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【新製品レビュー】カシオ EXILIM ZOOM EX-Z700

~軽快な操作感の扱いやすいベーシックモデル
Reported by 本誌:折本 幸治

 カシオのEXILIM ZOOM EX-Z700から受けるイメージは、多くの読者にとって「オーソドックス」、「手堅い」、「代わり映えしない」というものだろう。なにせ先々代の「EX-Z500」、先代の「EX-Z600」、現行のEX-Z700を通して、ボディデザインやレンズに変更が見られないからだ。しかし、EX-Z500の頃に「薄型金属ボディ」、「大型液晶モニター」、「高感度」といったトレンドを実現していたこともあり、売場ではそれほど古びた印象は受けない。

 事実、台数シェアで上位をキープし続けるカシオの中で、さらにボリュームゾーンを担当するのがこれらZ三桁系だ。手ブレ補正や広角レンズには対応していないものの、「普通の人」の支持は厚いということだろう。EXILIM ZOOMシリーズにおける位置付けとしては、1,000万画素の「EX-Z1000」や、マニュアル機能搭載の「EX-Z850」の下位モデルに当たる。執筆時の販売価格は45,000円弱。


類を見ない明るさの液晶モニター

 EX-Z600との最大の違いは、CCDが1/2.5型有効600万画素から、1/2.5型有効720万画素になったこと。最高感度はISO800で変化なし。カシオは2004年に、富士フイルムに次いで高感度画質を訴求しだしたメーカーだが、EX-Z1000やEX-S600など、高付加価値モデルにしかISO1600以上を採用しない伝統がある。EX-Z700もそれに習った格好だ。

 レンズはEX-Z600と同じ仕様の光学3倍ズーム。35mm判換算で焦点距離38~114mm相当、開放F値はF2.7~5.2。広角化などのトレンドには「我関せず」といった平凡なレンズだ。焦点距離の好みは人それぞれだが、個人的にはもう少し広角寄り、例えば35mm相当を希望したいところ。レンズユニットの小型化と軽量化を考えると難しいのかもしれないが、望遠端のF5.2についても、もう少し明るく改善してほしい点だ。

 本体デザインはEX-Z600とほとんど同じ。新機種をこまめにチェックするような層には、まったく新味は感じられないだろう。レンズ収納部の細い黒フチに気づかないと、EX-Z600やEX-Z500に見間違われても仕方がないくらいだ。

 とはいえ、個人的には飽きのこないシンプルなデザインと思う。質感もほどほどに高く、表面の手触りも心地よい。グリップ的な意匠は見られないが、それほど持ちにくい印象はない。さらに2.7型の液晶モニターを装備する割には、右手親指の置き場所にも困らない。ホールディングについては個人差もあると思うが、私にはとてもバランス良く感じられる。





 EX-Z600と同様、国内メーカーで類を見ない2.7型液晶モニターを搭載するのも特徴だ。一般的になった2.5型より大きさの面で優位に立ち、実際に店頭などで比較してもその差ははっきり感じられる。さらに輝度もEX-Z600と同じく、クラス最高の1,200cd/平方m。一度この明るさに慣れてしまうと、ほかの機種を交えての屋外撮影時にストレスを覚えるほど。ただし、液晶モニターの画素数は15万画素なので、精彩感の面で見劣りする。

 秋モデルでも対応が間に合わないメーカーがある中、SDHCメモリーカードに対するカシオの対応は早かった。本機も8月の発売ながら、SDHCメモリーカードに対応している。それほどファイルサイズが大きい機種ではないものの、将来を考えると安心感は高い。もちろん、従来のSDメモリーカードも利用できる。ちなみに、4GBのSDHCメモリーカードを使用した場合、解像度7M(3,072×2,304ピクセル)、圧縮率ファインだと、1枚で900枚前後を撮影できる。

