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キヤノンEOS 40D【第6回】
初めての「ピクチャースタイルエディター」

Reported by 奥川浩彦


参考にした「EOS 40D完全ガイド」とカタログ
 EOS 40Dに搭載され、EOS 20Dに搭載されていない機能としてピクチャースタイルがある。ピクチャースタイルはすでにEOS 5Dから搭載されているが、EOS 40DではEOS Digital初の添付ソフト「ピクチャースタイルエディター」が用意された。

 EOS 20Dには「現像パラメーター」の選択機能があり、「コントラスト」、「シャープネス」、「色の濃さ」、「色あい」の調整が可能だった。EOS 40Dではピクチャースタイルとして「スタンダード」、「ポートレート」、「風景」、「ニュートラル」、「忠実設定」、「モノクロ」が用意され、それぞれのピクチャースタイルの中で「コントラスト」、「シャープネス」、「色の濃さ」、「色あい」の調整が可能となっている。

 ピクチャースタイルは標準で用意された6種類に加え、ユーザー設定として3種類の登録が可能だ。6種類のピクチャースタイルに自分なりに微調整を加えたものを登録することもできるし、キヤノンのサイトからダウンロードした「ノスタルジア」、「クリア」、「トワイライト」、「エメラルド」、「紅葉」の5種類を登録することも可能だ。さらにピクチャースタイルエディターで作成したオリジナルのピクチャースタイルもユーザー設定に登録できる。他人が作成したピクチャースタイルをEOS 40Dに書き込むことも可能だ。

 銀塩の時代にはフィルムを選ぶことができた。筆者の場合はスローシャッターを切るために低感度フィルムを使うことが多く、当時はフジクローム50Dの色がお気に入りだった。デジタルカメラの場合、感度は撮影時に選択可能であり、ピクチャースタイルエディターを使いこなすことができれば、感度に加えてオリジナルの色調を作り上げて選べることになる。


標準で用意されているピクチャースタイルは5種類
 筆者にはピクチャースタイルおよびピクチャースタイルエディターの予備知識がなかったので、先日発売された「EOS 40D完全ガイド」(インプレスジャパン発行)、キヤノンが店頭で配布している「ピクチャースタイル ガイドカタログ」、キヤノンのピクチャースタイルのホームページ、同社の無料登録サイト「iMAGE GATEWAY」を参考にした。順番としてはピクチャースタイルのホームページ、カタログ、完全ガイド、iMAGE GATEWAYの順番で読むと、概念から実際の操作までを理解しやすいと感じた。

 詳しくはそれらを参考にされるのが一番だと思うが、筆者なりに理解した概略は以下の通りだ。

 まずピクチャースタイルは、単に「コントラスト」、「シャープネス」、「色の濃さ」、「色あい」と言った要素だけでなく、想定される被写体に合わせて色ごとに色相、彩度、明度のバランスが細かく調整されている。例えば「風景」なら空の青さ、木々の緑を鮮やかに表現するように、「ポートレート」ならにごりのない健康的な肌色に表現するように設定されている。

 実際にそれぞれのスタイルにプリセットされた「コントラスト」、「シャープネス」、「色の濃さ」、「色あい」を同じ数値にして撮影しても、それぞれの画像は異なる。各スタイルの中で「コントラスト」、「シャープネス」、「色の濃さ」、「色あい」の変更も可能だが、あくまで微調整と考えた方がよさそうだ。


ユーザー設定は3つ。エメラルド、クリア、トワイライトを登録してみた
ユーザー設定に風景を選択し、各項目をカスタマイズした画面

 そのためもあり、ピクチャースタイルエディターはかなり奥が深い。理解するにはまず、色彩を編集する際にHSLという表記方法で理解する必要がある。HSLは、色相(H)、彩度(S)、明度(L)をいう3つの色を示す要素からなる表色系だ。Photoshopなどで使われているのはHSBと呼ばれ、こちらは色相(H)、彩度(S)、明度(B)という表色系なので混同しやすい。ピクチャースタイルエディターのサイトの「必要となるカラーマネージメント」に掲載されている図を見て概念を理解する必要がある。

 HSLもHSBも色相、彩度、明度は同じだが、HSBは円筒形の空間で表現するのに対し、HSLは円錐を背中合わせにしたそろばん玉のような形状の中で表現を行なっている。これにより、明度により彩度の指定できる領域が制限され、実際にピクチャースタイルエディターを使用中にも、彩度と明度が相関的に動くことが理解できる。と言ってる筆者自身、イマイチ理解できないのが本音だ。


まずは純正ピクチャースタイルを試す

 実際にピクチャースタイルを変更して撮影してみた。風景の撮影なので、標準のピクチャースタイルからポートレートを除く5種と、ダウンロードした5種から「エメラルド」、「クリア」、「トワイライト」をユーザー設定に登録して比較してみた。

