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●これほど使っていて楽しいカメラはない
ライカ「M8」 / 河田一規

M8
 今から1年と数カ月前のPhotokina2006会場のライカブースにて、発表されたばかりの「M8」を手にしたワタシは、ちょっと触れただけでたちまちM8の虜になってしまい、「これは買わなければ」と即座に心に決めたのだった。

 M型ライカ、というかレンジファインダーカメラについてはフィルム全盛の時から自分にとってはかなりフェイバリットな存在で、ライカやキヤノン、フォクトレンダーなどの各種レンジファインダー機を使っており、レンズもそれなりに揃えていた。しかし、撮影量の多くをデジタルが占めるようになってからは、どうしてもデジタル一眼レフを持ち出すことが多くなっていて、レンジファインダー機からは徐々に疎遠になってしまっていた。

 2005年に世界初のデジタルレンジファインダー機としてエプソンから「R-D1」が登場したときは、にわかに血が騒ぎはしたものの、自分の中での燃え上がり方がいまひとつだったのだが、M8については見て、触れてすぐに「欲しいいい!」となってしまうほど強力な物欲を刺激するカメラになっていたのだ。

 というわけで、M8を購入することにしたワタシだが、とりあえず半年は待とうと決めた。そのオフィシャルな理由は、「デジタルを作り慣れているとは言い難いライカなので、初期製品はバグが心配」というものであったが、実際はカメラとしては比較的高額なM8の購入代金を工面するために時間が必要であったのは言うまでもない。


レンズ遊びはやめられない

 月日は流れ、M8発売からほぼ半年たった2007年の6月。資金のメドが立ったワタシは、某量販店にてついにM8ブラックを購入した。

 で、使ってみてすぐに後悔した。それは「なんでこんなカメラを買ってしまったのだろう」ということではもちろんなくて、「なんで半年も待ってしまったのだ! もっと早く買えばよかった」ということである。ワタシにとってはそれほどにM8は面白く、見事にハマってしまったのだ。

 具体的にM8の面白さとは、やはり一眼レフとは異なるレンジファインダー独特の撮影感覚にあると思う。視野以外はブラックアウトされている一眼レフとは異なり、ブライトフレームで示された撮影範囲の外側まで見えているレンジファインダー機では、同じモチーフを撮影しても被写体のとらえ方というか、見方というか、感じ方が変わってくるのではないかと思うのだ。

 もちろん、レンジファインダー機には一眼レフでは発生し得ないパララックスもあるし、視野率も一眼より低めということで、厳密に構図を作ろうとすると、一眼レフに比べてかなり頼りなげである。でも、そんなネガなファクターを差し引いても、レンジファインダー機のフレーミング感覚は魅力的だ。

 このあたりの感覚は、なかなか上手く文章にできないのがもどかしいが、一眼レフの場合は構図に関するすべてをコントロールできる(ように感じる)のに対して、レンジファインダーはコントロールしきれない部分があって、そこに意外性があって面白いし、見えない部分をコントロールする愉しさがあるというか……。

 もちろん、だから一眼レフよりレンジファインダーの方が優れているとか言うつもりでは決してない。ワタシも、すべての撮影をレンジファインダーでこなしているわけではなく、必要に応じて一眼レフとレンジファインダー機を使い分けている。

 あと、M8を使っていて楽しいのは、古今東西の新旧各種レンズをいろいろと楽しめることだ。新しめのレンズを使えばシャープでハイコントラストな現代的な写りを得ることができるほか、古めのレンズを使えば超低コントラストなフワッとした描写や、同心円状にうずまく個性的なボケなどを堪能できる。

 つまり、各種収差が少なくてちゃんと写るレンズから、なにやら怪しげな写り方のレンズまでいろいろなテイストが1台のボディで楽しめるわけで、このモチーフにはこのレンズが合うのでは? とか、このレンズでポートレート撮ったら面白そうとか、レンズのセレクトで写り方の探求を行なえるのが楽しい。

 ある意味、淫らなレンズ遊びで、まっとうな人にはとても理解されないかもしれないけれど、個人的にはこの方面の遊びはやめられそうもなく、そのためにはM8はよき相棒になってくれるのだ。もちろん、こういったレンズ遊びはフィルムのM型ライカでも可能だけど、それについては先人達によってすでに語り尽くされた感がある。しかし、デジタルではこうなるという話はまだまだこれからであり、十分に研究する価値があるのではないか。


いろいろ不便もあるけれど

 そんなこんなでM8はすっかりお気に入りのカメラとなり、よほど荷物が多い日以外は、常に持ち歩くようになっている。AWBがまるで合わないとか、赤外カットが甘いことによる黒い合成繊維のマゼンタかぶりが発生するとか、そのマゼンタかぶりを解消するためにUV/IRフィルターを使うと35mmより広角レンズでは画面周辺でシアンシフトを起こし、それを自動補正するためにはレンズ側に6bitコードが必要など、問題点は多々あるのだが、それでもこれほど使っていて楽しいカメラはない。

 あまりに使っていて楽しいので、8月にM8シルバーも追加で買ってしまったほどである。
人によってはレンジファインダー機なんて不便なだけとばっさり切り捨てちゃうだろうから、決して誰にでも勧められるカメラではないけれど、ある種のレンジファインダー的なDNAを内包している人は深~くハマってしまうのがM8である。

 ここまで読んでくれたあなたも1台どうですか?


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河田一規
(かわだ かずのり)1961年、神奈川県横浜市生まれ。結婚式場のスタッフカメラマン、写真家助手を経て1997年よりフリー。雑誌等での人物撮影の他、写真雑誌にハウツー記事、カメラ・レンズのレビュー記事を執筆中。クラカメからデジタルまでカメラなら何でも好き。最初に買ったデジカメはソニーのDSC-F1。

2007/12/25 12:24
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