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スポーツニッポンの吉田剛カメラマンと、その機材。PCやそのほかのレンズはカバンの中。本番ではこれ一式を持って会場を動き回ることに
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いよいよ明日から北京オリンピックが開催される。いうまでもなく4年に1度の世界的スポーツイベントとしてトップアスリートたちが集い競う。そんなオリンピックだが、カメラ愛好家にとって見逃せないものといえば、やはり世界中から集まるカメラマンたちの機材や撮影した写真だ。競技中にテレビの画面の隅に映ることのあるカメラやレンズは、時として競技以上に我々の目を楽しませてくれるし、翌日のスポーツ新聞や後日発売されるスポーツ誌などで、それら撮影した写真を見るのもまた楽しい。
北京オリンピックを取材予定のスポーツニッポン新聞社の吉田剛カメラマンに、今回カメラやレンズなど見せていただく機会が得られた。オリンピックという大舞台を記録するプロの機材を紹介しよう。
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スポーツニッポンの編集部
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これが北京オリンピックの取材パス
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■ EOS-1D Mark IIIとD3を2セットずつ
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これが機材一式。ボディ5台に、超広角から超望遠までの大きく重い大口径レンズが10本。一脚は壊れたときに備えて2本持っていく
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「こんな量になるとは」と吉田さんが苦笑いするのが、撮影の要となるカメラとレンズだ。キヤノンとニコン、それぞれのセットを用意する。
内訳はキヤノンがEOS-1D Mark IIIが2台にEOS 30Dを1台。レンズはEF 16~35mm F2.8 L II USM、EF 24~70mm F2.8 L USM、EF 70~200mm F2.8 L IS USM、EF 400mm F2.8 L IS USM、EF 600mm F4 L IS USMの5本となる。
ニコンはD3が2台。レンズはAF-S 14~24mm F2.8 G ED、AF-S 24~70mm F2.8 G ED、AF-S VR ED 70~200mm F2.8 G (IF)、AF-S 400mm F2.8 G ED VR、AF-S 600mm F4 G ED VRの5本だ。これだけでも相当な量となるわけだが、スペアのバッテリーにバッテリーチャージャー、ストロボ(4台)、ストロボ用の単3形乾電池、記録メディア、一脚(2本)のほか、ノートPC、カードリーダー、ノートPC用ACアダプターなどが加わる。これを北京にひとりで持ち込むのだから驚きだ。
スポーツニッポン新聞社が北京に送り込むカメラマンは、全部で4名。そのうちキヤノンとニコンの両セットを持参するのは吉田さんだけだ。北京へ出発する際は、会社のある江東区越中島から成田まで、運搬を手伝う人間が同行するか、もしくはタクシーやハイヤーで移動するのかと訊いたが、吉田さんがひとりで着替えなどとともに電車に乗り持っていくのだという。ちなみに、飛行機に搭乗するときは、機材がすべて紛失してしまうことを避けるため、必ず1セットは手荷物として機内に持ち込むようにしている。
気になるのがキヤノンとニコンの使いわけだろう。今回のオリンピックに限ったわけではないそうだが、キヤノンを屋外競技用、ニコンを屋内競技用とする予定だ。理由は高感度域における画質と得られる画角からである。フルサイズフォーマットを採用するD3は高感度域におけるノイズレベルが低く、低照度下の室内競技向き。一方、EOS-1D Mark IIIはフルサイズに換算したとき1.3倍の画角が得られるため、広いトラックやピッチで行なう屋外競技に向いているというわけである。
ちなみに吉田さんが使用する最高ISO感度はノイズレベルから、D3でISO3200、EOS-1D Mark IIIでISO2000までとしている。このように両機のメリットを活かして使い分けるのだが、問題がないわけでもない。フォーカスリングの方向や電子ダイヤル等の操作がキヤノンとニコンとでは逆であることが多いため、使い分けすることにも慣れを必要とするのだ。もちろん、一部カスタム設定などで操作性を統一するようにはしているものの完全ではないため、「絶対逃したくないような大事なシーンでは、操作を間違わないように常に留意しています」ということである。また、唯一のミドルレンジ機EOS 30Dは、雑感撮影などに使われる。
■ 独特なカメラの設定
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どちらかといえば小容量な記録メディアを使い、こまめに転送する
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基本的なカメラの設定は、画質がキヤノン、ニコンともJPEGのLargeとなる。これであれば新聞の一面に大きく掲載しても問題なく使用でできるからである。ただし、画像をPCに転送したり本社に送信する際のハンドリングを考慮し、圧縮比はキヤノンでレベル4、ニコンでNORMALとやや高めに設定し、ファイルサイズを小さくしている。
記録メディアは、1GB程度のものを多数用意している。PCへの転送時間を短縮する必要があるため、レキサーの133倍速タイプをメインに使用する。EOS-1D Mark IIIにはCFとSDHCメモリーカード、D3にはCF2枚を差し込み、バックアップのために同時記録としている。
