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【プリンタ特集2006冬】レビュー[日本HP Photosmart C6175]
[2007/01/10]


2006年



 日本HPのインクジェット複合機の中でも、Photosmart C6175は非常に特徴的な個性を放っている。個人向けに写真印刷にも対応する複合機としてPhotosmartの名前を与えられているが、自動原稿送り装置(ADF)やFAXを装備し、いわゆるホームオフィス向けの機能に長けている。

 では写真印刷に関わる機能がおろそかかと言えば、シリーズ中もっとも高速で画質も高いプリントエンジンを内蔵。速度も高速なうえ、染料でありながら高濃度かつにじみの少ない黒インクを採用することで普通紙画質に優れている。加えてヘッドノズルのメンテナンスでクリーニングを行なう際、インクを再利用するメカニズムを持っているため、使い方によらずコンスタントにスペック通りのインクコストとなる。

 ダイレクト販売専用モデルとはいえ、3万円を切る価格帯で無線/有線LANを内蔵し、ネットワーク印刷やネットワークスキャンといった機能を利用できるのだから、コストパフォーマンスが高いと言える。

 しかし何より評価したいのは、あらゆる用途に不満の少ない万能性だろう。


PCプリンタとしてのC6175

SPTを採用するプリントエンジン
 本機に採用されているプリントエンジンは、SPT(スケーラブルプリンティングテクノロジ)と呼ばれるもので、4plのインク滴ながら、高速で、インクを無駄にせず、静かでメンテナンスフリーの使い勝手を実現している。

 HPはSPT以降、業界でもっとも高濃度と言われた顔料黒インクを廃止し、染料黒インクだけに統一している。これは顔料黒インクの乾きが遅かったことに対するHPなりの答えという側面もあるが、染料黒インクでも普通紙でのにじみが軽減され、濃度(コントラスト)が十分に取れるようになったのが大きな理由だ。

 実際、染料化で速乾性、あるいはフォトブラックとの併用が不要になるといった利点を享受しながら、黒文字の印刷品質はあまり落ちていない。濃度は十分に高く、キヤノンの顔料黒インクよりも濃いと感じるほどだ。さらに輪郭のにじみも旧HP製顔料黒インクよりはわずかににじむ印象があるものの、キヤノンの顔料黒インクとは同等レベル。

 こうした実用プリンタとしての基礎体力に加えて、薄いマゼンタとシアンを用いたフォト印刷も行なえるなど、あらゆる用途で及第点以上を取れるのがPCプリンタとしてのC6175が優れている点である。

 A4モノクロ時のプリントは、MP600でのレビュー時と同じ文書を用いた場合に、1枚あたり6~9秒。印刷品質を「はやい最速」にした場合に約6秒、「はやい標準」あるいは「きれい」にした場合に9秒ほどとなる。つまり普通紙においては、標準以上の印刷品質に設定しても、速度、画質ともに変化しないということだ。

 一方、写真印刷においてはプレミアムプラスフォト用紙がもっとも高画質とされているが、ここではインクカートリッジとの安価なセット販売が行なわれているアドバンスフォトペーパーを使用した。アドバンスフォトペーパーは昨年末向けからモデルチェンジされ、台紙の厚みが増してよりしっかりした写真を得られるようになった。汗などによる滲みもないため、一般にはこちらの利用をオススメする。印刷速度もアドバンスフォトペーパーの方が圧倒的に速くなるためだ。

 印刷品質は実利がほとんどない最大DPIモードを除き、「きれい」と「高画質」で計測している。印刷に利用する用紙はL判で、これにふちなしで印刷した。「きれい」での印刷は約22秒、「高画質」は約49秒でほぼ安定。このほか「最速」というモードがあり、こちらは13秒程度で印刷が完了するが、速度差と画質差を考えれば「きれい」で印刷する方が良いだろう。

