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【伊達淳一のレンズが欲しいッ!】
トキナー「AT-X 535 PRO DX 50-135mm F2.8」

~コンパクトなデジタル専用大口径望遠ズーム
Reported by 伊達 淳一

 トキナーAT-X 535 PRO DX 50-135mm F2.8は、35mmカメラ換算で70-200mm相当の画角をカバーし、ズーム全域でF2.8の開放F値を維持するデジタル専用の大口径望遠ズームだ。35mm一眼レフ用大口径望遠ズームと比べ、レンズ全長が135.2mmとコンパクトで、ズーミングしても鏡胴の長さは変わらない。ピント合わせもインナーフォーカスなので、ズーミングや撮影距離によって、レンズの重量バランスが崩れないのが特徴だ。

 また、トキナーAT-Xプロシリーズではおなじみの“ワンタッチフォーカスクラッチ機構”を装備していて、フォーカスリングを前後にスライドするだけでAFとMFをワンタッチで切り換えられるのも魅力。AF時にフォーカスリングが回転しないので、安定したホールディングが期待できるほか、フォーカスリングを手元に引くとMFに切り替わり、MFレンズ並のスムーズな動きとトルク感でピント合わせができる。


AT-X 535 PRO DX 50-135mm F2.8 左からニコンAF-S VR Zoom Nikkor ED 70-200mm F2.8 G、キヤノンEF 70-200mm F2.8 L USM(非IS)、トキナーAT-X 535 PRO DX。35mm一眼レフに70-200mm F2.8ズームを装着するのに比べ、APS-Cサイズのデジタル一眼レフとAT-X535PROを組み合わせた方が、同じ画角と明るさでも圧倒的に軽量コンパクトだ

レンズ前玉側がフォーカスリング、後玉側がズームリングだ。フォーカスリングを前後にスライドさせるだけでAF/MF切り替えができる。写真はAFの状態だ
フォーカスリングを手元方向にカチッとスライドさせるとMF操作が可能になる。スカスカした感触ではなく適度なトルク感があるのが特徴

 最短撮影距離は1mで、70-200mm相当の望遠ズームとしては被写体にググッと寄れる。ポートレート撮影には十分すぎる最短撮影距離だ。絞り羽根は9枚で、F5.6くらいまでは円形に近く、さらに絞り込んでいっても丸みを帯びたキレイな形状を保っている。実際に撮影した写真を見ても、ボケの形状はキレイだ。

 三脚座も備えているので、三脚撮影時の縦横の構図変更も容易だ。さほど三脚座は大きくないので、カメラバッグに収納するときにパーティションに引っかかるということは少ないと思うが、三脚座にはシリアルナンバーが記されていて、ユーザーが簡単に取り外せない構造になっている。手持ち撮影で三脚座がジャマに感じる場合は、三脚座を上に跳ね上げて使うしかなさそうだ。

 さて、このレンズの最大の魅力は、ズーム全域で開放F値がF2.8と明るいことだ。一般論として、絞り開放から2~3段絞ったほうが、解像力や周辺光量が向上し、全体にグッと引き締まった描写が得られるが、せっかく開放F値が明るいレンズなのだから、絞り開放からそれなりの描写が得られなければ意味がない。しかも、安いレンズではないので、画質に対する評価基準もかなり厳しくなることが予想される。

 そういった厳しい目で見ると、絞り開放では、テレ側になるにつれ少しソフトな描写だが、像が流れたりしているわけではないので、アンシャープマスクを軽くかけるだけでもずいぶん引き締まった描写に見える。1段絞ってF4になると、被写体の輪郭がエッジ立ってきて、かなりシャープな仕上がりになる。

 ただ、気になるのが逆光性能だ。標準で花形のフードが付属していて、懐も深く、内側には植毛が施されているなど遮光効率は高そうだ。しかし、フードで遮光しきれない逆光では、ゴーストやフレアが出やすく、一気にコントラストが低下してしまう。鏡胴の内面反射というよりは、レンズ面での反射が悪影響を及ぼしている感じで、コーティングをもっと強化してほしいと思う。来年発売が予定されているペンタックスDA★ 50-135mm F2.8 EDも、このズームと同じ光学系を採用しているが、コーティングの違いによって逆光性能がどう変わるか興味深いところだ。


付属の花形フードを装着した状態。かなり懐が深く、高い遮光効果が期待できそうだ。AT-X 840 D 80-400mm F4.5-5.6にあったような、PLフィルター回転用の特別な仕組みは装備されていない 収納時にはフードを逆にかぶせることができる。フードの径はさほど太くないので、カメラバッグへの収納性もイイ

