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キヤノン EOS 5D【第5回】
発売後2カ月を振り返ってみる

Reported by 本田 雅一


 EOS 5Dが我が家にやってきてから、振り返るとすでに2カ月以上が経過している。操作周りの作りやデザインが似ているEOS 20Dを使っていた事もあり、実はさほど新しい機種を使っている実感がなく、あっという間に2カ月が過ぎた印象だ。インターネットではEOS 5Dを使ったユーザーの声も多数出ており、画質に関してはすでに“定評”が出来つつある。

 今さらの感はあるが、この連載では5Dの使用感に関しては、あまり具体的には触れてこなかったので、一般的なレビュー記事ではあまり触れられる事が少ないだろう点を中心に、いちエンドユーザーとしての率直な感想で5Dという機種を長短織り込みながら振り返ってみたい。


圧倒的な満足とやや不足気味の所有感

 購入時には「フルサイズセンサーなんて、この先APSサイズが主流になれば、コンシューマ向けには出てこないかもしれない。えいや、行ってしまえ!」と勢いよく買ってしまったEOS 5D。いや、実際にはもっと深い悩みはあったわけだが、時間を置いて振り返ってみると、やはり勢いの要素が強かったように思う。

 “フルサイズなんかいらないでしょ”という意見に対しては、何ら反論するつもりはない。被写界深度は大きな要素だが、アマチュアが使う趣味のためのカメラなのだから、趣味的要素、自己満足的要素として“フルサイズ”というスペックがシンボリックなものであってもいいと思う。合理性優先の仕事道具じゃないんだからね。

 実際、センサーサイズが大きい事によるファインダー像の見やすさには、本当に満足している。取材のついでに撮影することが多く、ズームレンズと共に持ち歩くことがほとんどということもあり、フォーカシングスクリーンをスーパープレシジョンマットに交換してはいないが、プライベートでの時間ができたなら明るい単焦点レンズと共に是非使ってみたいと思っている。とはいえ、出たらスグに購入しようと思っていたスーパープレシジョンマットスクリーンをまだ手にしていないのは、標準スクリーンでも十分な見え味だと感じているからに他ならない。

 インターネットで交わされるの談義をザッと覗いてみると、ファインダー像がやや黄色方向にシフトして見える件、AFセンサー配置が狭い点を指摘する声が多数見つかった。実際、黄色っぽいのは確かだが、だからといって気になるほどでもない。ファインダー像が大きい事に比べれば些細な事ではないか。

 AFセンサー配置にしても、イメージセンサーサイズとの兼ね合いからこれ以上の幅に分散させるのは不可能という。メーカーによってやり方や、どこまで使えるかといった基準はあるのだろうが、実際に撮影する上で、さほど不便と感じたことはない。ただ、20Dでは使いやすかった菱形配置は、5Dではあまり便利だとは思わない。これならば、十時型配列の(補助測距点を除いた)7点でも良かったのではないだろうか?

 ファインダーの見え味に関しては本当に満足。高ISO時のノイズ感が低く画素数が多いというメリットよりも、ファインダー像の見え味の方が5Dを購入した後の満足感は高い。その次は35mmフィルムカメラとの撮影感覚のズレがない事。さらに古い35mmレンズの描写を手軽に楽しめる点も、趣味の写真における楽しみを増幅する(ご存知のようにEFマウントには多種のマウントコンバータがある)。センサーの性能面に関しては(もちろん満足はしているが)、5Dに対する満足度リストの上から4番目といったところか。

 上記のような点を求められる中級機は、現在のところ5Dしかないのだから、他に選択肢はない。だから所有感も高いと言いたいのだが、もう少し俯瞰して落ち着いて眺めてみると、モノとしての満足度はあともう少しといったところだ。


EOS-1との“つながり”を示すエッセンス

 もやもやとした“モノとしての満足感”の不足。所有感に対する不満といった感覚には、もちろん個人差があると思う。実際には、5Dは単価の高さをものともせずに、市場でトップ争いを演じるほどなのだから、多くの人が5Dを魅力的だと捉えているのだろう。

 いや、筆者自身、満足はしているのだが、心の中が一点の雲もない快晴かと言われると、明確にイエスとは応えられない自分がある。あまりネガティブな方向での印象を与えるつもりはないが、5Dに対する圧倒的な満足と共に、この“もやもや”についても触れておきたい。

 もやもやの正体は、EOS 5DのEOSシリーズにおける位置付けにあるように思う。以前、EOS 5D開発者インタビューで、開発者自らが「40万円に見合う所有感を持たせたいと思った」と話していた。

 実際、手で持ったときの剛性感は20Dよりも高いと思うし、サイズの違いもあって堂々とした雰囲気もある。ただ、“塊感”というほどの剛性というよりは、やはり20Dの延長線上にある製品という感触が伝わってくる。メーカー視点から見たカテゴリ分けとしては20Dと5Dは、異なるセンサーを用いている同クラスの製品なのだから、これはある意味、当然かもしれない。

