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【プリンタ特集2007年冬】上級3機種の使い勝手、画質を総括


 エプソン、キヤノン、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)の2007年冬モデルの中から、最上位機種をピックアップして各製品の機能を紹介したが、ここでは画質と機能について、それぞれをいくつかのテーマで比較していきたい。なお、売れ筋のミドルクラスの機種については、別途、レビューを掲載する。


エプソン カラリオ PM-T960
オープンプライス(店頭価格:3万3,300円前後)
キヤノン PIXUS MP970
オープンプライス(店頭価格:3万4,800円前後)
日本HP Photosmart C8180
直販価格:4万7,880円


URL
  エプソン カラリオ PM-T960レビュー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special/2007/12/21/7619.html
  キヤノン PIXUS MP970レビュー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special/2007/12/21/7617.html
  日本HP Photosmart C8180レビュー
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special/2007/12/21/7618.html

抜群に使い勝手の良いHP、創意工夫の跡が見られるキヤノン

Photosmart C8180のタッチパネル画面
 まずはPCを使わずに利用する際の使いやすさについて。

 3機種のうち、もっとも使いやすさを感じたのはHPのPhotosmart C8180だ。タッチパネル搭載で画面上のボタンを選んでいくだけというシンプルな操作感も長所だが、何より操作に対するレスポンスが良く、大量の写真が収められたメモリカードから印刷を行なう場合でもストレスを感じないハイパフォーマンスが、使いやすさをさらに高めている。

 初期のサムネイル表示も他機種に比べやや高速に感じるが、一度サムネイルを作成するとメモリカード上にキャッシュファイルを作成しておくようで、次回からは素早く画像が表示される。

 加えて写真印刷の際、印刷と並行して写真を閲覧し、印刷待ちの順番に別の写真を追加していくといったマルチタスク処理もこなす。これができるのはC8180だけだ。また、印刷中は全体の印刷枚数と何枚目を印刷しているかを表示するだけという製品ばかりの中、本機は印刷が完了するまでの予想時間をちゃんと表示してくれる。

 メモリカードを挿入すると、自動的に写真印刷関連のメニュー画面へと自動的に移行してくれるのも気が利いたところ。簡単なことなのだが、なぜか他製品は印刷可能なファイル形式を収めたメモリカードを挿入しても、写真印刷機能へと自動的に誘導しない。

 タッチパネル操作は、まだ工夫の余地はあると思うが、現時点で3社の製品を比べるともっとも直感的で扱いやすい。


高速なサムネイル表示
印刷完了までの予想時間を表示する

PIXUS MP970のホイールインターフェイス(Easy-Scroll Wheel)
 一方、ホイールを使った操作性を提案するキヤノンのPIXUS MP970は、液晶画面を使ってユーザーを誘導するヘルプ機能に長けている。ただし、必ずホイールを使って使いたい機能を選択しなければならず、アイコンの意味を覚えていないと、直感的に操作することができない。操作に慣れてくるとダイレクトに目的の機能へと遷移したくなるものだが、MP970の操作体系はそれを許さない。

 マニュアルレスで誰もが使えるように配慮するというのも、行き過ぎると慣れた時の操作が煩雑になりやすいものだ。昨年よりもヘルプ機能を充実させ、一部の操作シーケンスをシンプルにするなど、ホイールを使った操作もある程度は熟成。非常にわかり易いMP970の操作だが、もう一歩踏み込んで、慣れた時の操作感が軽快になればさらに良くなるだろう。


左から右へと操作順にレイアウトされたカラリオPM-T960の操作パネル
 一方、エプソンのPM-T960は各種ボタンを機能的に配置し、一番左にある機能選択のボタンから右へと順番に操作していくという思想で設計されている。十分に分かりやすく、機能に対してダイレクトにボタンを押すだけでアクセスできる点は良い。ただ、HPやキヤノンがさらに先へと進もうと模索している中にあっては、操作性の創意工夫、あるいは液晶ディスプレイを活用したユーザーガイダンスの充実といった点ではやや古さを感じさせる。

