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【第7回】ジャンクカメラで作るレンズバリア内蔵キャップ
[2009/01/26]


2008年

【第1回】フォーサーズボディにヘキサノンARレンズを装着する


 ぼくはデジカメもレンズも大好きで、いろいろな製品が欲しくなってしまうのだが、時になぜか「売っていない製品」を頭で想像し、それが欲しくなってしまうことがある。それは自分の撮影の必要上どうしても欲しいモノだったり、実用上ではないただの興味本位で欲しいモノだったりといろいろだ。しかし技術者でもない素人の自分は、頭で想像したレンズをゼロから製造することはできない。そこで、既製品を組み合わせて、自分のほしいものを作り出したりする。

 こういう、すでにあるものを切り貼りして、なにか新しいものを作る作業のことを「ブリコラージュ」と言う。例えばイギリスに、ジャンク品の柱時計とモーターとラジオを組み合わせ「ゼンマイ式発電ラジオ」を製作した素人発明家がいたが、これなんかがまさにブリコラージュの好例である。

 実は、ブリコラージュにはもうちょっと別の意味もあるのだが、ゴチャゴチャ理屈を言う前に、まずは今回の実例を見ていただくことにしよう。


■注意■

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製作編

準広角パンケーキレンズの先駆けとなった、Konica Hexanon AR 40mm F1.8
 Hexanon(ヘキサノン) ARというブランドのレンズがある。

 これはかつてのコニカが製造していた、ARマウントという独自規格を採用した、同社製の35mm一眼レフの専用レンズであった。

 コニカは戦前からある由緒正しいカメラメーカーであったが、現在は同じく戦前からのカメラメーカーであったミノルタと合併し「コニカミノルタ」となり、カメラの製造は行なっていない。

 Hexanon ARレンズは1960〜80年代にかけて製造され、少数のラインナップながら意欲的な設計のレンズも含まれていた。

 ARマウントには、フランジバック(マウント面からフィルム面までの距離)が40.5mmと他社に比べ短いという特徴がある。そのためARマウントにM42マウントなど他社のレンズを装着するアダプターも発売されていた。しかしその逆に、コニカARマウントレンズをほかのメーカーのマウントに装着することはできない。デジタル一眼レフで最もフランジバックが短いフォーサーズマウントでも40.0mmで、その差は0.5mmしかないので、マウントアダプターを製作しても無限遠でピントが合わず、接写しかできないとされていた。

 ところが、(どこだったか忘れたが)ネット上のサイトに「コニカARマウントレンズは、フォーサーズマウントのカメラに直接装着できるらしい」という情報が書き込んであった。まさに既製品同士を組み合わせる、ブリコラージュ的な情報である。

 そう言えば、ぼくはHexanon AR 40mm F1.8というレンズを持っていた。このレンズは準広角パンケーキレンズの先駆けとなったレンズで、フォーサーズカメラに装着したら絶対にカッコイイはずだ、というわけで試してみた。

 ところがサイトの情報に反し、実際にはそれがどうしてもできない。レンズ後部から絞り連動用レバーが突出しており、これがボディと干渉してしまうのだ。

 そこでしばし思案した挙句、ダメモトでレンズ後部のネジを外し、フォーサーズボディと干渉する部分を取り外してみることにした。既製品を分解し断片化するのが、ブリコラージュの第1歩なのだ。幸いレバーなどの部品は簡単に取り外すことができた。で、恐る恐るレンズをボディにはめてみると……これがはまるではないか!


ヘキサノンARレンズの後部からは絞り連動レバーが突出しており、ここがフォーサーズのボディマウントに干渉し、取り付けが不可能だ
フォーザーズボディと干渉する部品、プラスチックのカバーと絞り連動レバーを取り外した状態。作業はビスを緩めるだけの簡単なもの

 しかし喜んだのもつかの間、実はレンズとボディの間にガタがあり、ちゃんと固定できないことが判明した。まぁ、元から違うマウントがそう簡単にぴったり付かないのも当たり前で、ブリコラージュにはありがちなつまづきだ。しかしファインダーをのぞいたところ無限遠にもピントが合うようだし、もうちょっと工夫すれば何とかなりそうな気もする。

