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【プリンタ特集2006冬】レビュー[日本HP Photosmart C6175]
[2007/01/10]


2006年



マルチフォトカラリオ PM-A970
 90年代後半からインクジェット方式によるフォトプリンタの市場を開拓し、近年はその延長にあるフォトに特化した複合機を中心に展開してきたエプソン。今年もやはり、エプソンのキーワードは“写真”を楽しむことにあるようだ。

 ラインナップや新しく投入された技術だけをみると、従来からの技術アップデート、あるいは低コスト化のためのプラットフォーム更新といった、比較的小さな変更にとどまっているように見える。

 では彼ら自身はどのように今年年末の商品群を見ているのか。セイコーエプソンのIJ.CP推進部の小野勝広部長に話を聞いた。


小野勝広部長
-- 今年は製品としてはPM-A9XXシリーズに新しい筐体が加わったのがトピックですが、スペックの面ではさほど変更がないように見えます。エプソンがこの年末商戦を戦う上で掲げたテーマとはなんでしょう?

「誰でも簡単に、失敗なく写真を出力すること。もちろん、速くてキレイであることや、エプソンカラーによる見栄えの良い写真とすることなども重要ですよね。そうしたすべてにおいて、誰でも簡単にというコンセプトで製品を作りました」

「写真は写真マニアやプロだけでなく、幅広くいろいろな人たちが撮影するものです。当然、失敗写真も少なくないでしょう。そうした失敗写真を、プリンタ側でいかにきれいに、満足した画質に補正して出すかが、大きなテーマです」

-- 具体的にはどのような改善を施したのでしょう?

「エプソンカラーを構成する要素の一つである、顔認識機能の精度向上があります。顔を高い精度で割り出すことにより、人物写真の要である顔の明るさや肌色再現などを、好ましい方向へと積極的に補正が可能になります。もうひとつは、それ以外の色補正に関して、より自然かつ見栄えの良い結果を引き出せるようになりました」

-- このところ印刷速度ではライバルの後塵を拝していましたが、今回はヘッドの構成を変更せずに高速化しています。


Advanced-MSDT(2006年新製品発表会でのプレゼンテーションより)
「印刷速度の向上は重要です。画質と速度のバランスを追求するため、『Advanced-MSDT』(アドバンスド・マルチ・サイズ・ドットテクノロジー)を導入しました。ご存じのように、インク滴を小さくすると画質が向上しますが、インク滴を小さくしすぎると、印刷に必要なインク滴の数が増え、印刷速度は低下します。これに対する解答の一つが、インク滴サイズを適応的にコントロールできるMSDTでした。今年のモデルで採用したAdvanced-MSDTは、ひとつのノズルで5種類のドットを噴射できます。印刷速度向上の理由は主にAdvanced-MSDTによるものです」

-- MSDTは複数インク滴の打ち込みを1個のインク滴にまとめる技術と言えますし、複数サイズを打ち分けることが可能なのは、エプソンのマイクロピエゾ方式(Machジェット方式)ならではといえます。しかし、小さい複数ピクセルを配置するのと、大きなインク滴を1個配置するのでは、結果としての画質は前者の方が高くなりますよね?

「確かにMSDTがAdvanced-MSDTになっても画質が上がるわけではありません。しかし、従来のMSDTに比べて画質はほとんど変化しません。対して印刷速度の向上は明らかです。画質と印刷速度のバランスを最適化するうえで、インク滴サイズの打ち分けは大変に有効な技術だと認識しています」

「また、今年のモデルはプリンタエンジンだけでなく、複合機としてトータルの高速性を引き出すよう、人とお金をかけて『REALOID』(リアロイド)という独自LSIを開発しました。これにより、本体の印刷ボタンを押してから実際に写真が出てくるまでのトータル時間を短縮しています。以前はダイレクト印刷の場合、印刷ボタンを押してから実際に印刷が開始するまで10~20秒がかかっていましたが、現在は5秒以下にまで短縮されています」

-- この新チップはインクジェット複合機に特化したものなのでしょうか?

「インクジェット複合機に必要な処理を高速かつレスポンスよく処理するために必要な機能を統合した、システム・オン・チップです。現在、インクジェット複合機に採用されているものの中では、パフォーマンス的には一番上になります。7つのプロセッサが統合されており、それぞれが並行的に動作することでトータルの印刷時間を短縮しています」


「まとめると、安心で、きれいで、速いのが今年のカラリオラインナップです」

-- “安心”というのは、どういった意味でしょうか?

「誰でも安心して自分の写真をおまかせで印刷すれば、期待どおりにきれいな写真が安定して出てくるという意味です。記憶色どおりに、バラツキが少なく美しい写真を得られる。たとえば銀塩写真の場合、ラボのオペレータによって仕上がりの差が大きいのですが、エプソンのオートフォトファイン! EXは自動的に安定した画質を提供するため、誰が使っても美しい仕上がりとなります。このあたりを安心と表現しています」

-- 具体的にオートフォトファイン! EXが目指している絵とはどんなものですか?

