キヤノンから高倍率ズーム機の「PowerShot SX10 IS」が登場した。同時期に発表された「PowerShot SX1 IS」(12月発売予定)の姉妹機となり、光学20倍ズームレンズ、新映像エンジン「DIGIC 4」の搭載など、特徴的な機能を搭載している。
発売時期は10月17日。大手量販店での実勢価格は5万5,000円前後。
■ 560mm相当までカバーする光学20倍ズームレンズ
PowerShot SX10 ISは、高倍率ズーム機Sシリーズの最新モデルで、2007年6月発売の「PowerShot S5 IS」の流れを汲む。キヤノンの高倍率ズーム機といえば、倍率を10倍に抑えてコンパクト化した「PowerShot SX110 IS」があるが、SX10 ISではさらなる高倍率化を図り、S5 ISでこれまで12倍だった光学ズーム倍率は一気に20倍まで拡大。しかも36mm相当(35mm判換算)からだった広角端が28mmに広角化し、焦点距離は28~560mmとなっている。
そのほかのレンズスペックとしては、開放F値がF2.8~F5.7、UDレンズ1枚、片面非球面レンズ1枚を含む11群13枚構成で、撮影距離は通常時で広角端50cm、望遠端1m、マクロ時は広角端で10~50cmとなっている。広角端固定となってしまうが、レンズ前0cmというスーパーマクロも従来通り利用可能だ。
ボディはこれまで通り、一眼レフライクなスタイルで、しっかりとしたグリップ、ボディ中央の大型レンズなど、カメラっぽいデザインを継承している。
ボディサイズは124×86.9×88.3mm(幅×奥行き×高さ)、質量は約560g。S5 ISが117×77.7×80mm、約450gだったから、サイズは大きくなっている。もともと単3電池×4での駆動に対応していることもあってボディは大ぶりだったが、おそらく20倍ズームレンズの搭載で、さらにボディが大型化したのだろう。
とはいえ、このサイズであれば多少ボディサイズが大小しても大きな影響はないと思う。一眼レフカメラライクなデザインなので持ちやすく、しっかり構えて撮影するにはちょうどいいサイズだ。
SX10 ISは可動式の液晶モニターを備えており、ハイアングル、ローアングルで撮影する機会も多いと思われ、そうした不安定な姿勢で撮影する際にも持ちやすいボディデザインは有効だ。
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マクロボタン長押しですぐにスーパーマクロに設定できるのは便利。解除もボタン長押し
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可動式液晶モニターのため、アングルの自由度が高いのはうれしい。2.5型の液晶モニターは、最近の3型搭載モデルに比べれば小さく感じるが、それでも必要十分なサイズではある
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ただ、正直なところボディの重さは結構なもの。ボディ自体が小型デジタル一眼レフカメラ並みの重さを持っている上に、電源が単3電池4本なので、さらにいっそう重くなる。とはいえ、焦点距離560mmをカバーすると考えると、一眼レフ用レンズだったらレンズだけで数kgのサイズになることを考えると、許容はできるだろう。
20倍ズームだけあって、望遠時はかなり鏡胴が伸びて迫力がある。ズーム駆動に超音波モーター(USM)を採用したこと、でズーミングは素早い。公称では広角端から望遠端まで1.3秒。ズーミング中に、ピントが追随するVCM(ボイスコイルモーター)も便利な仕様で、ズーミング後にピンぼけ状態になるのではなく、ピントが合った状態になるので構図の確認もしやすく、ピント合わせも速い。
レンズには光学式手ブレ補正を内蔵。補正効果はシャッタースピード換算で約4段分と強力。場合によっては、望遠端で1/10秒でも手ブレを抑えた写真が撮れる。手ブレ補正は常時補正する「入」、シャッターボタンを全押した瞬間だけ補正する「撮影時」、縦方向の補正のみする「流し撮り」の3種類から選択できる。
■ ボタンレイアウトの変更で操作性が向上
ボディ背面には2.5型約23万ドットの液晶モニターを搭載。モニターサイズは同等だが、従来の20.7万ドットから高画素化された。液晶モニターは横に開いて上下に回転させることができるバリアングルタイプを採用する。EVFは0.44型23.5万ドットで、こちらは0.33型11.5万ドットから大型・高精細化された。見やすさが向上しているため、EVFも使いやすくなった。
バリアングル液晶を搭載するため、ハイアングルやローアングルなど、姿勢が悪い状態でも撮影しやすい。高倍率ズーム機ということで、人の頭を越えて遠くの子どもを撮影する、なんていうシーンで活躍できそうだ。
本体背面のデザインは、基本的には前モデルのS5 ISを踏襲しているが、十字ボタンの位置と形状が大幅に変更された。これまでは右上に円形の十字ボタンが配置されていたが、背面中央右に移動され、ボタンサイズも大型化。
十字ボタンは上にMF、右にISO感度、下にドライブ、右にマクロのそれぞれのボタンが割り当てられたほか、十字ボタン周囲に回転するコントローラーホイールが追加されている。ホイールを回転させることで素早く設定が変更できるようになった。中央にはFUNCボタンが配置されている。