 ガタがあるのは、レンズ側のバヨネットの爪と、ボディ側のバヨネットの爪の間に隙間があるためだ。だからこの隙間を埋めるスペーサーを自作すれば、晴れてARヘキサノンレンズをフォーサーズマウントにガッチリ装着できるはずだ。

 しかし一眼レフのマントは非常にシビアな精度で組み立てられており、スペーサーにもそれ相応の精度が要求されるはずだ。ここは精密に計測したデータから金属板を旋盤加工で……と行きたいところだが、あいにくそんな技術も設備も持ち合わせていない。しかし「案ずるより生むが易し」の言葉通り、テキトーな工作で案外うまくいったりするのがブリコラージュである。

 そこで、ぼくが良く使う「ABS板工作」で簡単に製作できないか、とりあえずチャレンジしてみることにした。ABSは弾力のあるプラスチックで、各種の厚みのABS板がホームセンターや東急ハンズで売っており、工作の素材としてよく利用している。そのABS樹脂のプラ板をドーナツ状に切り出し、スペーサーとしてレンズに取り付けるのはどうかと考えてみた。

 しかしプラ板をドーナツ状に切り出すのも、簡単とは言えそれなりに手間がかかるわけで、厚みがぜんぜん合わなかったりしたらその苦労が無駄になってしまう。そこで、手始めにどれくらいの厚みのスペーサーが必要なのか確認するため、1.5mmのプラ板を3×5mm角くらいにカットし、両面テープでレンズマウント外周に貼り付け、その状態でボディーに付くかどうか試すことにした。そのテストの具合を見ながら、本番のスペーサーの製作法をまた考えればいいだろう。

 ところが意外にも、ABS板をただ貼り付けただけのレンズが、カッチリとボディーにはまってしまったのだ。この状態で、マウントの連結にガタはまったくなく、純正品同様しっかり固定できている。ファインダーをのぞいて確認すると、無限遠にもちゃんとピントが合う。レンズの取り外しも問題なくスムーズに行なえる……?

 つまり実に偶然の結果、この時点で「ARヘキサノンレンズのフォーサーズマウント化」は達成できてしまったのである!


ARヘキサノンレンズをフォーサーズボディに固定するためのスペーサー。1.5mmのABS板を5×10mm角にカットし、片面の半分だけに両面テープを貼り付ける
ARヘキサノンレンズの後部にスペーサーを取り付けた状態。外周の黒い部分は絞りリングなので、スペーサーはその内側の銀色のマウント部のみに接着するようにする。両面テープを使った工作なので、失敗してもやり直しができる

 4つのスペーサーを取り付けるコツは、まずARマウント外周の可動部分である「絞りリング」に接着しないことだ。そのためスペーサー片面の半分だけに両面テープを貼り、絞りリングの内側の銀色のマウント部のみに接着する。スペーサーの接着位置によっては、絞りの調節範囲が限定されたり、ボディ側のレンズロックピンが押されたままになってしまう。だが、ここで正確な貼り付け位置は指示しないでおく。厳密な寸法を割り出すことも時には必要だが、ブリコラージュには自分の手の感触で試行錯誤する過程が不可欠なのだ。

 ところで、両面テープでは耐久性に問題があるのでは? と思う方もおられるだろうが、レンズ取り付け時はスペーサーに圧力がかかるので、意外にしっかり固定されるのだ。それでいて失敗したと思ったらやり直しがしやすく、なかなかいい取り付け方法といえる。

 というわけで、当初は試作の後、正式にドーナツ状のスペーサーを作る予定でいたが、その必要もなくなった。むしろ「4点で支える」という構造のほうが、かえって都合が良いのかもしれない。ABS樹脂はゴム成分を多く含むため多少の弾力があり、この弾力がスペーサーの誤差を吸収しているのではないかと思われる。だとしたらスペーサーをドーナツ状にし、マウントとの接触面を増やすと、キツ過ぎて外れなくなる可能性もある。

 もちろん、こんないい加減なスペーサーだけに、厳密には光軸が傾いているのかもしれない。しかし試写の結果は目立つような片ボケもないようだ。フランジバックの誤差のためか、レンズの距離目盛からちょっとずれるが、無限遠にもピントが合う。ちゃんとした理論や理由は分からなくとも、とにかく結果オーライなのが、ブリコラージュの醍醐味である。