撮影モードは基本的にシャッター速度優先AEで、状況に応じてマニュアルで撮っている。ホワイトバランスも同様で、基本はオートだが、色かぶりが激しい場合はプリセットやマニュアルで対応する。ホワイトバランに関しては入稿時にデザイナーが色みの調整をすることもあるという。
フォーカスエリアの選択は任意を選択。精度の高い中央をメインに状況に合わせ被写体に最適と思うフォーカスエリアを選んでいく。ISO感度は、最高感度は前述のとおりだ。
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1面を飾った吉田さんの写真。これは野球でオリンピック出場が決まったときの記事
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ユニークなのがAFの操作設定で、シャッターボタンの半押しではなく、AF-ONボタン(キヤノン)もしくはAF作動ボタン(ニコン)を使用する通称「親指AF」を使用していることだろう。スポーツカメラマンの世界では一般的ともいうべき作法らしく、慣れると動いている被写体に対し非常に具合がよい。狙っている被写体の前に他の被写体が横切るようなときなどにも対処できるので便利な方法だ。
ただ、これにはD3に問題があって、吉田さんいわく「ヨコ位置ではタテ位置とくらべ妙にAF作動ボタンが遠い」のだという。そのため、親指がなかなか位置を覚えてくれなく、難義しているとのことである。なおAFモードは、撮影するスポーツの形態にもよるが、いうまでもなくコンティニュアスが基本となる。
ところで、カメラの替えのバッテリーはさぞかし多量に準備されるものと想像していたが、吉田さんはEOS-1D Mark III、D3とも、各4個ずつしか持っていかないとのこと。どちらのカメラもフル充電すると、3日は余裕で持つからで、たくさん持っていく必要がそれほど感じられないからだという。
また機材ではないが、できるだけ身軽にするため、衣類などは現地での調達を前提にして最小限とし、日本から持っていくものは機材で溢れるトランクの隙間に詰め込むのだという。
■ 通信エンジニアが同行
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吉田さんのノートPC
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北京と東京をリアルタイムに結ぶ要といえるのが、ノートPCだ。国内の取材の際にも使用しているコンパクトなパナソニックのレッツノートCF-W5を持参する。
主に使用するソフトは画像閲覧用の「ACDSee」、レタッチおよびサイズの変更を行なうための「Photoshop Elements」となる。
前述のように、画像を高速に転送するため、ノートPCについているカードスロットでなく、高速なUSB接続のカードリーダーをノートPCにマジックテープで貼り付けて使用する。読み込んだ画像は、ACDSeeで確認、選択し、レタッチなどの必要があればPhotoshopで調整後、東京の本社のサーバーへ直接、インターネット経由で速やかに送る。
画像の送信手段は、無線LANか携帯電話だ。北京には、現地で使える3Gの通信カードを持っていくが、インフラの整った日本国内と異なり、北京はまだまだ通信回線の状態に不安が残るという。過去、2度ほど北京に取材で赴いており、一応問題のないことが確認されているが、オリンピックとなるとまた状況が変わってくる可能性も高い。スポーツニッポン新聞社ではそのような状況になること鑑み、今回のオリンピックでは、社内のシステム管理者が、通信担当エンジニアとして同行する。
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ノートPCに貼り付けてあるカードリーダーは、マジックテープで着脱可能
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北京に持っていく3G通信カード(右)。無線LANはノートPCに搭載されているが、より強力かつ高速なカードを使う
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本社に送信された画像は、これらのPCの中に蓄積される
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画像が本社のPCに届くと、自動的にすぐに見本がプリントされ、編集部でどの画像をどのように使うか決められる
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最近のスポーツイベントではたいてい、プレスルームに無線LANによる高速なインターネット接続が用意されているが、締め切りのタイミングは各社で重なっているので、非常に混み合い、速度が低下するそうだ。前述のように圧縮率を上げた画像でもうまく送れないときは、とりあえずVGA程度の小さな画像を送ってしまうこともあるそうだ。粗い写真しかなくても、なにも載せないわけにはいかないのだ。
吉田さんのオリンピック取材は冬季も含めて今回で4回目。すでに7月26日から現地に入っており、準備も万端といったところだ思う。明後日からのスポーツニッポン第1面は要チェックだ。
■ URL
スポーツニッポン
http://www.sponichi.co.jp/
北京オリンピック公式サイト(英文)
http://en.beijing2008.cn/
大浦タケシ (おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。 |
2008/08/07 00:32
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