 内蔵LSIの速度もやや遅く、写真選択・表示時のレスポンスやメモリカードから直接印刷する際などに、若干ではあるがもたつきを感じることもあった。


速度と印刷コストについて

 写真印刷速度に関して、今年もっとも大きな進歩を見せているのは、実はエプソンのPM-T960だ。数字としては、昨年のトップモデルPM-T990の性能を引き継いでいるだけと見えるだろうが、価格が全く違う。これはノズル数などプリントエンジン部の仕様が、最上位機種よりもワンランク下になっているためだ。

 しかし、ヘッド部の構造を見直すことでインク滴を吐出する周波数が従来の1.5倍に高められている。加えて異なるインク滴サイズを1ノズルで実現するAdvanced MSDTは、従来よりも大きなサイズを1つ追加。ベタ塗り部の印刷パスを減らし、ここでも速度を上げた。こうした仕様変更の積み重ねで、高コストのハイエンド機と同等(実際には普通紙へのWebカラープリントなどではT960の方が早い)の速度を実現した。

 キヤノンに関しては写真画質重視の最高グレードだけ、写真の印刷速度が遅い。これは以前からそうなのだが、今年も変化はないようだ。しかし、遅いといってもLサイズフチなし1枚あたり30秒は切る。後述するように、印刷速度と画質とは密接な関係があるため、一概にここで結論を出すのはやめた方がいいだろう。

 印刷コストに関しては、各社が発表している数値はほぼ間違いない。あるいは、HPなどはコンサバティブに、実際よりも高めにカタログ値を表示しているため、これらを信用しても良い。ただし、C8180のレビューでも述べたが、使い方次第でインクコストは大きく変化する。安定してカタログ値が出るのはC8180だけだ。

 たとえば黄色が切れたといって、黄色のカートリッジを交換すると、インク充填のためにポンプが動作し、他のポンプを共有するインクも同時に充填。その際、インクが切れていなかった同時充填の色は充填するためにインクを捨てるという状況になるため、別の切れる直前だったインクを交換しなければならないといったことが発生する。

 そのインクカートリッジを交換すると、今度は別のカートリッジを……と連鎖的にカートリッジ交換を繰り返すことになりかねない。エプソンとキヤノンで、この点に大差はなく、いずれも今後の改良を望みたい。


キヤノン写真用紙・光沢ゴールド
 また、印刷コストに関しては写真用に印刷するLサイズ用紙のコストも算入して表記する決まりがあるため、用紙の価格設定で大きく数値が変化する。今年、キヤノンが「キヤノン写真用紙・光沢ゴールド」を投入。プロフェッショナルフォトペーパーで計算していた頃よりも安くなった(約20.2円)のは、用紙の違いが大きい。

 用紙は種類によってインク受容量が異なるので、一般には低コストな用紙ほどインク消費量も少なくなる(ドライバの設定にもよる)。わずかなコストの違いを比べるのではなく、おおむね「これぐらい」と捉えるのがいいだろう。たとえばPM-T960のLサイズフチし印刷は1枚あたり20.1円。キヤノンとのほとんど差はない。


メモリカードダイレクト印刷時の画質は?

 今回は複合機の特集ということで、画質評価はすべてメモリカードダイレクトでLサイズに、画質モードはデフォルト(メーカーの推奨)、自動補正はオンで印刷した際の画像で評価をした。最近はプリンタ内蔵コントローラの性能が上がったことで、以前のようにPCから印刷した場合に比べ、大幅に画質が劣るということはない。

 ただ、ひとつ感じたのは、2000~2004年ぐらいにピークを迎えたコンシューマ向けインクジェットプリンタの画質が、ここ数年は停滞、あるいは落ちているケースがあること。これはインクジェット複合機に限った話で、たとえばエプソンのカラリオ・プロセレクション、キヤノンのPIXUS Pro、HPのPhotosmart Proなど、フォトプリンタに特化した単機能機のブランドでは、各製品とも進化の速度は衰えているものの、少しづつ前へと進んでいる。

