特別企画

メモリーカードをうまく使いこなす7箇条

“万が一のトラブル”を防ぐための対処法とは

カメラを使う上でなくてはならないアイテムがメモリーカード(以下「カード」)だ。最近はSDカードに加えて超高速なCFexpressカードを採用するカメラも増えており、大容量化も進んでいる。

そこで今回は私が普段気をつけている、安全なカードの取り扱い方、カメラの性能を引き出す方法などカードを使う上で気をつけていることを7個紹介していきたい。

ここに挙げた項目は必ずしもすべて守らなければならないというものではないが、私の今までの経験やカメラメーカー、カードメーカーの関係者に聞いた知見をまとめたもので、実際に以下の運用をすることで10年以上カードに関する大きなトラブルは起こしたことがない。大事なデータを安全に管理し、カメラのパフォーマンスを最大限発揮するためにもぜひ参考にして欲しい。

1. 使用前に必ずカメラでフォーマットする

ポイント:カードをカメラに最適化する!

フォーマットというのはデータを書き込むための下準備だ。パソコンとカメラでは使用されているシステムが違うのはもちろん、カメラメーカーによっても内部のシステムが異なるため書き込み時の約束事も微妙に違ってくるのだ。

そのため、 カードは必ず使用するカメラでフォーマットしてから使うようにしたい。

別メーカーのカメラでフォーマットしたものがそのまま使えることも多いため、あまり意識していないユーザーもいるが、誤認識や書き込みエラーに繋がる可能性もある。どのメーカーの説明書を見ても必ず「カメラでフォーマットしてから使用して下さい」と書いてあるということはそれなりに理由があることなのだ。

カメラのパフォーマンスを引き出し、不測の事態を防止するためにも撮影前は必ず使用するカメラでフォーマットしてから使おう。

2. 定期的に「物理フォーマット」してカードをリフレッシュする

ポイント:カードの最大性能を継続的に発揮させる!

カードのフォーマットには「クイックフォーマット」と「物理フォーマット」の2種類がある。

クイックフォーマットとは簡単に言うと、カード内の過去データを消去せずに残したまま書き換え可能にして見かけ上データが消えている状態にすることで、物理フォーマットは過去のデータ情報を完全消去しまっさらな状態に戻すことだ。

カメラ内の一般的な「フォーマット」ではクイックフォーマットが行われることが多い。クイックフォーマットは元データを完全消去しないため素早く終わるが、書き込み時に過去データの消去処理をして、書き込みスペースを作り出す必要があるため、書込み速度が低下する場合があるのに対し、物理フォーマットは過去データを完全消去しているため、カード容量全体で本来の書込みパフォーマンスを発揮することができる。

カードの使用を重ねているうちに、以前より連写枚数が少なくなった、いつもは撮れる動画が止まった、などの経験はないだろうか。そのような時は、 物理フォーマットでカードをリフレッシュしてみてほしい。 多くの場合、問題解決するはずだ。

カードのパフォーマンスレベルを維持するため、定期的に、物理フォーマットを実施しよう。特に、高速連続撮影や4K、8Kなど高ビットレート動画撮影前には、物理フォーマットでカードの最大性能を発揮できる環境を整えることをお勧めしたい。

なお、物理フォーマットはメモリー内に残った過去のデータを完全消去するため、データ復旧はできなくなる。必ずデータのバックアップを確認してから実施しよう。

物理フォーマットの方法
Windowsでは「クイックフォーマット」のチェックボックスを外してフォーマット、macOSでは「セキュリティオプション」から「最も安全」でフォーマットすることで行える。キヤノン、ソニー、パナソニックなど一部のメーカーやカメラには物理フォーマット搭載されている機種がある。

3. カメラの電源をOFFにしてからカードを抜く

ポイント:カードの終了処理を確実に行わせる!

デジタルカメラの内部では、撮影中はもちろん、撮影後もしばらくはバッファーに溜まったデータを書き込むためにカードへのアクセスが生じているほか、データ書き込み後でもガベージコレクションやデータの再配置など何らかの動作をバックグラウンドで行っている場合もある。

そのため、カード交換の場合は、カードの終了処理を確実に行わせるため、 必ず電源をOFFにして、カードへのアクセスがなくなったことを確認してから行おう。 カードが壊れる可能性もあるし、エラー記録が残り、その後正常に動作しなくなる可能性もあるからだ。カメラの説明書にも必ず電源を切ってからカードを抜くように書いてある。

通電中にカードを抜いても問題なく使用できることも多いが、いつか思わぬトラブルに遭遇する可能性があるので電源OFFにすることを心掛けよう。

4. カードリーダーは信頼できるメーカー製品を使う

ポイント:意外と多いカードリーダーでの事故を避ける!

