスキャナは厚みが大きくなる)というのが、おそらく事の真相だろう。ラインCCDを用いた高画質スキャナはエプソンのお家芸とも言えるものだけに、非搭載は残念。

 しかし、すでに今以上にフィルム資産が増えないのであれば、業者にまとめてスキャンしてもらう手もあるし、今後もフィルムを使い続けたいというユーザー層は、かなりフィルム撮影に対して思い入れのある方が多いのではないだろうか。ならば、専用のフィルムスキャナを別途用意した方が満足できるはずだ。

 一方でEP-901シリーズはFAXモデルのEP-901Fはもちろん、FAX機能を持たないEP-901AにもADFが装備されている。片面スキャンしか行えないため、雑誌などをPDFに取り込む際には2回、ADFでのスキャンを行なう必要があるが、さほど大量ではない文書の電子化を行いたいという人には便利だろう。


EP-901シリーズには、FAX非搭載機を含めてADFが搭載されている

ふたを閉じておけばすっきりしたデザインを維持できる


 これらはユーザーの使い方が変化したことに対する製品企画コンセプトの変化とも言えるもので、特にフィルムスキャンに関しては、今後はインクジェット複合機から外れていくと思われる。

 給紙システムも従来とは若干変化した。前面給紙システムは以前から採用したモデルが存在したが、今回のEPシリーズでは背面の用紙ホッパーが省略され、前面給紙のみとなった。手差し給紙機構も備えていないので、ユーザーは用紙カセット(A4サイズまでの通常用紙トレイ部とはがきやLサイズ、2Lサイズなどに対応するフォトカードトレイの2ウェイ給紙)からしか給紙を行えない。

 用紙がプリンター本体下にすっきりと収まるため、見た目にはよい部分ばかりなのだが、大量のLサイズ写真などを出力したい場合には、トレイの給紙容量が少ない点が気になってくるかもしれない。フォトカードのトレイはEPSON写真用紙で約25枚ほどしかセットできない。

 実は、はがきに関しては上下のトレイに同時にセットしておくことができるが、Lサイズはメインのトレイから給紙できないため、上部のフォトカード用トレイを用いるしかなく、大量の給紙を行なう手段がないのである。


本体にCD/DVDレーベルプリント用トレイを内蔵
 たまに気に入った写真を数枚をプリントするといった使い方であれば、用紙を入れっぱなしにできるのでよいのだが、旅行などの後にまとめてたくさんの写真を出したい時には、用紙をカセットに継ぎ足しながらの印刷となる。たとえばオプションの両面印刷ユニットと排他使用で、+αで(はがきサイズくらいまで対応する小型のものでもかまわないので)後付の用紙ホッパーが背面に取り付けられれば、使いやすくなるのだが。PM-A900シリーズが前面・背面の両対応だっただけに、給紙の自由度では後退した側面もある。

 もっとも、圧倒的に良くなった面もある。それはCD/DVDレーベルプリントだ。カタログなどでご存じの方が多いと思うが、本機のCD/DVDレーベルプリント用トレイは本体に内蔵されており、必要に応じて自動的に操作パネル下に現れる。

 これまでCD/DVDレーベルの印刷が少し面倒だと思っていた人も、これならば手軽に楽しめるだろう。レーベルプリント用のアプリケーションは、少々使いづらい面もあるが必要最小限の機能はある。DVDやBDなどへの録画をたくさんやるという人なら、これだけでも買う価値があるほど便利だ。文字だけのラベルと写真やイラストが入ったラベルでは、後から必要なメディアを探す際の視認性が段違いだからだ。


優秀な印刷速度

 本機は印刷もとても速い。高画質の6色インク機ながら、デフォルト(プリセットの「標準」)ではLサイズ縁なしで約22秒ほどだ。このうち、約8秒はプリンターへのデータ送信、プリンターメカの動作準備と給紙動作に費やされるので、実質的な1枚あたりの印刷時間は14秒ほどで、2枚目以降はほぼ14~15秒をキープする。カタログ値の14秒という値は、決して伊達ではないということだ。

 濃度の低いインクで高階調を引き出す6色プリンターでは、打ち込み量が増えるため4色インク機よりも速度は遅くなるのが通例だが、これくらいなら気にならないはず。さらに、高画質を求めて「きれい」を選択すると1分3秒かかる。どうやら、「きれい」にすると縁なし時の速度低下が顕著になるようだが、画質面のゲインもそれなりにある。とはいえ、日常的なスナップの印刷であれば、「標準」でも不満を感じることはないと思う。画質設定の違いによって印刷結果がどう変化するかは、別途、まとめて報告してあるので、詳しくはそちらを参照していただきたい。