 メーカーによるそれぞれの特徴は以下の通りだ。

スタンダード プリント映えする、くっきりとした仕上がり。
風景 空の青や木々の緑などを鮮烈な印象で再現。
ニュートラル 被写体のディテールを豊かに残す、画像加工にも適した画質。
忠実設定 被写体の色そのものを「記録」する、現物重視の画像。
モノクロ フィルターワーク、セピアトーンも自在なデジタル時代のモノクロ。
エメラルド 空の色や水の青さも鮮やかで明るめに仕上げます。
クリア コントラストを強調し、被写体を立体的に、くっきりと表現します。
トワイライト 写真全体の仕上がりをファンタジックに仕上げることができます。


 ほぼ同時刻、同一の場所において、JPEGで撮り比べた結果が以下になる。

  • 作例のリンク先は、撮影画像、または撮影画像をピクチャースタイルエディターで修正したJPEGファイルです。
  • 撮影データは、使用レンズ/記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/実焦点距離を表します。


●名港トリトン

共通データ:EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/500秒 / F11 / +0.33EV / ISO200 / WB:オート / 26mm


スタンダード 風景

ニュートラル 忠実設定

モノクロ エメラルド

クリア トワイライト

●名古屋港

共通データ:EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/640秒 / F11 / 0EV / WB:オート / ISO200 / 61mm


スタンダード
風景

ニュートラル 忠実設定

モノクロ エメラルド

クリア
トワイライト

●火力発電所の塔

共通データ:EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/320秒 / F11 / 0EV / WB:オート / ISO200 / 20mm


スタンダード 風景 ニュートラル

忠実設定 モノクロ エメラルド

クリア トワイライト

●貨物列車

共通データ:EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/200秒 / F11 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート / 20mm


スタンダード 風景

ニュートラル 忠実設定

モノクロ エメラルド

クリア トワイライト

●信号機

共通データ:EF 200mm F2.8 L USM / 3,888×2,592 / 1/1,600秒 / F3.5 / +0.33EV / ISO200 / WB:オート / 200mm


スタンダード 風景 ニュートラル

忠実設定 モノクロ エメラルド

トワイライト
クリア トワイライト

 名港トリトンの画像では、「スタンダード」を基準にすると「風景」は実際の空よりも鮮やかに青くなっている。「ニュートラル」と「忠実設定」では色は異なるが、どちらも地味な印象だ。「エメラルド」は「風景」ほどではないが鮮やかに、「クリア」、「トワイライト」はこのシーンでの使用はためらう感じだ。名古屋港の空と海はほぼ同じ傾向。火力発電所の塔の画像も傾向は似ているが、「エメラルド」の画像を見ると手前の黄色の色合いが印象的だ。

 貨物列車の画像では、筆者の好みは「ニュートラル」か「忠実設定」で、鮮やかな「風景」や「エメラルド」よりフィットしているように思う。ユーザー設定に登録できるのが3つと制限があったので今回は試せなかったが、「ノスタルジア」あたりも面白いかもしれない。信号機は逆光気味に撮っているので、順光の画像と比べるとピクチャースタイルによる差が少なめな印象だ。


●日没前

共通データ:EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 26mm


スタンダード 風景

ニュートラル 忠実設定

モノクロ エメラルド

クリア トワイライト

●日没後

共通データ:EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/40秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 26mm


スタンダード 風景

ニュートラル 忠実設定

モノクロ エメラルド

クリア トワイライト

 日没に合わせて再度、名港トリトンを撮影してみた。夕日が沈む直前の画像では「スタンダード」と「風景」は昼間の撮影ほど差がない。「エメラルド」の夕焼けと「トワイライト」の夕日の周りが印象的だ。日没後20分ほど経った後の画像では、「トワイライト」の空が紫がやっと活かせるシーンになった感じがする。

 通して見ると、シーンによりピクチャースタイルの選択の難しさを感じる。晴天、順光で風景を撮るなら「スタンダード」で普通に撮るもよし、「風景」で鮮やかに演出するもよしと言った感じだが、曇天や夕方から夜にかけての撮影では結果が異なってくる。思い通りの色を出すには、さまざまななシーンで試行錯誤が必要であろう。


ピクチャースタイルエディターを使ってみる

 さてピクチャースタイルごとの傾向を確認した上で、ピクチャースタイルエディターを使用してみたい。キヤノンのサイトを見ると、簡単な操作例から複雑な操作例まで掲載されている。初めてなので、比較的簡単なパターンの作業を試してみた。

 ピクチャースタイルエディターに画像をドラッグ&ドロップすると、画像が表示される。最初は基本的なパラメーターを設定する「事前調整」を行なう。具体的には、ヒストグラムを見ながらの明るさ調整や、ホワイトバランスの設定だ。撮影時のホワイトバランスはオートだったので、ここでは太陽光を選択した。


まずは「事前調整」で明るさとホワイトバランスを設定

 作業中は、元画像と変更を加えた画像を左右に比較しながら表示できる。空の青さを鮮やかにするため、スポイトで空を指定。試しに彩度を+20、+40、と変化させていくと、徐々に空が鮮やかに変わっていく。+50では明度が-2と自動的に下がり、HSLの表色系で動作していることがわかる。今回の空の青さは最終的に+25に設定した。


彩度をスライダーで+20に調整
左が元画像。右が彩度を+20にした画像

彩度を+40に
彩度を+40にした状態(右画像)