 それと、個人的に不満なのは50-135mmという焦点距離域だ。このレンズを初めて手にしたときは「70-200mm F2.8相当の大口径望遠ズームがこの価格、このサイズで手に入るのは魅力だし、最短撮影距離も1mと短く、近接撮影でも描写が甘くならないのはスゴイ」と絶賛していたのだが、いろいろ撮影していくうちに、テレ端の画角がだんだんモノ足りなく感じてきた。

 なにしろ、ニコンの廉価ズームAF-S DX VR Zoom Nikkor ED 18-135mm F3.5-5.6 Gのテレ端と画角は同じなので、18-200mmズームの画角が当たり前になってしまった身には、望遠が足りなく感じてしまうのだ。しかも、35mm一眼レフに70-200mm F2.8を組み合わせた場合に比べ、確かに画角と明るさは同等でも、前景や背景のボケは50-135mm F2.8のほうが約1絞り強小さくなってしまう。35mm一眼レフ用の70-200mm F2.8ズームに比べると、どうもインパクトが弱いのだ。

 とはいっても、50-200mm F2.8なんてデジタル専用の大口径望遠ズームを作ったら、大きさも重さも価格も70-200mm F2.8ズームを超えてしまいそうだし、開放F値を妥協してF4通しにしたのでは、廉価ズームの70-300mm F4-5.6あたりとの差があまりなくなってしまう。そう考えると、AT-X 535 PROは、コンパクトで明るいのが魅力であり、それ以上望遠を求めるなら35mm一眼レフ用の70-200mm F2.8ズームのほうが適している、ということだろう。

 ちなみに、シグマからもAPO 50-150mm F2.8 EX DC HSMというデジタル専用の大口径望遠ズームが発売されていて、トキナーとシグマのどちらを買おうかと悩んでいる人も多いと思う。シグマのほうがテレ端の焦点距離がわずかに長く、超音波モーター駆動でフルタイムマニュアルフォーカスも可能なのが魅力だが、惜しむらくは絞り開放では近距離の描写が甘いこと。無限遠付近では絞り開放からLレンズに匹敵する高い描写力を発揮するものの、ポートレート撮影距離から最短撮影距離くらいまではフワッとにじんだような描写になり、F5.6くらいまで絞らないとキリッと締まった描写にならないのだ。

 その点、トキナー AT-X 535 PROは、近距離の撮影でも絞り開放からそれなりに引き締まった描写だ。ポートレートなど近距離で絞りを開けて撮影することが多いのであれば、トキナー AT-X 535 PROのほうがシャープな描写が期待できる。もちろん、シグマのややソフトな描写をポートレート撮影に活かすという選択もある。個人的には、近距離のシャープさを重視したいのでトキナーが好みだが、逆光性能をもう少し何とかしてほしいというのが偽らざる気持ちだ。

※作例のリンク先は、撮影した画像です。等倍の画像(3,872×2,592ピクセル)を別ウィンドウで開きます。
※特記した画像以外はすべて、JPEG/Fineで撮影しています。


焦点距離と絞り値による画質の変化をチェック

※この項目はすべてD200 / 絞り優先AE / 露出補正なし / ISO100 / オートホワイトバランスで撮影しています。

●50mm


F2.8
F4

F5.6
F8

●85mm


F2.8
F4

F5.6
F8

●135mm


F2.8
F4

F5.6
F8

焦点距離と絞り値によるボケ味をチェック

※この項目はすべてD200 / 絞り優先AE / 露出補正なし / ISO100 / オートホワイトバランスで撮影しています。
※50mmの画像はISO100で、90mmと135mmの画像はISO200で撮影しています。


●50mm


F2.8
F4

F5.6
F8

●90mm


F2.8
F4

F5.6
F8

●135mm


F2.8
F4

F5.6
F8

逆光時のフレアやゴーストには注意

※この項目はすべてD200 / 絞り優先AE / F3.5 / 露出補正なし / ISO125 / ホワイトバランス:晴天で撮影しています。


レンズに日光が直射するようなシーンでは、このようにゴーストやフレアが盛大に発生しやすい(85mm)
レンズ前玉が木の陰になるようにわずかにカメラ位置を移動して撮影したカット。レンズの欠点をちょっとした工夫で補うのも撮影者の技量だ(135mm)