本体右上には再生、露出補正、AFフレーム選択の3ボタンが新搭載された。これまで撮影・再生の切り替えは上部のレバーを左右に動かすことで行なえたが、レバーは廃止され、再生ボタンを押すことで切り替えられる。電源もボタンタイプになっている。
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本体背面右側のボタン類。ボタン数が増えたので素早い設定が可能になった。コントローラーホイールは、ちょっと遊びが大きく、回した瞬間に数値が変更される、というわけでもないのがちょっと気にかかった。それでも、回転させるだけという操作性はいい
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露出補正ボタンを押して、コントローラーホイールで数値を変更できる露出補正は直感的で使いやすい。逆に、十字ボタンを露出補正で使うことはできない。この状態で十字ボタンを押すと、それぞれに割り当てられた機能が設定される。十字ボタンの操作に慣れていると、最初は戸惑うかもしれない
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EVF右側の動画ボタン、左側のショートカットボタンは変更されていない。本体上部左側のストロボボタン、モードダイヤルも従来通りだが、これまでズームレバー脇にあったドライブボタンは背面に移動した。また、フラットだったグリップ上部はなだらかな山型にデザインが変わっている。
十字ボタンのコントローラーホイールは、もう少し反応が敏感でもよかったと思うが、それでも操作性は高くなっている。露出変更ボタンなど3ボタンの位置が右上なので、右手だけで持っていると操作するのは難しいが、全体的なボタンレイアウトの変更には好感が持てる。
撮影時の設定は、FUNCボタンを押すことで設定が表示される、キヤノンのコンパクトデジカメではおなじみのインターフェース。ホワイトバランス、マイカラー、ブラケット、ストロボ補正、測光方式、動画設定、画像サイズ設定がそれぞれ変更できる。
ただ、ISO感度や露出補正が独立したボタンで配置されているため、よく使うものとしてはホワイトバランスくらいになった。むしろ今となっては、FUNCボタンはあまり使うことがないかもしれない。
本体左上のショートカットボタンは任意の設定を割り当てることができ、メニュー画面の「ショートカット登録」から測光方式、ホワイトバランス、マニュアルホワイトバランス、赤目自動補正、デジタルテレコン、暗部補正、AEロック、AFロック、ディスプレイオフから1機能を設定できる。
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おなじみのFUNCボタンのインタフェース
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ショートカットキーに割り当てられる機能。ここにホワイトバランスを割り当てると、いよいよFUNCボタンは普段使わなくなりそうだ
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■ 機能アップした「DIGIC
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サーボAFはメニューからオン・オフを設定する。ピント位置拡大とサーボAFは排他利用になる。サーボAFを設定すると、ピント枠が白から青に変わる
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撮影機能としては、新映像エンジン「DIGIC 4」を搭載したことが大きなポイント。DIGIC 4では、処理の高速化、ノイズ低減処理の向上、暗部補正の搭載などの機能強化が図られているという。
顔検出機能「フェイスキャッチテクノロジー」の精度も上がっており、従来よりも横顔や斜め顔での認識能力が向上しているようだ。実際に試してみると、まったく横顔は認識できないが、両目が画面内に入れば顔として認識できた。一度認識すると、そのまま横顔になっても認識し続けるため、確実に顔を追えそうだ。
フェイスキャッチテクノロジーで面白いのが「顔セルフタイマー」。このタイマーを設定すると、シャッターを全押しした時点での顔の数をカメラが記憶。そこから人の顔が増えると、2秒後(設定で変更可能)にピントや露出を調整してシャッターが切れる、という機能。
集合写真の撮影で、撮影者が移動して撮影の列に加わる場合に便利な機能だろう。撮影枚数も設定できるので、3枚くらい撮っておけば目つぶりなどの失敗も防げそうだ。顔検出精度がよくなって中途半端に顔検出されてしまう場合は、撮影秒数を長めにしておけばいいだろう。
新機能の「サーボAF」も便利な機能で、シャッターボタン半押しでフォーカスを合わせると、被写体が動いてもそれを追尾してピントを合わせ続けるという機能。対象となるのが顔だけというのが残念なところだが、動き回る子どもなどの撮影には便利そうだ。
DIGIC 4ではさらに「暗部補正」も搭載。逆光時などで被写体が暗く写ってしまう場合に、背景の明るさはそのままに主被写体を明るく補正する機能だ。画素単位で明るさの補正を制御することで明暗のつながりも自然で、DIGIC 4のノイズ低減性能により、ノイズも目立たない、という。
撮影機能としては、P/Tv/Av/Mのマニュアル撮影機能も対応。シャッタースピードは15秒~1/3,200秒、絞りは広角端でF2.8~F8まで設定が可能。コントローラーホイールの搭載によって、一眼レフカメラライクな設定変更ができて快適だ。