 バッテリーは従来と同じく、リチウムイオン充電池の「NP-40」を使用する。CIPA規格基準の撮影可能枚数は、薄型モデルとしては比較的多めの約460枚。EX-Z600より減少したものの、これだけあれば2~3日の旅行も充電なしでこなせそうだ。


レンズは焦点距離38~114mm相当(35mm判換算)、F2.7~5.2の3倍ズーム シャッターボタン周りにズームレバーを装備。シャッターの押し心地も良い

SDメモリーカードと専用リチウムイオン充電池を採用 充電兼AV出力用のクレードルが付属する

ユニークなオートフレーミング

 EX-Z700からの新機能としては、ベストショット機能(他社でいうシーンモード)に加えられた「オートフレーミング」と「レイアウトショット」、さらにEX-Z1000からの「HDズーム」が挙げられる。

 オートフレーミングは、フォーカスロック時、液晶モニター上に表示されたフレームが、動く被写体を追い続けるというもの。このとき、記録解像度は3M相当(2,048×1,536ピクセル)になる。ペンタックスの追尾AFを発展させたものと考えていいだろう。シャッターボタンを半押しにすると、そのとき捉えた被写体を追いかける。駆け回る子どもやペットなど、動きが予測できない被写体向けだ。精度は高く、フレームが被写体を追いかけ続ける状態は面白くて、ちょっと興奮する。

 ただし、フレームの大きさを任意に設定できないし、オートフレーミング中はズーム操作も不可能。前後方向の測距位置の変化にも対応していないので、ある程度の前後幅は被写界深度でカバーできるものの、基本的には横移動する被写体に限られる。また、測距位置が中央のみとなるため、日の丸構図に限定される。ユニークな機能だが、素直に追尾AFだけでも良かったと思う。色々事情があるのだろう。


オートフレーミングの解説。フレームが被写体を追い続ける レイアウトショット。別に計2枚のパターンも選べる

 レイアウトショットは、複数の被写体や情景をまとめて1枚の写真にする機能。シーンNo.31が「2枚をレイアウト」、シーンNo.32が「3枚をレイアウト」となっており、それぞれ定められた枠に被写体を収めて順番に撮影すると、レイアウト済みの写真になるという仕掛けだ。

 最後のHDズームは、画素の中央を切り出して、望遠端を伸ばすもの。最近、他社のデジタルカメラでも採用例が増えた機能で、カシオではEX-Z1000から採用している。ただし、EX-Z1000と異なり、EX-Z700では光学ズームの望遠端からしか切り出せない。EX-Z1000では、ワイド側をHDズームで切り出すことで、レンズの明るさを維持したまま望遠撮影ができた。使い道が多かったので、EX-Z700でも実現してほしかったところだ。


抜群のカスタマイズ性能とスムーズな操作

 最近のEXILIMシリーズの良い点を受け継ぎ、全体的な使用感は快適だ。沈胴式レンズにしては素早い起動、日中でも明るく視認性の良い液晶モニター、適度な軽さとストロークのシャッターボタン、素早いAFなど、構えて撮るまでの行為にストレスがない。撮影後のプレビュー表示→再生モードへの移行→拡大表示といった流れもスムーズに行なえるため、どんどん撮りたくなる。ストロボOFF時の起動時間は約0.9秒、レリーズタイムラグ(フォーカスロックから撮影まで)は約0.007秒。

 操作部のレイアウトはEX-Z600と同じ。背面右上の「ダイレクトON再生ボタン」と「ダイレクトON撮影ボタン」も健在だ。これらを電源ONに設定すると、電源OFFの状態からそれぞれを押すだけで、再生モード、または撮影モードの状態で起動する。特にダイレクトON撮影ボタンは背面右端なので、ブラインドでの操作もできなくはない。慣れれば、起動しながらポケットから取り出すといった技も使えるようになる。


液晶モニターの輝度設定。+2は強烈に明るいが、色が薄くなったり黒浮きが出る訳ではない 左からダイレクトON再生ボタン、ダイレクトON撮影ボタン。電源ON/OFFを割り当てられる