 この数値はクラス最速というわけではないが、4色プリンタのMP600を特殊な例とすると、6色プリンタの中ではトップクラスの印刷速度である。HPのプリンタは写真印刷が遅いというイメージがあるが、その理由の多くは特殊な用紙であるプレミアムフォト用紙に原因があった。一般的な特性のアドバンスフォトペーパーを使った場合には決して遅くない。

 最後に有線/無線LANによるネットワークプリント機能や、HP得意の自動両面印刷機能があることも忘れないようにしておきたい。FAX複合機として電話の近くに置いておき、PCからはネットワークで印刷というスタイルで利用可能。それも標準装備という点は評価できる。


メモリカードダイレクトプリンタとしてのC6175

ダイレクトプリントの操作画面
 HPは長年インクジェット複合機に取り組んできたこともあり、早い時期からインクジェット複合機専用の統合型コントローラチップを開発してきた。本機に搭載されているものは、1,000万画素時代を反映してダイレクトプリンタとしての速度を向上させることを狙ったものが採用されている。

 残念ながら最新ではないため、今年、新エンジンを投入したエプソンと比較すると遅いものの、サムネイル表示や画像プレビュー時の切り替えレスポンスは比較的良好で、メモリカードが遅くない限りは十分なパフォーマンスがある。

 印刷手順もウィザード形式で順序だてて作業を進めれば、初級者でも問題なく写真印刷が得られるはずだ。また「写真修正」ボタンを押すことで、ワンタッチで自動フォトレタッチのオン/オフを切り替えられるようにしている点も面白い。修正結果が気に入らない場合にも、迷わず簡単に元画像そのままの印刷を行なえる。

 こうした専用ボタンを置くのと、すべてを自動化するアプローチとどちらが良いかは利用スタイル次第。ワンクッション置くことで自動修正によって失敗印刷を防げるという側面もあり、写真修正ボタンが活躍することも少なくないと思う。

 また専用紙の裏面に付けられたバーコードを読み取ることで、セットしてある写真用紙の種類を意識することなく、用紙ごと最適な設定で印刷できる点も、ダイレクトプリント時には有用。特に家族で共有する場合には、用紙種別の設定が省けるメリットは大きい。

 もちろん、サムネイルプリントにマーキングをしてから印刷する機能は、HPがオリジナル。C6175にもきちんと実装されていた。


PCスキャナとしてのC6175

ADFを装備する
 本機のスキャナは4,800dpiと非常に高い解像度だが、これはCCD方式ではなくCIS方式を採用している。このため、CCD方式に比べると立体物やフィルムなどの透過原稿を読み取ることができないといった制限はある。もしフィルムスキャン機能が必要ならば、上位機種を選択すべきだ。

 ただし、片面スキャンながらADFも利用可能なスキャナが内蔵されているため、仕事でも活用したいというユーザーには、なかなか便利。ネットワーク経由でのリモートスキャンも行なえる。

 またネットワーク接続時は、本機のIPアドレスにWebブラウザからアクセスすることで、ステータスの確認などを行なえるが、この画面からスキャンを指示して画像を得ることもできる。この場合、PDFとしてスキャン結果を得られる。

 ドキュメントのスキャナとして使う上では、機能、速度の面など不満はない。本スキャンではライバルよりも遅いのだが、プレビューが高速なため遅さを感じない。

 ただし写真スキャン時の画質面ではいくつか注文もある。コントラストを自動的に伸長し、紙色は白く飛ばし気味に、シャドウは黒く潰し気味にスキャンされる。全体に明るめでメリハリのある絵となるが、スキャン後に素材として利用する場合などは、ハイライト、シャドウともに階調が失われており、使いにくいのだ。また画像処理の関係から画素干渉が起きているのか、濃度の高い部分で市松模様や細かい縞が見られた。


カラーコピー機としてのC6175

 本機の長所はカラーコピー時の文字領域の認識精度が高いところと、ADFの利便性にある。

 写真と文字が混在する原稿の中で、黒文字領域を適切に選んで輪郭をキレイに補正しているようだ。きちんと文字領域が認識されている部分は、高濃度で文字が印刷されており、滲みも見えない。

