携帯電話にカメラ機能が搭載されて久しい。以前は「いずれケータイはコンパクトデジカメに取って代わる」という論も聞かれたが、操作性や用途がそれぞれで異なることもあり、今のところ住み分けがうまくいっているようだ。
そんな中、カシオ製のau端末「W53CA」は、デジタルカメラにおける同社の看板ブランド「EXILIM」を冠しているのが特徴。その名も「EXILIMケータイ」。カメラと同じブランド名は、ソニーの「サイバーショットケータイ」に次ぐ快挙だ。液晶モニターを裏返しにしての「ビュースタイル」や、レンズ周りの大きな金属パーツや専用に設けられたシャッターボタンなど、確かにカメラを意識したスタイリングといえる。しかもレンズは現在売れ線の広角28mm。今回はEXILIMケータイの「カメラ度」をチェックしてみた。
■ 28mm相当の単焦点レンズを装備
|
通常の携帯電話スタイル。液晶モニターを180度回転させて折り畳むと、カメラに特化したビュースタイルになる
|
撮像素子は1/2.8型の有効515万画素CMOSセンサー。最大2,560×1,920ピクセルでの撮影が可能で、一昔前のデジタルカメラの画素数だが、大伸ばしにこだわらなければ、画素数的にさして問題ないことは、本誌読者ならご存知の通りだ。
携帯電話のカメラ機能としては珍しく、画像処理エンジンにも名称がついている。本家EXILIMの「EXILIMエンジン」を技術的に受け継いだという、「EXILIMエンジン for Mobile」を名乗る。
レンズは開放F2.8の単焦点で、画角は35mm判換算の焦点距離で28mmに相当。現行EXILIMに28mm相当の製品はなく、しかも単焦点とは本家よりマニアックだ。レンズ周りのスピンドル加工がEXILIMらしい雰囲気を醸し出しているのも特徴。レンズリングの内側はアルマイト処理のアルミ製、外側はUV効果塗装のABS樹脂だ。前玉が右に寄っているのは、内部スペースが厳しい携帯電話らしいご愛嬌といったところ。カメラ機能を充実させた機種だけに、もちろんAF機能が付く。
EXILIMといえば、明るく見やすい液晶モニターが思い浮かぶ。本機は800×480ピクセルの2.8型を搭載。現行EXILIMでも2.8型が最大となる。横長のアスペクト比についても、高級機のEXILIM EX-Z1000やEXILIM EX-Z1200などを思い起こさせるものだ。記録メディアはmicroSDカード。さすがにSDHC/SDメモリーカードは利用できない。
そのほかEXILIMらしい点としては、いわゆるシーンモード機能の「ベストショット」が利用できること。「人物」、「風景」、「夜景」、「トワイライト」、「食べ物」、「パーティー」、「モノクロ」、「セピア」、「文字」といった定番から、本家では撮影メニューから数値で設定する「シャープネス強調」、「コントラスト強調」、「彩度強調」もシーンモードに含まれる。
面白いのは横置きで充電できるクレードルを同梱しているところ。液晶ディスプレイが前面にくるタイプで、フォトスタンドとしても使える。このあたりもEXILIMらしさを感じるところだ。
特筆すべきは、縦/横/前後/回転の6軸での電子手ブレ補正機能を搭載すること。縦長でグリップしにくい携帯電話には、6軸式の手ブレ補正を備える機種がいくつか見られる。周知の通りデジタルカメラでは、前後および回転方向の手ブレ補正は実現していない。ただし本機の補正は電子式で、ONにすると画角が若干狭くなる。
|
|
レンズは28mm相当、F2.8の単焦点
|
本家EXILIMと同じくクレードルが付属する
|
■ カメラらしい操作が可能になる「ビュースタイル」
撮影は、本体を開いて操作する通常の方法に加え、液晶モニターを裏返しにして閉じる「ビュースタイル」でも行なえる。ビュースタイルにすると自動的にダイレクトカメラメニューが現れ、シャッターボタンを押すことで、カメラ機能が利用できる。右手側の指掛かりがなく、慣れないうちは不安定だが、本体が軽いので、使っているうちに気にならなくなった。あくまでもカメラ的な撮影を行ないたいなら、ビュースタイルがしっくりくるだろう。
メニュー項目はすべて左右方向にカーソルを動かして選ぶ。というのも、ビュースタイルでのカーソル移動は、上面のサイド上下キーでしか行なえないからだ。決定動作は、サイド上下キーとシャッターボタンの間に位置するサイド決定キー。キャンセルや前のメニューに戻るには、マナー/BACKキーを利用する。
