富士フイルムのFinePix S6000fd(以下、S6000fd)は、35mm判換算で28~300mm相当となる光学10.7倍ズームを備えた高倍率機。撮像素子は1/1.7型の有効630万画素スーパーCCDハニカムVIで、液晶モニターは2.5型。ハードウエア検出による高速な顔認識機能を搭載。といったところが主なスペックである。
CCDや画像処理エンジンを初めとするデジタル部に関しては、同社のFinePix F30/F31fdとほぼ同じということで、F31fdの高倍率ズームバージョン=S6000fdと考えるとわかりやすい。ちなみに富士フイルムではこのような高倍率ズーム一体式でEVFを備えたデジカメのことを「ネオ一眼」と呼んでいる。
■ ホールディング最優先のボディデザイン
高倍率ズーム付きのネオ一眼は各社から発売されているけれど、その中でもS6000fdのボディサイズは比較的大きい方で、ボディ部の高さや幅は一眼レフと同じくらいある。デジタル部がF31fdとほとんど同じということを考えると、その気になればもっと小型化も可能だったはずだが、レンズとバランスをとり、なおかつホールディング性を優先させるために、あえて大きめのボディサイズにしたのだろう。
実際、ホールディングはかなり良好で、その点ではエントリークラス一眼レフと遜色ない。しかも、大きさは一眼レフ並みでも、重さは一眼レフよりはるかに軽いので、長時間構えたままでもあまり疲れないのもこのカメラのいいところだ。
写真を見てもらえればわかるとおり、デザイン的にも大きさ的にも一眼レフそのものといった感じだ。大きめボディとも相まって、数あるネオ一眼の中でも相当に存在感がある。
ボディの外装材質はプラスチックで、よく見ると、造形的にはなかなか複雑な形状になっている。これだけ複雑だと金属で作るのは難しいと思われるので、外装がプラスチックであることにはまったく異論はないのだが、気になるのはその表面仕上げ。あまりに素っ気ない感じなのだ。プラスチックの表面処理がもう少し色気のあるもの、たとえばハンマートーン仕上げなどだったら、さらに存在感がアップしたのにと思う。
■ 硬派すぎる? ISO感度に対する考え方
ボディサイズに余裕があるため、各操作部材は比較的大きめだ。ボタン間隔などのレイアウトも比較的広く、全体的な操作性は良好だ。ただ、電子ダイヤルは付いていないので、絞り優先AE時の絞り設定や、露出補正など、各種設定入力はどうしても十字キーを多用することになる。一眼レフライクな外観に反して、このあたりの操作性はえらくコンパクト機的である。コスト的な問題でむずかしいのだろうが、同社ネオ一眼の上位機種であるS9100のように電子ダイヤルを備えていれば、露出補正などの操作性はさらによくなっただろう。
「F」ボタンによるISO感度や画質設定、FinePixカラー(いわゆる画像仕上げ)へのクイックアクセスはF30やF31fdと同じで、色調をスタンダードからリバーサル調の高彩度なものに簡単に切り替えられるほか、ISO感度の設定もここで素早く切り替えることができるのは便利だ。
ただし、ISO感度設定の考え方にはちょっと違和感が残った。モードダイヤルがAUTOやポートレートモード、風景モード等のいわゆる簡単撮影モードではISOオートのみで任意の感度設定が行なえないのは順当だが、反対にプログラムAEや絞り優先AE、シャッター速度優先AE時にISO感度が任意設定のみで、ISOオートを選べないのはどうしてだろうか。もちろん、そういった撮影者の意志を明確にする撮影モードではISO感度も撮影者の意志で決めるべしという考え方は理解できるのだけれど、一眼レフでさえISOオートと絞り優先AEを上手く連動させることができる時代に、この考え方は少々硬派すぎるような気がするのだ。
ちなみにF30ではマニュアル撮影モードではISOを手動選択できるほか、ISOオートも選択可能で、なおかつISOオート時の最高感度をISO400もしくはISO1600の2種類から選択することができたけれど、S6000fdでもこれはそのまま踏襲すべきだったと思う。なぜなら、高倍率ズームを搭載するS6000fdの場合、広角側では低い感度でも、望遠側では手ブレをさけるために少し感度を上げたい場面が多々あるわけで、そういうときにこのISOオートが連動してくれたらなぁというわけだ。
一方、ズーム操作は小型なネオ一眼によく見られる電動ズームではなく、一眼レフと同様のズームリングを回して操作する手動ズームが採用されているが、これは電動ズームに比べて圧倒的に使いやすく正解である。
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グリップにはディンプルパターンのラバーが張り込められている。滑り止め効果は抜群にいい
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シャッターボタンと同軸上に配されたメインスイッチや露出補正ボタンの配置はニコンライクだ。撮影モードと再生モードの切り替えはメインスイッチで行なう
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上位機のS9100と異なり液晶モニターは固定式だが、大きさは2.5型とS9100より大きい。画素数は23.5万画素
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撮影モード時、十字キーの左キーはマクロ設定、右キーはフラッシュモード切替、上下キーは絞り優先AE時の絞りや露出補正の入力に使用する