 カラー部はやや明るめのトーンで、特に白トビが早い。その分、メリハリ感があって見栄えは良いが、忠実性という意味では劣る印象だ。十分な画質であり、カラーの記事をコピーするといった用途ならば十分。しかし、写真コピー時にいは色の一致性が低く、写真を見たとおりの色で別の写真用紙にコピーしたいといった用途にはあまり向かない。

 なお、A4のカラーコピーにかかった時間は1分40秒弱。カラーコピーの速度は、どのメーカーの同クラス機も、1分30~40秒ぐらいの性能を有しており、コピー速度での差はほぼないと考えていい。


使い勝手

操作パネル
 キヤノンやエプソンが、可能な限りシンプルな操作パネルを目指してユーザーインターフェイスを構築しているのに対して、HPは機能ごとにエリアを分割し、それぞれに使いやすい配置でボタンを並べている。

 このため、操作パネルをパッと見ただけでは複雑で操作しにくいという印象を持つかもしれない。しかし、よく見るときちんと分類配置されており、ほんの少し配置に慣れてしまえば、むしろ目的の操作を手早く行なえる。

 また、FAX向けにテンキーが配置されており、数値入力なども簡単という長所もある。同じくFAXを搭載する上位機種はテンキーが2列に配置されており、通常の電話キーに慣れていると操作しにくいが、本機はその点がきちんと考慮されている。

 国産機との違いは液晶パネルの使い方にもいえ、国産機が液晶画面を使ってインフォメーションをより多くユーザーに伝えようと設計しているのに対し、本機は液晶画面への依存度が比較的低い。活用していないという意味ではなく、液晶画面を通じてインフォメーションは伝えるが、ユーザーからの入力は豊富なボタン類を駆使して行なうというスタンス。このため、とっつきは悪く感じるかも知れないが慣れれば本機の方が使いやすい。

 ただ、設定メニューの構成は素っ気なく、もう少しユーザーの操作を補助するようなアプローチは欲しい。


まとめ

 本機はターゲットとするユーザーが非常にハッキリした機種だ。オフィスにあるデジタル複合機のように、コピーもしたい、プリンタとしても使いたい、FAXの送受信もしたい、スキャナとしても使いたいといった、事務系の機能が不足無くきちんと網羅されている。個人向けインクジェット複合機、それも写真印刷機能をアピールする製品の中でADFが搭載されているのは本機ぐらいしかない。

 その上でネットワーク機能に対応し、しかも無線LANも使えるのだから、実用性重視で家族全員がPCでも単体のコピー機や写真プリンタとしても使える製品が欲しいのであれば、本機の右に出るものはない。自動両面印刷機能も同じ。

 インククリーニング時のリサイクル機能搭載など、長期的に使用する際にインクが無駄にならないよう工夫しているところも、実用性、実利重視といった性格が見える。

 ただし写真関係の機能だけに注目してしまうと、不足している部分はある。透過原稿の読み取りはコスト面で無理としても、CD/DVDラベル印刷機能がなかったり、写真画質で粒状性が気になる部分があるなど、ほんの少しツメが甘いところもある。

 写真印刷時の色味そのものは、アッサリと淡泊な調子ではあるが、強調感が少なく素直な階調が再現されるなど良い面がたくさんあるだけに、上記の点がやや残念ではある。ただ、写真印刷の画質に関して、何が何でも一番でなければ気が済まないというわけではないなら、総合的な評価では購入リストの上位に来る製品と言える。

 つまり、使い方が定まっていない、あるいは複数の使い方が異なるユーザーが共有するといった状況で1台を選ぶなら、本機がもっとも無難。そんな弱点の少ない製品だ。



URL
  日本HP
  http://www.hp.com/jp/
  製品情報
  http://h50146.www5.hp.com/products/printers/inkjet/ps_c6175/index.html



本田 雅一

2007/01/10 15:14
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