ビュースタイルで使うキーは、シャッターボタンを含めてすべて固い。撮影・再生以外はすべて電源OFFで問題ないデジタルカメラと違い、携帯電話はカメラを使わないときでも待ち受け動作のため、通電している必要がある。誤動作防止のため仕方がないのだろう。
一方本体を開いた状態では、キートップ右上2段目のEZ/AFロックキーでAFが作動、カーソルキー中央のセンターキーがシャッターボタンとして使える。このスタイルはカメラとして考えると使いづらそうだが、カーソルキー左右で露出補正が行なえたり、ダイヤルキーに記録解像度、圧縮率、セルフタイマー、マクロモードON/OFF、手ブレ補正ON/OFFなどをショートカットとして割り付けているのがミソ。ビュースタイルだと必ずメニューからたどって設定する機能が、液晶モニターを開いた状態だとダイレクトに呼び出せるのだ。はっきり言ってビュースタイルより使いやすい。
ただし、「とにかく押すだけで撮れるカメラ」として割り切るなら、やはり右手人差し指でシャッターボタンが押せるビュースタイルが心地よい。AFロックもやりやすく、携帯電話であることを忘れるほどだ。液晶モニターも見やすいし、ワイド画面の右側に設定を固める表示方式も、EXILIM ZOOM EX-Z1200などと同じパターンなのでなじみやすかった。
|
|
|
起動すると歴代EXILIMのアニメーションを表示する。写真は初のEXILIMとなるEX-S1
|
CARDズームシリーズ初代のEX-S100
|
こちらは世界初の1,000万画素コンパクト、EX-Z1000
|
|
|
ビューモードにするとEXILIMロゴが現れる
|
その後、撮影モード、または再生モードを選択できる
|
|
|
|
待ち受けから機能一覧メニューを表示。ここからカメラを起動することも可能
|
その場合、各種キーでダイレクト操作が可能
|
カメラ設定の一覧表示も可能。結構便利だ
|
■ 画質とレスポンスは今一歩
本家EXILIMほどではないものの、AFは思ったより高速。中央1点のほか、9エリア自動選択も利用できる。携帯電話としてはかなり強力だ。シャッタータイムラグは違和感を感じるほど長い。デジタルカメラと同じ感覚で動く被写体を撮るには、少々慣れが必要だろう。メニュー切替動作も遅く、一昔前のデジタルカメラを使っているかのような印象を受けた。
もうひとつ慣れが必要というか抵抗を感じるのは、撮影後、保存のために決定ボタンを押さなければならないこと。携帯電話として当たり前の操作だが、つい保存し忘れて次の撮影を始めてしまう。ただ、メモリカードへの記録時間が長いため(5Mで2秒前後)、本機の場合、むやみに保存されると困る局面が出てきそうだ。
面白いのは、本格的にブラケット撮影機能を備えていること。しかもワンシャッターで露出違いの写真を3枚を生成し、適正露出の画像を保存できる。記録サイズが最大3Mになってしまうが、動く被写体などに有用な機能といえるだろう。そのほか、画面を分割しての多重露光機能「カップリングショット」と「アップダウンショット」など、デジタルカメラには珍しい機能がいくつか見られる。また、セルフタイマーは2秒、または10秒しか選べない一般的なデジタルカメラと違い、1~10秒までの範囲から1秒刻みで設定できる。
再生モードでは、9枚のサムネイル画面と1枚表示を切替可能。5Mで記録した画像を1枚表示するには、若干時間がかかる。さらに拡大ができない。シャッター速度などの情報を確認する機能もない。ちなみに、Exifには機種名、撮影日時、シャッター速度、ホワイトバランスぐらいしか記録されていないようだ。携帯電話ということで、さぞかし豊富だろうと思っていたフレーム、スタンプ、特殊効果などの画像効果は、小サイズのファイルでしか楽しめない。フル解像度でも利用できればと思ったが、表示だけで時間がかかる現状では現実的ではないだろう。
|
|
9点自動選択のAFを装備。中央1点にも切り替えられる
|
手ブレ補正もメニュ-から設定。カメラの起動ごとに行なう
|
|
|
1ショットで明るさの違う3画像を提示する「オートブラケット」
|
3枚から選ぶことも、すべて保存することも可能