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内蔵ストロボは主要被写体の距離や画面内での大きさ・位置を認識し、発光量をコントロールするiフラッシュを搭載
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レンズは実焦点距離が6.2~66.7mm。35mm判換算で28~300mm相当の10.7倍フジノンレンズ
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ズームは一眼レフと同じ手動ズーミング式で使い勝手は良好
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10.7倍という高倍率ながら、鏡胴は2段繰り出しではなくシンプルな1段伸ばし。300mm時でもレンズの伸長はそれほどでもない
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付属のレンズフードはバヨネット取り付け式の花形タイプ
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フォーカスモード切り替えレバーはボディの右手側サイドに。MFに切り替えていても中央のワンプッシュAFボタンを押せばAFが作動してくれる
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EVFは0.33型、11.5万画素で視野率は100%。視度調節機構付き
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各種インターフェイス。F30ではUSBがAV端子を兼ねていたが、S6000fdではそれぞれ独立している
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液晶モニターとEVFの表示
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拡大再生は最大でこの倍率
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Fボタンを押すことで、ISO感度・画質・FinePixカラーの3つへクイックアクセスできる
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設定できる最高感度はF30と同じくISO3200までと高い
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■ 電源には単3電池を使用
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電源は単3電池4本。ACアダプターによる駆動も可能
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最近はコンパクト・一眼を問わず専用リチウム充電池を採用するモデルが増えつつあるが、S6000fdではコンベンショナルな単3電池を4本使う。使えるのはアルカリとニッケル水素充電池で、本体にはアルカリが付属している。
専用リチウム、単3電池それぞれ一長一短なので、一概にどちらがいいとは言えないが、旅先など、どこでも手に入る汎用性の高い単3電池が使えるのは確かに便利である。願わくば、単3型リチウムやCR-V3といった非充電タイプのリチウム電池にも対応してくれていればなおよかったのだが。
ちなみに、S6000fdの電池ブタはロックがなく、スライドさせるだけで簡単に開いてしまう機構なのだが、これが使用中に何度も不用意に開いてしまうのは要改善項目だと思う。
一方、記録メディアは富士フイルムなので当然ながらxDピクチャーカードで、現時点で正式対応するのは1GBまで。メーカー的にはSDメモリーカードを採用するわけにもいかないのはわかるが、ボディサイズ的に余裕があるので、できればCFカードとのダブルスロットだったら、かなり大勢のユーザーが喜んだのではないだろうか。
なお、記録メディアとは別に約10MBの内蔵メモリもあり、xDピクチャーカードと相互に画像コピーを行なえる。このため、お気に入りの画像などを内蔵メモリーへ置いておくことも可能なのは便利だ。
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横にスライドさせるだけの電池ブタはカメラをバッグから取り出すときなど、不用意に開きやすく、できればロック機構が欲しい
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記録メディアスロットは一般的なボディ右側ではなく、左手側にある
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■ 大いに使える顔認識
S6000fdのハイライトは何と言っても世界最速の顔検出機構である。撮影時に被写体の顔を認識してAFやAEを連動させるという技術はそれほど目新しくはないが、これまでの顔認識が画像解析によるソフトウエア方式だったのに対し、S6000fdではハードウエアによる顔認識により、画像解析方式に比べて圧倒的な高速捕捉と正確さを実現している。
メーカーが公表している認識にかかる時間は、最短で約0.05秒で、最大10人の顔を一度に検出することが可能となっている。
