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【新製品レビュー】キヤノン PowerShot S5 IS

~大型バリアングル液晶を搭載した高倍率ズーム
Reported by 北村 智史

 高倍率ズームを搭載した「PowerShot S一桁」シリーズの4代目。前作の「PowerShot S3 IS」をベースに、画素数を有効600万画素から有効800万画素に増やし、映像エンジンをDIGIC IIから最新のDIGIC IIIにスペックアップするなどしている。大手量販店の店頭価格は5万4,800円前後。


バリアングル液晶モニタ―が2.5型に

 基本的なデザインは前作とほぼ同じだが、ボディの両サイドの部分のカラーリングがメタリックグレーに変更されている。サイズと重さもわずかながら大きくなっており、新しく連動接点付きのアクセサリーシューが装備された。同社のクリップオンストロボ「580EX II」、「580EX」、「430EX」、「220EX」の使用が可能になっている。

 一番の注目ポイントは、液晶モニターが大型化したこと。前作は2型の11.5万画素だったが、本機は2.5型の20.7万画素にグレードアップ。ようやく世間並みになったというと身もフタもないが、バリアングルタイプの液晶モニターは、強度の関係で大型化が難しい。だから、2.5型にサイズアップするにはそれなりに苦労したはずだ。

 もっとも、2.5型のバリアングル液晶モニターは、「PowerShot A640」(2006年9月発売)ですでに実現されているので今さら驚くことでもないが、バリアングルだから小さくても我慢してね的風潮があったことを思えばうれしい進化といえる。





 レンズは2代目の「PowerShot S2 IS」から同じスペックの6~72mm F2.7~3.5。色収差低減に効果の高いUDレンズが採用されている。35mm判カメラ換算の焦点距離は36~432mm相当。もちろん、IS(レンズシフト式手ブレ補正機構)を内蔵している。鏡胴前枠に「USM」と書かれているが、これはズーム駆動用アクチュエーターにUSM(超音波モーター)を採用しているからで、AF駆動がUSMという意味ではない。

 別売で1.5倍(望遠端が648mm相当になる)のテレコンバーターや、0.75倍(広角端が27mm相当になる)のワイドコンバーターなどが用意されている。ただし、装着するにはこれも別売のレンズアダプター/フードセットを併用する必要がある。レンズアダプターには58mm径のアタッチメントが装着できるので、クローズアップレンズや市販のPLフィルターなども使える。

 電源は単3電池×4本。CIPA準拠の撮影可能枚数は、アルカリ乾電池で170枚、ニッケル水素電池で450枚。前作に比べてアルカリ乾電池の持ちはよくなったが、ニッケル水素電池では逆に悪くなっているのが不思議なところだ(前機種はアルカリ乾電池で110枚、ニッケル水素電池で550枚だった)。ストロボを使わなければ、アルカリ乾電池でもそこそこ持つが、ランニングコストを考えると、メインはニッケル水素電池、予備にアルカリ乾電池を用意するのがおすすめだ。

 記録メディアはSDメモリーカード、SDHCメモリーカード、MMC。内蔵メモリはなく、代わりに32MBのカードが付属している。まあ、32MBで撮れるのは、最高画質の静止画なら8コマ、動画は13秒(静止画はラージ・スーパーファイン、動画は640×480ピクセル・30fpsの場合の公称値)でしかないので、ほとんどの人は化粧箱から出しもしないだろう。

 なお、カードスロットは前作では独立だったのが、本機ではバッテリー室と合併している。電池のほうには脱落防止のロック機構などはないため、カード交換の際に電池を落っことさないように気をつけないといけない。


液晶モニターはバリアングルタイプでは最大級の2.5型。表示画素数も20.7万画素に増えて、見やすさも使い勝手も向上した
レンズは35mmフィルムカメラ換算で36~432mm相当の光学12倍ズーム。F2.7-3.5と明るめだ

レンズアダプター/レンズフードセットを装着したところ。多少なりとも有害光がカットできるのはメリットだが、携帯サイズが大きくなるのが難点
こちらはワイドコンバーター装着状態。27mm相当の広角撮影が可能になる

電源は単3電池×4本。付属しているアルカリ乾電池では170コマ、別売のニッケル水素電池では450コマ撮れる。記録メディアはSDカード系。内蔵メモリはなし

個人的にはあまり使いやすいとは思えない電源スイッチ。手前の黒いロックボタンを押しながら左に回すと撮影モード、右に回すと再生モードで起動する
シャッターボタンの外周がズームレバー。USM(超音波モーター)を使っているだけあって、ズームは速いし音も静か

十字キーの上キーに露出補正が割り当てられている
こちらは露出補正時の画面。表示がむだにでかい気がする

ちょっぴり高級感がアップしたモードダイヤル
マニュアル露出時の画面。露出補正と違って、画面右側にバーグラフが表示される。露出補正もこれぐらいの表示で十分なのにね

背面右手側のボタン類。感度設定は独立したボタンになっている
メカノイズの伝播を遮断してクリアな音声が記録できるよう改良されたステレオマイク

顔検出やISOブースターなど新機能を搭載

 新しく増えた機能としては、顔検出「フェイスキャッチテクノロジー」や、感度の上限がISO1600にアップしたことなど。このあたりは最近のIXY DIGITALやほかのPowerShotと同様で、あまり目新しいものではない。