|
|
|
ベストショット選択画面の例。写真は「人物」
|
ベストショット「食べ物」
|
|
|
再生モードのサムネイル表示
|
再生モードの1枚表示状態。拡大はできない
|
デジタルカメラに比べると、画質は今ひとつの印象を受ける。特に単色面でノイズが目立つところや、遠景の解像感に物足りなさを感じるところが残念だし、不自然すぎるほど強烈にシャープネスをかけて解像感を出す方向性も、デジタルカメラの画質を見慣れた眼からすると違和感を感じる。さらに白トビしやすく、ダイナミックレンジの面でも不満が残る。なお本機はISO感度の設定ができず、基本的にISOオートになっているらしい。ExifにISO感度が出ないので本当のところはわからないが、ブレを防ぐため、積極的に感度を上げているようだ。ノイズが目立つのはこのせいかもしれない。
ただ、これは500万画素のデジタルカメラとしてみた場合の感想。携帯電話のカメラ機能として考えると、印象は180度変わる。特に近・中距離で条件が良いと、言われなければ携帯電話で撮った写真とはわからないクオリティだ。リサイズしてブログなどに掲載するなら、ほとんど問題ないレベルで、条件次第ではLサイズぐらいのプリントにも耐え得る。
特筆すべきは、歪曲収差がほとんど気にならない点。壁や看板が真っ直ぐ写るので、28mmズーム搭載のヘタなデジタルカメラよりありがたい。オートホワイトバランスの精度もまずまずだし、気に入らなければ太陽光などに固定できる。ただしメニューの階層は深く、たどり着くまでに苦労するが。
■ まとめ
色々文句を言いつつも、今回の試用中、実はビューモードでの撮影を心から楽しんだ。理由は、28mm単焦点でのスナップ。画質や操作性は専用のデジタルカメラには適わないものの、「撮る」という行為そのものは十二分に楽しめた。本格的な撮影を必要とする行事にはデジタルカメラを持参し、日常スナップは「コレでいいのでは?」とまで思ったほどだ。
そのためには、今以上の画質の向上を期待したいし、操作性やレスポンスも良くなって欲しい。現時点では、本物のEXILIMと歴然とした差がある。その一方で、細かいことをいわず割り切れば、W53CAでも撮影する楽しさはしっかり味わえる。多機能になった最近のデジタルカメラの存在について、少し考えてしまった。
もちろん携帯電話なのでEメールに添付して送信したり、テキストを撮影してモバイル辞典で調べるなど、デジタルカメラではできない使い方ができるのも重要なポイントだ。画質や操作性を含めたカメラらしさを追求する一方で、携帯電話ならではの進化にも期待したい。
■ 作例
- 作例はW53CAで撮影したJPEGファイルです。クリックすると、2,560×1,920ピクセルのJPEG画像を開きます。
●ベストショット
|
|
通常
|
ベストショット「風景」
|
|
|
ベストショット「モノトーン」
|
ベストショット「セピア」
|
|
|
ベストショット「シャープネス強調」
|
ベストショット「コントラスト強調」
|
●歪曲収差
●そのほか
|
ベストショット「文字」
|
■ URL
カシオ
http://www.casio.co.jp/
製品情報
http://k-tai.casio.jp/products/w53ca/
「W53CA」開発者インタビュー(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/interview/35764.html
ケータイ新製品SHOW CASE(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/showcase_top/36073.html
■ 関連記事
・ カシオ、510万画素/28mmレンズの「EXILIMケータイW53CA」(2007/05/22)
2007/09/28 00:03
・記事の情報は執筆時または掲載時のものであり、現状では異なる可能性があります。
・記事の内容につき、個別にご回答することはいたしかねます。
・記事、写真、図表などの著作権は著作者に帰属します。無断転用・転載は著作権法違反となります。必要な場合はこのページ自身にリンクをお張りください。業務関係でご利用の場合は別途お問い合わせください。
|
|