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高校写真部が競う「写真甲子園2016」本戦レポート

曇天の美瑛、大雨の東川…19校が駆け回った3日間

7月26日から7月29日にかけ、北海道上川郡東川町を拠点に「写真甲子園2016」(第23回全国高等学校写真選手権大会)が行われた。本稿ではその本戦大会の模様をレポートする。

写真甲子園は、全国の高校生が写真の日本一を決める大会。北海道東川町で行われ、今年で23回目となる。今年の本戦には、過去最多という527校の応募から、地区ごとのブロック別公開審査会を勝ち抜いた18校+特別招待枠1校の19校が出場した。

審査委員長は写真家の立木義浩氏。審査委員は竹田津実氏(写真家/エッセイスト/獣医)、長倉洋海氏(写真家)、鶴巻育子氏(写真家)、佐々木広人氏(アサヒカメラ編集長)、岩井直樹氏(北海道新聞社解説委員)。各日の公開審査会で、共通のテーマ・フィールドで撮影された8枚の組写真に対して採点と講評を行う。

左から岩井直樹氏、佐々木広人氏、竹田津実氏、立木義浩氏、長倉洋海氏、鶴巻育子氏

出場選手は、写真を「撮る・選ぶ」以外ができないようなルールが組まれていた。記録メディアは大会側の用意したものを使い、各ステージの撮影終了時には回収されるなど、管理が徹底している。

ちなみにカメラ設定は露出とピクチャースタイル以外を操作できず、撮影後にRAWデータからコントラストを調節したり、色味を整えることも禁止。例えばモノクロ作品を提出するなら、撮影時からピクチャースタイルをモノクロにしていなければならない。

これらも全て全チーム同一条件なのでフェアだが、表現自由度が高いデジカメ時代にあっては実にストイックだ。こうしたルールを知ると、「甲子園」という"ザ・部活動"な語感もしっくりくる気がした。

7月26日(火):開会式とホームステイ

審査会や開会式・表彰式の開催など、大会の中心施設となる東川町環境改善センター

選手は25日に東川町入り。大会期間中の滞在や、ルール説明、カメラ関連機材に関する使い方説明などを受け、26日の開会式に出席する。

開会式のあとは歓迎夕食会が開かれ、出場校どうしの交流や、この日の夜に1泊するホームステイ先のホストファミリーとの顔合わせが行われた。写真甲子園の本戦スケジュールでは、東川町を中心とする地域交流も大切にされている。

7月27日(水):撮影1日目・ファースト公開審査会

美瑛町

最初の撮影フィールドは、美瑛町(美馬牛地区)と旭川市(旭山動物園)。前夜に発表された撮影テーマ「生命(いのち)」を踏まえて、朝7時から撮影地に向け出発した。広い撮影ステージでは、定期的にバスが巡回して選手の移動を助ける。

選手の撮影機材はすべてキヤノンEOS 8000Dで統一されており、レンズも指定のものを使う。使用機材で差が付かないようにとのルールだ。

美瑛と旭山動物園での撮影は、それぞれ約2時間。選手チームには、地元高校生をはじめとするサポートスタッフが付き添う。監督1名も付き添ってよいが、デジタルカメラの持ち込みや、選手のカメラに触れること、ファインダーを覗くこと、撮影画像を確認すること、レフ板持ちなどを行うことは禁じられている。

動物園のステージでは、多くのチームが積極的に家族連れに声をかけていた。写真甲子園で撮影している旨を告げると、誰もが「頑張ってね!」と快く撮影に応じる。さすがに部活動となると日頃のマナー指導も行き届いているのだろう、どの選手も"撮らせていただく"という写真の最重要スキルをごく自然に発揮しているのが素敵だった。

2ステージの撮影終了後、各チームは約2時間のセレクトタイム(組写真の制作。監督が入るテクニカルタイム20分)を経て、夜に公開審査会が始まる。セレクトはPIXUS PRO-100Sでキヤノン写真用紙にプリントする。

審査のポイントは、撮影・編集・プレゼンの3つのスキルの総合力。講評を聞いていて、8枚もの組写真を隙なく構成するのは実に難しそうだなと、率直に感じた。

評価は、日本武術の鍛錬における「心・技・体」(しんぎたい)にならったという「心・技・眼」(しんぎがん)の3要素を点数として集計。その3日間の合計点数で優勝が決まる。短い時間の中で組写真を制作するため、チームワークも問われる。先に述べたとおり、監督(顧問の先生)の助けは最小限とするよう周知されている。

7月28日(木):撮影2日目・セカンド公開審査会

上富良野町

撮影フィールドは上富良野町(土の館周辺)と東神楽町(稲荷地区、旭川空港周辺)。テーマは「発見」。朝から重たい雲のかかった日で、風景よりマクロレンズでクローズアップを狙う選手の姿が多く見られた。

各出場選手は、前夜に明かされる撮影地と撮影テーマに悩み、さらに天候も読めない状況で3日間を戦う。現地の天気予報は開会直前からずっと曇り〜雨だったので、チームによっては外を歩き回るより「家族の姿」や「工場の職人」などにフォーカスした"取材モノ"を撮るという作戦もあったことだろう。

7月29日(金):撮影3日目・ファイナル公開審査会〜表彰式

東川町にて。街灯には「写真甲子園」の旗

最終日の撮影フィールドは、写真甲子園のホームグラウンドともいえる東川町(キトウシ〜市街地)。テーマは「ふれあい」。

この日は大会期間中で一番の大雨。筆者も出場選手の様子を取材していて、あっという間に靴まで濡れてしまった。ふれあいのテーマに合うシーンを求めて、ずぶ濡れになりながら家の呼び鈴を押して撮影交渉をする選手もあれば、あまりの雨に早めに撮影を切り上げて戻ってくる選手もある。3日間の本戦撮影中、晴れ間がのぞくことはついになかった。

最終日は東川町を撮影のあと、提出作品のセレクトタイムから審査会〜表彰式〜閉会式と続く。最後の公開審査会から1時間あけて行われた表彰式は来場者がひときわ多く、熱気が漂っていた。

最終日の審査会。ここでの作品発表とプレゼンで全てを出し切る

既報の通り、優勝は島根県立大田高等学校に決定。その後に別部屋で行われた優勝記念のフォトセッションには、ホームステイ先のホストファミリーが姿を見せ「おめでとう」と声をかけるシーンもあった。

表彰式にて、審査委員長の立木義浩氏が各賞を発表した
時に厳しく、しかし温かく選手達を指導した立木審査委員長。笑顔で優勝を讃えた
各賞の副賞にはキヤノンのカメラ機材、マンフロットの撮影用品、サンディスクSDカードのほか、東川米「ゆめぴりか」など地域の名産も多数登場

こうして開会式から4日間続いた戦いは幕を閉じた。各校の作品は、すべて写真甲子園のWebサイトで見ることができる。

閉会式翌日の7月30日(土)には、会場付近で「東川町国際写真フェスティバル」および「ひがしかわ どんとこい祭り」が開幕。戦いの場であった会場周辺に出店が並び、写真甲子園出場校の監督や選手達とも多くすれ違った。選手達にとっては戦い終わって自由行動の一日、夜にはどんとこい祭りの花火も見たことだろう。そんな"夏の思い出"も羨ましく感じながら、筆者は一足早く東川町をあとにした。