 メニューもEXILIMシリーズ一連のものと同じで、左右ボタンにEVシフト(露出補正)、ホワイトバランス、ISO感度、セルフタイマーをアサインできる。また、「モードメモリ」では、ベストショット、ストロボ、フォーカス方式、ホワイトバランス、ISO感度、AFエリア、測光方式、セルフタイマー、ストロボ光量、デジタルズーム、MF位置、ズーム位置のそれぞれについて、電源OFFで状態を保持するかしないかを設定可能だ。

 さらに、ベストショットの拡張機能として、「マイベストショット」も作成できる。これを利用すれば、ISO感度、測光モード、フォーカスモード、ホワイトバランス、ストロボモード、フィルター、彩度、シャープネスなどを好みの組み合わせにして呼び出せる。モードメモリと合わせ、コンパクトデジタルカメラのカスタマイズとしては、かなり強力な部類に入る。

 そのほか、今春からカシオが採用している「トリプルセルフタイマー」、「フラッシュ連写」をはじめ、リアルタイムヒストグラム表示、オートマクロ、本体内での静止画トリミングや動画のカット編集など、細かい機能面でも充実している。


露出補正などを左右ボタンに設定できる モードメモリ。数パターンのモードメモリを切り替えたい向きには、マイベストショットが便利

マイベストショットの例。好みの設定で撮影した写真を登録する

 画質の印象をおおざっぱにまとめると、低感度なら一般的な品質、高感度だと今ひとつ、という具合になる。ISO50やISO100では、シーンによっては輪郭が若干不自然なことはあるものの、720万画素なりの解像感はあると思う(デジタル一眼レフカメラには敵わないが)。ただし私の使った個体の場合、焦点距離によっては右端が流れがちなのが気になった。720万画素もあるため、KGサイズくらいまでへのプリントなら、周囲を若干トリミングするのも手だろう。

 私の感覚だとA4に伸ばせるのはISO200までで、ISO800だと出力結果に気落ちすることが多かった。最高感度のISO800まで増感すると、カラーノイズとともに黒いつぶつぶが目立つようになる。光学式手ブレ補正機構を採用していないこともあり、高感度画質のさらなる向上を期待したい。


まとめ

 細かい不満点としては、「マクロ撮影時に最短約15cmまでしか寄れない」、「撮影画像のISO感度を表示できるソフトがほとんどない」(付属のPhoto Loaderなら可能)、「シャッターボタン半押しで撮影状態に復帰できない」、といったぐらい。ちなみにMac OS用Photo LoaderはMac OS 9まで動作可能で、Mac OS Xには対応していない。普通のソフトではISO感度が確認できないこともあり、そろそろ何とかしてほしい。

 EX-Z700は、手ブレ補正機構、広角レンズ、顔認識など、2006年のトレンドに即した機能がなく、本体やメニューのデザインにも新味が感じられない。そのため、本誌の読者のようなデジタルカメラ好きには、いまひとつ印象の薄い機種といえる。しかし、軽快な操作感、液晶ディスプレイの品質、バッテリー寿命など、コンパクトデジタルカメラとしての全体的な完成度に不満はない。ベーシックモデルながらカスタマイズも積極的に行なえるので、家族に勧めてもいいし、自分で使い込むのもいいだろう。


作例

  • 作例のリンク先ファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 写真下の作例データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/35mm判での画角に相当する焦点距離を表します。
  • 一部の作例については、作例データの一部項目を別の行で強調表示しています。


◆ISO感度

 通常はISO50/100/200/400を手動で設定可能。ISO800まで増感させるには、撮影メニューの「ブレ軽減」をONにするか、ベストショットの「高感度」、または「ブレ軽減」を選択する。

 作例は通常のプログラムオートでは対応できないスローシャッターとなるため、ベストショットの夜景を用いてる。また、参考までにベストショットの高感度での作例も掲載した。


