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【プリンタ特集2007年冬】ミドルクラス複合機レビュー(後編)

~3機種の使い勝手と画質は?

充実した機能とまとまりの良さが魅力のMP610

 ミドルクラス3機種の機能や使い勝手を見渡すと、やはりキヤノンのPIXUS MP610が1歩どころか、2歩ぐらい抜け出ているという印象だ。HPのPhotosmart C5280は、本来は機能的にも価格的にもワンランク下に来る製品だと思うが、キヤノン、エプソンの価格が思いのほか安いこともあって、市場価格は3~4,000円前後の差に留まっている。

 その中にあってMP610は機能面で上位機種とほぼ同じ。液晶パネルは小型だが、操作性、各種ナビシートによるダイレクト印刷機能、前面・背面のマルチ給紙システム、自動両面印刷など、ひと通りの機能が詰め込まれている。スキャナも立体物やフィルムのスキャンにこそ対応できないCISタイプであるものの、解像度は4,800dpiと反射原稿専用として考えるとオーバースペックと言えるほどだ。


エプソン カラリオ PM-A840
オープンプライス(店頭価格:2万1,400円前後)
キヤノン PIXUS MP610
オープンプライス(店頭価格:2万2,200円前後)
日本HP Photosmart C5280
オープンプライス(店頭価格:1万7,980円前後)

 “ただし、MP610は5インクシステム採用で写真印刷時は4色プリンタとなり……”と、ここで注釈を入れるのがかつては恒例だったが、2006年あたりから最小1pl(ピコリットル)の4色写真印刷時の画質がとても高くなっており、6色インク機に勝るとも劣らない印刷品質を見せている。しかもインクコスト、印刷速度ともに優れているのだ。

 最大のライバル、エプソンが太刀打ちできるとするなら、操作性と6色インクシステムによる細かい階調表現だけと言うと、やや言い過ぎだろうか。しかし、それぐらいにMP610のまとまりは良い。

 操作性をひとつの注目点として挙げたのは、MP970の際にも述べたように、ホイールを用いたPIXUS MPシリーズの操作体系は、一見、わかりやすくビジュアル的にも見栄えがよいものの、使い慣れてくるとやや煩雑に感じる。

 この点、左から右へと順にボタンを操作していけば何でもできるエプソンのユーザーインターフェイスや、機能ごとに分類されたHPのユーザーインターフェイスの方が、慣れるとサクサク使える。とはいえ、それにも増してMP610のお買い得度が光るというのが、今年のミドルクラスの実情ではないかと思う。


PM-A840の操作パネル MP610の操作パネル C5280の操作パネル

絵作りと高濃度部分の描写に違い

 では画質の面ではどうか。絵作りの面は、各製品の印刷結果を見ていただくとして、非常に強く感じたのはキヤノンの4色インク印刷が着実に進歩していること。

 MP610は1plと5pl、2つのインク滴を使い分けて印刷している。この両方をつなぐ部分で品質差が出やすいのだが、上手に階調をつないで大きいインク滴が混ざり始める階調でのざらつき感を抑え込んでいる。

 実際には影になっている部分に、大きいシアンとマゼンタが使われ始める部分に粒状性、階調性が荒くなる部分があるが、かなり濃度が濃い領域のため、あまり目立たない。ハードウェアの性能が変化しているわけではないが、うまくハードウェアの弱点をカバーし、長所を活かしたドライバの作りになっている。

 一方、6色インク採用のA840だが、試用前に5~6回、クリーニングを施したものの、シアンのインクノズルが1カ所、どうしても欠けたままになってしまった。このため、拡大画像を見るとバンディングが出ているように見えるところがあるが、これはバンディングではなくノズル欠けである。

 ただ、ノズルが欠けている部分を除いて評価しても、上位モデルの評価で述べたのと同じAdvanced MSDTで大インク滴が追加されたことによる弊害が、やや目立つ印象を受けた。さすがに6色インクということもあって、階調のつなぎは見事で、色相や明度の変化は直線性が高く色表現のボキャブラリも豊富だが、やや濃い目の濃度においてドットパターンの荒さが目立つ領域がある。

 たとえば、給仕の人形を撮した写真。顔の影に至る部分は、むしろ4色印刷を採用するMP610の方が滑らかに見える。女性の写真でも額やあごのあたりに、粗っぽい部分が見えた。顔からその影にかけての階調表現は、一般的なポートレート写真でもっとも気になる描写なので、ここで粗さを感じるというのはやや辛い。

 この部分だけで言うのであれば、むしろHPのC5280の方が良い。階調性はハイライトからシャドウまで、3機種の中でもっともつながりが良く、輝度レンジによって得手不得手が少ない。ただし黒インクの濃度が他機種よりも低いのか、シャドウ側の濃度が出ないためコントラストが低く、それが映像全体のメリハリ感を損ねてしまっているのが残念だ。フチなし印刷時、後端でバンディングが出てしまう悪癖も前機種から改善されていない。

 各印刷は自動補正をオンにして、Lサイズフチなし、標準画質という、おそらくもっともよく使われるだろうモードを用いたが、絵の作りそのものは、キヤノンがもっとも見栄えが良く、その次にエプソン。両社は優劣よりもお好みで選ぶといい。素の絵作りならキヤノン、レタッチを加えながらPCからのプリントを楽しむなら(粗い描写の部分はあるけれど)リニアリティの高いエプソンだろうか。HPはやや黄色く色かぶりした印象と、コントラストの低さが気になった。

●印刷結果
※サムネールをクリックすると、印刷結果をスキャンした画像を別ウィンドウで開きます。
※印刷に使用した元データは、下記のリンク先をご覧ください。
http://dc.watch.impress.co.jp/static/2007/printer/printer.htm


・カラリオ PM-A840




・PIXUS MP610




・Photosmart C5280





URL
  ミドルクラス複合機レビュー 前編
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special/2007/12/26/7676.html
  プリンタ特集2007年冬
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special2/2007/12/21/7635.html



本田 雅一

2007/12/27 14:33
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