E-410に装着したKonica Hexanon AR 40mm F1.8。小型軽量ボディにパンケーキレンズが非常にマッチしている。しかしファインダー倍率が小さいのでピント合わせがしづらく、実用性は低い E-3に装着してみた。大柄なボディと小さなレンズのバランスもまた趣がある。何よりファインダー倍率が高く、MFでも問題なくピントを合わせることができる

 このようにフォーサーズマウントに改造したHexanon AR 40mm F1.8をE-410に装着してみたところ、想像通り実にカッコいい。昔のフィルム一眼レフのようにコンパクトなE-410には、単焦点のパンケーキレンズが実に良く似合うのだ。取り付け位置の関係でレンズのロゴが斜めに傾いてしまうが、それはブリコラージュならではの愛嬌だろう。

 しかしE-410は光学ファインダーの倍率が低く、スクリーンもボケがハッキリ見えないタイプなので、マニュアルフォーカスでのピント合わせが難しい。もちろんライブビューの拡大モードを使えば、精密なピント合わせは可能だが、操作の行程がもどかしいうえに「一眼レフで撮る」という気分がスポイルされてしまい、ちょっと残念だ。

 そこで、フォーザーズでは最も光学ファインダーが優秀なE-3に装着してみたが、さすがに倍率が高くピントの山もハッキリわかり、なかなか快適にマニュアルフォーカスが楽しめる。大柄なボディに小さなレンズと言うバランスも、妙な感じがマニアックで良いかもしれない。今回の撮影は、すべてE-3にHexanon AR 40mm F1.8を装着して撮影することにした。

 40mmという焦点距離は、フォーサーズに取り付けると、35mm判フィルムカメラの80mmに相当する中望遠になる。もちろんピントはマニュアルで合わせ、絞込みの動作も手動で行なう必要がある。しかしカメラ内臓の露出計は絞込み測光で作動し、マニュアルモードと絞り優先AEを使うことができる。言ってみれば既製品の機能の断片を利用するわけで、これもブリコラージュの特徴だ。

 実は、本原稿の入稿直後にオリンパスから新ファームウェアが公表され、E-3およびE-510にレンズアダプターを介して装着したレンズでも、手ブレ補正が可能となった。

 オリンパスでは、純正のOM-フォーサーズアダプターしか動作保証はしていないが、原理的にHexanon ARを改造したレンズでも手ブレ補正は効くはずだ。今回の記事では確認できなかったが、興味のある方は自分の「お楽しみ」として検証していただければと思う。


画質テスト編

 肝心の画質だが、テストのため三脚に固定し絞りを変えながら確認してみた。ご覧のように絞り開放ではフワフワのソフトフォーカスになるが、絞り込むと結構シャープにシャープに写る。この両面性のある描写特性を、作品に生かすことも可能だろう。

※サムネールをクリックすると、等倍の画像を別ウィンドウで開きます。
※すべてE-3/3,648×2,736ピクセル/マニュアル露出/ISO100/WB:晴天で撮影しています。


F1.8
F2.8

F4
F5.6

F8
F11

F16
F22

実写編

 さて、このレンズで何を撮るかだが、ぼくは写真の技法書にあるような「美しい写真」を撮るのが苦手で、自分なりに何らかの「意味づけ」をした被写体を撮ることにしている。そのようなぼくが日ごろ多用するのは広角寄りのレンズなのだが、たまには中望遠で視点を変えてみるのも良いかもしれない。そこで長野市内の実家に帰省した際、近所をブラブラ散策しながら撮影してみた。

 ぼくは細かい画質の違いを云々するのも苦手なので、カメラの設定は固定で絞りもF8のみで撮影した。開放でピントを合わせた後、絞りリングを回し、カチ、カチ、カチ、カチと4回クリックが鳴れば絞りF8となる。露出モードは絞り優先で、撮影結果を確認して露出補正した。

※すべてE-3+Hexanon AR 40mm F1.8、仕上がり:NATURALで撮影しています。
※元の撮影画像は3,648×2,736ピクセルですが、鑑賞の便宜を考慮し、サムネールをクリックすると1,024×768ピクセルに縮小した画像を開きます。リサイズとアンシャープマスク以外の処理は行なっていません。
※サムネール下のデータは、露出モード/シャッター速度/絞り/露出補正値/感度/ホワイトバランスです。