ISO50(ベストショット:夜景)
3,072×2,304 / 0.6秒 / F2.7 / 0EV / WB:オート / 38mm
ISO100(ベストショット:夜景)
3,072×2,304 / 0.3秒 / F2.7 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 38mm

ISO200(ベストショット:夜景)
3,072×2,304 / 1/6秒 / F2.7 / 0EV / WB:オート / 38mm
ISO400(ベストショット:夜景)
3,072×2,304 / 1/13秒 / F2.7 / 0EV / WB:オート / 38mm

ISO800(ベストショット:夜景)
3,072×2,304 / 1/15秒 / F2.7 / 0EV / WB:オート / 38mm
ISO800(ベストショット:高感度)
3,072×2,304 / 1/6秒 / F2.7 / 0EV / WB:オート / 38mm

◆HDズーム

 同じ位置から記録解像度を変えて、それぞれのHDズーム望遠端を撮影した例。


7M(HDズームOFF)
3,072×2,304 / 1/400秒 / F5.2 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 114mm
5M(HDズーム1.2倍)
2,560×1,920 / 1/400秒 / F5.2 / 0EV / ISO50 / WB:オート / ―

7M(HDズームOFF)
3,072×2,304 / 1/400秒 / F5.2 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 114mm
2M(HDズーム1.9倍)
1,600×1,200 / 1/400秒 / F5.2 / 0EV / ISO50 / WB:オート / ―

VGA(HDズーム4.7倍)
640×480 / 1/320秒 / F5.2 / 0EV / ISO50 / WB:オート / ―

◆彩度とコントラスト

 画質設定メニューから、彩度(設定幅は±2)、コントラスト(同)、シャープネス(+2)を設定可能。好みの組み合わせをマイベストショットに登録できる。マイベストショットにはフィルター(白黒、セピア、赤、緑、青、黄、ピンク、紫)も記憶させておけるので、組み合わせ次第では色々遊べて面白い。


彩度、コントラストとも±0(デフォルト)
3,072×2,304 / 1/500秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm

彩度-2
3,072×2,304 / 1/400秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm
彩度-1
3,072×2,304 / 1/400秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm

彩度+1
3,072×2,304 / 1/320秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm
彩度+2
3,072×2,304 / 1/320秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm

コントラスト-2
3,072×2,304 / 1/320秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm
コントラスト-1
3,072×2,304 / 1/400秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm

コントラスト+1
3,072×2,304 / 1/400秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm
コントラスト+2
3,072×2,304 / 1/320秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm

◆そのほか


3,072×2,304 / 1/200秒 / F2.7 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm 3,072×2,304 / 1/200秒 / F4.6 / -1.33EV / ISO50 / WB:オート / 94mm

ベストショット:オートフレーミング
2,048×1,536 / 1/400秒 / F4.6 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 94mm
3,072×2,304 / 1/250秒 / F5.2 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 114mm

3,072×2,304 / 1/125秒 / F2.7 / 0EV / ISO400 / WB:オート / 38mm 3,072×2,304 / 1/60秒 / F3.6 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 66mm

3,072×2,304 / 1/400秒 / F5.2 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 55mm 3,072×2,304 / 1/500秒 / F4.8 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 47mm

3,072×2,304 / 1/1250 (0.000800) 秒 / F4.3 / -0.33EV / ISO50 / WB:オート / 38mm 3,072×2,304 / 1/60秒 / F2.7 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm

ベストショット:花
3,072×2,304 / 1/1,000秒 / F4.3 / 0EV / ISO50 / WB:オート / 38mm
ベストショット:食べ物
3,072×2,304 / 1/25秒 / F2.7 / 0.33EV / ISO200 / WB:オート / 38mm


URL
  カシオ
  http://www.casio.co.jp/
  製品情報
  http://dc.casio.jp/product/exilim/ex_z700/

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カシオ、720万画素になった「EXILIM ZOOM EX-Z700」(2006/07/27)



本誌:折本 幸治

2006/10/16 00:01
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