 ところが、C8180の画質を見ると、同じSPTを採用した数年前の機種と比べ、粒状性などのチェック項目は以前と変わらないものの、絵作りの面ではかなり派手に色を乗せてきており、階調のリニアリティが崩れてクドさを感じる絵になってしまっている。また、黒の締まりが悪く、コントラストが低めの絵で印刷された。

 その点、PM-T960は絵作りの面では従来の路線を堅持しているが、以前ほどの階調の豊かさは感じられなくなってきた。ハイライト部の滑らかさ、粒状性の少なさは相変わらずだが、やや濃度の濃い部分でパッと見にも階調バリエーションの少なさ、若干のざらつき感を感じる。今回、Advanced MSDTで大きい粒を1段階増やし、より大きなインク滴で高濃度部分の塗り潰しに必要なパス数を減らしているが、このことが描写に若干、悪影響を与えているのかもしれない。

 その点、MP970はここ数年、大きな進化こそしていないが、ドライバの充実で少しづつだが階調性、大きなインク滴と小さなインク滴のつながり部分の描写などが改善されている。今回の3機種を比較するならば、もっとも滑らかな質感で階調を描き分けているのはMP970だろう。ただし、さすがにPIXUS Proほどの完成度はない。

 いずれも「写真画質で最高を求めるならば、ハイアマチュア向けフォトプリンタをどうぞ」ということなのだろうが、中には複合機が欲しいけれども、写真印刷の画質にも拘りたいというユーザーもいるだろう。インクジェット複合機であっても、ハイエンド機種にはそうしたこだわりに応じられる品質を与えられないものだろうか。

●印刷結果
※サムネールをクリックすると、印刷結果をスキャンした画像を別ウィンドウで開きます。
※印刷に使用した元データは、下記のリンク先をご覧ください。
http://dc.watch.impress.co.jp/static/2007/printer/printer.htm


・カラリオ PM-T960




・PIXUS MP970




・Photosmart C8180




よりわかり易い補正効果が得られるキヤノン、メリハリ指向のエプソン

 さて、今年は自動補正機能により、いかに「きれいに見える」印刷結果を自動的に引き出せるかという面でも、特にキヤノンとエプソンが競争をしている。

 ざっくりと言えば、エプソンがシーン判別を行ない、シーンごとに最適な補正をかけようとしているのに対して、キヤノンはもっと一般的な補正を加えた上で、顔を中心にした補正を加えているという違いがある。

 ただ、今回の出力結果を見る限り、シーン判別を行っているエプソンの方が、よりナチュラルで階調性重視の絵作りをしているように見える。パッと見た感じには、恣意的に補正を加えているような違和感がない。一方のキヤノンは濃厚な色乗り。リニアリティの喪失感がないため、派手に色を伸ばしていても単体で見る限り違和感はないが、かなり見栄えに振った絵作りと言える。

 また、自動補正に関してもかなり積極的に補正を行うことがあるようで、浜辺の鳥と岩のシーンでは、ホワイトバランスが自動補正されてしまい、夕暮れ時の雰囲気が失われてしまった。派手に補正を行う分、当たり外れもありそうだ。

 なお、エプソンに関しては、女性の写真をナチュラルフェイス機能で印刷している。確かにやや色白かつ輪郭もスッキリ描かれるものの、効果はやや微妙。フェイスシートを印刷、そこから効果を確認して印刷という手順も踏めるが、A4用紙とインクを使ってまで使うかというと疑問が残る。

 HPに関しては前述した通り、かなり派手。加えてトーンカーブもメリハリを付けるためかS字カーブを描き、特に暗部に引き込むような絵になっている。数年前まではもっともナチュラルで嫌みのない絵を出していたHPだが、自動補正機能に関しては「効き」をはっきり認識してもらうためなのか、やり過ぎが目立った印象だ。



URL
  プリンタ特集2007年冬
  http://dc.watch.impress.co.jp/cda/special2/2007/12/21/7635.html



本田 雅一

2007/12/21 00:13
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