わが子を手で引っぱったらビヨーンと背が伸びたので、人の子も次々と引っぱってビヨーンと伸ばしてゆく……という情景を思い浮かべてしまった
絞り優先AE / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート
道路の境界を示す指標の上に、コンビニのレシートが置かれ、風で飛ばされないよう重石がしてある。どういう事情でこのような親切が発生したのか、まったくの謎である
プログラムAE / 1/320秒 / F8 / -1.7EV / ISO400 / WB:オート

工場の入り口の横に巻き付けてあったゾーキンの先に、なぜかゾウ……じゃなくてブタ(?)のキーホルダーが引っ掛けてあった
プログラムAE / 1/640秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート
風景の真ん中に、4次元の入り口のような穴が開いている。ゆがんだカーブミラーが映し出す世界である
プログラムAE / 1/160秒 / F8 / -1EV / ISO200 / WB:オート

カーブミラーに取り付けられた、小さなブリキ看板。色あせて文字が消えてしまったようだが、現状のまま解釈すると「濃霧につき視界悪し」だろうか?
プログラムAE / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO200 / WB:オート
左と同じような看板だが絵が違う。猛火に包まれた女の子が「あら困ったわ」と言う余裕の表情をしている、かなりシュールなメッセージだ
プログラムAE / 1/50秒 / F8 / -1EV / ISO200 / WB:オート

ひょうきんな顔をしたキャラが、窓の向こうから覗いているように見える
プログラムAE / 1/200秒 / F8 / -0.7EV / ISO200 / WB:オート
もとはカワイイ雪だるまだったのかもしれないが、溶けかけて妖怪のように
なってしまった
絞り優先AE / 1/160秒 / F8 / -0.3EV / ISO200 / WB:オート

最後に、再びブリコラージュについて

 今回は「マウントの違うレンズとカメラを、ABS板の切片を挟んで合体させる」というブリコラージュを紹介した。しかし、あくまで撮影レンズとしての機能は変わらないから、「新たな機能をもつ道具を生み出す」というブリコラージュならではの「飛躍」は少なかったかもしれない。しかしブリコラージュは工作の方法論であるというほかに、「思考の方法論」としての意味もある。だから「コニカARマウントレンズは、フォーサーズマウントのカメラに直接装着できるらしい」という断片的な情報に、自分が知っていたABS板工作の知識の断片を組み合わせ、さらに偶然の要素が加わり完成したその経緯も、ブリコラージュ的であると言えるのだ。

 また長野で撮った写真には、被写体の元の意味をあえて無視し、勝手に解釈したキャプションを加えている。これは言ってみれば、意味あるものを断片化し、別の意味と組み合わせることで、新たな意味を創造するという「意味のブリコラージュ」なのである。

 ぼくは、ブリコラージュという言葉をフランスの文化人類学者のレヴィ・ストロースの「野生の思考」という本で10年ほど前に知って以来、非常に気に入っている。ぼくはどうも昔から、説明書や技法書を読んでちゃんと勉強するのが苦手で、自分勝手な思い付きで適当にどうにかするのが好きで、それこそが「ブリコラージュ的思考」だったのである。もちろん何もかもブリコラージュだけではまともな生活は送れないだろうから、時にはちゃんとした勉強も必要だろう。

 デジタル写真はフィルム写真に比べ、ユーザーが自由に操作できる要素が格段に増え、マニュアルやガイドブックを勉強すれば、それだけ自由で豊かな表現力を得ることが可能だ。しかし見方をちょっと変えると、その自由はあくまで「メーカーの想定の範囲内」に留まっているようにも思える。現代は何もかもが用意された便利な時代とされるが、だからこそ、あえてそこから1歩踏み出すブリコラージュ的なカメラや写真の楽しみ方を提案してゆきたいと思う。



URL
  オリンパスE-3関連記事リンク集
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/dslr/2007/10/18/7222.html



糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。「非人称芸術」というコンセプトのもと、独自の写真技法により作品制作する。主な受賞にキリンアートア ワード1999優秀賞、2000年度コニカ ミノルタフォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」 (共にアートン)など。 ホームページはhttp://www.itozaki.com/

2008/02/28 00:30
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