 下記に代表的な印刷速度の実測例を示したが、大きなドットを用いて高速印刷が可能な普通紙での速度が速いのはこれまで通りだが、写真印刷時の速度でも多ノズル化で有利なサーマル系のインクジェットヘッドに遜色ないレベルになった。むしろ連続印刷時の休止が必要ないピエゾ型の本機の方が、大量印刷時は有利だろう。

画質設定と印刷速度の関係
画質設定 用紙設定 印刷速度
きれい A4(ふちあり) 2分01秒
標準 A4(ふちあり) 0分58秒
標準 L(ふちなし) 0分24秒
きれい L(ふちなし) 1分03秒

※いずれも印刷開始を指示してから、データを転送し印刷準備を開始。給紙するまでの時間を含む。8~9秒を引いた時間が印刷ヘッドの動いている時間


 加えてベンチマークは行なっていないが、1,200万画素クラスのJPEGファイルでも十分に高速な印刷が行なえるダイレクトプリントの速度も秀逸だった。メモリーカードを入れてからサムネイルが表示されるまでの速度も速く、写真印刷時の精神的なストレスはほとんど感じることはない。


まとめ

 “Photo Mach-jet”を語源とするPMシリーズの名称を捨て、新たにスタートを切ったEPシリーズは、ヘッド、メカ、操作周りなどあらゆる部分に手を入れて、フルモデルチェンジというに相応しいモデルになった。冒頭でも述べたように、ここまで単体のインクジェット複合機としての機能を追求した新コンセプトのモデルは、今年、このシリーズだけだ。

 もちろん、文中でも述べたように、スタイリッシュなデザインを求める余りに削られている部分もあるが、引き続きインクジェットプリンターで付加価値を提供しようというエプソンの強い意志を感じるモデルだと思う。

 近年は「お店プリント」の質が高まり、印刷コストもLサイズだけで言えば「おうちプリント」の方が高いケースがほとんどになった。そうした中でも、やっぱり自分自身の手で写真を印刷したいというユーザーに、写真だけでなくバランスよく機能がまとめられ、画質面でも染料系プリンターとしてトップの安定した階調表現が可能な本機を勧めたい。使いこなせば、お店プリントよりも良好な結果を引き出せるはずだ。

 インク滴サイズといった数値上のスペックはここ数年、大きく変化していないが、インク色材や印刷ドライバ、ヘッドの精度といった部分は着実に進歩しているようで、数年単位で見ると見違えるほど画質は向上している。デジタルカメラユーザーが最初に購入する1台目のフォトプリンター、あるいはフォトに特化したA3顔料インク機を所有しているならば、そこに+αで加えるプリンターとして楽しめる製品になっている。


印刷結果

 プリンターの色をなるべく忠実に再現するため、一部を除いてAdobe RGBで掲載している。このため、Adobe RGB以上に対応するキャリブレートされたディスプレイと、カラープロファイルに対応したWebブラウザ以外では正しい色で表現されない。なお、すべての画像にはICCプロファイルを埋め込んでいるため、単独のファイルとしてダウンロードし、Photoshopなどカラープロファイルを反映できるアプリケーションで表示することも可能だ。

 プリント結果からスキャンしたデジタル画像は、キャリブレートされた環境で、可能な限り印刷結果の印象に近くなるよう調整している。ただし、印刷物とコンピュータディスプレイでは色の表現方法が異なるため、完全には一致していない。また、PX-5600の新製品レビューにおいても、同じ素材を用いたテストを行なっているので参照いただきたい。

  • サムネイルをクリックすると、EP-901Fで出力したペーパーのスキャン画像を表示します。


・カラーチャート

 画面上では区別が困難なため、「きれい」の結果のみを掲載しているが、両者の結果は肉眼で見ると明確な違いがある。

 「標準」は「きれい」に比べて黒側の粘りが少なく、わずかに黒ツブレがみられる。よく見ると白側のグラデーションも「きれい」の方が滑らかに出るが、黒側がより顕著だ。ただし、色や濃度の変化に対する振る舞いそのものは、いずれも素直で、特に癖のある色域はないようだ。職人芸的絵作りをしていたかつてのエプソン製プリンターとは異なり、数学的なアプローチで全体の色再現のリニアリティを高める工夫が行なわれていることがうかがえる。

 一方、PX-5600と比較すると赤・緑の発色が良く、透明感のあるヌケのよい色が出ている。青に関してはPX-5600の方が高純度だが、青の色飽和度が高い領域は目の感度が低いこともあり、さほど大きな影響はないと考えられる。画像の色域はAdobeRGB。