実際に使ってみた印象は「スゴイ!」のひとことで、人物が極端に横を向いていなければほぼパーフェクトに認識してくれた。AFロックの手間が省けるのはもちろんのこと、顔の明るさを配慮したAE制御になるため、露出補正の必要性も減るなど、顔認識は良いことづくめで、これは大いに使える技術だと感じた。ビギナーに多い、背景へのピントヌケなども、この顔認識でかなり防げるのではないだろうか。しかも、顔認識は撮影時だけでなく再生時にも有効で、顔部分を即座に拡大してくれることでピントや表情の確認が非常にスピーディーに行なえるというおまけ付きである。
同様のハードウエアによる顔認識はキヤノンなどもすでに行なっているけれど、これはこれからのコンパクトデジカメ・ネオ一眼にとってトレンド機能となることは間違いないだろう。
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顔認識による「顔キレイナビ」はファインダー横のボタン一押しで設定できる
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正面向きではもちろん素早く認識する
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顔の撮影倍率にも寄るだろうが、このくらいまでなら横向きでも難なく認識した
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このように完全に横顔になってしまうと認識不可となる
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■ やや作られ感はあるものの、鮮やかでメリハリのある描写
前述したとおり、デジタル部分はF30とほぼ同等ということで、画質についての印象もF30とまったく同じだ。デフォルトのFinePixカラー:スタンダードでもちょっとハデめであり、やや人工的な色味に感じる部分もなくはないが、文句なしに多くの人がキレイと感じる色調、そしてコントラストになっている。特にこってりと色乗りのいい色調を好む人にとっては最高の色再現であろう。
また、FinePixカラー:F-クロームでは相当に彩度が上がるため、常用するのは少しつらいが、今までベルビアなどの高彩度系リバーサルフィルムを愛用してきた人だと、このくらい鮮やかな色再現でないと物足りないのかもしれない。
また、高感度時のノイズが少ないのもF30譲りであり、ややディテールが人工的になるものの、ISO800が充分実用になるのは1/1.7型の小サイズCCDとしては立派と言うほかない。スーパーCCDハニカムHR VIとリアルフォトエンジンIIの威力だが、「小サイズCCDの使える高感度」という分野では現時点で間違いなくナンバー1だと思う。
※作例のリンク先は、撮影した画像です。等倍の画像(2,848×2,136ピクセル)を別ウィンドウで開きます。
※記録形式はJPEG/FINE、ホワイトバランスはオートで撮影しています。
※画像下の撮影データは、絞り / シャッタースピード / 露出補正値 / 撮影モード / 感度 / 実焦点距離です。
FinePixカラーの違いはこのくらいある。もともと派手な色合いの被写体ではF-クロームでは違和感は少ない。
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FinePixカラー:スタンダード
F4.9 / 1/480秒 / 0EV / 絞り優先 / ISO200 / 66.7mm
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FinePixカラー:F-クローム
F4.9 / 1/500秒 / 0EV / 絞り優先 / ISO200 / 66.7mm
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通常のコンパクトデジカメに比べるとレンズの実焦点距離がそこそこあるため、絞り優先AEも有効に使える
F4.9 / 1/110秒 / 0EV / 絞り優先 / ISO200 / 66.7mm
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露出制御はかなり有能で、このような逆光気味のシーンでも無補正でイケてしまう
F4.9 / 1/125秒 / 0EV / 絞り優先 / ISO200 / 66.7mm
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レンズ性能はかなり高く、画面のどの場所でもピントがちゃんと来る。像面湾曲はかなり少なそうで、安心して使える
F3.8 / 1/150秒 / 0EV / プログラム / ISO100 / 25mm
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この大きさで300mm相当というのはかなり痛快。望遠でスナップするのも楽しいということを再認識させてくれるカメラである
F7.1 / 1/300秒 / 0EV / プログラム / ISO100 / 66.7mm
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最望遠端でマクロ機能を使用した。このシャープさはスゴイリアル
F4.9 / 1/450秒 / 0EV / プログラム / ISO100 / 66.7mm