彩度を+50にすると、明度が自動的に-2になる
右は彩度+50、明度-2

最終的に彩度を+25に決定
右が彩度を+25にした画像

 次に、建物の手前の植え込みをより鮮やかな緑に変更してみた。建物の左手前の緑をスポイトで選択し、影響範囲を画像に表示するにチェックマークを入れると、選択された部分がグレーに点滅する。この段階では建物の外壁部分も対象となっていたので、ツールパレットの扇の角度を狭くすることで、選択範囲を限定してみた。比較画像を見ながら彩度を+36まで上げ、緑の設定とした。最後にコントラストを調整するために、暗部を落とさないよう、トーンカーブを弱めのS字にして完了とした。


建物の左手前の植え込みをスポイトでクリックした状態
グレーになっている部分が編集対象。建物も影響を受ける

扇の角度を狭くして影響範囲(色)を狭くする
グレーの部分が減った

トーンカーブを調整してコントラストを上げる
右が元画像。左が完成した画像

 夕日もピクチャースタイルエディターで編集してみたが、思い通りに行かず途中で挫折した。無理矢理頑張って作成したピクチャースタイルをEOS 40Dに書き込んで撮影してみると、破綻した画像になる可能性ありそうだ。RAWで撮っていれば救済できるが、もし自作のピクチャースタイルでJPEGだけ撮り、良い結果にならなかったら目も当てられない。かなり経験を積むまで冒険は避けたい感じだ。

共通データ:EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/250秒 / F11 / 0EV / ISO200 / WB:― / 26mm


オリジナルピクチャースタイル スタンダード 風景

ニュートラル 忠実設定

 ピクチャースタイルエディターは、RAWをベースに作業を行なう。普段からRAWで撮っているなら、後から自由に色作りが可能だ。筆者の場合、モータースポーツなどの動きものの撮影が好きなので、基本的にJPEGで撮ることが多い。好みの色作りをして、そのピクチャースタイルを書き込んで撮影にのぞめば、JPEGでも狙った色で撮ることも可能となる。

 だが実際には、同じ場所でも季節や天候で条件は異なっている。スタジオ撮影のように再現性が高い環境であれば、細かく追い込んだ設定も可能だろう。しかし、屋外での撮影では困難が予想される。まずはベースとなるピクチャースタイルに若干のカスタマイズをするあたりから始めるのが無難であろう。

 以前IXY DIGITALのレビューで「あざやかブルー」、「あざやかグリーン」といった設定を試したことがあるが、見事に変化するケースとあまり効果がないケースがあった。場合によっては悪影響を及ぼすケースさえあった。こうやってピクチャースタイルエディターを使ってみると、色作りの難しさを痛感する。カメラメーカーの技術者は、こうした細かな作業で製品作りをしていることを認識させられた感じだ。

 従来の考え方からすると、メーカーが提供した色を選択するしかなかったものが、ユーザー自身がオリジナルの色を作ってカメラに登録できることは画期的なことであろう。試行錯誤でノウハウが蓄積されれば、撮影スタイルすら変える可能性が感じられるのがピクチャースタイルエディターだ。


貨物列車の写真にダウンロードしたノスタルジーを適用
EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/125秒 / F11 / +0.33EV / ISO200 / WB:― / 20mm
ノスタルジーをベースに、ピクチャースタイルエディターで空に少し色を付けてみた
EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/125秒 / F11 / +0.33EV / ISO200 / WB:― / 20mm

名鉄電車を撮影した元画像
EF 200mm F2.8 L USM / 3,888×2,592 / 1/1,000秒 / F5 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 200mm
列車の色を鮮やかに、右脇の緑を少し明るくしてみた。
EF 200mm F2.8 L USM / 3,888×2,592 / 1/1,000秒 / F5 / 0EV / ISO200 / WB:― / 200mm

風車を「風景」で撮影。シャッター速度1/15秒で回転を表現してみた
EF-S 17-85mm F4-5.6 IS USM / 3,888×2,592 / 1/15秒 / F13 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 200mm
ウィンドサーフィンを「クリア」で撮影
EF 300mm F4 L IS USM / 3,888×2,592 / 1/2,000秒 / F11 / -0.33EV / ISO200 / WB:オート / 300mm


URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/camera/eosd/40d/
  ピクチャースタイル
  http://cweb.canon.jp/camera/picturestyle/
  気になるデジカメ長期リアルタイムレポート(EOS 40D)
  http://dc.watch.impress.co.jp/static/backno/longterm2007.htm#eos_40d
  EOS 40D完全ガイド(インプレスジャパン)
  http://www.impressjapan.jp/books/57697



奥川浩彦
(おくがわひろひこ)1961年、名古屋生まれ。パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報担当、2001年イーレッツの設立に参加。2006年、iPR(http://i-pr.jp)を設立し広報代理業とライター業で独立。写真を始めたのは学生時代にモータースポーツを撮りたかったから。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選経験あり。鈴鹿で開催されたF1日本グランプリは87年から20年皆勤賞。http://okugawa.jp/menu/

2007/10/31 18:40
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