ISO感度については、新たに十字ボタンにISO感度が割り当てられているので設定変更が容易になった。従来通り高感度オートが設定でき、自動的にISO感度がISO800まで上がるようになっていて、ブレが心配なシーンでは有効だ。ただ、高感度オートはオートやPモードの一部のモードでしか動作しない。
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暗部補正はオフか自動から選択する。基本的には自動でいいと思う。気になる場合は、ショートカット登録をして、シーンに応じて使い分けるというのも手だ
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ショートカットボタンが青く光った場合、それを押すとISO感度が自動的に上がるISOブースター。有効に使えば便利
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また、高感度オート時は「モーションキャッチテクノロジー」が動作し、被写体が止まっている場合は低感度で、動いている場合は高感度になって被写体ブレを防いでくれる。
ただし、ISO感度の設定はマニュアルでISO80~1600までで、高感度オートではISO800までというのは変わらない。その代わり、スペシャルシーンモードの「ISO3200」が追加されているが、記録画素数は200万画素相当になってしまう。
撮像素子は従来の1/2.5型有効800万画素から1/2.3型有効1,000万画素CCDへと高画素化。高画素化に伴い、連写速度は約1.5コマ/秒から約1.4コマ/秒に、AFを合わせながら連写するAF連写は約0.9コマ/秒から約0.7コマ/秒に、という形で連写速度はわずかに低下している。
■ まとめ
DIGIC 4搭載によって、動画撮影機能も強化された。新たにファイルコンテナはMOV、エンコードはH.264を採用。高画質かつ高圧縮のエンコード方式であり、同じ撮影時間でも従来よりファイルサイズが小さくなるのがメリットだ。同社によれば従来採用していたAVIから、約60%のデータサイズに圧縮できる、としている。
音声はリニアPCMで、レンズ脇に2つのマイクを備えており、ステレオ録音が可能。コンパクトデジタルカメラとしては豪華な装備だが、どうせならより高圧縮なAACなど、音声にも一工夫欲しかった気がする。
いずれにしても、20倍ズームレンズ、光学式手ブレ補正を搭載しているので、ビデオカメラ代わりとしても十分に使い勝手がいい。撮影も、背面の動画ボタンを押すだけで撮影が始まるため、素早い撮影が可能になっている。
SX10 ISは、なんといっても光学20倍という超望遠撮影が可能な点が大きな特徴だ。28mmからという広角撮影もサポートしていて、使い勝手のいいカメラに仕上がっている。姉妹機のSX1 ISのようなCMOSセンサー搭載、フルHD撮影可能というような際だった特徴はないが、使い勝手の面では何も支障がなく、操作性も向上したため使いやすさがさらに増している。
静止画、動画、広角、望遠と1台であらゆるシーンに対応できる万能選手として、最初の1台としても、一眼レフカメラのサブカメラとしても有効に活用できそうだ。
●作例
- サムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
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PowerShot SX10 IS / 約6.7MB / 2,736×3,648 / 1/100秒 / F5.7 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 100mm
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PowerShot SX10 IS / 約5.2MB / 2,736×3,648 / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 5mm
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PowerShot SX10 IS / 約5.6MB / 2,736×3,648 / 1/80秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / WB:オート / 7mm
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PowerShot SX10 IS / 約3.8MB / 2,736×3,648 / 1/800秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 5mm
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PowerShot SX10 IS / 約5.9MB / 2,736×3,648 / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 16.4mm