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ISO400~1600の高感度画質を比較してみた。ISO1600まで上げるとさすがにそれなりだが、ISO800までなら結構使えそう。一眼レフのような大型CCDではないことを考えると相当に高感度画質はいい。
ISO3200になるとそれなりにノイジーだしディテールも絵ぽくなるけれど、どうしても手持ちで撮らなければならないときはこの感度の有効性はありがたい。
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ISO400
F2.8 / 1/3秒 / 0EV / プログラム / ISO400 / 6.2mm
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ISO800
F2.8 / 1/6.5秒 / 0EV / プログラム / ISO800 / 6.2mm
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ISO1600
F2.8 / 1/14秒 / 0EV / プログラム / ISO1600 / 6.2mm
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ISO3200
F2.8 / 1/13秒 / 0.67EV / プログラム / ISO3200 / 6.2mm
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ISO400までならかなり高画質でディテール消失もわずかだ
F2.8 / 1/12秒 / 0EV / プログラム / ISO400 / 6.2mm
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これもISO400。小サイズCCDとしてはノイズも少なく充分に実用感度
F4 / 1/140秒 / 0EV / プログラム / ISO400 / 32.7mm
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クリアでヌケがいい描写。測色的ではないが、記憶色的には文句なしの色再現
F5 / 1/550秒 / 0EV / プログラム / ISO100 / 6.2mm
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630万画素でもレンズがいいのでかなり細かいところまで確認できる。解像感に不満はない
F3.3 / 1/350秒 / 0EV / プログラム / ISO100 / 9.3mm
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色乗りがいいので、透過光のステンドグラスも相当にメリハリよく再現された
F3.4 / 1/42秒 / 0EV / プログラム / ISO400 / 10mm
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これで手ブレ補正機能が付いていたら望遠側ももっと安心して撮影できるのだが……
F4.9 / 1/350秒 / 0EV / プログラム / ISO100 / 66.7mm
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ピントは超高速ではないものの、正確でピンぼけはほとんど生じなかった
F5.6 / 1/300秒 / 0EV / プログラム / ISO100 / 21.6mm
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動画はこんな感じ
AVI形式 640×480ピクセル 24.5MB
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■ まとめ
優れた高感度描写や超実用的な顔認識機能などにより、高倍率ズーム一体機として大いに魅力のある1台といえると思う。
唯一残念なのは光学式、もしくはCCDシフト式の手ブレ補正機能が内蔵されていないことである。確かに高感度によって手ブレや被写体ブレをある程度は防ぐことはできるけれど、いくら高感度性能がよくても感度を下げた方が高画質なのは事実であり、その意味では手ブレ補正機能はぜひ欲しいし、高感度+手ブレ補正が実現すればかなり撮影範囲が広がるわけで、それはそれで有用だと思うのだ。
ここまで大きいと一眼レフとどちらを選ぶべきか迷う人も出てくるだろうが、高倍率ズームにより撮影範囲は充分に広いので、実際は一眼レフでなくても間に合ってしまう人も多いはずだ。一眼レフを考えている人も、一度S6000fdを手にとって試してみることをオススメしたい。
■ URL
富士フイルム
http://fujifilm.jp/
製品情報
http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/finepixs6000fd/
■ 関連記事
・ 富士フイルム、顔検出機能搭載の「FinePix S6000fd」(2006/07/27)
河田 一規 (かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。最初に買ったデジカメはソニーのDSC-F1。 |
2006/11/29 01:51
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