・水中写真

 ヴィヴィッドマゼンタを搭載するPX-5600は、イソギンチャクの色を見事に再現したが、本機はそこまで蛍光色的なピンクを引き出せていない。が、水中写真らしい透明感とヌケの良さは生きており、絶対的な彩度はほどほどながら、クマノミのオレンジ色のボディは色飽和度の高い映像の中でもきちんと立体感を表現できている。アケボノハゼの尾にかけてのグラデーションも素晴らしいが、青い蛍光色部分はやや色が飽和している。

 掲載は「きれい」の結果だが、「標準」で印刷すると、シャドウ側の階調が途中で失われるように見え、コントラストが落ちて立体感が削がれる印象を持った。画像はAdobeRGB。




・人物

 ここではsRGB画像を「自然な色あい」、オートフォトファイン!EXの「標準(自動)」、オートフォトファイン!EXの「人物+イメージピュアライザの美肌オプション」で印刷した。帽子の陰になった肌色が、どのように変化するかを見るためだ。「自然な色あい」での色再現はPX-5600とほぼ同じで、近年のエプソンに共通する絵作りとなる。

 対してオートフォトファイン!EXの標準(自動)モードで印刷すると、背景の青空や海が鮮やかに描かれ、陰になっている顔が明るく持ち上がる。肌色を意識した補正が行なわれるので、やや青い日陰の肌も色バランスが補正されてきれいに見える。不自然と言えば不自然だが、しかしキレイな写真を得たい場合は、適切な補正と言えよう。

 オートフォトファイン!EXの「人物+イメージピュアライザの美肌オプション」を適用すると、基本的な補正結果は標準(自動)モードと同じながら、全体の色温度が若干低くなり、肌も福与かに描かれた。個人的には、やややり過ぎという印象だが、しかし、これくらいの補正をした方が、一般的にはウケは良さそうだ。


自然な色あい

標準 人物+イメージピュアライザの美肌オプション


・チューリップ畑

 紫、黄色、赤と、色飽和度の高いチューリップの花びらが、立体感を失わずに描かれており、全く問題ない。葉のやや黄色がかった緑も正確な表減で、全く不満はなかった。画像はAdobeRGB。



・ハリウッドハイランドコンプレックス

 細かな部分の描写もしっかりとされており、特に暗部に隠れている情報がしっかりと描かれているのが印象的だった。たとえばPX-5600では右下の陰にいる人の姿はわからないが、本機ではある程度判別できる。青空に関してはPX-5600の深い色には及ばないが、しかし「きれい」モードならば、全く問題ないレベルの濃度が出る。



・sRGB画像を色補正自動で出力

 動物の写真を3枚、Lサイズに出力。このうちペンギンの写真は「きれい」と「標準」の両方を掲載した。色補正は自動(デフォルト設定)だが、どうやらオートフォトファイン!EXが自動的にかかるようだ。このため、PX-5600でのテスト結果に比べると暗部が持ち上げられて、全体に明るい写真になっている。

 たとえばフラミンゴのシャドウ部が明るく、背景も全体に明るくなっている。またカバは明るくなりすぎて、まったく別の写真になっている。これらは手動設定で「自然な色あい」などに設定すると、忠実度の高い出力結果になる。やや一般的ではない例かもしれないが、オートフォトファイン!EXの弊害と言えるかもしれない。

 一方、ペンギンに関しては自動補正がうまく機能しているようだが、「きれい」と「標準」の差が比較的大きかった。スキャンした画像ではよく判らないのだが、ペンギンの背のディテールや池の緑など、「きれい」の方が階調が多くディテールが深い。わずかな差なので、日常的に写真出力用として使うなら「標準」で十分だが、ここぞという時には「きれい」を活用したい。



標準 きれい

【2008年12月17日】水中写真を1点追加しました。



URL
  エプソン
  http://www.epson.jp/
  製品情報
  http://www.epson.jp/products/colorio/printer_multi/ep901f/
  エプソン、「プリンタらしくないプリンタ」がテーマのインクジェット複合機(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/0919/epson1.htm
  インクジェット複合機三つ巴の戦い その3~EPSON Colorio EP-901A編(PC)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2008/1111/nishikawa.htm



本田雅一
PC、IT、AV、カメラ、プリンタに関連した取材記事、コラム、評論をWebニュースサイト、専門誌、新聞、ビジネス誌に執筆中。カメラとのファーストコンタクトは10歳の時に親からお下がりでもらったコニカEE Matic。デジタルカメラとはリコーDC-1を仕事に導入して以来の付き合い。

2008/12/16 18:47
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