 が、「AF枠移動機能」を使ってフォーカスエリアを任意選択にしているときでもワンタッチで顔検出モードにできたりするのは便利だし、DIGIC II世代よりも高感度時のノイズが少なくなっているのはいいところだ。

 個人的には「ISOブースター」が面白いと思った。ISO400以下の感度に設定しているときに、背面の左手肩にあるイージーダイレクトボタン(プリンタのアイコンが付いている)を押すと、ブレにくい感度まで一気にアップしてくれるというもの。この機能をオンにしておくと、ブレそうな条件ではイージーダイレクトボタンの青色LEDが点滅して教えてくれる。

 要するに一時的に感度をオートにできる機能と考えればいい。夜景や暗い室内などで手ブレを防ぎたいときには便利だ。ただし、感度アップの基準は手ブレのようで、高感度オートのようにカツンとは上がらない。被写体ブレを防ぎたいときには高感度オートを使ったほうがいい。

 イージーダイレクトボタンには、「ISOブースター」のほか、好みの機能をひとつ割り付けることもできる。「ショートカット登録」できるのは、測光、ホワイトバランス、マニュアルホワイトバランス、デジタルテレコン、AEロック、AFロック、ディスプレイオフの7項目とオフ。機能としてはS3 ISにも搭載されていたが、内容は多少変更されている。

 動く被写体を連写するときにも1コマずつピントを合わせてくれる「AF連続撮影」も新機能。が、連写スピードは0.9コマ/秒と遅いので、実用性はかなり怪しい。ちなみに、通常の連続撮影も1.5コマ/秒というスピードで、スポーツ撮影に向いているとは言いがたい。


「AF枠移動機能」をオンにしておくと、画面の好きな場所でピント合わせが可能になる。三脚に固定しての撮影時や、フレーミングを先に決めて撮るときに便利
AFフレームが移動可能な状態で「MENU」ボタンを押すと、人物の顔を検出してAFフレームを合わせてくれる。残念ながらレゴでつくったロボットの顔はシカトされた

ワンプッシュでブレにくい感度にアップしてくれる「ISOブースター」
ISO80に設定している状態でブレそうなシャッター速度になると、イージーダイレクトボタンが点滅……

イージーダイレクトボタンを押すと、ISO320相当にアップしてくれた。でも、1/20秒じゃ被写体ブレは止められそうにない
「ショートカット登録」は、イージーダイレクトボタンに割り付けられる機能を選ぶメニュー

連写は、通常の連続撮影が1.5コマ/秒、被写体の動きに追従するAF連続撮影が0.9コマ/秒。このスピードだと動く被写体もばっちりとはいいがたい
撮影時の情報表示の内容をカスタマイズできる。ヒストグラムのありなしだけ切り替えられるように、とかすると便利。表示内容は「DISP.」ボタン押しで切り替えられる

動画の画素数、フレームレートを設定する画面。「640 LP」はVGA(640×480ピクセル)・30fpsの長時間モード。通常のVGA・30fpsの約1.8倍の録画時間になる 再生時の詳細情報表示。シンプルだけど、情報量は豊富

拡大表示中でも画像送りが可能。何コマか撮った中からピントやブレのないのを選ぶとき、人物の目つぶりをチェックしたいときなどに便利
マルチ画面は9画面のみ。選択されている画像だけ大きめに表示する

例によって「マイカラー」機能は多彩

感度はマニュアル設定ではISO80からISO1600まで。それとオート、高感度オートが選べる
高感度オートの画面

まとめ

 35mm判換算で400mmオーバーの超望遠域までカバーする高倍率ズームでありながら、広角端から望遠端までのズーミングが公称約1秒という速さ。AFも速い部類に属するし、ストレスなしで撮れるのがいいところ(この手のカメラの中には動作が遅くていらいらするのも多いからね)。

 手ブレ補正は老舗だけあって効きもよく、画面がふらふらしにくい分、フレーミングがやりやすい。この点は後発他社のカメラよりも上だ。また、バリアングル液晶モニターの泣き所だったサイズの小ささが解消されたのも大きい。

 ズームの広角端が36mm相当止まりなのが、物足りなさを感じる部分。コンバージョンレンズを着脱する手間を許せるなら、風景や旅行のお伴には便利なカメラだと思う。


作例

  • 作例のリンク先のファイルは、JPEGで撮影した画像をコピーおよびリネームしたものです。
  • 作例下の撮影データは、記録解像度(ピクセル)/露出時間/絞り値/露出補正値/ISO感度/ホワイトバランス/35mm判換算での焦点距離を表します。
  • 強調のため一部の項目を1行目に抜粋した場合もあります。