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PowerShot SX10 IS / 約3.5MB / 2,736×3,648 / 1/100秒 / F5.6 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 5mm
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PowerShot SX10 IS / 約3.6MB / 3,648×2,736 / 1/640秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 14.2mm
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PowerShot SX10 IS / 約5.5MB / 2,736×3,648 / 1/125秒 / F5.7 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 100mm
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PowerShot SX10 IS / 約4.8MB / 2,736×3,648 / 1/160秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 12.6mm
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PowerShot SX10 IS / 約3.7MB / 2,736×3,648 / 1/500秒 / F4.5 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 30.1mm
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PowerShot SX10 IS / 約4MB / 3,648×2,736 / 1/250秒 / F2.8 / 0EV / ISO125 / WB:曇り / 5mm
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PowerShot SX10 IS / 約3.7MB / 2,736×3,648 / 1/50秒 / F3.5 / 0EV / ISO200 / WB:曇り / 9.4mm
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PowerShot SX10 IS / 約5.2MB / 3,648×2,736 / 1/640秒 / F5.7 / 0EV / ISO500 / WB:曇り / 100mm
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PowerShot SX10 IS / 約2.8MB / 2,736×3,648 / 1/250秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:曇り / 13.4mm
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PowerShot SX10 IS / 約3.4MB / 3,648×2,736 / 1/320秒 / F5.7 / 0EV / ISO160 / WB:曇り / 100mm
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PowerShot SX10 IS / 約2.7MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F4 / -0.7EV / ISO80 / WB:オート / 5mm
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PowerShot SX10 IS / 約5.2MB / 2,736×3,648 / 1/13秒 / F5 / 0EV / ISO800 / WB:オート / 5mm
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PowerShot SX10 IS / 約3.5MB / 2,736×3,648 / 1/13秒 / F2.8 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 5mm
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■ URL
キヤノン
http://canon.jp/
製品情報
http://cweb.canon.jp/camera/powershot/sx10is/
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小山 安博 某インターネット媒体の編集者からライターに転身。無節操な興味に従ってデジカメ、ケータイ、音楽プレーヤー、コンピュータセキュリティなどといったジャンルをつまみ食い。軽くて小さいものにむやみに愛情を感じるタイプ。デジカメ、音楽プレーヤー、PC……たいてい何か新しいものを欲しがっている。 |
2008/10/27 00:00
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