カメラとカードはハイスペック品を使っているのにカードリーダーはノーブランドの激安品を使っている人はいないだろうか。カードリーダーにもカードと同様に高度なコントローラーが内蔵されている。CFexpressやSD UHS-IIなど高性能なカードには、高性能コントローラーを内蔵するカードリーダーが相応しい。安価なリーダーを使った場合、カードの読み出し性能を発揮できないばかりか、認識エラーなど深刻なトラブルに見舞われることもある。実際、カードメーカーに寄せられる不具合の原因の多くがカードリーダー起因であるとか。

カードは規格が同じならメーカーが違っても同じものだと思いがちだが、内部のコントローラーやファームウェアは別のものであり、メーカーごとに性格が微妙に異なってくる。それゆえ、カードとリーダー間でも相性の問題が生じてしまうこともあるのだ。

カードリーダーもしっかり信頼できるメーカーのものを使用しよう。 お勧めはカードメーカーが出しているカードリーダーを使用することだ。

5. カメラボディ内でデータを削除しない

ポイント:カメラにはカードへのスムーズな書き込みに集中させる!

セレクトの負担を減らすため撮影中の空き時間にNGカットをカメラ内で消していくという読者も多いと思うが個人的には写真の消去は帰宅後パソコンにデータを転送してから行う。これは主に操作ミス防止とワークフロー効率化を考えてのことだ。

カメラの小さな画面で確認しながら削除していくと効率も悪いし、 万が一削除ミスをした場合にデータを元に戻すことはできない (パソコンならゴミ箱から戻せる)。また、NGカットでも撮影後に見返すことで改善点を考えることができたり、新たな発見に繋がることもある。

カードのパフォーマンス面でもカメラ内で削除した場合は前述のクイックフォーマット後に似た状態となるため、その後の書き込み性能に影響が出る場合がある。カメラはパソコンのように複雑な操作をするように設計されていない。データの扱いをできるだけシンプルにすることで、予測不能な事故を未然に防ぎたい。

6. カメラもパソコンも最新のファームウェアを使う

ポイント:ファームアップは「既知のバグ」対策が含まれている!

撮影データが突然失われた、そのような事故が起こることがある。カメラ、カード、カードリーダー、パソコンのどれかに問題がある場合もあれば、複合的な要因で発生する場合もある。デジタル機器のトラブルは可視化が難しいので、問題解決が複雑化することが多い。

デジタル機器のファームウェアアップデートは、最新機能の追加だけはなく、ほとんどの場合、同時にバグ修正プログラムが含まれている。解決済みのトラブルに遭遇しないためにも、カメラ、パソコン、転送ソフトウェアなど 常に最新のファームウェアにアップデートしておこう。

カードの不具合と思われた問題が、実はカメラ、パソコン、ソフトウェアのファームアップで改善したというケースも少なくないそうだ。

7. カメラからパソコンまで最もシンプルにデータを扱う方法を選ぶ

ポイント:プロセスのシンプル化でカードのトラブルを回避する!

カードの仕事はとてもシンプルだ。カメラから送られてきた撮影データを正常に記録し、正常に保存し、正常に転送する、の三つしかない。シンプルな作業を複雑化せず、できるだけシンプルに行うことが、カードのトラブル回避には重要だと考えている。

上記「2. 物理フォーマット」や「5. メラ内でデータ削除しない」は、カメラ内でのデータ記録をできるだけシンプルにする方法論である。

シンプル化の二つめは、データ転送をできるだけ早く完了するため、カードもカードリーダーもパソコンの外部接続もできるだけ高速化することである。データ転送のトラブルは、カメラやパソコンでデータ転送中にハングアップしたり、カードリーダーのケーブルが抜けてしまったり、データ転送中に起こることがあるからだ。データ転送時間を短縮化すれば、そうしたトラブルを回避できる。最近は、写真も動画もファイルサイズが大きいので、その分リスクも大きくなっている。費用のかかる話ではあるが、貴重な撮影データをできるだけ安全・安心に扱うためには、 パソコンやカード、カードリーダーの高速化は必要なコスト だと考えている

シンプル化の三つめは、カードからパソコンへのデータ転送に最もシンプルな方法を選択することである。 最もシンプルな方法は、パソコン内フォルダにカードフォルダから直接ドラッグ&ドロップすることだ。 私は動画の転送はドラッグ&ドロップ、写真を扱う時はLightroomを使用しアプリ内でカードから直接データ読み出しを行っているが、Lightroomは転送と同時に他の処理も行うためバージョンやその時のPCの環境によって時間が多くかかる現象に見舞われることがある。そのようないつもと違うことが起きたときは基本に立ち返り、ドラッグ&ドロップでのデータ転送後にLightroomで読み込みを行う。こうすれば問題点の切り分けが容易になる。困った時はできるだけシンプルな方法を試すのも大事だ。

まとめ

以上、普段私がカードを扱う上で気をつけているポイントを7個紹介した。

冒頭でも述べたが、ここに挙げているポイントを守らないからといってすぐにトラブルになるということではない。カメラメーカー、カードメーカーの双方が不測のトラブルを防止するために日々改善を重ねているからだ。

ただし、どんなプログラムにもバグが生じるように、電子製品を扱っている以上何らかのタイミングでトラブルに遭遇する可能性は十分にあるのだ。

また、書き込み性能はカメラ性能の一部に過ぎず、撮影スタイルによっては必要とするカード性能は異なってくるだろう。

ここで紹介したポイントは不測の事態を予防するための転ばぬ先の杖として、取り入れられるポイントはぜひ参考にしてもらい、気持ちよい撮影をするために活かしてもらいたい。

制作協力:ProGrade Digital

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワークショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主宰。