●ズーム

 レンズはIS内蔵の光学12倍ズーム。輝度差の大きな部分が少々フレアっぽく感じられる。また、ピクセル等倍で見ると画面周辺部で若干の色ニジミが出ているが、あまり大きなサイズのプリントにしなければ気にならないレベル。

 望遠端、広角端ともに解像力は十分に高く、画素数に負けないシャープ感が得られている。

 さすがに、ワイドコンバーター装着時は周辺部のアマさと色ニジミが目立つが、これもピクセル等倍で見なければあまり気にならない。


36mm相当
3,264×2,448 / 1/100秒 / F4 / 0.3EV / ISO80 / WB:太陽光
432mm相当
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.5 / 0.3EV / ISO80 / WB:太陽光

ワイドコンバーター使用、27mm相当
3,264×2,448 / 1/60秒 / F4 / 0.3EV / ISO80 / WB:太陽光

●感度

 マニュアル設定できる感度の範囲はISO80~1600。前作よりも高感度側が1段分広がっている。

 ISO400になると、ピクセル等倍表示ではカラーノイズが目立ちはじめ、ISO800以上は1/4倍表示で見てもザラツキが気になる。昼間ならISO200まで、室内などのザラツキが出て当然の条件ならISO400でも許せなくはない範囲。ISO800は小サイズのプリントなら使えそうだが、ISO1600はオマケと考えたほうがよさそうだ。


ISO80
3,264×2,448 / 1/125秒 / F3.5 / -1EV / WB:オート / 93.6mm
ISO100
3,264×2,448 / 1/125秒 / F3.5 / -1EV / WB:オート / 93.6mm

ISO200
3,264×2,448 / 1/200秒 / F4 / -1EV / WB:オート / 93.6mm
ISO400
3,264×2,448 / 1/400秒 / F4 / -1EV / WB:オート / 93.6mm

ISO800
3,264×2,448 / 1/800秒 / F4 / -1EV / WB:オート / 93.6mm
ISO1600
3,264×2,448 / 1/1600秒 / F4.5 / -1EV / WB:オート / 93.6mm

●マイカラー

 「マイカラー」機能はいろいろな発色が得られて楽しい。が、個人的にはパソコン上でやったほうがラクチンでいいと思ってしまう。


マイカラー:切
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm
くっきりカラー
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm

すっきりカラー
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm
セピア
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm

白黒
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm
ポジフィルムカラー
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm

色白肌
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm
褐色肌
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm

あざやかブルー
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm
あざやかグリーン
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm

あざやかレッド
3,264×2,448 / 1/60秒 / F3.2 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm

一般作例

シャープでノイズも少ないきれいな画面。これはこれで悪くはないのだけれど、質感の出方はあまり好みではない
3,264×2,448 / 1/10秒 / F3.5 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 36mm
もう少し明るめにしたくてプラス補正をしたらブレた。35mmフィルムカメラ換算の焦点距離とシャッター速度から考えると、ISの効き目はシャッター速度で2段程度といったところか
3,264×2,448 / 1/20秒 / F3.5 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 77.4mm

広角端はタル型の歪曲収差があるが、量はあまり大きくない。ズーム倍率から考えれば上等の部類
3,264×2,448 / 1/160秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 36mm
ワイドコンバーターを付けると、歪曲収差がかなり目立つ。室内で使いたいのに……って思ってしまう
3,264×2,448 / 1/5秒 / F2.7 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 27mm

これもワイドコンバーター使用。画面周辺部のアマさがちょっと気になる
3,264×2,448 / 1/30秒 / F2.7 / 0EV / ISO80 / WB:オート / 27mm
リヤカー付きの自転車なんて、博物館でもなければ今どきまずは見られない。というので撮ったカット
3,264×2,448 / 1/250秒 / F4 / 0.3EV / ISO80 / WB:オート / 131.4mm

薄暗い条件だったが、手ブレ補正を信じて撮ったらセーフだった。
3,264×2,448 / 1/25秒 / F3.5 / -0.7EV / ISO80 / WB:オート / 100.8mm
望遠端の絞り開放近くのため、周辺部が少し光量不足。この明るさならもう少し絞ってくれてもよさそうな気がする
3,264×2,448 / 1/1250秒 / F4 / -0.3EV / ISO80 / WB:太陽光 / 432mm

ズームの望遠端の最短撮影距離はレンズ前90cm。めいっぱい寄って撮ると、そこそこのアップが楽しめる
3,264×2,448 / 1/200秒 / F3.5 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 432mm
こちらはスーパマクロ機能を使って撮ったカット。レンズ前0cmまで寄れるので、汚れやキズが付かないように注意が必要
3,264×2,448 / 1/80秒 / F4 / 0EV / ISO80 / WB:太陽光 / 36mm


URL
  キヤノン
  http://canon.jp/
  製品情報
  http://cweb.canon.jp/camera/powershot/s5is/

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北村 智史
(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。最初に買ったデジタルカメラはキヤノンPowerShot S10。 ブログ:http://ketamura08.blog18.fc2.com/

2007/07/05 00:00
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