 しかし40万円(実際には35万円程度か)のカメラを購入する層の人たちは、20Dの高画素・大型センサーモデルというよりも、軽快で安価なEOS-1Dsの姿を投影しているのではないだろうか? ところが5Dの撮影感はEOS-1系(筆者は銀塩時代にしか使用していなかったが)との“つながり”を感じない。銀塩カメラで言えば、EOS 3はメカ周りの感触にEOS-1に近い部分を感じるところがあったのだが。

 良く言われるファインダー消失時間の長さやレリーズラグもそうだが、レリーズボタンの切れ味に関しても同じ事が言える。5Dのレリーズはカチッとクリック感のあるタイプではなく、プロ機と同じソフトタイプ。ボタンを押し込んでいくとクリック感なしにシャッターが動作する。


 EOS-1系だと軽めのボタン操作感でなおかつ浅い位置でシャッターが動作するため、スパスパと気持ちよくシャッターが切れるが、5Dのそれは少し重くギュッと押し込まなければシャッターが落ちない。実際の動作幅や重さの違いを数値化すると、あまり違いはないのだろうが、人間の感覚とは鋭敏なもので僅かな違いが軽快感を削ぐ。

 EOS-1N時代には1度、レリーズ動作点の調整を行なってもらったことがあったため、サービスセンターに持ち込んでみたが、5Dに関しては調整は不可能だとか。食い下がって話を聞くと、全く不可能ではないようだが、アマチュア向けの5Dでは調整を行なっていないという。う~ん、こだわるユーザーならば、少々高めの調整技術料を払ってでも調整したいという人はいると思うのだが……。

 このほか端子類をカバーするラバーが非常に開けづらく(もちろん防滴性を考えての事だろう)、また閉める際にも気を遣う。CFの蓋の質感やヒンジのしっかり感など、本来のカメラ機能以外の部分での質感が気になり始めてきた。

 もちろん、センサーにコストをかけたから……という理由はわかる。撮影機能以外での質感に関しては、言い過ぎの部分もあるかもしれない。しかし、EOS-1系とメカ周りの部品や設計を共通化することで、コストを下げながら撮影感覚を向上させる事はできなかっただろうか。

 EOS-1との“つながり”を示す操作感、質感の面でのエッセンス。デジタル部に関する不満は、液晶パネルの輝度が低い事以外はほとんど感じていないEOS 5Dに不足しているのは、そうした部分なのかもしれない。


それでもやっぱり手放せない

 と、不満げに書いているが、5Dに対する満足度がトータルでプラスかマイナスかと言われれば、かなりプラス方向に振れている。上記はデジタル部以外の話がほとんどだったが、ことデジタル部の画質やノイズ特性に関しては完全に満足している。

 今年は10月以降の海外出張がなく、暗い基調講演会場で望遠レンズを使う機会はまだないが、A4変形いっぱいに引き延ばして掲載するわけでもない基調講演の写真程度ならば、ISO3200で十分だ。ISO1600ぐらいならば、仕事で全く躊躇なく使える。

 趣味の撮影となるとISO400かISO800程度に抑えようという気にもなるが、個人的にはコンパクトカメラで済ますようなところにも5Dを携帯しているため、ISO1600でどっちでもいいような写真まで撮影している。

 先日、とある関係の忘年会に出かけたが、普段、自分では予約しないような高級店。個室だった事もあり、食事の場にはやや相応しくない大きさのEOS 5D+EF 24-104mm F4L IS USMを持ち込んで食べ物撮影。レストランは高級店ほど照明が暗いものだが、ISO1600+手ブレ補正ならばなんとか撮影できる。

 もちろん、FinePix F11などを使う方がスマートなんだろうが、貧乏くさい考え方で恥ずかしいところもあるが、滅多に来ないお店だけにあまり失敗したくない。日本ではどこに行っても灯りが明るいが、海外取材ではとても暗い場所でインタビューをすることも少なくない。食事時はともかく、暗い場所でのノーストロボ撮影をするたびに、やっぱりコイツは手放せないとも感じるのだった。


作例

※作例のリンク先は撮影画像をコピーしたものです。

※写真下の作例データは、記録解像度(ピクセル)/シャッター速度/絞り値/ISO感度/露出補正値/ホワイトバンラス/焦点距離を表します。


4,368×2912 / 1/25秒 / F4 / ISO1600 / 0EV / WB:AWB/ 40mm 4414 4,368×2912 / 1/32秒 / F4 / ISO1600 / 0EV / WB:AWB/ 105mm

4,368×2912 / 1/20秒 / F4 / ISO1600 / 0EV / WB:AWB/ 105mm 4,368×2912 / 1/40秒 / F4 / ISO1600 / 0EV / WB:AWB/ 105mm

4,368×2912 / 1/25秒 / F4 / ISO1600 / 0EV / WB:AWB/ 105mm

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( 本田 雅一 )
2005/12/09 15:19
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