作例

※画像下のデータは機種 / 露出モード / 絞り / シャッター速度 / 露出補正値 / 感度 / 実焦点距離 / ホワイトバランスです。


D80 / 絞り優先AE / F2.8 / 1/1,250秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート D80 / 絞り優先AE / F2.8 / 1/320秒 / 0EV / ISO320 / 135mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F2.8 / 1/2,000秒 / 0EV / ISO320 / 85mm / オート D80 / 絞り優先AE / F3.2 / 1/500秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F3.2 / 1/500秒 / 0EV / ISO320 / 135mm / オート D80 / 絞り優先AE / F3.2 / 1/320秒 / 0EV / ISO250 / 125mm / オート D80 / 絞り優先AE / F5 / 1/1,600秒 / 0EV / ISO250 / 55mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F8 / 1/640秒 / 0EV / ISO250 / 105mm / オート D80 / 絞り優先AE / F8 / 1/640秒 / 0EV / ISO250 / 105mm / オート D80 / 絞り優先AE / F3.5 / 1/1,250秒 / 0EV / ISO400 / 135mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F2.8 / 1/3,200秒 / 0EV / ISO400 / 135mm / オート D80 / 絞り優先AE / F4 / 1/1,000秒 / -0.33EV / ISO200 / 135mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F2.8 / 1/640秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート D80 / 絞り優先AE / F3.5 / 1/800秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート D80 / 絞り優先AE / F3.5 / 1/1,250秒 / 0EV / ISO200 / 55mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F5.6 / 1/200秒 / 0EV / ISO320 / 80mm / オート
D80 / 絞り優先AE / F3.2 / 1/320秒 / 0EV / ISO320 / 135mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F3.5 / 1/320秒 / 0EV / ISO200 / 75mm / オート
D80 / 絞り優先AE / F6.3 / 1/500秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F2.8 / 1/640秒 / -1.33EV / ISO400 / 100mm / オート D80 / シャッター速度優先AE / F4 / 1/1,600秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート / JPEG/Nomalで撮影 D80 / シャッター速度優先AE / F5.6 / 1/1,000秒 / 0EV / ISO400 / 75mm / オート / JPEG/Nomalで撮影

D80 / 絞り優先AE / F3.5 / 1/125秒 / 0EV / ISO320 / 135mm / オート / JPEG/Nomalで撮影 D80 / シャッター速度優先AE / F3.2 / 1/1,000秒 / 0EV / ISO400 / 135mm / オート

D80 / シャッター速度優先AE / F5.6 / 1/1,000秒 / 0EV / ISO400 / 50mm / オート / JPEG/Nomalで撮影 D80 / 絞り優先AE / F5.6 / 1/3,200秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート / JPEG/Nomalで撮影

D80 / 絞り優先AE / F6.3 / 1/250秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート / JPEG/Nomalで撮影 D80 / 絞り優先AE / F8 / 1/640秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート / JPEG/Nomalで撮影

D80 / 絞り優先AE / F2.8 / 1/2,500秒 / 0EV / ISO100 / 135mm / オート / JPEG/Nomalで撮影 D80 / 絞り優先AE / F4.0 / 1/1,250秒 / 0EV / ISO100 / 125mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F8 / 1/160秒 / 0EV / ISO100 / 95mm / オート / JPEG/Nomalで撮影 D80 / 絞り優先AE / F4 / 1/800秒 / 0EV / ISO100 / 85mm / オート D80 / 絞り優先AE / F4 / 1/1000秒 / 0EV / ISO100 / 50mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F3.5 / 1/640秒 / 0EV / ISO100 / 100mm / オート D80 / 絞り優先AE / F5.6 / 1/500秒 / 0EV / ISO100 / 50mm / オート D80 / 絞り優先AE / F3.2 / 1/1,250秒 / -0.33EV / ISO200 / 135mm / オート

D80 / 絞り優先AE / F5.6 / 1/500秒 / 0EV / ISO100 / 135mm / オート D80 / 絞り優先AE / F4.0 / 1/1,600秒 / 0EV / ISO200 / 135mm / オート

D200 / 絞り優先AE / F3.5 / 1/1,000秒 / 0EV / ISO125 / 125mm / 晴天 D200 / 絞り優先AE / F3.5 / 1/180秒 / 0EV / ISO125 / 135mm / 晴天


URL
  トキナー
  http://www.tokina.co.jp/
  製品情報
  http://www.tokina.co.jp/atx/4961607634158.html

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伊達 淳一
1962年生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒業。写真、ビデオカメラ、パソコン誌でカメラマンとして活動する一方、その専門知識を活かし、ライターとしても活躍。黎明期からデジタルカメラを専門にし、カメラマンよりもライター業が多くなる。自らも身銭を切ってデジカメを数多く購入しているヒトバシラーだ。

2006/12/15 17:17
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