「ひとつには肌色の再現。これは記憶色として、人間が考える良い肌色を再現するように補正を加えます。そのうえで、背景の見栄えを良くする。具体的な手法に関してはノウハウの塊なので、ここで簡単に申し上げられません」

-- 好ましい肌色とはどんな色でしょうか。人種による肌の色の違いもありますが、たとえば黄色人種だけを取っても、ピンク系の肌の人もいれば、黄色系の肌の人もいますよね?

「好ましい肌色に関するアンケート調査を行ないました。その上で、元データの肌色がどんな系統の色であるかを判別し、微妙に色を変えています。健康的な肌を好む傾向が強くなってきているといった傾向の変化もあるため、やや赤味が乗った肌色にしています。以前のエプソン製プリンタは、忠実性を重視していたり、あるいはやや明るめにするといった方向の肌色にしていましたが、現在はもっと色を載せる方向になりました。また人種ごとに、ベースとなる色はそれぞれプログラムの中に持っています」


オートフォトファイン! EX(2006年新製品発表会でのプレゼンテーションより)
オートフォトファイン! EX(2006年新製品発表会でのプレゼンテーションより)

-- とはいえ、自動補正機能を前面に押し出すと、補正が当たらない“外れ”も目立って感じるようになります。60点の写真が65点にならない場合と90点になる場合がある、というのであればいいでしょうが、80点の写真を50点にしてしまうようだと困ります。積極的な補正は裏目に出ることもあるのでは?

「自動補正の方向が外れたとき、元の写真が悪くならないようにするというのは注意して開発しているポイントです。簡単にいえば、どうやって補正すればいいかが判別できない場合は、データに対して補正を行ないません」

「またインクジェット複合機の上位2機種とダイレクトプリンタ1機種には、『仕上がりビュー』という機能を付けています。これは補正結果を印刷前に液晶画面で確認できるというものです」

-- 単機能機やメモリカードからのダイレクトプリントを行なえる機種などは、確かにフォト印刷というアプリケーションがその中心だったかもしれません。しかし、インクジェット複合機が主流になった現在、もっとユーザーは幅広い使い方をしているのではないでしょうか。もちろん、フォト印刷も大切ですが、別のライフスタイルや在宅での仕事などで便利な機能を織り込んでもいいでしょう。ここまで徹底してフォト印刷にこだわるのはなぜですか?


「まず、自分たちのインクジェット技術がフォト印刷に合っていたことがあります。われわれのハイエンド製品を見ればわかるとおり、フォト写真の印刷がいろいろな面で得意です。そうした技術を基礎に商品作りをしているため、フォトに特化した印象があるのでは。さらに、近年のデジカメの普及があって、ラボプリントを自宅でやってもらえるようにと、フォト印刷機能を前面に押し出した複合機の開発を進めてきました。これは顧客からの要望もあってのことです」

「ただし、4色インクの顔料インク機を求めている人も増えてきていますし、フォトだけではない普通紙画質やコストを重視した製品も売れてきていますから、フォトだけに特化するのではなく、多様な機能を備えた製品も考えてはいます。具体的には言えませんが、『フォト+X』という形で、新しい要素を付け加えるものになるでしょう。とはいえ、カラリオにとって一番優先されるべきは、一番きれいで一番速いプリンタであること。これは変わりません」

-- PX-Gインク採用製品を複合機には展開していませんが、これはなぜでしょうか?

「『フォト+X』といった方向に行くことを考えると、PX-Gインクでは8色のインクカートリッジが無ければならなくなります。しかし、8色インクという構成は、なぜそれほどのインクが必要なのか何もわからず買ってきた人から見れば、迷惑で使いづらいものです。多くとも6色のインクで、多方面の用途に使える印刷が行なえるシステムとして、PM-GとPX-Vを採用しています」

-- このあたり、実はよくわからないところなのですが、エプソンは顔料系だけでも3系統のインクを持っています。カートリッジ数でいえばもっと多い。今後もPX-Gインクを用いた技術を発展させていくのでしょうか?

「単機能プリンタに採用しているPX-Gインクの開発は、現在も人材をかけて力を入れた開発を続けています。複合機へのシフトもあり、製品のライフサイクルは長くなっていますから、毎年新機種を出して新技術を投入するのではなく、しっかりしたプラットフォームになれるシステムを開発し、それを時間をかけて熟成していこうと考えています」

-- 最後に、今年年末の購入を検討している読者に、新カラリオラインナップのどんなところを見てほしいか、アピールしていただけませんか?

「メモリカードからのダイレクト印刷は、その速度が格段に上がっているので、他社機も含めてよく比較してください。われわれの製品が、実質的なパフォーマンスでは優れていることがよくわかると思います。もう一つは使い勝手です。われわれの製品は、従来の手法をより前へとすすめたもので、斬新さという面では、他社のユーザーインターフェイスに置いて行かれたと感じるかもしれない。しかし、実際に印刷手順を踏んでいただければ、こなれた使いやすい操作になっていることがわかるでしょう。実際に触ってみて判断してください。飛び道具として新しい機能やデバイスを入れていくのではなく、実際に自宅で使いこなすときの使い勝手の良さがわかると思います」



URL
  エプソン
  http://www.epson.jp/
  製品情報
  http://www.epson.jp/products/colorio/printer/

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本田 雅一

2006/12/11 15:41
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